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黒羽織その伍 顔なし女
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ぼんやりと意識を失いそうになったその瞬間、「鉄っ!」と叫ぶ才蔵の声と共に横一直線に刀が伸びる。
彼は女の腹部目掛けて横一文字に切り裂くと、甲高い金切り声を発しながら、裂かれた隙間から舞い散る青い桜と共に消え去ってゆく。
「ごほっ・・・ごほっ」
急に酸素が入って来たせいか、鉄心は咳き込みながら、がくんと膝を折り床に手をついた。
「大丈夫か?と言いたいとこだが。・・・次が来るぞ。鉄」
「・・・っは・・・はいっ!」
才蔵の言葉にぐっと口元を拭うと、また妖刀を構え立ち上がった。
締め上げられたせいか、膝はガクガクと震えている。
しかしそんな事を気にする余裕など、正直いってありはしなかった。
篤之進は雫とお涼を自らの背中に隠すと、二人に自分の袖を掴んで離れぬように強く言い、飛び交う怨霊に向かって手を伸ばしていく。
彼が触れた瞬間、怨霊も邪鬼も一瞬にして桜に変化し、青白い光だけが彼の顔を照らしていた。
「なんなんだ・・・こいつら」
口元を拭いながら、源太が舌打ちをする。
ゼイゼイと息を切らしながら、ふらりとよろめいたが、即座に体勢を整えるとまた邪鬼に向かって拳を振り上げた。
「くそっ!槍がありゃあ、こんな奴ら一瞬でやっつけられるのに!」
「きりがねえ・・・」
顎を伝う汗を乱暴に拭いながら才蔵が呟いた。
『・・・?』
『・・・なんなんだ・・・この感じ・・・』
不意に鉄心の身体を突き抜ける妙な感覚。それは妖刀を手にした時とよく似ている。
何か長い刃で身体を貫かれるような感覚が鉄心の身体を襲った。
・・・共に来い。我が同胞よ・・・。
その声に彼の背中がぞくりと震える。
『なんだ・・・この声・・・』
一瞬にして鉄心の瞳が熱を帯びたように熱くなる。
両目を覆ってみても、熱は上がる一方だった。
ジリジリと焼け付くように瞳が熱い。
『なんだこれは・・・』
「おい!鉄!!」
才蔵の声が何処か遠くで聞こえる気がする。
ぐわんぐわんと眩暈を起こしたように、鉄心の頭がぼうっとしていく。
まるで酸素を吸えない魚のような圧迫感が彼を包み込んだ。
情景が薄い茶褐色に染まる。
不意に流れ込む残像のように、はっきりとは見えないが振り返る人の顔・・・。
髪は長く、口元が笑っている。
・・・お前の望みは何だ?
「の・・・ぞ・・・み・・・」
・・・・全て叶えてやるぞ・・・・。
「ぼく・・・、は・・・」
・・・共に来い・・・。
「な、ぜ・・・」
そこまで言った時だった。
「外か!」と叫んだ才蔵が障子戸を勢いよく開いた。
部屋の外へと全ての邪気が溢れるように飛び出したのは、開いて直ぐの事だった。
丁を除く全員が、一斉に外を見る。
そこに立っていたのは見知らぬ青年だった。
「・・・お前」
そこまで言って才蔵は口を閉ざした。
「・・・鬼・・・しかも、幼い・・・」
才蔵の隣に立つ篤之進の声は冷たい。
その声に青年の口角が僅かに上がる。
紅色の棍棒を持ち、少し尖った耳に前髪が片方だけ長い青年が、笑みを浮かべたまま、微動だにしない。
「そこにいる女を貰いに来た」
「なっ・・・」
才蔵が眉間に皺を寄せたまま呟く。
「まぁ聞きな。父上の命でその女の顔を手に入れたは良いが、肝心の身体が見つかりゃしねえ。何かの護符のおかげか場所が分からず、こいつらに探させていたんだが・・・」
そう話す彼は、自身の後ろに控える大勢の悪霊と邪鬼を顎で示した。
「なにやらそっちが都合のいいことをしてくれたおかげでこっちは探す手間が省けたってもんさ」
ふっと鼻で笑うその青年に篤之進の表情が硬くなる。
「彼女を・・・どうするおつもりですか」
「どうする・・・?それは父上が決める事だ。俺には関係ない」
「父上・・・?あなたのお父上とは一体・・・?」
「話す義理はないね」
「そうですか・・・こちらとしても・・・おいそれと簡単に渡すわけにはいかんのですよ」
途端に室内が緊張感に包まれる。
それぞれの武器を構えたまま、青年を見る皆の表情はお世辞にも良いとは言えなかった。
「渡してくれなんて言っちゃいないぜ。俺はな」
「なに・・・?」
篤之進の表情が何かに気付いたように凍りついた瞬間、「しまった!」と叫んで丁を見る。
そこにはバチバチと火花が散る先で何とか食い止めようと呪符を手にしている丁の姿があった。
その光景に篤之進が苦々しい表情を崩さないでいる。
その手は硬く握られたまま、怒りを隠すように震え、その指を見て雫が不安そうな表情を見せる。
それはお涼も同じだった。
青年は特に表情を変えることなく手を伸ばしたまま、指先でくいくいと何かを操るように動かしている。
バチバチと火花が散る度に、桜祢の周囲がパリンパリンと割れるように壊れていった。
「氷縛結界か・・・やるじゃないか・・・はははっ。・・・だが、まだ甘いな・・・」
