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誕生日②
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「なんだ? 選択肢がなくて選びようがねえって言ったのはお前だろ、姫子。25人もいれば選択肢はあるよなぁ」
「ぐっ……それは……そうですけど……」
姫子が言い淀むと、龍吾は勝ち誇ったようにふんぞり返っている。
これは別に勝ち負けの問題ではないのだが、姫子は揚げ足を取られたのが悔しくてまたセリーヌのハンカチを噛んだ。
「25人、ですか……。しかし、それはそれで1つ1つの質が下がりませんか。親父が25人用意するのだって大変でしょう」
「ったく、グチグチ言いやがって。お前、姫子に肩入れしすぎなんだよ。それなら、なんだ? テメェがこいつと結婚するか? 大和」
「!! ちょっとお父様、そんなこと……!」
などと姫子は父を制するようなことを言ったが、これは単なるパフォーマンスだった。
先ほど「今年中に結婚なんてありえません!」と言ったことを棚に上げて、今は内心、高速でタップダンスを踊っていた。
(奇跡的なアシスト! またとないチャンス!! 望月さんとなら今すぐ結婚したい! 『はい』と言ってください、望月さん……!)
獲物を前にした飢えた狼のように、姫子は舌なめずりをしそうになってハンカチで隠す。
龍吾にふっかけられた望月は、微動だにしない。何かを思案するその顔は、いつにも増してクールで素敵だと姫子は思った。
「……俺がお嬢と結婚したら、大蛇大和になりますよね。ヤマタノオロチみたいでちょっと恥ずかしいんですが」
「お前、冷めたツラして変なこと考えてんじゃねえよ。あとヤマタノオロチはカッコいいだろ、恥ずかしがるな」
(そんなこと気にしてるなんて可愛い!)
姫子の期待した答えではなかったが、可愛いので姫子は満足した。
『大蛇大和』というこの上ない響きを堪能しながら望月の天然に悶えていると、龍吾が姫子の手元へファイルを滑らせた。
「そいつが1人目だ。明日から見合いをどんどん設定していく。いいな」
「! 私はまだお見合いをするなんて一言も……!」
「これは命令だ。今年中に必ず結婚しろ。お前が賛成か反対かなんて関係ねえ。話は以上だ」
「ちょっとお父様!」
姫子の制止も聞かず、龍吾は組員を引き連れて広間を出ていってしまう。
「この……っ、お父様のわからずや! 嫌い! ガラ悪すぎ! 入れ墨まみれで温泉入れないくせに! ヤクザなのに先端恐怖症のくせに!」
「お嬢、お気持ちはわかりますがその辺で」
まだまだ暴言は続けられたが、望月に止められて姫子はしゅんと大人しくなった。
父である龍吾が嫌いというわけではない。恋愛禁止である以外、並大抵の人間よりかなり良い生活をさせてもらっているのは子供ながらにわかっている。
しかし、時折こうして突拍子もないことを言い出すところには困っていた。
今回の件は姫子の人生で1番わけのわからない命令で、当然「はい、そうですか」とはいかない。
「どうして私が急にお見合いなんて……」
「親父には親父なりに何か考えがあるんでしょう。これ以上お嬢が反論しても親父は聞きませんし、とりあえず従順なフリをして隙を狙ってみてください」
龍吾の腹心の部下でありながら、望月は姫子に無理強いせず寄り添ったアドバイスをした。
「気分転換に誕生日ケーキ、食べませんか。お嬢の好きな銀座のチョコレートケーキを用意してますよ」
そう言って薄く微笑んでくれる様は、この上なくかっこいい。どんなアイドルよりも輝いている望月がケーキを用意し、姫子は幾分落ち着いてテーブルについた。
大好きなケーキを前にして「お父様の分も食べてやる!」という気持ちと好きな人の前でホールケーキを貪り食うのははしたないという理性がぶつかって、結局ホールの1/3を上品に食べ、残りを望月に譲渡した。
望月は出来た男なので、姫子が部屋に戻った後「お嬢が親父にと」と言って龍吾にケーキを横流しした。
「うっ……姫子ぉ……! 誕生日おめでとう……!」
ケーキを見て目を潤ませる龍吾を見て、素直になればいいのにと思いながら望月は組長が食べ終わるまで見守っていた。
「ぐっ……それは……そうですけど……」
姫子が言い淀むと、龍吾は勝ち誇ったようにふんぞり返っている。
これは別に勝ち負けの問題ではないのだが、姫子は揚げ足を取られたのが悔しくてまたセリーヌのハンカチを噛んだ。
「25人、ですか……。しかし、それはそれで1つ1つの質が下がりませんか。親父が25人用意するのだって大変でしょう」
「ったく、グチグチ言いやがって。お前、姫子に肩入れしすぎなんだよ。それなら、なんだ? テメェがこいつと結婚するか? 大和」
「!! ちょっとお父様、そんなこと……!」
などと姫子は父を制するようなことを言ったが、これは単なるパフォーマンスだった。
先ほど「今年中に結婚なんてありえません!」と言ったことを棚に上げて、今は内心、高速でタップダンスを踊っていた。
(奇跡的なアシスト! またとないチャンス!! 望月さんとなら今すぐ結婚したい! 『はい』と言ってください、望月さん……!)
