ヤクザのお嬢は25人の婚約者に迫られてるけど若頭が好き!

タタミ

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3人目∶ヤクザ息子の百足②

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 お見合いファイルNo.3
 名前:百足尊むかでたける
 年齢:19歳
 身長:180cm
 職業:百足組跡取り

 放課後、姫子は着物に着替えてお見合いファイルを見返したところで、お手伝いさんに呼ばれた。
 望月と共に応接室へ入ると、金髪の百足──お見合い写真より根本が黒い──がこちらをじろりと見た。その後ろには見知らぬガラの悪い男が2人並んでいる。百足組の組員だ。

(百足さんは護衛付きか……)

 向こうも過去の因縁を忘れたわけではないのだろう。
 とはいえ大蛇組の本拠地に赴いてくれている時点で友好的だとは思うが、他の組員に見られたら無駄な喧嘩が始まりそうで少しドキドキしながら椅子に腰掛ける。

「お越し下さりありがとうございます。大蛇姫子と申します」
「……百足尊だ」

 姿勢悪く背もたれにもたれかかり、半ばこちらを睨みながら百足は不機嫌そうに名乗った。写真以上にこれぞヤンキーという雰囲気である。

「19歳とお聞きしました。お見合いで年齢の近い方と会えるとは思わず、嬉しいです」
「……お前、ホントにこれが自由な見合いだと思ってんのか」
「え?」
「どう見ても政略結婚だろ。利用されてんだよ、お前。テメエの一人娘も利用するなんて、大蛇さんはさすが欲深えよな」

 百足がふんと口を歪めて笑うと、後ろの組員2人も笑う。敵対関係ではないが、やはりあまり良く思われていないらしい。

「生憎、親父はお嬢を大切にしてますよ」

 望月が真顔で訂正し、百足勢にピリッとした空気が流れる。
 姫子は怒鳴り合いや殴り合いを見たいわけではないので、コホンと咳払いをした。

「なら、百足さんも政略結婚に利用されかけてるわけですよね。組長の子供という立場も同じですし、私たち似てますね」
「似てねえよ。それにオレみたいな男は、お前みたいなお嬢様とは全然合わねえ」

 眉を寄せて目をそらす様は反抗期のヤンキーだが、姫子をお嬢様扱いした上で自分との結婚はやめておけと暗に言っているような気がした。

「オレが怖いだろ? 百足の跡取りなんて」

 人を殺したことはないだろう百足はそんなに怖くなかったが、姫子は率直な感想を隠して笑顔を向けた。

「全然、話しやすいです」
「はぁ? オレが話しやすい?」
「はい。ホッとします。例えるなら温かいココアのような……」

 ヤクザ慣れした姫子にとって、ヤクザの卵でヤンキー感の強い百足は怖いというよりむしろ親しみやすいほどだった。
 振袖を着た箱入り娘にそんなことを言われるとは思っていなかっただろう百足は、眉の寄り方が困惑に変化した。

「なんなんだ、お前……。オレは百足の次期組長だぞ。しかも大蛇組に昔抗争しかけたことだってある因縁の組だ。最悪だと思うだろ、普通」
「私も似たような立場ですし、ヤクザとはいえ中にはいい人もいると知っていますから。それに抗争も昔の話で今は友好関係にありますよね?」
「……んなもん、いつ壊れるともわかんねえ関係だろ。お嬢様には何にもわかってねえよ。オレの父親がどんなヤツか知ってんのか」
「それは、存じ上げませんけれど……」
「最悪のジジイだ。こっちに意思があるなんて、微塵も思っちゃいねえ。自己中心の極みだ。そんなやつが牛耳ってんだよ、百足は」

 百足は忌々しそうに顔を歪めて自分の父親を罵る。後ろの組員も気まずそうにするだけで百足を止めはしない。
 ここまで言う百足自身、父親の命令に逆らえずにお見合いに来ているのだから、百足組長は相当な支配者なのだろう。

