【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco

文字の大きさ
153 / 718
淫魔編:1年ぶりの町巡り

【173話】クロネたちとの再会(ルアン)

しおりを挟む
エドガから買い取った絵を郵便屋に預けてから、アーサーとモニカは再びカフェに行った。双子に気付いたマスターはニコニコしながらカフェの奥を指さした。見慣れた数人の背中に二人は駆け寄り飛びついた。

「わぁ!」

「クロネ!!」

「ヴァジー!!」

「その声、まさかアーサーとモニカか?!」

「「正解!!」」

カフェにいたのはクロネ、ヴァジー、リュノ、ヴィサロ、そしてもう一人知らない青年だった。クロネはアーサーとモニカをハグしてから彼を紹介した。

「シスルだ。以前君たちに洪水の絵を贈ったよね。その時に一緒に絵を描きに行ったのが彼だよ」

「はじめましてアーサー、モニカ。シスルだよ。君たちのことはクロネからよく聞かされている。なんでも強い冒険者な上に素敵な絵を描くとか」

「素敵な絵なんて、そんなっ」

モニカは照れながら両手を振った。絵を描くことが好きなモニカにとって、画家にそう言ってもらえることはとても嬉しかったのだろう。クロネはニコニコ笑いながらモニカの頭を撫でた。

「1年前に君たちにもらった絵、素晴らしかったよ。俺の家に飾ってある」

「わあ、嬉しいなあ!!」

「アーサー、モニカ。まあ座りなさい。何を食べたい?」

ヴィサロが空いている椅子をふたつ引きながら双子に声をかけた。アーサーとモニカはそこに座って「おにく!!」「チーズ!!」と元気に答える。マスターは「はいよっ」と頷いて注文を受け取った。料理が届くまで双子は画家たちとお喋りを楽しんだ。

シスルと呼ばれた青年は、おっとりしていて口調ものんびりしていた。クロネ曰くとんでもないマイペースで、一緒に絵を描きにでかけても少し目を離しただけでいつの間にか姿を消してしまうらしい。その時は決まって綺麗な女性に声をかけてはフラれているそうだ。それでもシスルは気にせず、なにもなかったかのようにクロネのもとへ戻り絵を描き始める。

「へえ!シスルはどんな絵を描くの?」

「好きなシュダイとかある?!」

「わ!みんなの好きなシュダイ聞いてみたいなあ!!」

早速エドガに教わった言葉を使ってみた。画家たちは「好きな主題か…」と口に手を当てて考えた。シスルはにっこり笑って即答する。

「空だよ」

「空?わ、素敵」

「空というか雲だな、シスルが好きなのは」

「雲…!」

「君たちが何気なく目にしてる雲、毎日、毎時間変わるんだ。僕はそんな雲を一つ残らず描きたいなあ」

「クロネはぁ?」

「俺は光だな」

「光?!光って描けるの?」

「もちろんかけるさ。この世界には光が溢れてるんだから。特に水面が好きだな」

「そう言われてみたらクロネの絵ってきらきらしてるもんね!」

「さすがモニカだな。前から思ってたが君は目がいいね」

「ううん。目が良いのはアーサーよ」

「いや、アーサーよりモニカのほうが目が良いな。目っていうのは、絵を見る目の事だ」

「アーサーもそこらへんの大人に比べたらずっと目がいいぞ」

「えへへ」

褒められて双子は嬉しそうにニコニコした。続けてリュノが好きな主題について話す。

「俺は女性を描くのが好きだ。少女もレディも大好きさ。特にふくよかな裸婦を描くのが好きだな。女性の乳房、あれ以上に芸術的なものはない乳房というのは…」

「ストーップ!おいリュノ落ち着けよお前が裸婦を好きなのは分かっているが、こんないたいけな少年少女の前で乳房について熱弁するんじゃない!」

「なぜだ?この子たちならきっと乳房の素晴らしさを分かってくれると思うんだが」

「やめておけ。ほらアーサーの顔を見ろ真っ赤になっているじゃないか!」

「ん?」

リュノがアーサーに目をやると、うつむいてもじもじと気まずそうにしている。乳房についての魅力を語るには、アーサーは少し早かったようだ。そんな兄を小突きながらモニカがにやにやした。

