【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco

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淫魔編:先輩の背中

【216話】ルアンダンジョン

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「ねえ、アーサー…。もう出発の時間だよ?はやく準備しよ?」

「うぅぅ…」

布団にくるまって出てこようとしない兄にモニカが声をかける。だがアーサーは呻くだけだった。
モニカの願いも虚しく、アーサーの「記憶の目」はしっかりと昨晩の記憶を焼きつけていたようだ。朝起きるなり布団に潜り込んでモニカに何度も謝っていた。

「別にいいってば。アーサーがそう思ってるの知ってたし。いやじゃないし」

「思ってるだけなのと口に出しちゃうのとは違うんだよぉ…」

「そんなうじうじ考えずに普段から思ってること全部口に出せばいいのに。私みたいに」

「僕は頼れるお兄ちゃんでありたいのぉ!甘えたいわけじゃないの!」

「あのさ、お兄ちゃんお兄ちゃんって言ってるけど私たち双子だから!アーサーは私のお兄ちゃんでもあり弟でもあるの!別に甘えたっていいじゃないの!言っておくけどアーサーって普段から割と私に甘えん坊だしね?!」

「うっ…確かに…!」

「でも私としてはむしろもっと甘えてほしいくらい!私だってお姉ちゃんとしてもっとアーサー甘やかしたいよぉ!」

「ええー…これ以上甘えたら完全に僕が弟みたいになっちゃうじゃないか…」

「っていうか頼れるお兄ちゃんでありたいなら早く布団から出て準備してくれない?!ベニートたちに迷惑かけちゃうから!」

「うぅ…。わかった…」

もぞもぞと布団から出てきたアーサーは気まずそうにモニカをちらりと見た。モニカは「いつまで気にしてるのよ!」と兄の頭をはたく。しばらくはモニカの様子を伺ってビクビクしていたが、モニカがいつも通りに振舞っていたのでアーサーはホッとした。部屋を出る頃には調子を取り戻しており、妹の目も真っすぐ見られるようになっていた。武装してアイテムボックスを腰にかけたアーサーがモニカと一時の別れの挨拶を交わす。

「じゃあねモニカ。行ってくるよ」

「うん。気を付けてねアーサー」

「ん。モニカは僕たちのことは気にせずルアンを楽しんでね」

「うん…」

歯切れの悪い返事に、モニカがそんな気になれていないことに気付いた。アーサーは少し考えていいことを思いつく。

「そうだ!モニカにお願いがあるんだ。聞いてくれる?」

「もちろん聞くよ!」

「僕たちの家のトイレに1枚絵を飾りたいんだ。モニカ、描いてくれない?お花の絵がいいな」

「わー!いいわね!」

「でしょ?それと、僕をシュダイにした絵も描いてほしいな~」

「描きたい描きたい!!」

「あと、シャナとユーリにも絵を描いてあげてほしいな!この前のお礼としてモニカが描いた絵を贈ったら喜んでくれると思うんだよね」

「描くー!!」

「良かった!じゃあお願いね。僕はダンジョンのお仕事。モニカは絵を描くお仕事だよ!サボっちゃダメだからね!それにお仕事なんだから、クロネに描き方を教えてもらって最高の絵に仕上げるんだよ?」

「分かった!!」

すっかり絵を描く気になってくれた妹にホッとしながら、アーサーはぎゅっとモニカにハグをした。

「いってきます」

「いってらっしゃい」

◇◇◇

「よっしゃー!!やったるぜ!!」

ルアンダンジョンの入り口で、イェルドが肩をコキコキ鳴らしながら咆哮した。いつものことなのかベニートとアデーレはそれを無視して先へ進む。アーサーも二人を追いかけて洞窟の中へ入った。

「あ、カチッカ」

洞窟の入り口にいつもいるのがカチッカ、岩のスライムだ。今まで双子はこのカチッカを一体一体ハンマーで潰していたが、ベニートたちはいつもスルーしていると言っていた。

「ねえアデーレ。どうしてカチッカをスルーするの?」

「ダンジョン掃討依頼って、9割以上殲滅してたら完了扱いでしょ?言い換えれば1割は残していいのよ。効率が悪い相手や手ごわい相手はスルーする。カチッカは弱いけど、ハンマーで一体ずつ倒していくのは結構体力を消耗するから。その割に小さいから完了率にあまり加算されないし。要は渋い魔物なの。だからスルー」

「S級は国のために戦う冒険者だけど、A級以下はメシを食うために戦ってるだけだ。俺たちが欲しいのは名誉じゃなくて金と依頼完了証明書。いかに効率よく、生存率を上げながらクエストをこなせるかだけを考える。だから余計な敵は倒さない」

「なるほどぉ!」

「そう考えるとS級って大変だよなぁ。指定依頼として高ランクダンジョン掃討の仕事バンバン入ってくるだろうし。俺らみたいに最低限敵を倒せばいいってわけでもない。しかも指定依頼って基本断ったらダメなんだろ?」

