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夕食
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黒須の影が消えた途端、望月が姫子に向き合う。
「さて、お嬢。ここは寒いです。早く食堂に行きましょう。飯食うんですよね?」
(よかったら望月さんも一緒に……なんて、迷惑よね。お忙しいだろうし……。でもご飯食べてる姿、見たい……)
望月に促されて食堂に足を向けた姫子は、豪快に食事をする望月を妄想しながら「はい」と答えた。
「俺もご一緒していいですか」
「ああ、一緒に──え? すみません、何がですか?」
「飯です。ダメですかね。親父に許可はもらってます。お嬢に話したいこともあって」
「もちろん、よろしくてですわ! いくらでも好きなもんを食ってください!」
「ありがとうございます」
口調が変になっている姫子を気にする様子もなく、望月は頭を下げて共に食堂へと入る。
姫子は内心でタップダンスをしながら、お淑やかに椅子に座った。
「見合いする男もあと10人となったわけですが、次のプランはこちらです」
手際のいいお手伝いさんが2人分の夕食をものの数分で給仕してくれて(好きな人とご飯ですわ~!)と意気揚々とフォークを持った姫子は、望月が出したファイルを見て冷水をぶっかけられたように口角が下がった。
ファイルの表紙には『姫子のお見合い♡~遊園地デート編~』と少女漫画のフォントで印刷されている。
「今度は遊園地でお見合い、ですか……」
「ホテルでの集団面接みたいな見合いより、デートっぽくていいじゃないですか。親父が厳しいから遊園地なんて全然行ってないでしょう? 楽しめますよ」
(望月さんと遊園地デートができるなら、まったく文句はありませんけど……)
もちろん望月も同行はするのだが、お見合い相手を入れて3人で遊園地を回るのと望月と2人で遊園地を楽しむのとでは訳が違う。
「開催は次の日曜。今回は5人と会ってもらいます」
「少なめですね。もう一気に10人会うのかと思ってました」
「親父も本当はそうしたかったと思うんですが、まだ手配しきれてなくて。すみません」
望月に謝罪されてしまって、見合い話にテンションの下がっていた姫子は慌てて愛想笑いを浮かべた。
「いえ、まだお見合いが終わらないことに安心しました。夫を選ぶ決心はなかなかつかなくて」
「……そうですね。急ぐ必要はありません」
少しだけ微笑んで、望月はファイルを姫子に手渡す。
望月がいる手前、中身を見るふりをしたが、目が滑って内容は入ってこない。
「新しい男は5人ですが、今までの連中もちょこちょこ園内に潜んでるらしいです」
「え!? なんですか、そのサプライズは」
「親父の遊び心で。事前に予定合わせられたやつだけなんで、そんなに人数はいませんけどね。遭遇したら挨拶くらいしてやってください」
「はぁ、わかりました……」
誰が出てくるのかと今まで会った15人の顔が頭の中を回っていく。
改めて夫候補が多すぎる。そしてそこに望月はいない。
「見合いの話はここまでです。好きでもない野郎のことを考えてたら食欲も失せますし、楽しく飯食いましょう。最近、学校はどうですか。嫌な奴がいたらぶちのめしますよ」
「ふふ、ぶちのめさなくて大丈夫です。楽しく通っています。勉強はぼちぼちですけど、さすがに留年はしないと思いますし……。友人たちは大学生になったらバイトをしたいとか、早く恋人を作りたいとか話していて──」
言いながら声が小さくなった。
そんな友人たちの話を、姫子は蚊帳の外で聞いている。大学生になることはないし、恋人ができることもない人生だから。
「……すみません、結局見合いに繋がる話になってしまいましたね」
望月は肉を切っていたナイフを皿に置いた。また望月に謝罪させてしまって、姫子は申し訳なくなる。
空気を変えるために手を付けていなかった肉料理にフォークを突き刺した。
「いいんです。望月さんは何も悪くありません。それよりお肉、たくさん食べてください。まだ厨房に余りもあるみたいですよ」
「ありがとうございます。これ、うまいですけど何の肉ですか。牛?」
「これは牛じゃなくて鴨ですね。この前食べたジビエが美味しくて、用意してもらったんです」
「カモ……。川とかにいるやつ捕ってきたんですか。お手伝いさんたち結構荒々しいですね」
お手伝いさんがその辺の鴨を狩猟してきたわけではないが、不思議そうに鴨を食べる望月が可愛かったので姫子は勘違いを指摘しないまま食事を続けた。
