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商業都市モグワイ・冒険者登録
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「うわー、大きい街ですね。ソウシロウさん」
アリアが感嘆して商業都市モグワイの城壁を見上げる。
商業都市モグワイは5つの辺境村に囲まれて、地域における商取引の中心的役割を担っている。
5つの村の特産品が運び込まれるため、商業から発展した。王都から往訪する人も多く、活気に溢れた街だ。
ソウシロウは冒険者登録と情報収集のために、モグワイに少しの間滞在しようと考えていた。
王都に向かうためには、最低限の路銀が必要だ。
この街ならアリアの仕事だって見つかるだろう。
「あっちが街の入り口みたいですよ。結構並んでますね」
アリアが指差す先には大きな城門が開かれ、すぐ横に人の列ができている。
なるほど、入街するには受付が必要なのか。
誰でも出入りできるオリオール村とは違うようだ。
ソウシロウ達も受付待ちの列に並ぶ。
入街希望者は商人然とした者が多いが、冒険者パーティや観光目当ての者達も散見される。
この星にもこんなに沢山の人がいたんだな、とソウシロウは密かに感心した。
「うーん、君たちは冒険者かな?」冒険者カードはあるかい?」
「ええと、実は冒険者登録はまだなんです。この街で登録したいのですが」
受付の男の質問にアリアが答える。この星の常識に疎いソウシロウにとってこんな時にアリアがいると心強い。
ここは彼女に任せよう。
「そうかね。じゃあすまないが入街料と本日分の滞在料をいただくことになるよ。冒険者登録が済んだらまたここにおいで。そうすれば明日からは滞在料が無料になるから。」
「はい。わかりました。えっと、もし冒険者登録をしなかったらどうなるのですか?」
「その場合は明日またここにきて追加の滞在料を払ってくれよ。そうしないと不法滞在で捕まえなきゃならん。そんな面倒なことさせないでくれよ。最近そういう輩も多くてな。今の若もんは簡単に約束を違える奴が多すぎる。」
やれやれと受付の男のが首を横に振る。
なるほど、身分証明に変わるものがないと金を取られるのか。村長から金をもらっておいてよかった。
それにしても、考えが足りない奴は大きな街だから追加の滞在料を支払わなくてもバレないと思ってしまうんだろうな。
だが、街への出入り口は一箇所だけだから、出るときに間違いなく見つかる。
そのときにまとめて滞在料を請求されることになることがわからないということだ。
何とまあお粗末な話だ。城壁を越えられれば別かもしれないがな。
城壁だってトラップくらい仕掛けてあるだろうし、単純に壁を登れれば越えられるというわけでもない。
「これでいいか」
ソウシロウが提示した金額を支払うと、受付は軽く会釈する。
「商業都市モグワイにようこそ。たくさん買い物をして行っておくれよ。ああ、冒険者ギルドは入ってすぐ右のメイン通りにあるよ。登録後、ここに顔出すのを忘れずにな」
2人は男にお礼を言って、大きな城門を潜る。
商業都市と言われるだけあって、メインストリートには様々な露店が立ち並んでいた。
食べ物を販売している屋台も多く、あちこちから食欲を刺激する香りが漂う。
メインストリートを往来する人種も様々だ。顔ぶれから人間が多いようだが、獣の耳や尻尾を生やした獣人族や低身長で逞しい体つきのドワーフ族、もしかしたらエルフ族もいるのかもしれないが、容姿が人間に近いため、見分けがつかない。
ソウシロウは惑星クーガにいた頃、任務で様々な星を巡ったがここまで多様種が共存している星ははじめてだった。
建築物や乗り物から察するに、文明はやはり惑星クーガの中世くらいのようだ。
ただ、時折空飛ぶ絨毯が2人の横を通り過ぎていく。さすがは魔法の星だ。
この星にはソウシロウの知らない魔法のアイテムがまだまだあるのだろう。自然と胸が高鳴る。
「うわあ、やっぱりモグワイは賑やかですね。」
アリアも眼をキラキラと輝かせている。
せっかくだから街を見て回りたいが、まずは冒険者ギルドが先だ。