「ああ。S級は9割殲滅なんて甘いものじゃないらしいからな。10割殲滅が基本らしい」

「10割?!」

「そうだ。だから厄介な敵も面倒な敵もスルーできない。ま、ダンジョン内の敵を1体残らず倒さなきゃいけないってわけでもないらしいけどな。A級以下が9割殲滅条件を利用してなかなか厄介な敵を倒さないから、それを倒すのがS級の役目だろうって意味で10割殲滅って条件が付けられてるらしい」

「カミーユたち、大変なんだねえ」

「ああ、まじでS級は格が違うんだ。A級とS級の間には越えられない壁がある。俺たちはA級まで行けば充分だと思ってる」

「ええ。S級にはなりたくないわ。名誉より命が大事だもの」

「そうかあ?俺はS級になりたいけどなあ」

「そうなんだあ。みんないろいろ考え方があるんだねえ」

「アーサーは?もしS級になれるならなりたいか?」

「どうだろう。カミーユたちみたいになりたいとも思うし、自由にのんびり冒険者やりたいとも思っちゃうなあ」

「ま、これからゆっくり決めて行けばいいさ。どっちも間違っちゃいないんだから」

「うん!」

お喋りをしながら奥へ進んでいるうちにカチッカのゾーンを抜け、ひらけた場所へ出る。そこにはゴブリンんがうようよと群がっていた。武器は錆びた剣や弓など、おそらくこのダンジョンで死んだ冒険者から奪ったであろうものを手に持っている。

「さて、始めるぞ」

ベニートの合図とともに他の3人も武器を構える。アーサーは弓に矢をかけた。今回のダンジョン掃討では、基本的にアーサーはアーチャーとして遠距離攻撃を任されている。

まずイェルドがゴブリンの群れに突っ込んでいった。槍で一度に何体ものゴブリンを突き刺して進んでいく。「うるぁぁぁ!!」「おらおらぁぁぁ!!」など何かと叫びながら楽しそうに敵を倒していく雄々しい姿は頼もしく、一方で快楽殺者のように見えて少し怖かった。もし自分が魔物だったらイェルドとモニカにだけは殺されたくないなあと、アーサーは弓を引きながらうっすら考えていた。

イェルドが作った道をアデーレが進んでいく。ゴブリン相手では物足りないとでも言いたげにサクサクとゴブリンの首を斬り落としていた。

ベニートは近接攻撃組の背後に回った敵などを速やかに矢で倒しフォローしている。また、彼らが奥へ進みやすいよう的確な援護をしていた。

内側から攻めるイェルド、アデーレとは別に、アーサーが外側からゴブリンを減らしていく。一度に3本の矢を射る人間離れした彼の技を見て、ベニートは「くはっ!すっげ!」とニヤニヤしていた。

「アーサーお前やっぱすごいな。俺だって数本の矢を同時に射ることがあるが、1本でも当たればラッキーくらいでやるんだ。それをお前、3本とも当然のように当てちまうんだからすごいよな!」

「ありがと!でも僕のともだちなんて、これを3連射するんだよ?すごくない?」

「はあ?カトリナさんのことじゃなくてか?」

「ああ。カトリナは5本同時に射るよ」

「…やっぱバケモノだな。カミーユさんのパーティ」

「3連射は別の子。僕より年下の女の子。ライラって言うんだけど」

「はあ?!ライラ?!A級アーチャーのか?!」

「え?知ってるの?」

「知ってるも何もお前!逆にアーチャーやっててライラの名前知らないやついんのか?!貴族出身の最年少A級アーチャー!」

「わあ、嬉しいなあ!ベニートもライラのこと知ってるんだあ!ライラすっごく良い子なんだよ!モニカの親友でね!あ、でも僕の親友でもあるよ!」

「親友?お前らどこでライラと知り合ったんだ?」

「えーっと、それは秘密」

「まったく。秘密が多いやつだなあ。1年間ポントワーブから姿を消した時か?」

「うん」

「そうか。まあいい。…なあ、今度ライラに会うことがあったらサインもらってきてくれないか?」

「え?サイン?」

「そうだ。俺は実はライラのファンだ。あの年齢にしてA級アーチャーなんて、尊敬せずにはいられない」

「そうなんだ!分かった。次会ったらもらっとくね。でも、ライラにはチャドっていうボーイフレンドがいるよ?」

「なに?!ぐあああまじかよ!!っていうか別にそんな情報言わなくてもよくないか?!知らぬが仏ってことば知らないのかよこいつ!!いや別にいいんだけどな!俺はアーチャーとしてファンなだけだから!ライラにボーイフレンドがいようがいまいが別にどうだっていい!」

「ベニート、なにをムキになってるの?」

「なってないし!ほらアーサー!弓に集中しろ!」

「はあい」

ベニートでもあんな大きな声出すんだーとぼんやり考えながら、アーサーは弓に集中した。ゴブリン殲滅まであと少し。群れはなくなり、あとは四散して逃げる敵を叩くだけだ。4人はそれぞれ地道に倒していった。

数十分後、殲滅が完了しイェルドとアデーレが武器をしまいこちらに向かって歩いてくる。アーサーとベニートも弓矢を背中にかけて伸びをした。そのとき、ベニートがボソボソとアーサーに話しかけてくる。

「…なあアーサー」

「なにー?」

「チャドってどんなやつ?」
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