【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

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淫魔編:フォントメウ

【204話】リンクスのエーテル店

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コスメ店で、モニカはおしろい、口紅2種、3色のパウダーを購入し、アーサーはアビー用におしろい、口紅1種、2色のパウダーを購入した。チィはそれらを半透明の紙で包み、小さいリボンで飾り付けてくれた。まるで特別なプレゼントのような包装に双子は大喜びだ。そんな彼らにチィがニコニコしながらトレーを差し出した。

「合わせて金貨6枚よ」

「はぁい」

アーサーがアイテムボックスに手を伸ばすと、シャナが「あら、アーサー?」とその手を掴んだ。

「えっ、どうしたのシャナ」

「まさか自分で支払おうとしているの?」

「うん」

「だめよ。この町にいる間だけでもあなたたちは私に甘えていたらいいのよ」

「え、でも…」

「私たち、家族のようなものでしょう?そんなことで気をつかわないで」

「家族…」

「ふふ。そんなこと言ったらジルやカトリナ、リアーナにやきもちを妬かれちゃいそうだけどね」

シャナはそう言ってウィンクした。チィに金貨を渡しているとき、うしろから双子に抱きつかれる。

「わっ、ど、どうしたの?」

「シャナァ…」

「ううう~…」

「えっ?どうして泣いているの?!」

「いつもありがとうぅぅ…」

「あらあら…」

困ったように笑いながら、シャナは鼻をすすっている双子の肩を抱いて店を出た。シャナはモニカの、ユーリはアーサーの手を引きながら、次の店へ向かう。

◇◇◇

エーテル専門店の前で立ち止まったユーリが、まるで戦場へ向かう兵士のように緊張感と覚悟に満ちた目をしていた。冷や汗を流しながらアーサーの手を握る。

「ここがエーテル専門店なんだけど…。アーサー…。君はたぶん…すっごくいやな思いをすると思う。でも、僕と君がいやな思いをすればするほど、モニカに上質なエーテルを渡せるんだ。どうする…?中に入る…?」

真剣な目で尋ねるユーリに、アーサーはこくんと頷いた。

「入るよ。人に辛く当たられるのは慣れてるから大丈夫」

「そう…。分かった。じゃあ、入ろうか。…アーサー、死なないでね」

(えっそんなにやばいの?)

心の中でそう思いながら、アーサーはユーリと手を繋ぎながら店内に入った。あとをついて行こうとしたモニカをシャナが引き留める。

「モニカ、私たちはしばらくここで待機よ」

「え、どうして?」

「お願い」

「う、うん…」

アーサーとユーリが店内に入ったあと、シャナが素早く店のドアを閉めた。ドアの前に立ちモニカの耳を塞ぐ。

「シャナ、どうして私の耳を塞ぐの?」

「あまり聞かせたくないものが今から聞こえるからよ」

「…?」

エーテル店を営んでいたのは男性エルフだった。エルフとしては珍しい赤毛をしている。カウンターで本を読んでいた店主は、ドアのベルで顔をあげる。顔は白くスベスベで、唇には紅が塗られていた。エルフらしい中性的な顔立ちなので、化粧をしていても顔面に関しては全く違和感がなかった。…が、体躯がエルフにしては大柄でがっしりしているため、顔と体がちぐはぐでアーサーは少し混乱した。店主は入ってきた客を見てハッと息を飲み口元に手を当てた。

「ユーリ…!」

「こ、こんにちは、リンクスさん」

「ユーリィィィィィ!!!!」

リンクスは本を放り投げてユーリの元まで猛ダッシュで駆け寄りハグをした。力が強すぎてユーリが苦しそうに「フグァァッ!!」とうめいている。突然のことにアーサーは言葉を失った。店に響き渡るリンクスの低く太い歓声。

「ユーリ!!ユーリ!!会いたかったわユーリィィィ!!ああん今日もとっても綺麗ねえあなたってばああああん!!!」

「?!」

「あらあら前会ったときよりすっかり大人になっちゃってえええ!!やだあああ!!まだあのかわいい少年のままでいてよおおお!!」

「リンクスさっ…苦しっ…はなし…っ」

「やだァァ!!まさかアンタ!アンタ声変わりしちゃったの?!やだぁぁあ!!カミサマァァァ!!アタシの少年ユーリを返してええええ!!!」

「?!?!」

癖が強すぎる店主にアーサーがフリーズしている。羽交い絞めに近いハグをされながら顔のいたるところにキスをされているユーリは、その腕から抜け出そうと必死にもがいていた。満足するまでユーリの顔面に口紅の痕を残した店主は、やっとまともに挨拶をした。

