隣人、イケメン俳優につき

タタミ

文字の大きさ
15 / 31

再会

しおりを挟む
    人影を見上げると長身のスーツ姿の男が、威圧的な角度の眉毛を指先でかいていた。

「うわ」
「うわ、とはずいぶん正直な反応だな。清永さん」

    西野だった。

「……久遠さんならいないですよ」
「見ればわかる。ストーカーみたいな扱いはやめろ」

    みたいなもんだろ。
    会話の糸口を提供したくないので黙ってラッコのぬいぐるみを眺めてみたが、西野はいなくなる素振りもなく話し続ける。

「ひとりで水族館なんか来てるのか」
「そうですけど」

    バカにされた気がしてムッとした顔を隠さずに西野を見る。
    つーか西野だってひとりじゃないか。
    
「俺が嫌いって顔だ。案外顔に出るタイプだなアンタ」
「……なんの用なんですか」

    嫌われてることを気にもしない西野の圧に、じりじりと押されているのがわかる。こういうタイプの人間と関わったことがないので正しい対応がわからない。暴力男のくせにどんな態度でも大して怒らないのが逆に怖かった。
    平然としながら急に殴り出すのだろうか、と西野の手を見るとラッコクッキーの紙袋を持っていた。

「杉崎と付き合ってるのか?」

    前回『杉崎とセックスしたのか』と聞いてきた男だ。質問の類いとしてはマイルドになっていると言える。しかし水族館のお土産コーナーで聞かれることではないので、俺はしっかり動揺した。

「つ、付き合ってないですって。何にもないですよ、友達だって言ったじゃないですか」

    コイツまさかまだ久遠さんに会いに家に行ったりしてるんじゃないかと勘繰った。口を開けば久遠さんのことばかりだ、十分あり得る。念のため後で久遠さんに確認しよう。

「杉崎と相変わらず会ってるんだろ?いまだに健全な関係なんて信じられないな」

    なんで速攻不健全になる前提なんだよ。

「信じてもらえなくてもいいですけど、だいたい久遠さんが誰と何しててもアンタに関係ないでしょ」
「その切り口だと、俺が杉崎と何しててもアンタに関係ないことになるが」

    鼻で笑う仕草にイラッと来て俺は、

「暴力は誰が誰にしてもダメだろ」

    そう言って西野を睨んだ。
    西野は少し不満げに口を動かしたが、それだけだった。

「会うたびに殴ってたわけじゃない。清永さんが見たのがたまたまそういう時だっただけだ」
「久遠さん、アンタに殴られて震えてましたよ。人が震えるほどの暴力なんて、たまたまだとか関係なく許されるもんじゃない」

    ずいぶん怒ってきやがるな、このガキ。
    と、言いたげに目を細めた西野は浅いため息を吐いた。

「ま、俺のことは好きなだけ嫌ってもらっていいとして。じゃ杉崎と付き合ってもいないし、好きでもないんだな」
「え?」

    『好きでもない』かと言われて、素直に頷けなかった。咄嗟に聞き返してしまって自分で焦る。

「なんだ、惚れてるのか?」

    眉毛を上げて、さも驚いたかのような表情を作った西野は、全く驚いてなさそうな声を出した。その顔にムカついて、俺は反射的に眉を寄せた。

「惚れてるとかじゃない。友達としては好きですけど、そういうんじゃないんで」
「へぇ、そうかそうか。健全なことだ」

    本心なのか自分でもわからないまま、西野に言い返していた。言ってる間、胃が絞まる感覚がして顔をしかめる。
    西野はいつもの威圧的な顔で、しかし少し楽しそうに口角を上げていた。

「俺は杉崎が好きだ。清永さんと違ってな」

    西野が久遠さんにキスしたのは明らかに俺への当てつけだった。だから、久遠さんは眠るためだと割り切っていても、西野は違うんだろうというのはさすがにわかっていた。でも、しっかり言葉にされると衝撃があって。
    