「ウチはオレ見て甘いこと言ってるような、世間知らずの女が能天気に関わっていられる組織じゃねえ。オレは結婚なんてしたくねえし、この見合いは破談にしろ」

 言いたいことを言い切ったのか、百足は出されたお茶を飲み干してガシャンと荒々しくテーブルに置いた。
 確かに百足組に嫁ぐなんてことになったら、多くの困難があるだろう。姫子もお見合いをしたくてしているわけではない。破談にしていいという提案は正直ありがたいものだ。
 百足本人は口調が荒く態度が悪いだけで、人間性まで悪いとは思えなかったが、

「……わかりました。そこまで仰るなら──」

 百足の提案に乗って置こうと答えかけた時。

『にゃあん……』
「にゃあん?」

 部屋のどこかから猫の鳴き声がして、姫子は首を傾げた。
 すぐに望月が姫子と百足に頭を下げる。

「すみません、野良猫が入っちまってるみたいです。実は昨日も入り込んでて。すぐ見つけて追い出します」
「ああ、最近よく庭に来てる子ですかね。白黒の──」

 姫子が望月を見上げると、視線の端に百足が駆け込んだ。何事だと驚くより先に、絨毯に這いつくばり飾り棚の下に腕を差し込んだ百足は、ゆっくり立ち上がる。

「追い出すなんて言うな。可哀想だろうが」

 言いながら望月を睨む百足の手には、小さめの白黒の猫が収まっていた。

「よ、よくそこにいるってわかりましたね」
「尻尾が見えた」

 猫の頭を撫でつつ、百足が席に戻る。
 視線は姫子に戻ったが、両手は猫をあやし続けていて、とても手慣れていた。

「猫、お好きなんですか?」
「別に。好きでも嫌いでもない」

 猫を見つけて駆け寄って他人の家の床に這いつくばるのは猫が好きじゃなきゃやってられないと思うが、百足は不機嫌そうに答えた。その間も手は猫を撫で、猫も気持ちよさそうに目を細めている。

(やっぱりいい人そうに見える……)

 ヤンキーと猫というのは鉄板の組み合わせだ。
 刺々しいヤンキーが猫を可愛がるというのはギャップとしてとても完成度が高い。このギャップまで計算ならとんでもない策士だが、百足にそこまで裏表があるようには見えなかった。

「この猫、飼う気あるのか」
「いえ、残念ながら。可愛いですが、うちは父がペットを禁じていて……」

 龍吾はペットを嫌う。理由は死んだら悲しいからだ。
 昔はシェパードを飼っていたのだが、姫子の母・麗子が亡くなったのと同時期に後を追うように亡くなってしまい、それが龍吾の心に追い打ちをかけて以来、大蛇家にペットはいない。

「チッ、しょうがねえ。おい、うちに連れてくぞ」
「坊っちゃん、これで6匹目ですよ。さすがに親父も何と言うか──」
「あ? じゃあこいつを見殺しにしろってのか? 野良は3年で死ぬんだぞ」

 百足が物凄い勢いで凄む。
 今まではヤンキーという印象だったが、この凄みは百足組跡取りの名に恥じぬものだった。苦言を呈した組員は「いえ」と短く頭を下げて引き下がる。

「ということは、今おうちに5匹猫ちゃんがいるんですか?」
「……まぁな」
「写真とかあったら見たいです! 猫ちゃん、私も好きで」
「…………しょうがねえな」

 百足はやれやれという雰囲気でスマホを取り出すと、1枚の写真を見せてくれた。
 そこには5匹の猫に囲まれている百足が写っている。猫と並ぶ百足も猫顔だなと姫子は思った。

「黒いのがスミ、茶色がヒノキ、三毛がモミジで白いやつはトウフ、毛が長えのはモップだ」
「わ~みんな可愛い! 猫ちゃんって膝にも乗ってくれるんですね、いいな~」
「……他にもあるから見せてやるよ」

 そう言った百足は猫たちが戯れる癒やし動画を姫子に見せた。
 その後は飼っている猫の話を不機嫌を装いつつ色々と話してくれた。
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