獲物を前にした飢えた狼のように、姫子は舌なめずりをしそうになってハンカチで隠す。
龍吾にふっかけられた望月は、微動だにしない。何かを思案するその顔は、いつにも増してクールで素敵だと姫子は思った。
「……俺がお嬢と結婚したら、大蛇大和になりますよね。ヤマタノオロチみたいでちょっと恥ずかしいんですが」
「お前、冷めたツラして変なこと考えてんじゃねえよ。あとヤマタノオロチはカッコいいだろ、恥ずかしがるな」
(そんなこと気にしてるなんて可愛い!)
姫子の期待した答えではなかったが、可愛いので姫子は満足した。
『大蛇大和』というこの上ない響きを堪能しながら望月の天然に悶えていると、龍吾が姫子の手元へファイルを滑らせた。
「そいつが1人目だ。明日から見合いをどんどん設定していく。いいな」
「! 私はまだお見合いをするなんて一言も……!」
「これは命令だ。今年中に必ず結婚しろ。お前が賛成か反対かなんて関係ねえ。話は以上だ」
「ちょっとお父様!」
姫子の制止も聞かず、龍吾は組員を引き連れて広間を出ていってしまう。
「この……っ、お父様のわからずや! 嫌い! ガラ悪すぎ! 入れ墨まみれで温泉入れないくせに! ヤクザなのに先端恐怖症のくせに!」
「お嬢、お気持ちはわかりますがその辺で」
まだまだ暴言は続けられたが、望月に止められて姫子はしゅんと大人しくなった。
父である龍吾が嫌いというわけではない。恋愛禁止である以外、並大抵の人間よりかなり良い生活をさせてもらっているのは子供ながらにわかっている。
しかし、時折こうして突拍子もないことを言い出すところには困っていた。
今回の件は姫子の人生で1番わけのわからない命令で、当然「はい、そうですか」とはいかない。
「どうして私が急にお見合いなんて……」
「親父には親父なりに何か考えがあるんでしょう。これ以上お嬢が反論しても親父は聞きませんし、とりあえず従順なフリをして隙を狙ってみてください」
龍吾の腹心の部下でありながら、望月は姫子に無理強いせず寄り添ったアドバイスをした。
「気分転換に誕生日ケーキ、食べませんか。お嬢の好きな銀座のチョコレートケーキを用意してますよ」
そう言って薄く微笑んでくれる様は、この上なくかっこいい。どんなアイドルよりも輝いている望月がケーキを用意し、姫子は幾分落ち着いてテーブルについた。
大好きなケーキを前にして「お父様の分も食べてやる!」という気持ちと好きな人の前でホールケーキを貪り食うのははしたないという理性がぶつかって、結局ホールの1/3を上品に食べ、残りを望月に譲渡した。
望月は出来た男なので、姫子が部屋に戻った後「お嬢が親父にと」と言って龍吾にケーキを横流しした。
「うっ……姫子ぉ……! 誕生日おめでとう……!」
ケーキを見て目を潤ませる龍吾を見て、素直になればいいのにと思いながら望月は組長が食べ終わるまで見守っていた。
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