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3.残夜、その背後にて
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「静かだな・・・」
相変わらず、室内はがらんとしていて少し薄暗い。
壁と壁の隙間から覗く陽の光を頼りに進んだその先に見えた厨房に、昂遠はホッと息を吐くと水瓶に近づいた。
「水。頂きます」
水瓶の淵に置かれていた柄杓を使って水を二杯飲み干していると、何やらコンコンと小気味の良い音がする。
疑問に思った昂遠が戸口に視線を向けてみれば、音に重なるように影が跳ねているのがふと見えた。
「?」
頭に疑問符を幾つも拵えながら昂遠が外に出てみると、そこには軽快な音を立てながら薪割を繰り返す梠の姿が見える。
朝日が昇って間もないせいか、外の空気はひんやりとしていて少し肌寒い。
昂遠は無意識に両腕を摩りながら、梠に近づいた。
「おはよう。早いな」
「ああ」
話しながら慣れた手つきで薪割りを続ける梠の言葉は相変わらずそっけない。
けれど、挨拶を返してくれることが嬉しくて、昂遠は僅かに頬を緩ませた。
「ここに」
「ん?」
「庭に畑があったんだな。知らなかった」
こじんまりとした木造の家が立ち並ぶ通りに見えたこの周辺も朝を迎えれば、また違った景色を映し出す。
月に照らされて闇に紛れた家の壁は予想以上に損傷が激しく、今にも潰れてしまいそうだ。
だが、似たような造りの家が建ち並ぶこの通りでは、梠の家だけでなく他の家も変わらない。
左斜め前に建つ家は取れた壁を変えずに板を打ちつけたせいか、不自然に盛り上がってしまっている。
右斜め前の家は強風で剥がれてしまったのか、半分消えてしまった屋根の修復作業を行っていた。
「・・・・・・」
見回して気付いた事だが、ここだけでなくどの家も裏庭に小さな畑を所有しており、畑と畑の境目に小さな井戸が設置されている。
畑からちょこんと顔を出した野菜を眺めながら、この町は自給自足で賄っている者がほとんどなのかもしれない。と、そんな事をふと思った。
「どうした?」
「え?いいや」
急に声をかけられて昂遠が振り返る。
そこには、首にかけた手拭いで顔を拭いながら薪割りを繰り返す梠の姿が見えた。
ずっと前から薪割りをしていたのだろう。
彼の周辺には小さな薪がそこかしこに散乱しており、軽快な音を立てながら跳ねる薪の音に昂遠の頬が僅かに緩んだ。
「この薪は」
「ん?」
「料理に使うのか?」
「いや。これは風呂用だ」
「風呂?浴室があるのか?」
「いや。風呂屋に行くんだ。公衆浴場がここにはあるからな」
「ほ」
梠の言葉に昂遠の唇から声が漏れる。
「何だ?公衆浴場は初めてか?」
「いや。故郷にも共同浴場はあったし、猪国でも何度か」
「そうか」
汗をぬぐいながら梠が答える。
昂遠は散らばったままの薪に視線を向けながら、それならばこの大量の薪は一体何に使うのだろう?と不意にそんな事を思ったが、よくよく考えてみれば総勢六名が集うこの家で食事もご馳走になるのだ。
使う薪もそれなりの数になるに違いない。急に押しかけてしまって申し訳ないと思う気持ちと、受け入れて貰えた嬉しさが相まって、昂遠は自分も手伝わねばと袖を捲ろうとした。
「ああ、手伝いはいい。それよりも・・・」
「?」
「あいつらを起こすのを手伝ってくれないか?」
梠の声に、昂遠は嗚呼と頷くと、これは骨が折れそうだと強く思ったのだった。
相変わらず、室内はがらんとしていて少し薄暗い。
壁と壁の隙間から覗く陽の光を頼りに進んだその先に見えた厨房に、昂遠はホッと息を吐くと水瓶に近づいた。
「水。頂きます」
水瓶の淵に置かれていた柄杓を使って水を二杯飲み干していると、何やらコンコンと小気味の良い音がする。
疑問に思った昂遠が戸口に視線を向けてみれば、音に重なるように影が跳ねているのがふと見えた。
「?」
頭に疑問符を幾つも拵えながら昂遠が外に出てみると、そこには軽快な音を立てながら薪割を繰り返す梠の姿が見える。
朝日が昇って間もないせいか、外の空気はひんやりとしていて少し肌寒い。
昂遠は無意識に両腕を摩りながら、梠に近づいた。
「おはよう。早いな」
「ああ」
話しながら慣れた手つきで薪割りを続ける梠の言葉は相変わらずそっけない。
けれど、挨拶を返してくれることが嬉しくて、昂遠は僅かに頬を緩ませた。
「ここに」
「ん?」
「庭に畑があったんだな。知らなかった」
こじんまりとした木造の家が立ち並ぶ通りに見えたこの周辺も朝を迎えれば、また違った景色を映し出す。
月に照らされて闇に紛れた家の壁は予想以上に損傷が激しく、今にも潰れてしまいそうだ。
だが、似たような造りの家が建ち並ぶこの通りでは、梠の家だけでなく他の家も変わらない。
左斜め前に建つ家は取れた壁を変えずに板を打ちつけたせいか、不自然に盛り上がってしまっている。
右斜め前の家は強風で剥がれてしまったのか、半分消えてしまった屋根の修復作業を行っていた。
「・・・・・・」
見回して気付いた事だが、ここだけでなくどの家も裏庭に小さな畑を所有しており、畑と畑の境目に小さな井戸が設置されている。
畑からちょこんと顔を出した野菜を眺めながら、この町は自給自足で賄っている者がほとんどなのかもしれない。と、そんな事をふと思った。
「どうした?」
「え?いいや」
急に声をかけられて昂遠が振り返る。
そこには、首にかけた手拭いで顔を拭いながら薪割りを繰り返す梠の姿が見えた。
ずっと前から薪割りをしていたのだろう。
彼の周辺には小さな薪がそこかしこに散乱しており、軽快な音を立てながら跳ねる薪の音に昂遠の頬が僅かに緩んだ。
「この薪は」
「ん?」
「料理に使うのか?」
「いや。これは風呂用だ」
「風呂?浴室があるのか?」
「いや。風呂屋に行くんだ。公衆浴場がここにはあるからな」
「ほ」
梠の言葉に昂遠の唇から声が漏れる。
「何だ?公衆浴場は初めてか?」
「いや。故郷にも共同浴場はあったし、猪国でも何度か」
「そうか」
汗をぬぐいながら梠が答える。
昂遠は散らばったままの薪に視線を向けながら、それならばこの大量の薪は一体何に使うのだろう?と不意にそんな事を思ったが、よくよく考えてみれば総勢六名が集うこの家で食事もご馳走になるのだ。
使う薪もそれなりの数になるに違いない。急に押しかけてしまって申し訳ないと思う気持ちと、受け入れて貰えた嬉しさが相まって、昂遠は自分も手伝わねばと袖を捲ろうとした。
「ああ、手伝いはいい。それよりも・・・」
「?」
「あいつらを起こすのを手伝ってくれないか?」
梠の声に、昂遠は嗚呼と頷くと、これは骨が折れそうだと強く思ったのだった。
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