「アンタがそうでも、久遠さんは……」

    久遠さんは違うぞと釘を刺そうとした時、

「西野さん、お待たせしました」

    西野と同じくスーツを来た男が、軽く会釈をしながら現れた。
    西野より若そう、というか西野の部下だろうなという男は、マッシュヘアの前髪をいじって細い目を俺に向ける。西野もぼっちで水族館に来ているのだと思っていたので、あてが外れて恥ずかしい。

「あ、お知り合いですか」
「あぁ。清永さん、ひき止めてしまってすみませんでした」
「え?いや」

    部下が現れた途端、社会人の対応をされてポカンとしてしまった。
    営業スマイルと呼ぶべき笑顔を俺に向けた西野は、手に持っていたラッコクッキーを俺の手に握らせてくる。

「弊社でブランディングした商品なんです。差し上げます」
「いや。いやあの」
「では、杉崎によろしく言ってください」

    俺が気圧されているうちに笑顔を崩さず西野は踵を返した。部下にまで会釈されて俺は流れで会釈を返し、ラッコクッキーの紙袋を仕方なく見つめた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話

あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」 トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。 お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。 攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。 兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。 攻め:水瀬真広 受け:神崎彼方 ⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。 途中でモブおじが出てきます。 義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。 初投稿です。 初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 内容も時々サイレント修正するかもです。 定期的にタグ整理します。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

ガラス玉のように

イケのタコ
BL
クール美形×平凡 成績共に運動神経も平凡と、そつなくのびのびと暮らしていたスズ。そんな中突然、親の転勤が決まる。 親と一緒に外国に行くのか、それとも知人宅にで生活するのかを、どっちかを選択する事になったスズ。 とりあえず、お試しで一週間だけ知人宅にお邪魔する事になった。 圧倒されるような日本家屋に驚きつつ、なぜか知人宅には学校一番イケメンとらいわれる有名な三船がいた。 スズは三船とは会話をしたことがなく、気まずいながらも挨拶をする。しかし三船の方は傲慢な態度を取り印象は最悪。 ここで暮らして行けるのか。悩んでいると母の友人であり知人の、義宗に「三船は不器用だから長めに見てやって」と気長に判断してほしいと言われる。 三船に嫌われていては判断するもないと思うがとスズは思う。それでも優しい義宗が言った通りに気長がに気楽にしようと心がける。 しかし、スズが待ち受けているのは日常ではなく波乱。 三船との衝突。そして、この家の秘密と真実に立ち向かうことになるスズだった。

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

嘘つき王と影の騎士

篠雨
BL
「俺の役割は、貴方を守ることだ。……例え、貴方自身からも」 国の平穏を一身に背負い、十二年間「聖王」という偶像を演じ続けてきたセシル。 酷使し続けた心身はすでに限界を迎え、その命の灯火は今にも消えようとしていた。 そんな折、現れたのは異世界からの「転移者」。 代わりを見つけた国は、用済みとなったセシルからすべてを剥奪し、最果ての地へと追放する。 死を待つためだけに辿り着いた冬の山。 絶望に沈むセシルの前に現れたのは、かつて冷徹に王を監視し続けていた近衛騎士団長、アルヴィスだった。 守るべき王も、守るべき国も失ったはずの二人が過ごす、狭い小屋での夜。 無価値になり、壊れかけた自分を、なぜこの男は、そんな瞳で見つめるのか。 なぜ、そんなにも強く、抱きしめるのか。 これは、すべてを失った「聖王」が、一人の男の熱に暴かれ、再生していくまでの物語。

【完結】かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい

日向汐
BL
番外編はTwitter(べったー)に載せていきますので、よかったらぜひ🤲 ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆ 過保護なかわいい系美形の後輩。 たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡ そんなお話。 ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆ 【攻め】 雨宮千冬(あめみや・ちふゆ) 大学1年。法学部。 淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。 甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。 【受け】 睦月伊織(むつき・いおり) 大学2年。工学部。 黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。

処理中です...