ユキくんと私

しゃーぺん

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絡まる糸

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樹の鎖を断ち切り、湊は自由であった。主観的にみて、ではあるが。ただ、隣に誰もいない寂しさは恋が楽しい年齢には少々辛いものだった。あれほどうんざりしていたのにまた“彼氏”が欲しくなっていた。一方で幸仁は湊を仄かに想いながらも新しい出会いと恋人を求めていた。そして思いついたように湊に女の子の紹介を求めた。湊の心中は全く穏やかではなく、掻き乱れて混沌となっていた。今後、自分の人生を考えた時にこれから大学生となり新しい出会いがあってそして恋人もできるだろう。その時に幸仁と交際していたら湊はまた歪んだ恋愛をしてしまう。けれど自分の友人と今少しでも好きだと思っている異性が付き合って色々な思い出を紡いでいるのを応援できるメンタルではなかった。戯けて彼に伝える。自分には紹介できる人はいないと。そもそも、友達に異性を紹介してもらうとして、その人が友達の元彼であった場合なんとなく気まずくて言い難い気分になるのは想像に容易かった。もしも、今湊以外の紹介で幸仁に恋人ができたら湊は複雑にはなるであろうがきっと応援できるだろう。少しずつ絡まった糸くずはほつれてきた。
幸仁にとって、少し厭らしい話であるが、性欲というものはしばしば抑えがたいものでもあった。年頃の男だから致し方ないとも言える。しかし、彼は湊以外の女を知らなかった。湊以外の元カノは触れる前に別れた。キスくらいはしたが。故に頼る女は湊だけ、湊は求められることが快感に近いものであり喜んで受け入れた。しかし、二人は特に恋人の関係に発展することはなく、幸仁は認めたくなかったが結果的に二人は身体だけの関係になっていた。繋がりを絶たれるのだけは互いに避けていた。寂しさで二人は繋がっていた、いつでもプツリと切れそうなぐちゃぐちゃの糸で。
幸仁は少し嫉妬深い人間であった。湊が彼女ではないとわかっていても他の男と話していると不機嫌になった。湊はつけいる隙が多めで男は寄ってきやすかった。そして親の顔も広く色々な繋がりを持っていた。幸仁より友人も多かったため紹介してもらえる確率も高かった。ただ、湊は過去に紹介してもらった男性と上手くいった試しがなかった。それを知っててもなお幸仁は不安になるのであった。そして彼は口にする。彼女欲しい、紹介して、と。ふわふわとしたぐちゃぐちゃの関係をいつでも終わらせられることを主張するために。その主導権は自分にあると錯覚するために。無意識のうちに示していた。湊がそのことに気づいているのか気づいていないのか定かではないが何かしらの圧を感じているのは確かだった。湊はセフレでよかった。今必要なのは彼の愛ではなく寂しさを埋める温もりで、少しばかり欲求が満たさられればよかった。幸仁も同じであると思いたかった。幸仁の束縛は彼女にとって少し重たく煩わしかった。しかし樹には優に劣っていた。
糸をゆっくりと湊がほどき、幸仁はまた固結びする。幸仁がほつれを見つけ、湊が糸を引っ張る。いつまでたっても真っ直ぐな糸にはなりそうになかった。
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