望月は結局3人前の鴨を食べきって、「今度俺も捕ってみます」と野蛮なことを言っていた。
「さて、お嬢。ここは寒いです。早く食堂に行きましょう。飯食うんですよね?」
(よかったら望月さんも一緒に……なんて、迷惑よね。お忙しいだろうし……。でもご飯食べてる姿、見たい……)
望月に促されて食堂に足を向けた姫子は、豪快に食事をする望月を妄想しながら「はい」と答えた。
「俺もご一緒していいですか」
「ああ、一緒に──え? すみません、何がですか?」
「飯です。ダメですかね。親父に許可はもらってます。お嬢に話したいこともあって」
「もちろん、よろしくてですわ! いくらでも好きなもんを食ってください!」
「ありがとうございます」
口調が変になっている姫子を気にする様子もなく、望月は頭を下げて共に食堂へと入る。
姫子は内心でタップダンスをしながら、お淑やかに椅子に座った。
「見合いする男もあと10人となったわけですが、次のプランはこちらです」
手際のいいお手伝いさんが2人分の夕食をものの数分で給仕してくれて(好きな人とご飯ですわ~!)と意気揚々とフォークを持った姫子は、望月が出したファイルを見て冷水をぶっかけられたように口角が下がった。
ファイルの表紙には『姫子のお見合い♡~遊園地デート編~』と少女漫画のフォントで印刷されている。
「今度は遊園地でお見合い、ですか……」
「ホテルでの集団面接みたいな見合いより、デートっぽくていいじゃないですか。親父が厳しいから遊園地なんて全然行ってないでしょう? 楽しめますよ」
(望月さんと遊園地デートができるなら、まったく文句はありませんけど……)
もちろん望月も同行はするのだが、お見合い相手を入れて3人で遊園地を回るのと望月と2人で遊園地を楽しむのとでは訳が違う。
「開催は次の日曜。今回は5人と会ってもらいます」
「少なめですね。もう一気に10人会うのかと思ってました」
「親父も本当はそうしたかったと思うんですが、まだ手配しきれてなくて。すみません」
望月に謝罪されてしまって、見合い話にテンションの下がっていた姫子は慌てて愛想笑いを浮かべた。
「いえ、まだお見合いが終わらないことに安心しました。夫を選ぶ決心はなかなかつかなくて」
「……そうですね。急ぐ必要はありません」
少しだけ微笑んで、望月はファイルを姫子に手渡す。
望月がいる手前、中身を見るふりをしたが、目が滑って内容は入ってこない。
「新しい男は5人ですが、今までの連中もちょこちょこ園内に潜んでるらしいです」
「え!? なんですか、そのサプライズは」
「親父の遊び心で。事前に予定合わせられたやつだけなんで、そんなに人数はいませんけどね。遭遇したら挨拶くらいしてやってください」
「はぁ、わかりました……」
誰が出てくるのかと今まで会った15人の顔が頭の中を回っていく。
改めて夫候補が多すぎる。そしてそこに望月はいない。
「見合いの話はここまでです。好きでもない野郎のことを考えてたら食欲も失せますし、楽しく飯食いましょう。最近、学校はどうですか。嫌な奴がいたらぶちのめしますよ」
「ふふ、ぶちのめさなくて大丈夫です。楽しく通っています。勉強はぼちぼちですけど、さすがに留年はしないと思いますし……。友人たちは大学生になったらバイトをしたいとか、早く恋人を作りたいとか話していて──」
言いながら声が小さくなった。
そんな友人たちの話を、姫子は蚊帳の外で聞いている。大学生になることはないし、恋人ができることもない人生だから。
「……すみません、結局見合いに繋がる話になってしまいましたね」
望月は肉を切っていたナイフを皿に置いた。また望月に謝罪させてしまって、姫子は申し訳なくなる。
空気を変えるために手を付けていなかった肉料理にフォークを突き刺した。
「いいんです。望月さんは何も悪くありません。それよりお肉、たくさん食べてください。まだ厨房に余りもあるみたいですよ」
「ありがとうございます。これ、うまいですけど何の肉ですか。牛?」
「これは牛じゃなくて鴨ですね。この前食べたジビエが美味しくて、用意してもらったんです」
「カモ……。川とかにいるやつ捕ってきたんですか。お手伝いさんたち結構荒々しいですね」
お手伝いさんがその辺の鴨を狩猟してきたわけではないが、不思議そうに鴨を食べる望月が可愛かったので姫子は勘違いを指摘しないまま食事を続けた。
望月は結局3人前の鴨を食べきって、「今度俺も捕ってみます」と野蛮なことを言っていた。
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