受付の男から聞いた情報を頼りに、2人は足を進めた。
※
「あんたたち冒険者登録は初めてかい?」
冒険者ギルドの受付嬢がぶっきらぼうに尋ねる。
「ああそうだ。それと、今回冒険者になるのは俺だけだ。この子は付き添いだ」
「えっ?ソウシロウさん、私も奴隷としてクエストには同行させていただきたいのですが、いいですか?」
「そうなのか?だが、危険だと思うし、アリアの実力だと正直足手纏いになると思うぞ。なあ、あんたもそう思うだろ?」
受付嬢はアリアの「奴隷」という言葉にも反応せず、興味なさそうに口を開く。
「まあ、あんたらの関係に興味ないし、実力もわからないからなんとも言えないね。ただ、奴隷がいると素材集めとか、荷物持ちとか便利だよ。モンスター討伐のクエストには魔核や素材を引き渡してもらうからね。倒したモンスターから魔核を集めるのは結構大変なんだ。集めている間は無防備になるしね。見た感じあんたソロだろ?奴隷でも冒険者登録できるから、やっておけばいいじゃないか。身分証明にもなるしね」
興味なさそうにしているわりには、結構丁寧に教えてくれるんだな。
まあ、冒険者が減ってしまったら元も子もないから、情報提供はちゃんとしてくれるのかもしれない。
「なるほど、確かにそうだな。危険なクエストには俺1人で行けばいいだけだし。わかった、じゃあ2名登録するよ」
ソウシロウの決断に、アリアが安堵の表情を浮かべる。アリア的には奴隷として役に立つことを証明したいのだろう。
まあ、アリアもいずれ俺と別れたときに自分の身を守れるくらいの力をつけておいた方がいいかもしれない。
せっかくだから一緒にいる間に少し鍛えてやろうか。
「はいよ。じゃあ、冒険者カードを作るからこの書類に名前を書いておくれ。」
ソウシロウがアリアの育成について考えていると、受付嬢から用紙を渡される。
2人が記入を終えると、「ちょっと待ってな」といって受付嬢が席を立った。
「結構賑わっているんだな。ちょっとイメージしていたのと違ったよ」
「私もモグワイ入るのは初めてですが、このくらいの規模の街なら冒険者ギルドはこんなものだと思います。」
受付は4つほどあり、どの受付も2、3組が並んでいる。
出入り口の脇に大きな掲示板が5つほどあり、冒険者達が群がっている。
きっとあの掲示板に依頼が張り出されているのだろう。
ソウシロウはもっと落ち着いた雰囲気をイメージしていたが、ギルドも思ったより騒がしい。
「待たせたね。じゃあ、お2人さんの魔力量を測るからこの水晶に手を翳してくれるかい」
戻ってきた受付嬢は人の頭くらいの透明な水晶を2人の目の前に置いた。
「これは?」
「これは潜在的な魔力量を計測する魔道具だね。わからないだろうから説明しておくよ。現在のステータスではなく、対象者の魔力の絶対量を測ることができるんだ。簡単に言えば魔法の才能を測るってことだね」
「へえ、便利な道具だな。それで、何のために潜在魔力をはかるんだ?」
「ああ、そういうことかい。冒険者ランクはFからSSまでに分かれていて、初心者は大体Fからスタートするのさ。ただ、初心者といっても実力は結構違うからね。魔力量をはかって、冒険者の能力に目処をつけるのさ。ギルドとしても将来有望な奴には最初から眼をつけておくってことさね。魔力量によっては、最初から上位ランクスタートになる可能性もあるよ。まあ、そんなの見たことないけどね。」
受付嬢がケラケラと笑いながら魔力計測を促す。
「なるほどわかった。ちなみに、冒険者登録するのに他に条件みたいなものはあるのか?例えば模擬戦を行うとか」
「いや、無いよ。これだけさ。簡単だろ?」
めちゃくちゃ簡単だな。
戦闘訓練を受けていないアリアでも容易に冒険者になれるとは思わなかった。
アリアも知らなかったようで驚いている。
というか、俺魔力計測して大丈夫かな。大ごとにならなきゃいいけど。
「わかりました。まずは私がやりますね」
ソウシロウの心配を察したのか、アリアが水晶に手をかざす。
「そのまま水晶に魔力を流してくれるかい?」
受付嬢に促されて、アリアが魔力を注ぐ。
「ああっ光ってきました。綺麗ですね。」
アリアの手の下で水晶が紫色に輝いている。
