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血、血、血。
イリスさんの身体から血が溢れて止まらない。空気が通っていないような荒い呼吸を繰り返している。
「イリスさん! しっかりして! なんで、どうして、剣は俺に刺さったのに……!」
混乱する俺を眺めたディタは、少し首を傾げた。その口元には苦笑が浮かんでる。
「自分でやっておいて忘れたのか? 強制犠牲の契約魔法だ。主の致命傷を下僕にすべて肩代わりさせる、至上様にしか使えない禁術。イリスの命と引き換えに、万が一の即死を防ぐ仕組みにしてんだろ」
「な、なんだよそれ……!?」
「強制犠牲の発動形式は2つ。ひとつは下僕が危険の迫った主の元へ強制的に転位させられ物理的に盾となるもの。そしてもうひとつは、下僕が物理的に主を守れない場合に主の致命傷を押し付けられるというものだ。今発動したのは2つ目の方だな」
何なんだ、その魔法は。
何も知らなかった。イリスさんは何も教えてくれなかった。
目を見開くばかりの俺に、ディタは傾げていた首を戻して薄く笑う。
「反逆の先人たちが遺した文献でわかってるのはここまでだ。他にとっておきを残してるなら教えてくれよ、ルカ」
「何言ってんだよ、ずっと……ッ俺は、何も……」
「しかし、至上様がこない無害なツラとはなぁ。長らく側近やっとるやつも捨て駒扱いなんは、さすがのメンタルやけど」
小馬鹿にした顔でユーリが俺を見た時、
「強制、ではありません……私が望んだ、ことです……っ」
息の続かないイリスさんはディタとユーリを睨みつけ、苦しげに顔を歪めた。
「見事な洗脳だな。それも魔法でやってんのか?」
「俺じゃない、俺はそんなこと……!」
ディタの声を振り払うように頭を振る。
とにかく震える手でジャケットを脱いで、イリスさんの胸元に当てることしかできなかった。応急処置にもならず、一瞬で布が赤くなる。イリスさんは血を吐いて、どんどん呼吸が小さくなっていった。
「治してやれよ。至上様なら治療なんてお手の物だろ」
「っ、そんなの……! 俺は、至上様だけど、そうじゃないんだって……!」
俺がもっと魔法を使えたら、イリスさんを助けられたのに。
ディタの反乱だって止められたのに。
こんなことにはならなかったのに。
悔しくて、唇を噛んだ。視界が歪む。
「……理由は知らないが、至上様のくせに大した魔法が使えないのは本当なんだな。よかったよ。学校でのお前が全部演技だったら、今頃俺たちは皆殺しだった」
「いつから……っ、いつから俺を至上様だと思って──」
「スパークルフラワーの光り方が異常だった時から」
想像の何倍も、序盤だった。
出会ってからずっと疑われていたとわかって、指先から血の気が引いていく。俺たちの間に友情などなかった。探るために接触されていただけだったのだ。
(どうする、どうすれば。違う! 俺が、どうにかしろよ……! 泣いてる場合じゃない……!)