「アーサー?リュノはゲイジュツの話をしてるのよ?」

「わ、分かってるよぉ!」

「さて、次は僕かな。僕も人物画を描くのが好きだね。リュノと違って僕は男性をモデルにすることもよくあるな」

ヴァジーがそう言うと、隣に座っているクロネが彼の肩に腕を回しニッと笑った。

「ヴァジーは驚くほどの才能を持ってるんだ。あらゆる条件を満たした画家さ。だからこそ素晴らしいものをたくさん生み出さなきゃ、なあ?」

「クロネ。そんなおだてたって今月の家賃は払ってやらないよ」

「ははっ。それは残念」

クロネはおどけながら肩をすくめた。冗談っぽく聞こえるが、クロネは本気で先ほどの言葉を言ったのだとなんとなくアーサーには分かった。次にモニカがヴィサロに尋ねる。

「ヴィサロさんは何を描くのが好きなの?」

「わしか。わしは田園風景を描くのが好きだよ。描いていて落ち着くしね」

「で?モニカとアーサーは何を主題に描くのが好きなんだい?」

画家が自分の主題について話し終わったあと、ヴァジーが双子に聞いた。アーサーは「なんだろう…?」となかなか答えられなかったが、モニカがすぐさま即答した。

「私はね、アーサーを描くのがすき!」

「ああ、確かにこの前もらった絵はアーサーだったな。アーサーが屋台で飲み物を頼んでいるところ」

「そうなの!他にも描きたい絵がたくさんあるの!」

「いいね。完成したらまた送ってくれるかい?」

「もちろん!」

主題の話で盛り上がっている間に料理が次々とテーブルに並べられる。すべての注文が届いたので、主題の話はおしまいにして全員で乾杯した。アーサーはむしゃむしゃ肉を頬張りながら画家たちに話しかける。

「シュダイの話に夢中になっちゃって聞くの忘れてたけど、みんなあれから元気だった?!」

「ああ。元気さ。相変わらず毎日絵を描いてるよ」

「相変わらずこいつらは金がなくて俺の使い古しの絵具ばかり使ってる」

ヴァジーが冗談交じりにそう言うと、他の画家がハハハと笑った。

「俺たちの絵はなかなか売れない!稼ぎなんてないのに、最近増税されて困っている!でも俺たちは気にしないさ。だってヴァジーとカユボティがいるからな」

「おいおい。僕とカユボティは確かに資産家だが、それに頼りすぎるんじゃないよクロネ」

「カユボティ?」

はじめて聞く名前に双子は首を傾げた。彼らにはまだ仲の良い画家が何人かいるそうだ。その中の一人がカユボティ。画家であり資産家でもあるので、貧乏画家のクロネやリュノのパトロンらしい。絵を買ったり生活費を渡して彼らの画家としての人生を支えている。

「僕もカユボティも、クロネやリュノの才能はほっておけなかった。だから彼らに資金を渡してるんだがね。さすがにその金でメイドを雇ったときは怒ったよ」

ヴァジーがじろっとクロネを見た。クロネは「は、ははは。その話はもういいだろ…?な?」と珍しく冷や汗をかいている。

「君は金を持ったら全てすぐに使おうとする。だから金が溜まらないんだよ」

「ははは…」

「あっ、そうだクロネ。僕たちにもまた絵を買わせてよ。ヴァジーもヴィサロもリュノもシスレももしよければ」

「なに?また買う気なのか?」

「うん!実はね…」

アーサーはトロワに美術館を建てたいので展示する作品を集めていることを説明した。自分たちの美術館が建つかもしれないと聞いて、彼らは興奮して顔を真っ赤にした。

「な、なんだって…!!俺たちの絵を展示する美術館…!!」

「おいおい、君たちは一体何者なんだい。あのキャネモから土地を預かるなんて…。突拍子もないことをするなあ」

「あっ、このことは誰にも言わないでねっ。僕が男だってこと、キャネモは知らないし。それに僕たち、貴族の娘だって嘘ついてるから…」

「え?ってことはまさかアーサー、女の子としてキャネモに会ってるのかい?」

「…うん」

それを聞いた画家たちはおおはしゃぎした。

「確かに君は女の子みたいに綺麗な顔をしているものな!モニカと並んだらそりゃあ美少女姉妹としてキャネモも大喜びするだろう!!なるほどな!そういうことか!」

「色仕掛けとはなかなか計算高いことをするねえ」

「やぁ!マドモアゼル!」

「グラスがあいていらっしゃいますよ。お代わりはいかがかな?」

クロネとリュノがわざとらしくアーサーに会釈をした。アーサーは恥ずかしそうに「もー!からかわないでよぉ!!」と手足をバタバタさせた。モニカはその様子が面白くて声をあげて大笑いしている。その夜、カフェは夜中を過ぎるまで彼らの笑い声が絶えなかった。
しおりを挟む
感想 494

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。