「へえ、あんた中々やるじゃないか。さすがエルフ族だね。」
「あのこれってどういう事なんでしょうか?」
1人で盛り上がる受付嬢にアリアが尋ねる。
「ああ、悪い悪い。紫色はAランクの魔力量だよ。お兄さん、この子は鍛えれば間違いなく戦力になるよ。
こんな子を奴隷にしているなんて結構やるねえ。大事にしなよ」
「へえ、やるじゃないか、アリア。」
受付嬢とソウシロウの言葉にアリアは照れている。素直で可愛い奴だ。
アリアは戦闘経験が少ないだけだったようだ。磨けば輝く原石とったところか。これは育成が楽しみだ。
教え方次第で化けるかもしれない。
「じゃあ、次はお兄さんね。」
「ああ」
ソウシロウは水晶に手をかざす。
もうどうなっても知らん。どのみち冒険者になるには避けて通れないようだし。どうやらユニークスキルや現在のステータスはわからないようだから、大きな問題にはならないだろう。
ソウシロウが魔力を注ぎ込むと、バリンと大きな音を立てて水晶が真っ二つに割れた。
「えええええっ」
受付嬢が大声で叫ぶ。
「ちょっとあんた何してくれてんのさ。」
「いや、そんな事言われても俺はただ魔力を注いだだけだぞ。この水晶安物じゃないのか?」
「そんなわけないだろ。ちょっと、上に報告するから待ってな。そこを動くんじゃないよ」
受付嬢は荒っぽい口調で席を立つ。
アリアは心配そうな表情を浮かべている。
うーん、あまり目立ちたくないのだがな。困ったもんだ。
数分待つと、先ほどとは違うスタッフから別室への移動を依頼され、ソウシロウとアリアはギルド最奥の応接室に通された。
応接室に入ると、先程の受付嬢と恰幅の良い大男がソファーに座っていた。
「やあ、お待たせしてすみませんな。貴方がソウシロウさんですな。私はギルドの支配人をしています、ゲイボルグと申します。」
ゲイボルグに促され、ソウシロウとアリアも彼の向かい側のソファーに座る。
「早速ですが、魔力計測の水晶が壊れたそうですな。もう一度この水晶で試してくださいますかな?」
「ああ、わかった。先程の水晶が不良品だったかもしれないしな」
目の間に置かれている水晶に手をかざし、魔力を注ぐ。
すると、水晶がカタカタと揺れだし、発光しないままやはりバリンと割れてしまった。
「ああああっうちで一番高性能の水晶も割っちまいやがった」
「これ、モール、騒ぐんじゃない。しかし、これは驚いた。ソウシロウさんの潜在魔力は底が知れない。あなたは一体何者ですか?」
支配人ゲイボルグは勤めて冷静に尋ねる。
「何者でもないさ。修行の旅をしているただの田舎者だよ」
「田舎者が魔力量Aランクのエルフ族を奴隷にできるものなのですか?」
「それはただの成り行きさ。奴隷と言っても期間限定だしな」
「この国ではエルフの奴隷は禁止されていることをご存知かな?」
あ、そういえばオリオール村でアルフがそう言ってたな。やばい、完全に忘れていたぞ。
ソウシロウがごまかそうと口を開けた瞬間、アリアが声を上げる。
「禁止されているのは同意がない強制的な奴隷化です。私は自ら望んでいます。何も問題はないはずです」
そうなんだ。ナイスフォローだ。アリア。
「そういうことだ。ここは裁判所じゃなくて、冒険者ギルドだったよな?」
ソウシロウは薄く笑みを浮かべるが、ゲイボルグに向ける視線には力を込める。
「・・・なるほど、これ以上の詮索はするな、という事ですか。わかりました。ただ困りましたな。私も数々の冒険者を見てきましたが魔力量の計測ができないケースは初めてです。当ギルドにはあなたの力を測る基準がありません。ですから、すみませんが最下位のFランクで登録せざるを得ないんです。」
ゲイボルグはすまなそうな表情を浮かべる。
「何、ただの潜在能力値だろ?かまわんさ。これから冒険者ランクを上げていけばいいさ。ちなみに、魔力量がAランクのアリアはどうなるんだ」
「Aランクだと、初期はFランクからのスタートとなります。ですが、今後の冒険者ランクはかなり上がりやすくなりますな」
「そんなっあなたはソウシロウさんの実力を知らないからです。私がご主人様を超えるなんてそんな事できません」
