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異国編:ジッピン後編:別れ
【295話】穢れ
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月下が薄雪と言葉を交わしている間沈黙していたアーサーがゆっくりと起き上がった。
(…うん、大丈夫。リンクスのおかげで傷がほとんど塞がった。手首はまだちょっとぷらんぷらんしてるけど…)
アーサーはちらりと月下を見た。彼の目から見ると、月下は独り言を呟いているようにしか見えない。だがソレがこちらにまったく意識を向けていないことははっきりと分かった。
音を立てないように起き上がりモニカたちが倒れている場所へ行く。重傷だったはずのアーサーがケロっとしているのを見て狩怪隊たちは衝撃を受けていた。
「なっ…?!」
「お…おまえなぜ動ける…?!」
「しーっ!あいつにバレちゃうから」
彼らはハッとして口をつぐんだ。アーサーは唇を噛みながらグスグス泣いているモニカの頭を撫でた。
「モニカしんどいよね。ごめんね。今あいつを倒すから。もうちょっとがんばってね」
「アーサー…私また役立たずだったぁ…。ふぇぇん…」
「なに言ってるのさ。あいつを倒すのにモニカの力が必要なんだ。役に立つのは今からだよ」
「私にできることある…?」
「モニカにしかできないことだよ。ナツさんとフユさんが言ってた"シンジュツ"って…たぶん聖魔法のことだと思うんだ。モニカ、魔法使える?」
「…うん、使える」
「よし、じゃあ剣に付与して」
体を圧迫され息をすることすらままならない状態で魔法を使うことなどできないに等しい。だがモニカは、身がちぎれそうになりながらアイテムボックスから取り出された剣に手を伸ばした。苦し気な小さな声で聖歌を口ずさむ。モニカの口から血がツーと流れたが、それでも歌をやめなかった。剣は徐々に銀色の光を纏い、聖魔法剣と姿を変えた。
魔法をかけ終えたモニカの体から力が抜けてぐったりとした。
「無理させてごめんね。すぐに終わらせるから。狩怪隊のみなさんも、もうしばらく辛抱してください」
「なっ…!アーサー…おまえまさか行く気じゃ…」
「行っても無駄だ…!それより喜代春さんへ連絡を…!」
「あ、本当だ。キヨハルさんに連絡しとかなきゃ」
トウジにそう言われ、アーサーはアイテムボックスから伝書インコを取り出した。ここのところ出番がなかったインコは、急に明るい場所へ出されて不機嫌そうだ。
「えーっと、インコってジッピンの言葉覚えられるかな…。今から言うこと伝言してね。モノノケ キョウテキ タスケテ」
「モノノケ キョテキ アスケエ」
「ジッピン訛りだけど…キヨハルさんならそれで伝わるはず。伝言お願い」
インコを飛び立させ、アーサーは立ち上がり月下を見た。月下は歓喜の声をあげながらなにか見えないものにかぶりついているように見えた。だが突然ソレは大声をあげて苦しみ始めた。
「うがぁぁぁっ…!ゲホッ…!ガハァッ!!」
「?!」
◇◇◇
「月下。苦しいかい?」
血を吐きながら地面に膝をついた月下に薄雪は目線を合わせて尋ねた。薄雪の首や腕は、血肉を食われて骨が丸見えになっている。白い着物も今では真っ赤に染まっていた。それでも彼は穏やかな笑みを浮かべていた。
「体が…っ!焼けるっ…!ガァッ!アァァッ!苦しいっ!苦しいよ薄雪ィッ…!」
「月下。今のあなたにとって、私の血と肉は毒でしかないのだよ」
「どうじでっ…!僕はごんなに美じぐなっだのにっ…!!ぞれでも僕はまだっ…あなだを食うごどが許ざれないのっ?!」
「逆だよ。もしあなたが何も犠牲にせず私の元へ来たのなら、あなたの体はきっと私の血肉を受け入れたでしょう。でも月下。仲間を食べ、あやかしを食べ、穢れきったあなたの体に私の血肉は清らかすぎる」
「ぞんなばずないっ!!僕ば美じぐなっだ…!良い香りがずるっ…!神と崇められるあやかしをいっぱい食べだ…!僕の体が穢れでるわげないっ!!!」
「…そうですね。私の言い方がまちがっていたかもしれない。穢れではなく、呪いに近い」
「呪い…?」
「あなたに食べられたモノの怒りが、憎しみが、恨みが、あなたに纏わりついている。それに…美しさに囚われ、他のモノを快楽と己の望みのために殺し食い続けたあなたの生命力はひどく濁っているんだ。私がさきほど、以前と随分変わったと言ったのはそういうことを思って発した言葉だよ。幼かった頃と比べようがないほど醜くなっていたあなたに驚いたんだ」
「ぞ…ぞんな…っ。嘘だ…。だっで僕、ごんなに…」
