魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ

文字の大きさ
20 / 69

18

しおりを挟む
 ──ゴーン、ゴーン……。

 授業の終わりを告げる鐘が鳴った。先生が魔法で羽を回収し、生徒たちが続々と教室から出ていく。

(やっっと、終わった……)

 俺は周囲の生徒からの妬み嫉みの視線を一身に受け続けながら、げっそりした気持ちで荷物をまとめた。不幸中の幸いか、ダン王子がいまだに俺の隣に座ったまま俺の方を見ているので、生徒たちに直接危害を加えられることはなかった。

(そもそもダン王子が来なければ、俺は殺意を向けられることもなかったわけだが)

「俺が直々にレッスンしてやって、羽を1ミリ浮かせるのがギリギリとは。才能がないにもほどがある」
「はぁ~、お手を煩わせてすみませんね。次から自力で頑張りますから」

 適当に返しながら、次に受ける授業は何だったかとイリスさんに渡されたスケジュール一覧を見る。

「次は何を受ける。薬学か?」
「ちょっと、あんまり近づかないでください」
「薬学は5階だ。転位もできない貴様は、急がないと間に合わん。来い」
「ま、待って! え、もしかして、一緒に行こうとしてます?」
「貴様がまともに魔法を扱えるようになるまで俺が見てやる」

 迷いのない返答だった。感謝しろと言わんばかりの赤い瞳が俺を見ている。

「いや、嫌っす」
「は? なんだと貴様」
「俺がダン王子といたらいつか生徒に殺されますよ! あの嫉妬と憎悪、わかってるでしょ!?」

 こう言っている間にも、俺には負の感情が込められた視線が突き刺さっている。

「ってことで、ついて来ないでください!お願いします!」
「! おい──」

 俺は荷物を抱えて猛ダッシュした。正直ダン王子が魔法を使えばすぐ捕まると思ったが、背後で舌打ちが聞こえただけで追いかけてはこなかった。

(でも油断したところを狙われるかもしれないし嫉妬してる生徒は怖いし、とにかく人目のないところに避難してほとぼりを冷まさないと……!)

 走り回るうちに、俺は中庭に出ていた。体力の限界が来て、ほとんど歩くようなスピードで進み、人気のない林を見つける。

「はぁ……っはぁ……っ、いったんここでいいか……っ」

 木の後ろに倒れるように座り込んでも上がり続ける息に、体力のなさを痛感する。魔法以前に筋トレから始めた方がいいかもしれない。

(次の薬学、行ったらダン王子教室で待ってたりするかな……流石にそこまではしないか……)

 でも、もう教室にどうやったらいけるのかわからない。ここはどこなんだとため息を吐いて、スケジュール一覧を見る。あと3つくらいは今日受けられる時間割だが、達成できるビジョンが浮かばなかった。

「まー、まだ登校初日だし。焦っても仕方ない」

 開き直りながら上を見ると、木々の隙間から見える空は青々としていてそよぐ風が気持ちよかった。結構いい場所を見つけられたかもと穏やかさを取り戻した矢先、誰かの話し声が聞こえた。こちらに近づいてきている。

「──で、ディタ。この後授業は?」
「ない。つーか、出ない。出席ノルマは達成したし」
「相変わらずサボってるねえ」

(あ、クシェル王子。と、あの人って……)

 木の陰から覗くと、クシェル王子と赤い髪の男性──さきほど授業で椅子を蹴り飛ばしていた不良の人だった。ふたりで仲良さそうに喋っている。

(意外な交友。王子と不良って友達になるんだ)

 いじめっ子の生徒じゃなかったのは安心したが、不良ともあまり関わりたくないので出て行こうか迷う。そんなことを考えているうちにふたりがすぐそばの木の前まで来て座ってしまい、盗み見ると不良がタバコを取り出すところだった。