ゲイボルグの発言を受け、アリアが食ってかかる。
「アリア、やめておけ。俺は別に気にしない。それよりも早く登録してクエストを受けよう。もう昼時だ」
アリアをやんわり静止したソウシロウがアリアをやんわりと静止する。
「はっはっはっ、ソウシロウ様はお若いのに大人物でいらっしゃるようだ。お詫びと言ってはなんですが、初回のクエストは報酬を5%上乗せさせていただきますぞ。もうお二人の冒険者カードはできていますので、クエストをお決めになったらまたモールにお知らせください。モール、失礼のないようにご案内するんだ。いいね?」
「わかったよ、マスター。そういう事だからあんたらは入り口の横にある掲示板からFランクのクエストを選んできな。決まったらまた私に声をかけな。」
納得がいかない表情で受付嬢のモールが説明する。
ソウシロウとアリアは彼女の言葉にうなづき、応接室を後にした。
「ちょっと、マスター。なんであんな奴に報酬を上乗せするのさ?あいつは水晶を2つも割っちまったんだよ?むしろ損害賠償を請求すべきじゃないのさ」
2人が部屋を後にして、ドアが閉まったのを確認したモールがゲイボルグに訴える。
「はっはっはっ、モール。君はまだまだだね。彼の纏っている強者の風格は本物だよ。歴戦の強者を見てきた私にはわかる。一見ただの若者に見えるが、彼はとんでもない化け物だ。モール、敵にしちゃいけない相手を見間違えちゃいけない。いいか、くれぐれも丁寧に接客するんだ。それと、彼の冒険者ランクに変動があったら私に報告しなさい。わかったね」
ゲイボルグの穏やかだが真剣な口調にモールは無言でうなづいた。
「しかし、彼は本当に何者なんだ?」
モールが応接室を出て、1人残ったゲイボルグが呟く。
今までゲイボルグが会ってきたSランクの冒険者と同格の圧倒的存在感。雰囲気だけなら間違いなくSランク以上だ。
それに、水晶が壊れたのは水晶の測れる限界を圧倒的に上回る魔力量を有してる可能性が高いからと推察している。
今後彼ら確実にギルドの味方につけておきたい。長年のギルドマスターとしての感がそう言っている。
ゲイボルグが窓から見上げた紺碧の空は雲ひとつなく、地平の彼方まで無限に広がっていた。
アリアが感嘆して商業都市モグワイの城壁を見上げる。
商業都市モグワイは5つの辺境村に囲まれて、地域における商取引の中心的役割を担っている。
5つの村の特産品が運び込まれるため、商業から発展した。王都から往訪する人も多く、活気に溢れた街だ。
ソウシロウは冒険者登録と情報収集のために、モグワイに少しの間滞在しようと考えていた。
王都に向かうためには、最低限の路銀が必要だ。
この街ならアリアの仕事だって見つかるだろう。
「あっちが街の入り口みたいですよ。結構並んでますね」
アリアが指差す先には大きな城門が開かれ、すぐ横に人の列ができている。
なるほど、入街するには受付が必要なのか。
誰でも出入りできるオリオール村とは違うようだ。
ソウシロウ達も受付待ちの列に並ぶ。
入街希望者は商人然とした者が多いが、冒険者パーティや観光目当ての者達も散見される。
この星にもこんなに沢山の人がいたんだな、とソウシロウは密かに感心した。
「うーん、君たちは冒険者かな?」冒険者カードはあるかい?」
「ええと、実は冒険者登録はまだなんです。この街で登録したいのですが」
受付の男の質問にアリアが答える。この星の常識に疎いソウシロウにとってこんな時にアリアがいると心強い。
ここは彼女に任せよう。
「そうかね。じゃあすまないが入街料と本日分の滞在料をいただくことになるよ。冒険者登録が済んだらまたここにおいで。そうすれば明日からは滞在料が無料になるから。」
「はい。わかりました。えっと、もし冒険者登録をしなかったらどうなるのですか?」
「その場合は明日またここにきて追加の滞在料を払ってくれよ。そうしないと不法滞在で捕まえなきゃならん。そんな面倒なことさせないでくれよ。最近そういう輩も多くてな。今の若もんは簡単に約束を違える奴が多すぎる。」
やれやれと受付の男のが首を横に振る。
なるほど、身分証明に変わるものがないと金を取られるのか。村長から金をもらっておいてよかった。
