【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco

文字の大きさ
231 / 718
異国編:ジッピン前編:出会い

【251話】よろず屋

しおりを挟む
よろず屋は町の中でもひときわ大きな建物だった。その上装飾に金箔が使われており目を引く。キャネモ宮殿のギラッギラで悪趣味な使われかたと違い品のある外装だ。建物の前でアーサーとモニカが「かっこいぃぃぃ!!」と大興奮している。ヴァジーとカユボティは夢中になってなかなか動こうとしない双子の背中をぐいぐい押して無理矢理よろず屋の中へ連れて行った。

よろず屋の中も、壁の上部に凝った造形の透かし彫りがされた木製板がはめ込まれていたり、引き戸のドアには木や鳥の絵が描かれている。モニカは興奮気味にヴァジーに抱きついた。

「ヴァジー!!すごいわ!!まるでこの建物自体がゲイジュツヒンみたい!!わたし今、ゲイジュツ作品の中に入ってる!!」

「モニカ、君は最高だね。まさにそうさ。ジッピンの建物は、僕たちにとっては芸術品だよ。欄間の透かし彫り…襖の絵…私たちバンスティンの感性では作ることができないものだ。色彩…構図…すべてがね」

「ああ、この城を何度持ち帰ってやろうかと本気で思ったことか」

二人の会話を聞いていたカユボティがクスクス笑いながらそう言った。モニカは冗談だと思って笑ったが、ヴァジーは顔をひきつらせている。

「君が言うと冗談に聞こえない。本気でしそうでこわい」

「冗談ではないからね。キヨハルに交渉したことがあるよ。断られたけれど」

「え…本当ですかキヨハルさん」

「ああ…そんなこともあったね。とうとう頭がおかしくなってしまったのかと思ったよ。丁重にお断りした」

「でしょうね」

「せめてジッピンの美術品を買い取りたいと交渉しているんだが、さすがの彼でも首を縦に振らないんだ。ジッピンの絵画や骨とう品は、国内でもかなり希少らしくてね。海外に渡せるほど流通していないらしい」

「ああ…さすがのキヨハルさんでもそれは許してくれないか…」

画家二人が残念そうにはぁーっと深いため息をついた。キヨハルは申し訳なさそうに「悪いね」と一言呟く。モニカも「あーん」と駄々をこねるように手をぶんぶん振った。

「クロネやリュノたちに見せてあげたいなあ~」

「それなんだよ。きっと彼らの良い刺激になると思って私も手を尽くしているんだが、こればっかりは思うようにいかない」

「クロネ、エドガあたりが大喜びしそうだな」

「エドガはいい。あいつは絵は素晴らしいが性格は最悪だから」

「温厚な君が唯一合わない相手だね、エドガは」

どうやらカユボティもエドガとあまり仲が良くないらしい。アーサーが小さな声で「エドガ、良い人だよぉ…?」と呟くと、はっとしたカユボティが微笑んでアーサーの頭をぽんぽんと撫でた。

「すまない。君たちとエドガは仲が良いんだったね。彼は素晴らしい画家だよ。それは断言する。私が少しだけ、彼と性格が合わないだけさ。ごめんね」

「ううん」

「エドガのことはおいといて、今はジッピンの素晴らしい文化を堪能しようじゃないか。こんな芸術に囲まれている中でくだらない話をするのはもったいない」

ヴァジーはそう言ってからキヨハルに目で合図をした。キヨハルは頷き、彼らによろず屋を案内する。まず訪れたのは、狩怪組(シュケグミ)の間…バンスティンでいう冒険者ギルドだ。

狩怪組の間では、武器を持った男性たちと腰に札をかけている女性たちがいた。武器も札もバンスティンでは見たことがないものだった。アーサーは興味深げにカユボティに尋ねた。

「ねえカユボティ、あの細長い武器はなあに?」

「あれはジッピン特有の武器だね。カタナと呼ばれる剣だよ」

「わぁぁ…!どこかで買える?!」

「買える。この城の中に武器屋があるからあとで行こう」

「うん!!それで、女の人が持ってる紙はなに?」

「フダだ。ジッピンの魔法使いは杖ではなくフダを使う」

アーサーとカユボティの会話を聞いていたモニカがわくわくしながら話に入ってきた。

「ジッピンの魔法?!」

「厳密に言えば、魔法使いではなくミコ、魔法ではなく術だけれど」

「ジュツ…!!私も使えるかな?!」

「どうだろう…?」

カユボティが首を傾げていると、ヴァジーが言いづらそうにモニカに声をかけた。

「モニカ…。ジッピンの人が使う魔法…正しくは術は、自分の中にある魔力を使うわけではないんだ。そもそもジッピンの人は魔力を持っていないから」

「え?じゃあどうやって魔法…ジュツを使うの?」

「神様に力を借りるんだ。毎日毎日お祈りをして、神水…こっちでいう聖水だね、それに浸かって体を清め、一生を神に捧げてやっと神の力を借りることができる」

「それって加護とは違うの?」

「そんな永続的な代物じゃない。神の力はフダに宿り、それを使えばなくなる。消耗型の加護だね。彼女たちはそれを作るために多大な犠牲を払っている。…だからモニカにはちょっと使うのは難しいかもしれないね」

「そうなんだぁ…すごいなあミコ…」

「ねえカユボティ、神さまってヴァルーダ神?」

「いや、それはバンスティンあたりの国が崇めている神で、ジッピンでは別の神が崇められている。えーっと確か…テンショウダイゴジン…と言ったかな」

「テンショ…え、なに?」

「テンショウダイゴジンだよ、モニカ」

「難しいから覚えなくてもいいよ」

「それにしても、国によって神様が違うんだねえ!面白いなあ!」

「神様の数ははかりしれないからね。国ごとに好きな神様が違うのはおかしいことじゃないさ」

「そうかもしれないね!」

「バンスティンとジッピンじゃ、本当になにもかも違うんだねえ…」

一歩歩けば見たことのないものに出会うアーサーとモニカは、「あれはなあに?」「これはなあに?」とヴァジーとカユボティを質問攻めしていた。二人は面倒がらずにひとつひとつ丁寧に教えてくれる。それを眺めていたキヨハルは、穏やかな顔で「初めてジッピンを訪れた頃のカユボティとヴァジーを思い出すねえ」と思い出に浸っていた。

やっと狩怪組の間の奥まで辿り着いたころには画家たちの声は枯れてしまっていた。長いローテーブルの奥に座っている女性にキヨハルが声をかけると、彼女は「はいなぁ」とおっとりした声で返事をして奥の間へ入って行った。数十分後、大人でも持つのが大変そうなほど巨大なアイテムボックスを持った男性が現れた。それを画家の前へ置き「まいどありぃ!!」とニカっと笑った。カユボティは「アリガゥ」とお礼を言い「イクラ?」と尋ねた。多少はジッピンの言葉を話せるらしい。

「えーっと…1億ウィンっす!!」

「ヴァジー?いくらだって?」

「1億ウィン」

「ああ、分かった。1億…1億…」

そう呟きながらポンポンと1万ウィン札を1000枚束ねたものを10束取り出し男性に渡す。男性は札束をさっと確認して「たしかにいただきやしたぁ~!!」と頭を下げて奥へ引っ込んでいった。
しおりを挟む
感想 494

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。