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──ゴーン、ゴーン……。
授業の終わりを告げる鐘が鳴った。先生が魔法で羽を回収し、生徒たちが続々と教室から出ていく。
(やっっと、終わった……)
俺は周囲の生徒からの妬み嫉みの視線を一身に受け続けながら、げっそりした気持ちで荷物をまとめた。不幸中の幸いか、ダン王子がいまだに俺の隣に座ったまま俺の方を見ているので、生徒たちに直接危害を加えられることはなかった。
(そもそもダン王子が来なければ、俺は殺意を向けられることもなかったわけだが)
「俺が直々にレッスンしてやって、羽を1ミリ浮かせるのがギリギリとは。才能がないにもほどがある」
「はぁ~、お手を煩わせてすみませんね。次から自力で頑張りますから」
適当に返しながら、次に受ける授業は何だったかとイリスさんに渡されたスケジュール一覧を見る。
「次は何を受ける。薬学か?」
「ちょっと、あんまり近づかないでください」
「薬学は5階だ。転位もできない貴様は、急がないと間に合わん。来い」
「ま、待って! え、もしかして、一緒に行こうとしてます?」
「貴様がまともに魔法を扱えるようになるまで俺が見てやる」
迷いのない返答だった。感謝しろと言わんばかりの赤い瞳が俺を見ている。
「いや、嫌っす」
「は? なんだと貴様」
「俺がダン王子といたらいつか生徒に殺されますよ! あの嫉妬と憎悪、わかってるでしょ!?」
こう言っている間にも、俺には負の感情が込められた視線が突き刺さっている。
「ってことで、ついて来ないでください!お願いします!」
「! おい──」
俺は荷物を抱えて猛ダッシュした。正直ダン王子が魔法を使えばすぐ捕まると思ったが、背後で舌打ちが聞こえただけで追いかけてはこなかった。
(でも油断したところを狙われるかもしれないし嫉妬してる生徒は怖いし、とにかく人目のないところに避難してほとぼりを冷まさないと……!)
走り回るうちに、俺は中庭に出ていた。体力の限界が来て、ほとんど歩くようなスピードで進み、人気のない林を見つける。
「はぁ……っはぁ……っ、いったんここでいいか……っ」
木の後ろに倒れるように座り込んでも上がり続ける息に、体力のなさを痛感する。魔法以前に筋トレから始めた方がいいかもしれない。
(次の薬学、行ったらダン王子教室で待ってたりするかな……流石にそこまではしないか……)
でも、もう教室にどうやったらいけるのかわからない。ここはどこなんだとため息を吐いて、スケジュール一覧を見る。あと3つくらいは今日受けられる時間割だが、達成できるビジョンが浮かばなかった。
「まー、まだ登校初日だし。焦っても仕方ない」
開き直りながら上を見ると、木々の隙間から見える空は青々としていてそよぐ風が気持ちよかった。結構いい場所を見つけられたかもと穏やかさを取り戻した矢先、誰かの話し声が聞こえた。こちらに近づいてきている。
「──で、ディタ。この後授業は?」
「ない。つーか、出ない。出席ノルマは達成したし」
「相変わらずサボってるねえ」
(あ、クシェル王子。と、あの人って……)
木の陰から覗くと、クシェル王子と赤い髪の男性──さきほど授業で椅子を蹴り飛ばしていた不良の人だった。ふたりで仲良さそうに喋っている。
(意外な交友。王子と不良って友達になるんだ)
いじめっ子の生徒じゃなかったのは安心したが、不良ともあまり関わりたくないので出て行こうか迷う。そんなことを考えているうちにふたりがすぐそばの木の前まで来て座ってしまい、盗み見ると不良がタバコを取り出すところだった。
「あ、いいな。俺にも1本ちょうだい」
「至上様に選ばれなくなる、とか言われて国に止められてんじゃなかったのか」
「喫煙の有無で配偶者が決まるわけないでしょ。国のやつらは迷信信じてるバカばっかり」
クシェル王子が指先から火を出し、不良と自分のタバコに火をつける。俺の前にいるときよりクシェル王子には擦れたような素が現れていて、勝手にふたりの会話を聞いている手前ちょっと居心地が悪い。
「そういえば至上様どうだった。会ったんだろ」
「ん。なんか案外いい人そうだったよ。あ、でもみんなが知ってる肖像画とは違う顔だった」
「へえ~。選ばれる自信は?」
「どうだろ。俺は好きだけどね、至上様」
クシェル王子にさらりと言われて、不覚にもドキッとしてしまった。
(待て待て、ドキッじゃないだろ……! 俺ってもしかしてチョロくない!?)
木陰で自分がチョロいのかもしれないという嫌な発見をして、項垂れる。
「もう授業出ないんでしょ。俺の部屋行こうよ」
「今は気分じゃない」
「あ、そう。なら、気分にさせてあげる」
(ん?)
会話の方向性に違和感を感じて、俺は顔を上げた。
クシェル王子が身を寄せて、不良が咥えていたタバコを奪い顔を近づける。
(え、いや、待った。これキスする……!?)
