隣人、イケメン俳優につき

タタミ

文字の大きさ
14 / 31

約束

しおりを挟む
    朝からトイレで抜いて、とてつもない賢者タイムに襲われながら部屋に戻ると久遠さんがコーヒーを淹れていた。俺に向けられる爽やかな笑顔は、賢者の俺には眩しすぎる。

「一太くんのも淹れた。勝手にだけど」 
「あ、どうも」

    コーヒーカップを手渡されて受けとりながら椅子に座る。久遠さんはカップをテーブルに置いたままにして、俺の前に立った。

「ちゃんと眠れたよ。一太くんのおかけで」
「俺は隣で寝てただけですよ。添い寝で眠れるならよかったです」
「うん。西野がいないベッドで寝られたのマジで嬉しい」

    久遠さんはガッツポーズを取って喜んでいて、元気そうな久遠さんを見て俺も安心した。薬に依存するか西野に依存するかしかなかったのなら、俺が横にいれば済む添い寝が1番健全な睡眠導入だ。
    問題は俺の下半身が節操なしということだが。しかしここで添い寝は(下半身が暴れそうなので)しんどいなんて言ったら久遠さんは絶対に「わかった」と微笑んで西野に抱かれるのを選ぶだろう。
    どんな理由があっても暴力を振るう男はダメだって田舎のおばあちゃんが言ってたし、俺もそう思う。久遠さんを西野の元に行かせるべきじゃないことくらいさすがに分かっている。そもそも俺が俺の下半身を沈める努力をすべきなのだ。空気を読めずに暴れてるのは俺の下半身なのだから。

「眠れないっていう症状がどうやって治っていくのか素人なんでわからないですけど、俺と添い寝スタイルで良ければいつでも言ってください。久遠さんが西野に会わなくても済むならそれがいいと思うんで」

    おい、エロい夢を見ておいて綺麗事を言うな。
    と、俺の罪悪感がチクチクしてくる。
    罪悪感くんの言うことはわかるけど、本当に下心とかじゃなくて。てか大体なんで久遠さんで興奮してるのか俺だって自分の下半身を理解しきれてない。

「一太くん」
「なん、ですか」

    己の下半身に内心疑問を呈していると、久遠さんが俺の肩に手を置いたのでドキリとしてちょっと言葉が詰まった。

「俺、自分の症状治せるように頑張る。それまで……迷惑かけちゃってホントに悪いけど、一緒に寝てくれると助かります」

    俺を見る久遠さんの目は少し不安そうに揺れていて、俺は安心させたくて思わず微笑んだ。

「全然、大丈夫ですよ。久遠さんの仕事の都合がつくときはいつでも」
「ありがとう。あ、そうだ。後で仕事のスケジュール送っていい?俺が来てもいい日決めたい」

    そうして俺たちはいつ一緒に寝るのかという、他人から見たら不可思議な予定を立て始めた。

    
  その日から、久遠さんと俺の都合がつく限り俺の部屋で一緒に寝ることになった。
  久遠さんは仕事で泊まりだったり仕事が深夜にあったりするので、毎日一緒というわけではないが、それでも週4日は顔を合わせた。

「なんか半同棲って感じだね。したことないけど」

  俺の部屋には久遠さんの歯ブラシや部屋着も常駐していて、本当に半同棲のようなものだった。

「同棲憧れない?俺、好きな人とならずっと一緒にいたい派だからさ~」

  楽しそうな久遠さんを見て、俺の胸はざわつくことが増えた。

「……ろくにいたことないんで、そこまで考えたことないですね」
「うっそ!一太くん絶対モテるじゃん」
「だから、モテないんですって。こんな悲しいことを言わせないでください」
「えぇ~ごめん。でもホント、出会いがないだけだよ」

  久遠さんが微笑むと良い香りがする気がして、また俺の胸はざわついた。
  胸のざわつきより問題の暴れん坊な下半身については、久遠さんが来る前に雑に抜いておくという対応方法でどうにかしていた。
  人間不思議なもので、初回はあれだけ緊張した添い寝も、数回繰り返すうちに日常の一部になりつつあった。

「慣れってすごいな」

  俺はラッコのクッキーを見ながら呟いた。
  今日は仕事が落ち着いたので電車に乗って池袋まで来ていた。久しぶりに訪れた水族館をひとりでブラブラ歩いて、今はお土産コーナーにいる。

「こちらは新商品のラッコクッキーです。チョコレートとプレーンがございます。ご試食なさいますか?」
「あ……いや大丈夫です」

  店員が明るく営業をかけてきても、俺は基本が陰キャなので上手い返しもできない。
  暇だからとひとりで水族館に来るようなやつは、営業対象外にしてほしい。声をかけられたことで怯んで、俺はラッコクッキーのコーナーから少し遠退いた。
  あ、ラッコのぬいぐるみ売ってる。
  そう思って棚に近づいたとき、

「おい、ひとりか?」

  デカい人影が俺の横に立った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

転生DKは、オーガさんのお気に入り~姉の婚約者に嫁ぐことになったんだが、こんなに溺愛されるとは聞いてない!~

トモモト ヨシユキ
BL
魔物の国との和議の証に結ばれた公爵家同士の婚約。だが、婚約することになった姉が拒んだため6男のシャル(俺)が代わりに婚約することになった。 突然、オーガ(鬼)の嫁になることがきまった俺は、ショックで前世を思い出す。 有名進学校に通うDKだった俺は、前世の知識と根性で自分の身を守るための剣と魔法の鍛練を始める。 約束の10年後。 俺は、人類最強の魔法剣士になっていた。 どこからでもかかってこいや! と思っていたら、婚約者のオーガ公爵は、全くの塩対応で。 そんなある日、魔王国のバーティーで絡んできた魔物を俺は、こてんぱんにのしてやったんだが、それ以来、旦那様の様子が変? 急に花とか贈ってきたり、デートに誘われたり。 慣れない溺愛にこっちまで調子が狂うし! このまま、俺は、絆されてしまうのか!? カイタ、エブリスタにも掲載しています。

義兄が溺愛してきます

ゆう
BL
桜木恋(16)は交通事故に遭う。 その翌日からだ。 義兄である桜木翔(17)が過保護になったのは。 翔は恋に好意を寄せているのだった。 本人はその事を知るよしもない。 その様子を見ていた友人の凛から告白され、戸惑う恋。 成り行きで惚れさせる宣言をした凛と一週間付き合う(仮)になった。 翔は色々と思う所があり、距離を置こうと彼女(偽)をつくる。 すれ違う思いは交わるのか─────。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜

たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです

一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお) 同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。 時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。 僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。 本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。 だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。 なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。 「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」 ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。 僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。 その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。 悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。 え?葛城くんが目の前に!? どうしよう、人生最大のピンチだ!! ✤✤ 「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。 全年齢向けの作品となっています。 一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。 ✤✤

処理中です...