それにしても、考えが足りない奴は大きな街だから追加の滞在料を支払わなくてもバレないと思ってしまうんだろうな。
だが、街への出入り口は一箇所だけだから、出るときに間違いなく見つかる。
そのときにまとめて滞在料を請求されることになることがわからないということだ。
何とまあお粗末な話だ。城壁を越えられれば別かもしれないがな。
城壁だってトラップくらい仕掛けてあるだろうし、単純に壁を登れれば越えられるというわけでもない。
「これでいいか」
ソウシロウが提示した金額を支払うと、受付は軽く会釈する。
「商業都市モグワイにようこそ。たくさん買い物をして行っておくれよ。ああ、冒険者ギルドは入ってすぐ右のメイン通りにあるよ。登録後、ここに顔出すのを忘れずにな」
2人は男にお礼を言って、大きな城門を潜る。
商業都市と言われるだけあって、メインストリートには様々な露店が立ち並んでいた。
食べ物を販売している屋台も多く、あちこちから食欲を刺激する香りが漂う。
メインストリートを往来する人種も様々だ。顔ぶれから人間が多いようだが、獣の耳や尻尾を生やした獣人族や低身長で逞しい体つきのドワーフ族、もしかしたらエルフ族もいるのかもしれないが、容姿が人間に近いため、見分けがつかない。
ソウシロウは惑星クーガにいた頃、任務で様々な星を巡ったがここまで多様種が共存している星ははじめてだった。
建築物や乗り物から察するに、文明はやはり惑星クーガの中世くらいのようだ。
ただ、時折空飛ぶ絨毯が2人の横を通り過ぎていく。さすがは魔法の星だ。
この星にはソウシロウの知らない魔法のアイテムがまだまだあるのだろう。自然と胸が高鳴る。
「うわあ、やっぱりモグワイは賑やかですね。」
アリアも眼をキラキラと輝かせている。
せっかくだから街を見て回りたいが、まずは冒険者ギルドが先だ。
受付の男から聞いた情報を頼りに、2人は足を進めた。
※
「あんたたち冒険者登録は初めてかい?」
冒険者ギルドの受付嬢がぶっきらぼうに尋ねる。
「ああそうだ。それと、今回冒険者になるのは俺だけだ。この子は付き添いだ」
「えっ?ソウシロウさん、私も奴隷としてクエストには同行させていただきたいのですが、いいですか?」
「そうなのか?だが、危険だと思うし、アリアの実力だと正直足手纏いになると思うぞ。なあ、あんたもそう思うだろ?」
受付嬢はアリアの「奴隷」という言葉にも反応せず、興味なさそうに口を開く。
「まあ、あんたらの関係に興味ないし、実力もわからないからなんとも言えないね。ただ、奴隷がいると素材集めとか、荷物持ちとか便利だよ。モンスター討伐のクエストには魔核や素材を引き渡してもらうからね。倒したモンスターから魔核を集めるのは結構大変なんだ。集めている間は無防備になるしね。見た感じあんたソロだろ?奴隷でも冒険者登録できるから、やっておけばいいじゃないか。身分証明にもなるしね」
興味なさそうにしているわりには、結構丁寧に教えてくれるんだな。
まあ、冒険者が減ってしまったら元も子もないから、情報提供はちゃんとしてくれるのかもしれない。
「なるほど、確かにそうだな。危険なクエストには俺1人で行けばいいだけだし。わかった、じゃあ2名登録するよ」
ソウシロウの決断に、アリアが安堵の表情を浮かべる。アリア的には奴隷として役に立つことを証明したいのだろう。
まあ、アリアもいずれ俺と別れたときに自分の身を守れるくらいの力をつけておいた方がいいかもしれない。
せっかくだから一緒にいる間に少し鍛えてやろうか。
「はいよ。じゃあ、冒険者カードを作るからこの書類に名前を書いておくれ。」
ソウシロウがアリアの育成について考えていると、受付嬢から用紙を渡される。
2人が記入を終えると、「ちょっと待ってな」といって受付嬢が席を立った。
「結構賑わっているんだな。ちょっとイメージしていたのと違ったよ」
「私もモグワイ入るのは初めてですが、このくらいの規模の街なら冒険者ギルドはこんなものだと思います。」
受付は4つほどあり、どの受付も2、3組が並んでいる。
出入り口の脇に大きな掲示板が5つほどあり、冒険者達が群がっている。
きっとあの掲示板に依頼が張り出されているのだろう。