くっと笑った青年が、指を丁の方へ向けた瞬間、彼の背に向かって何かを弾いた。
彼は女の腹部目掛けて横一文字に切り裂くと、甲高い金切り声を発しながら、裂かれた隙間から舞い散る青い桜と共に消え去ってゆく。
「ごほっ・・・ごほっ」
急に酸素が入って来たせいか、鉄心は咳き込みながら、がくんと膝を折り床に手をついた。
「大丈夫か?と言いたいとこだが。・・・次が来るぞ。鉄」
「・・・っは・・・はいっ!」
才蔵の言葉にぐっと口元を拭うと、また妖刀を構え立ち上がった。
締め上げられたせいか、膝はガクガクと震えている。
しかしそんな事を気にする余裕など、正直いってありはしなかった。
篤之進は雫とお涼を自らの背中に隠すと、二人に自分の袖を掴んで離れぬように強く言い、飛び交う怨霊に向かって手を伸ばしていく。
彼が触れた瞬間、怨霊も邪鬼も一瞬にして桜に変化し、青白い光だけが彼の顔を照らしていた。
「なんなんだ・・・こいつら」
口元を拭いながら、源太が舌打ちをする。
ゼイゼイと息を切らしながら、ふらりとよろめいたが、即座に体勢を整えるとまた邪鬼に向かって拳を振り上げた。
「くそっ!槍がありゃあ、こんな奴ら一瞬でやっつけられるのに!」
「きりがねえ・・・」
顎を伝う汗を乱暴に拭いながら才蔵が呟いた。
『・・・?』
『・・・なんなんだ・・・この感じ・・・』
不意に鉄心の身体を突き抜ける妙な感覚。それは妖刀を手にした時とよく似ている。
何か長い刃で身体を貫かれるような感覚が鉄心の身体を襲った。
・・・共に来い。我が同胞よ・・・。
その声に彼の背中がぞくりと震える。
『なんだ・・・この声・・・』
一瞬にして鉄心の瞳が熱を帯びたように熱くなる。
両目を覆ってみても、熱は上がる一方だった。
ジリジリと焼け付くように瞳が熱い。
『なんだこれは・・・』
「おい!鉄!!」
才蔵の声が何処か遠くで聞こえる気がする。
ぐわんぐわんと眩暈を起こしたように、鉄心の頭がぼうっとしていく。
まるで酸素を吸えない魚のような圧迫感が彼を包み込んだ。
情景が薄い茶褐色に染まる。
不意に流れ込む残像のように、はっきりとは見えないが振り返る人の顔・・・。
髪は長く、口元が笑っている。
・・・お前の望みは何だ?
「の・・・ぞ・・・み・・・」
・・・・全て叶えてやるぞ・・・・。
「ぼく・・・、は・・・」
・・・共に来い・・・。
「な、ぜ・・・」
そこまで言った時だった。
「外か!」と叫んだ才蔵が障子戸を勢いよく開いた。
部屋の外へと全ての邪気が溢れるように飛び出したのは、開いて直ぐの事だった。
丁を除く全員が、一斉に外を見る。
そこに立っていたのは見知らぬ青年だった。
「・・・お前」
そこまで言って才蔵は口を閉ざした。
「・・・鬼・・・しかも、幼い・・・」
才蔵の隣に立つ篤之進の声は冷たい。
その声に青年の口角が僅かに上がる。
紅色の棍棒を持ち、少し尖った耳に前髪が片方だけ長い青年が、笑みを浮かべたまま、微動だにしない。
「そこにいる女を貰いに来た」
「なっ・・・」
才蔵が眉間に皺を寄せたまま呟く。
「まぁ聞きな。父上の命でその女の顔を手に入れたは良いが、肝心の身体が見つかりゃしねえ。何かの護符のおかげか場所が分からず、こいつらに探させていたんだが・・・」
そう話す彼は、自身の後ろに控える大勢の悪霊と邪鬼を顎で示した。
「なにやらそっちが都合のいいことをしてくれたおかげでこっちは探す手間が省けたってもんさ」
ふっと鼻で笑うその青年に篤之進の表情が硬くなる。
「彼女を・・・どうするおつもりですか」
「どうする・・・?それは父上が決める事だ。俺には関係ない」
「父上・・・?あなたのお父上とは一体・・・?」
「話す義理はないね」
「そうですか・・・こちらとしても・・・おいそれと簡単に渡すわけにはいかんのですよ」
途端に室内が緊張感に包まれる。
それぞれの武器を構えたまま、青年を見る皆の表情はお世辞にも良いとは言えなかった。
「渡してくれなんて言っちゃいないぜ。俺はな」
「なに・・・?」
篤之進の表情が何かに気付いたように凍りついた瞬間、「しまった!」と叫んで丁を見る。
そこにはバチバチと火花が散る先で何とか食い止めようと呪符を手にしている丁の姿があった。
その光景に篤之進が苦々しい表情を崩さないでいる。
その手は硬く握られたまま、怒りを隠すように震え、その指を見て雫が不安そうな表情を見せる。
それはお涼も同じだった。
青年は特に表情を変えることなく手を伸ばしたまま、指先でくいくいと何かを操るように動かしている。
バチバチと火花が散る度に、桜祢の周囲がパリンパリンと割れるように壊れていった。
「氷縛結界か・・・やるじゃないか・・・はははっ。・・・だが、まだ甘いな・・・」
くっと笑った青年が、指を丁の方へ向けた瞬間、彼の背に向かって何かを弾いた。
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