イリスさんから離すように手を引かれた時、俺は反射的にディタの腕を掴み返して魔力を込めた。
「ディタ、ごめん!」
「!」
特訓を反復しながら手から炎を出し、ディタを服ごと焼く。右腕が一気に燃えて皮膚の焼ける匂いがしたが、ディタは大して顔色も変えないまま、俺を軽く投げ飛ばした。
「ッ、う、ゲホッ!」
木の幹に背中から当たって呼吸が乱れた俺を見下ろして、ディタは燃えた上着を脱ぎながら錆びた枷を懐から取り出す。
「すげえな、こんな威力まで出せるようになってたのか。でも俺、痛みには強いんだよ」
弱った抵抗は片手で押さえられ、手首に枷がはめられた。
途端に全身に悪寒が走る。
(なんだ、これ……っ、身体が動かない……ッ)
イリスさんの身体から血が溢れて止まらない。空気が通っていないような荒い呼吸を繰り返している。
「イリスさん! しっかりして! なんで、どうして、剣は俺に刺さったのに……!」
混乱する俺を眺めたディタは、少し首を傾げた。その口元には苦笑が浮かんでる。
「自分でやっておいて忘れたのか? 強制犠牲の契約魔法だ。主の致命傷を下僕にすべて肩代わりさせる、至上様にしか使えない禁術。イリスの命と引き換えに、万が一の即死を防ぐ仕組みにしてんだろ」
「な、なんだよそれ……!?」
「強制犠牲の発動形式は2つ。ひとつは下僕が危険の迫った主の元へ強制的に転位させられ物理的に盾となるもの。そしてもうひとつは、下僕が物理的に主を守れない場合に主の致命傷を押し付けられるというものだ。今発動したのは2つ目の方だな」
何なんだ、その魔法は。
何も知らなかった。イリスさんは何も教えてくれなかった。
目を見開くばかりの俺に、ディタは傾げていた首を戻して薄く笑う。
「反逆の先人たちが遺した文献でわかってるのはここまでだ。他にとっておきを残してるなら教えてくれよ、ルカ」
「何言ってんだよ、ずっと……ッ俺は、何も……」
「しかし、至上様がこない無害なツラとはなぁ。長らく側近やっとるやつも捨て駒扱いなんは、さすがのメンタルやけど」
小馬鹿にした顔でユーリが俺を見た時、
「強制、ではありません……私が望んだ、ことです……っ」
息の続かないイリスさんはディタとユーリを睨みつけ、苦しげに顔を歪めた。
「見事な洗脳だな。それも魔法でやってんのか?」
「俺じゃない、俺はそんなこと……!」
ディタの声を振り払うように頭を振る。
とにかく震える手でジャケットを脱いで、イリスさんの胸元に当てることしかできなかった。応急処置にもならず、一瞬で布が赤くなる。イリスさんは血を吐いて、どんどん呼吸が小さくなっていった。
「治してやれよ。至上様なら治療なんてお手の物だろ」
「っ、そんなの……! 俺は、至上様だけど、そうじゃないんだって……!」
俺がもっと魔法を使えたら、イリスさんを助けられたのに。
ディタの反乱だって止められたのに。
こんなことにはならなかったのに。
悔しくて、唇を噛んだ。視界が歪む。
「……理由は知らないが、至上様のくせに大した魔法が使えないのは本当なんだな。よかったよ。学校でのお前が全部演技だったら、今頃俺たちは皆殺しだった」
「いつから……っ、いつから俺を至上様だと思って──」
「スパークルフラワーの光り方が異常だった時から」
想像の何倍も、序盤だった。
出会ってからずっと疑われていたとわかって、指先から血の気が引いていく。俺たちの間に友情などなかった。探るために接触されていただけだったのだ。
(どうする、どうすれば。違う! 俺が、どうにかしろよ……! 泣いてる場合じゃない……!)
イリスさんから離すように手を引かれた時、俺は反射的にディタの腕を掴み返して魔力を込めた。
「ディタ、ごめん!」
「!」
特訓を反復しながら手から炎を出し、ディタを服ごと焼く。右腕が一気に燃えて皮膚の焼ける匂いがしたが、ディタは大して顔色も変えないまま、俺を軽く投げ飛ばした。
「ッ、う、ゲホッ!」
木の幹に背中から当たって呼吸が乱れた俺を見下ろして、ディタは燃えた上着を脱ぎながら錆びた枷を懐から取り出す。
「すげえな、こんな威力まで出せるようになってたのか。でも俺、痛みには強いんだよ」
弱った抵抗は片手で押さえられ、手首に枷がはめられた。
途端に全身に悪寒が走る。
(なんだ、これ……っ、身体が動かない……ッ)
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