【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco

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淫魔編:フォントメウ

【206話】温泉:ユーリとアーサー

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アクセサリー店のあと、4人は服屋や雑貨屋、食料品店へ行った。服屋で双子は手触りの良いサラサラの生地でできた寝衣を、雑貨屋ではフォントメウでしか生息していない光る花の泡風呂液と石鹸を、食料品店では澄んだ水色のキャンディを購入した。どの店主も双子に優しく接してくれたので、フォントメウに苦手意識があったアーサーも少しエルフのことが好きになった。

買い物を終えたあと、シャナは彼らを温泉へ連れて行った。フォントメウの森の中に湧いているもので、他にも数人のエルフが気持ちよさそうに湯に浸かっていた。シャナとモニカは西側に湧いている女性用の温泉へ、アーサーとユーリは東側の男性用温泉へ入った。

「温泉久しぶりだあ」

買い物で(主にリンクスのせいで)疲れ果てていたアーサーは、お湯に浸かりながら気持ちよさそうな声を出した。

「この温泉、ちょっとトロトロしてるでしょ?」

「うん!それがまた気持ちいいよお」

「僕もこのお湯大好きなんだ。ポントワーブには温泉がないしね」

「そうなんだよねえ。ポントワーブに温泉があったら、僕毎日入りに行くなあ」

「ふふ。僕もそうするかも」

アーサーとユーリはお喋りしながらぷかぷかと浮いてみたり、手で水鉄砲を作って顔にかけ合ったりして楽しんだ。笑い声をあげていると、同じ温泉に浸かっていたエルフに睨まれたので慌てて口に手を当てた。それからは温泉の隅で静かに浸かることにした。かわるがわる温泉に浸かりにくる男性エルフをちらちらと見ながら、アーサーがユーリの耳元で囁いた。

「エルフって、男の人でも女の人みたいにきれいだねえ」

「そうだね。フォントメウの男性エルフは特に美しいらしいよ」

「それ自分で言っちゃうのぉ?」

ニヤニヤしながらアーサーが小突くと、ユーリは「あっ」と顔を赤くして首を振った。

「ち、ちがうもん!僕はハーフエルフだし!生まれも育ちもポントワーブだからっ」

「あはは!からかっただけだよ」

「もぉ。アーサーってば。やめてよー」

「ごめんごめん。でもユーリもフォントメウの男の人と同じくらいきれいだよ」

「やめてってばぁ」

「本当のことだもーん」

「それを言ったらアーサーだってエルフと同じくらいきれいだよ」

「そんなことないよ、やめてよユーリぃ」

「本当のことだもん」

「…こ、この会話はずかしいね」

「でしょ?どうする?続ける?」

「続けませんっ」

「はーい」

からかってやろうと思って始めた会話だったのに、逆にからかわれてしまったアーサーはぷぅと頬を膨らませた。数年前まで弟のようにかわいらしかったのに、いつの間にか自分よりも大人びたユーリを羨まし気に見つめる。視線に気が付きユーリが「ん?」と首を傾げた。

「どうしたの?僕の顔じっと見て」

「んー?」

「なにー?そんなじっと見ないでよ恥ずかしいでしょ?」

「…僕もはやくユーリみたいに大人っぽくなりたいなあ」

「ああ。エルフは大人になるまでの成長が早いからね。僕は少し寂しいよ。僕、歌うのが好きなんだけど、声変わりしたから今まで歌えてた曲を歌えなくなったし。背が伸びて声変わりまでしちゃったら、母さんに甘えられないしね」

「そういうものなのかなあ」

「うん。僕、小さい時ずっと教会で閉じ込められてたから。母さんや父さんに甘えられる時間がすごく少なかった。もっと甘えたかったなあ」

「……」

「アーサー。君はまだ、声変わりもしていない小さい男の子だから」

「むぅ…」

「まあ聞いてよ。…だから、今のうちにたくさん甘えたらいいよ。僕の母さんや父さん、リアーナ、ジル、カトリナ…他にもたくさん、君たちを甘やかしたいと思ってる人がいるんだから。僕は君たちの生い立ちを知らないけど、二人だけでずっとがんばってきたって父さんが言ってた。だから、今まで甘えられなかった分もたくさん」

「ユーリ…」

「あ、僕にも甘えていいからね?」

「なっ!」

「ふふ。声変わりしてないかわいいアーサー。君のこと、まるで弟みたいにかわいいんだ」

「ちょっとユーリ!!君ぼくより年下なんだからね!どっちかって言うと僕がお兄さんなんだからね!!ちょっと声変わりしてるからって生意気だぞー!!」

アーサーはユーリの頭を腕で挟み、拳をぐりぐりと押し付けた。ユーリは「あはは!いたいよアーサー!ごめんってばぁっ!」と笑いながら謝っている。しばらくじゃれていると、アーサーの頭がくらくらしてきた。

「あ、やば…。温泉の中ではしゃぎすぎちゃった…。のぼせたかもぉ…」

「大丈夫?もう出ようか」

「ううん。へりに座って熱を冷ますよ」

アーサーは立ちあがり温泉のへりに腰かけた。脚だけを浸けて「ふぅ…」と息をついている。ちらりとユーリに目をやると、アーサーのおへそあたりを凝視していた。そこに無数の刺し傷の痕が残っていたからだ。アーサーは「ああ、これ?」と傷痕を指でなぞった。

「この傷だけは痕が残っちゃったんだよね…。その日から3日間ミアーナが来てくれなくて、すぐに治してもらえなかったから…」

「あっ、ご、ごめんね。人の体じろじろ見ちゃって…」

「ううん、いいんだ」

「こ、これ…どうしたの?」

「んー…。…この傷ね、弟がつけたんだあ」

「え…?」

「でも、つけたくてつけたんじゃないよ。むりやり短剣を握らされて、僕のおなかに何回もズブズブさせられて」

「……」

「弟、すっごく泣いてた。ごめんなさいってずっと謝りながら…」

「ど、どうしてそんな…」

「そういう環境だったんだ。この傷を見ると、いつも弟のことを思い出すんだ。どうしてるかなあって。聞いたところによるとあんまり元気じゃなさそうなんだ…心配でしかたないよ」

「そうなんだ…」

「5年…」

「え?」

「約束しちゃったんだよね、もう一人の弟に。5年のうちになんとかするって」

「なんとか…?」

「なんとか!まだどうするか全然考えてないけどね!」

「アーサーらしいね」

「…だからいつか、会いに行かなきゃいけない。弟と…お父さまと、お母さまに」

「……」

アーサーは傷痕をさすりながら目じりを下げた。

「弟に会ったら…ちゃんとお兄ちゃんらしいところ見せたいなあ。弟ね、僕とモニカのこと、今でも大好きでいてくれてるみたいなんだ。うれしいなあ」

「そうなんだね」

「弟ね、今たぶん辛い思いしてると思うんだ。気が変になっちゃうほどに…。そんな弟に…眠れないときに一緒に眠ってあげたり、泣いてるときに抱きしめてあげたい。苦しいときは、僕がなんとかしてあげるよって言って安心させてあげたいなあって、この傷痕をみながら考えてるんだ」

「そうしてあげられる日が、早く来るといいね」

「うん。会いたいなあ」

「会えたら弟さんも喜ぶだろうね」

「弟…きっと僕より背が高くてガッシリしてるんだろうな…」

「あはは。アーサーはちっちゃいもんねえ」

「む!僕だっていつかムッキムキになるもん!!」

「う、うん。キットナレルヨ」

「目を逸らさないでユーリ!!」

「あははは!!」
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