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三週目~四週目
38話 そんなの私が聞きたいです
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地獄の平日がやってきた。今日もアポ、アポ、アポ、アポ、アポ祭り。毎度同じ保険の説明をしているうちに、自分が何を話しているのか分からなくなってきた。連日のアポで、今話してるお客さんの名前すら覚えてない。この人誰だ。ちらちらと見積書に打ってあるお客さんの苗字を盗み見ながら、さも覚えますよ、という雰囲気で喋るしかない。
「…ということで、やはり建物には2500万円は設定しておいた方がいいと思います」
「そうだなあ。じゃあそうしようかねえ」
「補償内容は…川も近いですし、ハザードマップを見る限り危険区域なので、水災の補償もつけておいたほうがいいかなーと思いますが、いかがですか?」
「うーん…。でも水災つけたら高くなるしなあ…」
「そうなんですよねえ…」
「年金生活だしなあ…」
今私の目の前でうんうん唸っている男性のお客様は、73歳のおじいさんの臼井さん。30年満期を迎えた家の保険…火災保険の提案をしているんだけど、昔に比べてグッと上がっている保険料に尻込みしてしまっている。まあ、びっくりするくらい高くなってるし、仕方ない。
「ねえちゃん。どうしたらいいと思う…?」
「うーん。もちろん補償が良いに越したことないです。ただ、補償と保険料は比例します。補償の厚い保険に入ろうと思ったら、すっごく高い保険料になります」
「そりゃそうだわなあ…」
「ですが、そうなると日々の生活に負担がかかってしまって元も子もないです。なので、無理のない範囲で、最低限必要な補償をつけるのが、臼井さんにとっての”良い保険”だと思います」
「そうだな。そうしてくれるとありがたいなあ」
「では、その方向でプランを決めていきましょう。まず最低限必要な補償なのですが、水災は入れておくべきだと思います。その代わり、保険金額を少し減らして保険料を抑える、というのはいかがでしょうか」
「ふむ…。じゃあ、一度それで計算してもらおうかねえ」
「かしこまりました」
初回アポが一番時間がかかる。まず火災保険自体の説明から入り、見積もりをお客さまのニーズに合わせて作り直していく。だいたいは「保険料が高い」と言われるけれど、補償を削りすぎたら保険を入る意味がない。意味のない保険を入るくらいなら、入らない方がマシだというのが私の持論。だから私の仕事はほぼほぼが「保険が必要なものだとお客さま自身に思ってもらうこと」になる。
臼井さまのプランを決めるのに1時間ほどかかった。でも、最終的に臼井さまも私も納得できるプランに仕上げることができた。こういうときはなかなか気持ちがいい。
「よし、じゃあそれでいこうかね」
「はい!とっても良いプランになりました!うわぁ~惚れ惚れする~!!」
「あはは。そんな良いのができたかい。わしもこのくらいの保険料ならなんとか払えそうだ」
「よかったです!どうしますか?今すぐ申し込み手続きに進むこともできますし、もしくは日を改めて伺うこともできますが」
「今やっとこうかあ」
「かしこまりました!」
やった!1件成約だ!申し込み手続きは10分もあればできるので、サクっと終わらせて証券発送時期や振替日の案内をした。これで仕事のお話はおしまい。
それを察してか、奥さまがコーヒーを出してくれた。げ…。コーヒー飲めないんだよね…。
「コーヒー飲める?」
「あっ!はい!大好きですー!」
はい出た。言っちゃうよね、これ。条件反射できらいなものを大好きだって言ってしまうんですよ、私。
コーヒーを飲んでいる私を、臼井さまがじっと見ている。私と目が合うと彼はふふっと笑った。
「ねえちゃん、今いくつだ?」
「えっと…。いつもなら24歳ってサバ読むんですが…実は29歳です…」
「はっは!結婚はしてるんかい?」
はいこれも出た。幾度となく聞かれてきたこの質問。この返答に関してはもうプロだよ任せて。
「結婚はしていないんです~。今は独身貴族を楽しんでます!」
「ほーそうなのかあ。ねえちゃんならすぐ結婚できそうなのになあ。なんでしないんだ?」
「どうしてでしょうね~。また、良い人いたら紹介してください!」
「あっはっは。分かったよ~」
なんで結婚しないのか?そんなの私が聞きたいです。たぶん努力が足りないのかも。この年になると結婚する努力をしないと結婚できないと思うし。結婚できたことないので分からないですが。
「じゃあ今は親と暮らしてるのかい?」
「いいえ。一人暮らししてます。と言っても実家から車で30分くらいのところでですが」
