隣人、イケメン俳優につき

タタミ

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約束

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    朝からトイレで抜いて、とてつもない賢者タイムに襲われながら部屋に戻ると久遠さんがコーヒーを淹れていた。俺に向けられる爽やかな笑顔は、賢者の俺には眩しすぎる。

「一太くんのも淹れた。勝手にだけど」 
「あ、どうも」

    コーヒーカップを手渡されて受けとりながら椅子に座る。久遠さんはカップをテーブルに置いたままにして、俺の前に立った。

「ちゃんと眠れたよ。一太くんのおかけで」
「俺は隣で寝てただけですよ。添い寝で眠れるならよかったです」
「うん。西野がいないベッドで寝られたのマジで嬉しい」

    久遠さんはガッツポーズを取って喜んでいて、元気そうな久遠さんを見て俺も安心した。薬に依存するか西野に依存するかしかなかったのなら、俺が横にいれば済む添い寝が1番健全な睡眠導入だ。
    問題は俺の下半身が節操なしということだが。しかしここで添い寝は(下半身が暴れそうなので)しんどいなんて言ったら久遠さんは絶対に「わかった」と微笑んで西野に抱かれるのを選ぶだろう。
    どんな理由があっても暴力を振るう男はダメだって田舎のおばあちゃんが言ってたし、俺もそう思う。久遠さんを西野の元に行かせるべきじゃないことくらいさすがに分かっている。そもそも俺が俺の下半身を沈める努力をすべきなのだ。空気を読めずに暴れてるのは俺の下半身なのだから。

「眠れないっていう症状がどうやって治っていくのか素人なんでわからないですけど、俺と添い寝スタイルで良ければいつでも言ってください。久遠さんが西野に会わなくても済むならそれがいいと思うんで」

    おい、エロい夢を見ておいて綺麗事を言うな。
    と、俺の罪悪感がチクチクしてくる。
    罪悪感くんの言うことはわかるけど、本当に下心とかじゃなくて。てか大体なんで久遠さんで興奮してるのか俺だって自分の下半身を理解しきれてない。

「一太くん」
「なん、ですか」

    己の下半身に内心疑問を呈していると、久遠さんが俺の肩に手を置いたのでドキリとしてちょっと言葉が詰まった。

「俺、自分の症状治せるように頑張る。それまで……迷惑かけちゃってホントに悪いけど、一緒に寝てくれると助かります」

    俺を見る久遠さんの目は少し不安そうに揺れていて、俺は安心させたくて思わず微笑んだ。

「全然、大丈夫ですよ。久遠さんの仕事の都合がつくときはいつでも」
「ありがとう。あ、そうだ。後で仕事のスケジュール送っていい?俺が来てもいい日決めたい」

    そうして俺たちはいつ一緒に寝るのかという、他人から見たら不可思議な予定を立て始めた。

    
  その日から、久遠さんと俺の都合がつく限り俺の部屋で一緒に寝ることになった。
  久遠さんは仕事で泊まりだったり仕事が深夜にあったりするので、毎日一緒というわけではないが、それでも週4日は顔を合わせた。

「なんか半同棲って感じだね。したことないけど」

  俺の部屋には久遠さんの歯ブラシや部屋着も常駐していて、本当に半同棲のようなものだった。

「同棲憧れない?俺、好きな人とならずっと一緒にいたい派だからさ~」

  楽しそうな久遠さんを見て、俺の胸はざわつくことが増えた。

「……ろくにいたことないんで、そこまで考えたことないですね」
「うっそ!一太くん絶対モテるじゃん」
「だから、モテないんですって。こんな悲しいことを言わせないでください」
「えぇ~ごめん。でもホント、出会いがないだけだよ」

  久遠さんが微笑むと良い香りがする気がして、また俺の胸はざわついた。
  胸のざわつきより問題の暴れん坊な下半身については、久遠さんが来る前に雑に抜いておくという対応方法でどうにかしていた。
  人間不思議なもので、初回はあれだけ緊張した添い寝も、数回繰り返すうちに日常の一部になりつつあった。

「慣れってすごいな」

  俺はラッコのクッキーを見ながら呟いた。
  今日は仕事が落ち着いたので電車に乗って池袋まで来ていた。久しぶりに訪れた水族館をひとりでブラブラ歩いて、今はお土産コーナーにいる。

「こちらは新商品のラッコクッキーです。チョコレートとプレーンがございます。ご試食なさいますか?」
「あ……いや大丈夫です」

  店員が明るく営業をかけてきても、俺は基本が陰キャなので上手い返しもできない。
  暇だからとひとりで水族館に来るようなやつは、営業対象外にしてほしい。声をかけられたことで怯んで、俺はラッコクッキーのコーナーから少し遠退いた。
  あ、ラッコのぬいぐるみ売ってる。
  そう思って棚に近づいたとき、

「おい、ひとりか?」

  デカい人影が俺の横に立った。
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