俺は急に頭がさえわたり、手汗が出てきた。このふたりはどういう関係なんだとか色々駆け巡ったが、見たら事実になってしまうので決定的瞬間から目をそらすと俺に影が落ちる。
「そこ、隠れてる子も混ざる?」
「!? あっ……」
授業の終わりを告げる鐘が鳴った。先生が魔法で羽を回収し、生徒たちが続々と教室から出ていく。
(やっっと、終わった……)
俺は周囲の生徒からの妬み嫉みの視線を一身に受け続けながら、げっそりした気持ちで荷物をまとめた。不幸中の幸いか、ダン王子がいまだに俺の隣に座ったまま俺の方を見ているので、生徒たちに直接危害を加えられることはなかった。
(そもそもダン王子が来なければ、俺は殺意を向けられることもなかったわけだが)
「俺が直々にレッスンしてやって、羽を1ミリ浮かせるのがギリギリとは。才能がないにもほどがある」
「はぁ~、お手を煩わせてすみませんね。次から自力で頑張りますから」
適当に返しながら、次に受ける授業は何だったかとイリスさんに渡されたスケジュール一覧を見る。
「次は何を受ける。薬学か?」
「ちょっと、あんまり近づかないでください」
「薬学は5階だ。転位もできない貴様は、急がないと間に合わん。来い」
「ま、待って! え、もしかして、一緒に行こうとしてます?」
「貴様がまともに魔法を扱えるようになるまで俺が見てやる」
迷いのない返答だった。感謝しろと言わんばかりの赤い瞳が俺を見ている。
「いや、嫌っす」
「は? なんだと貴様」
「俺がダン王子といたらいつか生徒に殺されますよ! あの嫉妬と憎悪、わかってるでしょ!?」
こう言っている間にも、俺には負の感情が込められた視線が突き刺さっている。
「ってことで、ついて来ないでください!お願いします!」
「! おい──」
俺は荷物を抱えて猛ダッシュした。正直ダン王子が魔法を使えばすぐ捕まると思ったが、背後で舌打ちが聞こえただけで追いかけてはこなかった。
(でも油断したところを狙われるかもしれないし嫉妬してる生徒は怖いし、とにかく人目のないところに避難してほとぼりを冷まさないと……!)
走り回るうちに、俺は中庭に出ていた。体力の限界が来て、ほとんど歩くようなスピードで進み、人気のない林を見つける。
「はぁ……っはぁ……っ、いったんここでいいか……っ」
木の後ろに倒れるように座り込んでも上がり続ける息に、体力のなさを痛感する。魔法以前に筋トレから始めた方がいいかもしれない。
(次の薬学、行ったらダン王子教室で待ってたりするかな……流石にそこまではしないか……)
でも、もう教室にどうやったらいけるのかわからない。ここはどこなんだとため息を吐いて、スケジュール一覧を見る。あと3つくらいは今日受けられる時間割だが、達成できるビジョンが浮かばなかった。
「まー、まだ登校初日だし。焦っても仕方ない」
開き直りながら上を見ると、木々の隙間から見える空は青々としていてそよぐ風が気持ちよかった。結構いい場所を見つけられたかもと穏やかさを取り戻した矢先、誰かの話し声が聞こえた。こちらに近づいてきている。
「──で、ディタ。この後授業は?」
「ない。つーか、出ない。出席ノルマは達成したし」
「相変わらずサボってるねえ」
(あ、クシェル王子。と、あの人って……)
木の陰から覗くと、クシェル王子と赤い髪の男性──さきほど授業で椅子を蹴り飛ばしていた不良の人だった。ふたりで仲良さそうに喋っている。
(意外な交友。王子と不良って友達になるんだ)
いじめっ子の生徒じゃなかったのは安心したが、不良ともあまり関わりたくないので出て行こうか迷う。そんなことを考えているうちにふたりがすぐそばの木の前まで来て座ってしまい、盗み見ると不良がタバコを取り出すところだった。
「あ、いいな。俺にも1本ちょうだい」
「至上様に選ばれなくなる、とか言われて国に止められてんじゃなかったのか」
「喫煙の有無で配偶者が決まるわけないでしょ。国のやつらは迷信信じてるバカばっかり」
クシェル王子が指先から火を出し、不良と自分のタバコに火をつける。俺の前にいるときよりクシェル王子には擦れたような素が現れていて、勝手にふたりの会話を聞いている手前ちょっと居心地が悪い。
「そういえば至上様どうだった。会ったんだろ」
「ん。なんか案外いい人そうだったよ。あ、でもみんなが知ってる肖像画とは違う顔だった」
「へえ~。選ばれる自信は?」
「どうだろ。俺は好きだけどね、至上様」
クシェル王子にさらりと言われて、不覚にもドキッとしてしまった。
(待て待て、ドキッじゃないだろ……! 俺ってもしかしてチョロくない!?)
木陰で自分がチョロいのかもしれないという嫌な発見をして、項垂れる。
「もう授業出ないんでしょ。俺の部屋行こうよ」
「今は気分じゃない」
「あ、そう。なら、気分にさせてあげる」
(ん?)
会話の方向性に違和感を感じて、俺は顔を上げた。
クシェル王子が身を寄せて、不良が咥えていたタバコを奪い顔を近づける。
(え、いや、待った。これキスする……!?)
俺は急に頭がさえわたり、手汗が出てきた。このふたりはどういう関係なんだとか色々駆け巡ったが、見たら事実になってしまうので決定的瞬間から目をそらすと俺に影が落ちる。
「そこ、隠れてる子も混ざる?」
「!? あっ……」
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