「そうかあ。親は大事にしなきゃいけないよ、ねえちゃん」
「はい、そうですね」
あ、なんかお客さんのスイッチが入ったな、と察した私はちらりと腕時計を見た。あと三十分くらいなら話に付き合える。…昼ごはんは抜きだけど。
「…ということで、やはり建物には2500万円は設定しておいた方がいいと思います」
「そうだなあ。じゃあそうしようかねえ」
「補償内容は…川も近いですし、ハザードマップを見る限り危険区域なので、水災の補償もつけておいたほうがいいかなーと思いますが、いかがですか?」
「うーん…。でも水災つけたら高くなるしなあ…」
「そうなんですよねえ…」
「年金生活だしなあ…」
今私の目の前でうんうん唸っている男性のお客様は、73歳のおじいさんの臼井さん。30年満期を迎えた家の保険…火災保険の提案をしているんだけど、昔に比べてグッと上がっている保険料に尻込みしてしまっている。まあ、びっくりするくらい高くなってるし、仕方ない。
「ねえちゃん。どうしたらいいと思う…?」
「うーん。もちろん補償が良いに越したことないです。ただ、補償と保険料は比例します。補償の厚い保険に入ろうと思ったら、すっごく高い保険料になります」
「そりゃそうだわなあ…」
「ですが、そうなると日々の生活に負担がかかってしまって元も子もないです。なので、無理のない範囲で、最低限必要な補償をつけるのが、臼井さんにとっての”良い保険”だと思います」
「そうだな。そうしてくれるとありがたいなあ」
「では、その方向でプランを決めていきましょう。まず最低限必要な補償なのですが、水災は入れておくべきだと思います。その代わり、保険金額を少し減らして保険料を抑える、というのはいかがでしょうか」
「ふむ…。じゃあ、一度それで計算してもらおうかねえ」
「かしこまりました」
初回アポが一番時間がかかる。まず火災保険自体の説明から入り、見積もりをお客さまのニーズに合わせて作り直していく。だいたいは「保険料が高い」と言われるけれど、補償を削りすぎたら保険を入る意味がない。意味のない保険を入るくらいなら、入らない方がマシだというのが私の持論。だから私の仕事はほぼほぼが「保険が必要なものだとお客さま自身に思ってもらうこと」になる。
臼井さまのプランを決めるのに1時間ほどかかった。でも、最終的に臼井さまも私も納得できるプランに仕上げることができた。こういうときはなかなか気持ちがいい。
「よし、じゃあそれでいこうかね」
「はい!とっても良いプランになりました!うわぁ~惚れ惚れする~!!」
「あはは。そんな良いのができたかい。わしもこのくらいの保険料ならなんとか払えそうだ」
「よかったです!どうしますか?今すぐ申し込み手続きに進むこともできますし、もしくは日を改めて伺うこともできますが」
「今やっとこうかあ」
「かしこまりました!」
やった!1件成約だ!申し込み手続きは10分もあればできるので、サクっと終わらせて証券発送時期や振替日の案内をした。これで仕事のお話はおしまい。
それを察してか、奥さまがコーヒーを出してくれた。げ…。コーヒー飲めないんだよね…。
「コーヒー飲める?」
「あっ!はい!大好きですー!」
はい出た。言っちゃうよね、これ。条件反射できらいなものを大好きだって言ってしまうんですよ、私。
コーヒーを飲んでいる私を、臼井さまがじっと見ている。私と目が合うと彼はふふっと笑った。
「ねえちゃん、今いくつだ?」
「えっと…。いつもなら24歳ってサバ読むんですが…実は29歳です…」
「はっは!結婚はしてるんかい?」
はいこれも出た。幾度となく聞かれてきたこの質問。この返答に関してはもうプロだよ任せて。
「結婚はしていないんです~。今は独身貴族を楽しんでます!」
「ほーそうなのかあ。ねえちゃんならすぐ結婚できそうなのになあ。なんでしないんだ?」
「どうしてでしょうね~。また、良い人いたら紹介してください!」
「あっはっは。分かったよ~」
なんで結婚しないのか?そんなの私が聞きたいです。たぶん努力が足りないのかも。この年になると結婚する努力をしないと結婚できないと思うし。結婚できたことないので分からないですが。
「じゃあ今は親と暮らしてるのかい?」
「いいえ。一人暮らししてます。と言っても実家から車で30分くらいのところでですが」
「そうかあ。親は大事にしなきゃいけないよ、ねえちゃん」
「はい、そうですね」
あ、なんかお客さんのスイッチが入ったな、と察した私はちらりと腕時計を見た。あと三十分くらいなら話に付き合える。…昼ごはんは抜きだけど。
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