「ユーリ、いらっしゃい」

「はい…」

「今日はあなたのエーテル?それともシャナの?」

「ううん。今日はヒトの子のエーテルを作って欲しいんです。お店の外で待ってもらってるんですけど…」

「……」

リンクスからの返事はない。彼はユーリの隣で立っているアーサーを凝視していた。痛いほど視線を感じたアーサーは、おそるおそるリンクスと目を合わせて無理矢理口角をあげる。

「ユ、ユーリ…?そちらの…ヒトの子は…?」

「…アーサーです。偽名は訳あ…」

「んああああああん!!!!アーサァァァァ!!!」

「うわぁぁぁぁっ!!!」

名前を聞いたとたんリンクスがアーサーの脇の下に手を差し込んで高く持ち上げた。びっくりしたアーサーは両脚をぷらぷらさせながら大声をあげた。リンクスは鼻息を荒げながら持ち上げたアーサーを舐めまわすように見つめる。

「今にも折れてしまいそうな細い体…!クリックリの目…!ぷるんぷるんの唇…!つるっつるのお肌にフワッフワの銀髪の髪…!!」

「ひぃぃぃっ…!ユ、ユーリぃっ…たすけてぇぇ…」

「……」

アーサーが助けを求めるも、ユーリは両手を合わせて頭を下げるだけだった。アーサーの声を聞いたリンクスはさらに興奮が増している。

「まあまあまあまあ!!!しかも声変わりしていないかわいらいい声ッッッッ!!!んああああん!!」

「うひぃぃぃっ…なにこの人ぉぉっ…ヒグゥッ!!」

アーサーもユーリと同じように潰されそうなほど強く抱きしめられ、顔じゅうに唇を押し付けられる。アーサーは涙目で「シャナァァァッ!!モニカぁぁぁぁt!!!」とドアに手を伸ばした。だが、悲しいことに助けは来ない。ユーリは哀れみをこめた目でアーサーを見ながら、小さい声で呟いた。

「もう少しで終わるから…耐えてアーサー…」

「かわいいぃぃっ!!かわぃいいいっ!!」

「ぎゃぁぁぁっ!!」

◇◇◇

「ぜぇっ…ぜぇっ…」

約10分後、顔中に唇の痕がつけられたアーサーが床にへたりこんでいた。アーサーを堪能して大満足のリンクスは、すっかり落ち着いた様子で店の外で待っている二人を招いた。疲弊している少年2人にシャナが「おつかれ…」と呼びかける。モニカは変わり果てた兄の姿を見て「きゃああああ!!アーサー!!!」と駆け寄った。アーサーは「モニカァ…」と弱々しい声を出し、ばたりと倒れた。

