【完結】花が結んだあやかしとの縁

mazecco

文字の大きさ
54 / 71
大切なモノ

52話 手形

しおりを挟む
数日後、中島さまから電話があった。電話はご主人からで、保険の申し込み手続きをしたいとのことだ。私は切電してからガッツポーズをした。

「よっしゃ!」

「お、申込希望の電話?」

コピー機の前で立っていた北窪さんが話しかけた。私は親指を立ててニカっと笑う。

「はい!やったー!」

「おめでとう。今夜はお寿司だ」

「ですね!」

二人でおどけながら、一件成約を喜んだ。早速手続き書類を揃えて鞄の中へ入れる。中島さまのアポは金曜日。案件配信から一週間以内に成約できるなんてはじめてだ。アポなし訪問、当たれば早いな…。いやでもやっぱり嫌いだけどね!

◇◇◇

「おかえりなさい、花雫」

「あ!花雫おかえりー!!」

「ただいまあああ!!」

仕事から帰り、リビングで川柳を書いているあやかしたちに飛びついた。この花の香りを嗅ぐだけでしあわせな気分になれるよね。癒されるわー…。

「早速お風呂入ろうね花雫!」

「いやぁぁ…」

1年経っても夜風呂はめんどくさい。綾目がいなかったら絶対に入ってない。

「綾目ぇ…。頭洗ってぇ…」

「だめ!昨日洗ってあげたばっかりでしょ!甘えないの!」

「うぅぅ…。じゃあお風呂入ってる間話し相手になって…」

「それだったらいいよ」

「ありがとう…」

お風呂につかりながら、今日一日綾目たちがどんなふうに過ごしていたかを聞いた。今日は蓮華と蕣が遊びに来たようだ。

綾目を溺愛している私は、蓮華と蕣に彼をあまりいじめないようにお願いした。貢物として大量の飴玉を渡すと、彼女たちはコクコク頷いた。それからは結構仲良くやってるみたいだ。よかった。

今日も4人で楽しく過ごしてたみたい。といっても花を眺めながらボーっとしたり、各々が好きなことをして過ごすだけみたいだけど。彼らにとってそれが一番心地いい過ごし方なのだろう。

お風呂からあがると、薄雪がグラスにビールを注いでくれた。乾杯をしてまったりと談笑する。一年間もほとんど毎日晩酌してるのに話が尽きることがない。私が仕事の愚痴をこぼすだけで何時間も話せるし、薄雪の何千年にも渡る思い出話をじっくり聞くだけであっという間に夜が更ける。

「さて花雫。そろそろ眠らなければ」

「ええ…。もうそんな時間…?はぁ…仕事行きたくない…」

「もう仕事のことを考えているのですか?眠れば仕事のことを忘れられます」

薄雪が布団をぺらりとめくる。私と綾目がその中へ潜り込み、せまい布団の中でぴったりくっついて眠った。薄雪と綾目はやっぱり不思議で、夏はひんやり冷たいし、冬はふんわりあたたかい。彼らがいたらひんやり布団も電気毛布ない。とても心地がいい。

◇◇◇

「綾目、起きているかい」

「はい」

夜中2時。花雫が夢を見ているときに、薄雪が小声で綾目を呼び掛けた。綾目も小さく返事をする。

「また、来ているね」

「…はい」

「これで二度目だ。偶然じゃないようだけど…家には入ってこないのか」

「薄雪さまがいらっしゃるからでしょうか。森の花のおかげでこの部屋は清らかさを保っていますし」

「だが…アレは私に怒りを覚えているようだ」

薄雪が和室の窓に目を向ける。そこには青白い手が伸び、窓にガリガリと爪を立てていた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

婚約者が聖女を選ぶことくらい分かっていたので、先に婚約破棄します。

黒蜜きな粉
恋愛
魔王討伐を終え、王都に凱旋した英雄たち。 その中心には、異世界から来た聖女と、彼女に寄り添う王太子の姿があった。 王太子の婚約者として壇上に立ちながらも、私は自分が選ばれない側だと理解していた。 だから、泣かない。縋らない。 私は自分から婚約破棄を願い出る。 選ばれなかった人生を終わらせるために。 そして、私自身の人生を始めるために。 短いお話です。 ※第19回恋愛小説大賞にエントリーしております。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

白苑後宮の薬膳女官

絹乃
キャラ文芸
白苑(はくえん)後宮には、先代の薬膳女官が侍女に毒を盛ったという疑惑が今も残っていた。先代は瑞雪(ルイシュエ)の叔母である。叔母の濡れ衣を晴らすため、瑞雪は偽名を使い新たな薬膳女官として働いていた。 ある日、幼帝は瑞雪に勅命を下した。「病弱な皇后候補の少女を薬膳で救え」と。瑞雪の相棒となるのは、幼帝の護衛である寡黙な武官、星宇(シンユィ)。だが、元気を取り戻しはじめた少女が毒に倒れる。再び薬膳女官への疑いが向けられる中、瑞雪は星宇の揺るぎない信頼を支えに、後宮に渦巻く陰謀へ踏み込んでいく。 薬膳と毒が導く真相、叔母にかけられた冤罪の影。 静かに心を近づける薬膳女官と武官が紡ぐ、後宮ミステリー。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...