「あ、いいな。俺にも1本ちょうだい」
「至上様に選ばれなくなる、とか言われて国に止められてんじゃなかったのか」
「喫煙の有無で配偶者が決まるわけないでしょ。国のやつらは迷信信じてるバカばっかり」

 クシェル王子が指先から火を出し、不良と自分のタバコに火をつける。俺の前にいるときよりクシェル王子には擦れたような素が現れていて、勝手にふたりの会話を聞いている手前ちょっと居心地が悪い。

「そういえば至上様どうだった。会ったんだろ」
「ん。なんか案外いい人そうだったよ。あ、でもみんなが知ってる肖像画とは違う顔だった」
「へえ~。選ばれる自信は?」
「どうだろ。俺は好きだけどね、至上様」

 クシェル王子にさらりと言われて、不覚にもドキッとしてしまった。

(待て待て、ドキッじゃないだろ……! 俺ってもしかしてチョロくない!?)

 木陰で自分がチョロいのかもしれないという嫌な発見をして、項垂れる。

「もう授業出ないんでしょ。俺の部屋行こうよ」
「今は気分じゃない」
「あ、そう。なら、気分にさせてあげる」

(ん?)

 会話の方向性に違和感を感じて、俺は顔を上げた。
 クシェル王子が身を寄せて、不良が咥えていたタバコを奪い顔を近づける。

(え、いや、待った。これキスする……!?)

 俺は急に頭がさえわたり、手汗が出てきた。このふたりはどういう関係なんだとか色々駆け巡ったが、見たら事実になってしまうので決定的瞬間から目をそらすと俺に影が落ちる。

「そこ、隠れてる子も混ざる?」
「!? あっ……」
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり
BL
 帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。  着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。  凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。  撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。  帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。  独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。  甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。  ※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。 ★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!

推し様たちを法廷で守ったら気に入られちゃいました!?〜前世で一流弁護士の僕が華麗に悪役を弁護します〜

ホノム
BL
下級兵の僕はある日一流弁護士として生きた前世を思い出した。 ――この世界、前世で好きだったBLゲームの中じゃん! ここは「英雄族」と「ヴィラン族」に分かれて二千年もの間争っている世界で、ヴィランは迫害され冤罪に苦しむ存在――いやっ僕ヴィランたち全員箱推しなんですけど。 これは見過ごせない……! 腐敗した司法、社交界の陰謀、国家規模の裁判戦争――全てを覆して〝弁護人〟として推したちを守ろうとしたら、推し皆が何やら僕の周りで喧嘩を始めて…? ちょっと困るって!これは法的事案だよ……!

【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。 処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。 なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、 婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・ やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように 仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・ と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ーーーーーーーー この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に 加筆修正を加えたものです。 リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、 あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。 展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。 続編出ました 転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668 ーーーー 校正・文体の調整に生成AIを利用しています。

追放された味見係、【神の舌】で冷徹皇帝と聖獣の胃袋を掴んで溺愛される

水凪しおん
BL
「無能」と罵られ、故郷の王宮を追放された「味見係」のリオ。 行き場を失った彼を拾ったのは、氷のような美貌を持つ隣国の冷徹皇帝アレスだった。 「聖獣に何か食わせろ」という無理難題に対し、リオが作ったのは素朴な野菜スープ。しかしその料理には、食べた者を癒やす伝説のスキル【神の舌】の力が宿っていた! 聖獣を元気にし、皇帝の凍てついた心をも溶かしていくリオ。 「君は俺の宝だ」 冷酷だと思われていた皇帝からの、不器用で真っ直ぐな溺愛。 これは、捨てられた料理人が温かいご飯で居場所を作り、最高にハッピーになる物語。

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。

時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!? ※表紙のイラストはたかだ。様 ※エブリスタ、pixivにも掲載してます ◆4月19日18時から、この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」を1話ずつ公開予定です。そちらも気になったら覗いてみてください。 ◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います

悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで

二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。

処理中です...