「アーサー!?アーサー何があったの?!」

「僕もうお嫁にいけない…」

「大丈夫よ!!私のお嫁さんにしてあげるから!!…ってなにされたの?!え?!なにされたのぉぉぉ?!」

「モニカ大丈夫だよ。アーサーは顔にキスされただけだから」

「顔にキスされたくらいでこんなことになる?!今にも死にそうだけど?!」

「熱烈なハグと精神的ショックでちょっと…」

「ちょっとあんた!!私のアーサーになんてことしてくれてんのよぉぉぉ!!」

モニカの怒りの拳がリンクスに飛んできた。リンクスはそれを軽々と手で受け止め、足をひっかけて床に抑え込んだ。

「ぐぃぃぃっ!離しなさいよぉぉ!!」

「まあ…なんて乱暴なヒトの子なんでしょ」

「リンクス、彼女のエーテルを作ってあげてほしいの」

「あらシャナ久しぶりね。この子のエーテル?分かったわ。じゃあちょっと質問するから答えてね~」

「離しなさいよっ!離しなさいよぉぉぉ!!」

「ん~、話ができる状態じゃないわねえ。しかたない、ちょっと診させてもらうわよ~」

「今すぐ魔力を回復させなさい!!あんたをカッチカチにしてやるわ!!」

モニカの言葉を無視してリンクスが彼女の魔力をじっくりと見る。

「まあ、なんて綺麗な魔力なのかしら」

「×〇◇※△~!!」

「それに凄まじく大きな魔力の器。あーん、調合しがいがあるわあ~!!」

「□×▽〇※〇~!!」

「ふぅん…。ふむふむ。なるほど分かったわ。あなたにピッタリのエーテルを作ってくるからちょっと待っててねえ」

リンクスは立ち上がり、倒れているアーサーにもう一度ハグとキスをしてから調合室へ引っ込んだ。店には、モニカの怒号とアーサーの怯える声だけが響いている。

「ばか!!ばかーーーー!!」

「ひぃぃ…。ひぃぃん…」

「ア、アーサー…もう大丈夫よ…」

「あああ…アーサーの顔が紅まみれに…」

震えているアーサーの顔をユーリが布で拭いてあげる。アーサーは涙目でキッとユーリを睨みつけた。

「ユーリィ!!なにこれぇぇ!!こんなの聞いてないよぉ!!」

「お店に入るときに言ったでしょ?すっごく嫌な思いをするって」

「あれってこういうことだったの?!なんなのあの人!!こわい!!」

「小柄で綺麗な男の子が大好きなオネエさんだよ」

「お姉さん?!どう見たってお兄さんだったよ!!」

「うん。でも、オネエさんなんだ」

「アーサー、世の中にはいろんな人がいるのよ」

「シャナもどうして助けてくれなかったのぉ?!見てよ僕の顔ぉ!!口紅の痕がいっぱい!!」

「ご…ごめんなさいね…。彼…ああなってるときに男の子取り上げたらすっごく怒るから…。見たでしょう?彼、すごく強いのよ…。暴れられたらそれこそ流血騒ぎになるから…。それに機嫌を損ねちゃうとエーテルの品質が…」

「あれを10分耐えるのが一番最善の方法なんだあ…」

「うぅぅ…」

「でも腕は確かよ。これでモニカの魔力を最速で回復できる。あなたのおかげできっと最高品質のものを作ってくれるはずよ」

「リンクスさん、機嫌が良い時と悪い時で品質にかなり差があるんだ。使ってくれる素材も気分で変わっちゃうし。だから僕もよく母さんにイケニエにされてた…」

「ま、まあ…モニカのためになるなら…良かったけど…」

「よくなぁぁぁい!!アーサーにこんなことしてぇぇぇ!もぉぉぉ!!」

モニカがぷんぷんと頬を膨らましてアーサーに抱きついた。

「シャナのばか!!こうなるって分かってて私を店に入れなかったり耳を塞いだりしてたのね!」

「ごめんねえ…」

「モ、モニカ、もういいよ。僕はなんともないから落ち着いて。シャナとユーリはモニカのことを考えてやったことなんだから…。それに、店に入る前ユーリに確認も取られてた。僕が自分で入ったんだよ。(何されるかは知らなかったけどね!それを先に言っといてよ!ユーリのばかぁ!)」

「むぅぅっ…。と、とにかく!アーサーは二度とこのお店に入っちゃダメ!!分かった?!」

「うん、もう二度と入らないよ。絶対入らない。リンクスさんこわい」

しばらく待っていると、リンクスが特製エーテルを30本持ってきた。モニカはアーサーを抱きしめながらシャーシャー威嚇している。そんな彼女にシャナがエーテルを差し出した。リンクスを睨みつけながらモニカがエーテルを飲む。

「っ!」

「どうかしら?アタシの自信作よ」

「むむむ…」

どうやら自分でも分かるほど魔力の回復が急激に早くなったらしい。モニカは悔しそうに「ありがとう…」とモゴモゴお礼を言った。

「良かったわぁ!!ウフフ、奮発して希少素材を使っちゃったわ」

「助かったわリンクス。お代は?」

「いらないいらない!!アーサーという最高の男の子を連れて来てくれたんですもの!!むしろアタシがお金を払いたいくらいだわ!!」

「ヒィッ…」

「ねえアーサー?あなた、フォントメウで暮らしなさいよ。そして毎日アタシに会いに来てちょうだいよぉん」

「け、結構です…!ヒィィ…」

「あらそうぉ?残念だわァ…。じゃ、これをあげるわぁ。これをアタシだと思って身に付けてぇ」

「ひぃぃ…」

リンクスはアーサーの小指に指輪をはめた。それを見てシャナが驚いている。

「あなたが…?珍しいこともあるものね…」

「ふふ。アーサーはアタシが今まで出会ったどの男の子よりもステキだったから特別にね」

「こ、これは…?」

「アタシの加護魔法をかけた指輪よ。私の加護魔法は再生力の強化。これを嵌めていたら、怪我をしたってすぐ治っちゃうわよぉ」

「アーサー…。リンクスの加護魔法は強力で希少よ。それに彼はめったに加護魔法を使わないし人に渡さない。それをもらえるなんて…よっぽど気に入られたのね。大切にするのよ」

「う、うん。ありがとうリンクスさん」

「…もう一回言ってくれる?」

「あ、ありがとうリンクスさん」

「んぁぁぁぁん!!アーサァァァっ!!!かわいらしい子!!かわいらしい子ぉぉぉぉっ!!好きぃぃぃっ!!」

「ひぃぃぃぃっ!!!」

「ちょっとぉぉ!!私のアーサーにくっつかないでぇぇぇっ!!!」
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