ソウシロウはもっと落ち着いた雰囲気をイメージしていたが、ギルドも思ったより騒がしい。
「待たせたね。じゃあ、お2人さんの魔力量を測るからこの水晶に手を翳してくれるかい」
戻ってきた受付嬢は人の頭くらいの透明な水晶を2人の目の前に置いた。
「これは?」
「これは潜在的な魔力量を計測する魔道具だね。わからないだろうから説明しておくよ。現在のステータスではなく、対象者の魔力の絶対量を測ることができるんだ。簡単に言えば魔法の才能を測るってことだね」
「へえ、便利な道具だな。それで、何のために潜在魔力をはかるんだ?」
「ああ、そういうことかい。冒険者ランクはFからSSまでに分かれていて、初心者は大体Fからスタートするのさ。ただ、初心者といっても実力は結構違うからね。魔力量をはかって、冒険者の能力に目処をつけるのさ。ギルドとしても将来有望な奴には最初から眼をつけておくってことさね。魔力量によっては、最初から上位ランクスタートになる可能性もあるよ。まあ、そんなの見たことないけどね。」
受付嬢がケラケラと笑いながら魔力計測を促す。
「なるほどわかった。ちなみに、冒険者登録するのに他に条件みたいなものはあるのか?例えば模擬戦を行うとか」
「いや、無いよ。これだけさ。簡単だろ?」
めちゃくちゃ簡単だな。
戦闘訓練を受けていないアリアでも容易に冒険者になれるとは思わなかった。
アリアも知らなかったようで驚いている。
というか、俺魔力計測して大丈夫かな。大ごとにならなきゃいいけど。
「わかりました。まずは私がやりますね」
ソウシロウの心配を察したのか、アリアが水晶に手をかざす。
「そのまま水晶に魔力を流してくれるかい?」
受付嬢に促されて、アリアが魔力を注ぐ。
「ああっ光ってきました。綺麗ですね。」
アリアの手の下で水晶が紫色に輝いている。
「へえ、あんた中々やるじゃないか。さすがエルフ族だね。」
「あのこれってどういう事なんでしょうか?」
1人で盛り上がる受付嬢にアリアが尋ねる。
「ああ、悪い悪い。紫色はAランクの魔力量だよ。お兄さん、この子は鍛えれば間違いなく戦力になるよ。
こんな子を奴隷にしているなんて結構やるねえ。大事にしなよ」
「へえ、やるじゃないか、アリア。」
受付嬢とソウシロウの言葉にアリアは照れている。素直で可愛い奴だ。
アリアは戦闘経験が少ないだけだったようだ。磨けば輝く原石とったところか。これは育成が楽しみだ。
教え方次第で化けるかもしれない。
「じゃあ、次はお兄さんね。」
「ああ」
ソウシロウは水晶に手をかざす。
もうどうなっても知らん。どのみち冒険者になるには避けて通れないようだし。どうやらユニークスキルや現在のステータスはわからないようだから、大きな問題にはならないだろう。
ソウシロウが魔力を注ぎ込むと、バリンと大きな音を立てて水晶が真っ二つに割れた。
「えええええっ」
受付嬢が大声で叫ぶ。
「ちょっとあんた何してくれてんのさ。」
「いや、そんな事言われても俺はただ魔力を注いだだけだぞ。この水晶安物じゃないのか?」
「そんなわけないだろ。ちょっと、上に報告するから待ってな。そこを動くんじゃないよ」
受付嬢は荒っぽい口調で席を立つ。
アリアは心配そうな表情を浮かべている。
うーん、あまり目立ちたくないのだがな。困ったもんだ。
数分待つと、先ほどとは違うスタッフから別室への移動を依頼され、ソウシロウとアリアはギルド最奥の応接室に通された。
応接室に入ると、先程の受付嬢と恰幅の良い大男がソファーに座っていた。
「やあ、お待たせしてすみませんな。貴方がソウシロウさんですな。私はギルドの支配人をしています、ゲイボルグと申します。」
ゲイボルグに促され、ソウシロウとアリアも彼の向かい側のソファーに座る。
「早速ですが、魔力計測の水晶が壊れたそうですな。もう一度この水晶で試してくださいますかな?」
「ああ、わかった。先程の水晶が不良品だったかもしれないしな」
目の間に置かれている水晶に手をかざし、魔力を注ぐ。
すると、水晶がカタカタと揺れだし、発光しないままやはりバリンと割れてしまった。
「ああああっうちで一番高性能の水晶も割っちまいやがった」
「これ、モール、騒ぐんじゃない。しかし、これは驚いた。ソウシロウさんの潜在魔力は底が知れない。あなたは一体何者ですか?」
支配人ゲイボルグは勤めて冷静に尋ねる。
「何者でもないさ。修行の旅をしているただの田舎者だよ」
「田舎者が魔力量Aランクのエルフ族を奴隷にできるものなのですか?」
「それはただの成り行きさ。奴隷と言っても期間限定だしな」
「この国ではエルフの奴隷は禁止されていることをご存知かな?」
あ、そういえばオリオール村でアルフがそう言ってたな。やばい、完全に忘れていたぞ。
ソウシロウがごまかそうと口を開けた瞬間、アリアが声を上げる。
「禁止されているのは同意がない強制的な奴隷化です。私は自ら望んでいます。何も問題はないはずです」
そうなんだ。ナイスフォローだ。アリア。
「そういうことだ。ここは裁判所じゃなくて、冒険者ギルドだったよな?」
ソウシロウは薄く笑みを浮かべるが、ゲイボルグに向ける視線には力を込める。
「・・・なるほど、これ以上の詮索はするな、という事ですか。わかりました。ただ困りましたな。私も数々の冒険者を見てきましたが魔力量の計測ができないケースは初めてです。当ギルドにはあなたの力を測る基準がありません。ですから、すみませんが最下位のFランクで登録せざるを得ないんです。」
ゲイボルグはすまなそうな表情を浮かべる。
「何、ただの潜在能力値だろ?かまわんさ。これから冒険者ランクを上げていけばいいさ。ちなみに、魔力量がAランクのアリアはどうなるんだ」
「Aランクだと、初期はFランクからのスタートとなります。ですが、今後の冒険者ランクはかなり上がりやすくなりますな」
「そんなっあなたはソウシロウさんの実力を知らないからです。私がご主人様を超えるなんてそんな事できません」
ゲイボルグの発言を受け、アリアが食ってかかる。
「アリア、やめておけ。俺は別に気にしない。それよりも早く登録してクエストを受けよう。もう昼時だ」
アリアをやんわり静止したソウシロウがアリアをやんわりと静止する。
「はっはっはっ、ソウシロウ様はお若いのに大人物でいらっしゃるようだ。お詫びと言ってはなんですが、初回のクエストは報酬を5%上乗せさせていただきますぞ。もうお二人の冒険者カードはできていますので、クエストをお決めになったらまたモールにお知らせください。モール、失礼のないようにご案内するんだ。いいね?」
「わかったよ、マスター。そういう事だからあんたらは入り口の横にある掲示板からFランクのクエストを選んできな。決まったらまた私に声をかけな。」
納得がいかない表情で受付嬢のモールが説明する。
ソウシロウとアリアは彼女の言葉にうなづき、応接室を後にした。
「ちょっと、マスター。なんであんな奴に報酬を上乗せするのさ?あいつは水晶を2つも割っちまったんだよ?むしろ損害賠償を請求すべきじゃないのさ」
2人が部屋を後にして、ドアが閉まったのを確認したモールがゲイボルグに訴える。
「はっはっはっ、モール。君はまだまだだね。彼の纏っている強者の風格は本物だよ。歴戦の強者を見てきた私にはわかる。一見ただの若者に見えるが、彼はとんでもない化け物だ。モール、敵にしちゃいけない相手を見間違えちゃいけない。いいか、くれぐれも丁寧に接客するんだ。それと、彼の冒険者ランクに変動があったら私に報告しなさい。わかったね」
ゲイボルグの穏やかだが真剣な口調にモールは無言でうなづいた。
「しかし、彼は本当に何者なんだ?」
モールが応接室を出て、1人残ったゲイボルグが呟く。
今までゲイボルグが会ってきたSランクの冒険者と同格の圧倒的存在感。雰囲気だけなら間違いなくSランク以上だ。
それに、水晶が壊れたのは水晶の測れる限界を圧倒的に上回る魔力量を有してる可能性が高いからと推察している。
今後彼ら確実にギルドの味方につけておきたい。長年のギルドマスターとしての感がそう言っている。
ゲイボルグが窓から見上げた紺碧の空は雲ひとつなく、地平の彼方まで無限に広がっていた。
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