「すまないね月下。私はヒトではないから、外見や顔立ちなんて気にしないんだ」
「うぅっ…うわぁぁん…!うそだぁあっ…!!!今の僕が醜いわけがないっ!!」
月下は薄雪の手を払いのけ、吐血しながら着物の袖を探った。アーサーから奪ったペンダントを取り出し縋り付くように握りしめる。
「ぞ…ぞうだ…。僕にはまだごれがある…っ。ごれを食えばぎっど…!ぎっど薄雪を食えるようになる…っ!」
「ほう、それはまた不思議なモノを持っているね」
「アレが持っでだ…っ!薄雪も気に入っだ…?ずごぐいいでしょ、ごれ…」
「ああ。素晴らしいね。体を失ってもなお、モニカとお兄さんを守ろうとしている」
「ごれ、美じいでじょ…っ?」
「美しい。きっと生前も美しかったんだろう。この感じ…もともとヒトだったのだろうか」
薄雪はペンダントにそっと触れ、悲し気な笑みを浮かべた。
「…あなたも一度はヒトに愛想を尽かしたんだね。それでもあなたはあの子たちを守ろうとしている。…喜代春と同じであなたもヒトを憎みきれないのかい?それともあの子たちは特別なのかな」
「薄雪…!僕っ!ごれ食うがらっ…!!だがらっ!醜いなんて言わないでっ!!」
「おやめなさい。コレをあなたで穢してはいけないよ。きっとあの子にとって大切なモノなのだから」
「穢ずなんでぞんな風に言わないでぇぇえ!!!僕は汚いものじゃない!!綺麗なものなんだぁあっ!!!」
《まったく…。なんだ図体が大人になっただけで中身はあのときと同じガキのまんまじゃねぇか話通じねえなあおい…》
子どものように泣き叫ぶ月下に朝霧が呆れた声を出した。薄雪はそんな月下を抱き上げ、こちらを見ているアーサーを指さした。
「ごらん月下。あの少年を。美しいとはああいうことだよ」
「あんなの…っ!顔がいいだげのガキじゃないがっ…!ぐぞっ…!僕もあんな顔に生まれでだらいじめられるごども…!親に捨でられるごどもながっだ…!仲間を食うごども…!あやがじを食うごどもぜずに幸ぜに暮らじでだ…!ぐぞっ!あいづの顔を見でるだげで腹が立っでぐる…!指を一本ずづ折っで…!ちょっどずづ体を切り落とじでやるっ…!」
「外見のことではないよ。…そうか、あなたは何も見えないんだね。あの子の生い立ちも、あの子が味わってきた苦しみも、あの子の清らかさもなにも見えないんだね」
「ぐぞぉっ…!どうじでおまえが薄雪に美じいと言われるんだぁぁっ!!僕じゃなぐでっ…!どうじでっ!!お前なんで…!お前なんで…殺じでやるぅぅぅうっ!!!」
「っ?!」
憎しみに駆られた月下がゆっくりと起き上がり、血反吐を吐きながらアーサーに襲い掛かった。先ほどまで見えないなにかに気を取られていたソレが突然怒り狂い飛び掛かってきたので、アーサーは驚き一瞬固まったがすぐに剣を構えた。
思いがけず神経を逆なでしてしまった薄雪はぽかんとした顔で怒り狂っている月下を見た。
「おや」
《おい薄雪なにしてんだよボケがぁぁぁっ!!!なんであんなこと言うんだアホか!!あのガキ大丈夫なのか?!》
「本当の美しさを教えてあげようと思ったのに…。気の短い子だねまったく…」
《いやなにのんびりしてんだよ!?》
「すまない。月下に力を吸われてしまって動けないんだ。実は死にそうなんだよ私」
《は…はぁぁぁぁあぁぁっ?!》
(…うん、大丈夫。リンクスのおかげで傷がほとんど塞がった。手首はまだちょっとぷらんぷらんしてるけど…)
アーサーはちらりと月下を見た。彼の目から見ると、月下は独り言を呟いているようにしか見えない。だがソレがこちらにまったく意識を向けていないことははっきりと分かった。
音を立てないように起き上がりモニカたちが倒れている場所へ行く。重傷だったはずのアーサーがケロっとしているのを見て狩怪隊たちは衝撃を受けていた。
「なっ…?!」
「お…おまえなぜ動ける…?!」
「しーっ!あいつにバレちゃうから」
彼らはハッとして口をつぐんだ。アーサーは唇を噛みながらグスグス泣いているモニカの頭を撫でた。
「モニカしんどいよね。ごめんね。今あいつを倒すから。もうちょっとがんばってね」
「アーサー…私また役立たずだったぁ…。ふぇぇん…」
「なに言ってるのさ。あいつを倒すのにモニカの力が必要なんだ。役に立つのは今からだよ」
「私にできることある…?」
「モニカにしかできないことだよ。ナツさんとフユさんが言ってた"シンジュツ"って…たぶん聖魔法のことだと思うんだ。モニカ、魔法使える?」
「…うん、使える」
「よし、じゃあ剣に付与して」
体を圧迫され息をすることすらままならない状態で魔法を使うことなどできないに等しい。だがモニカは、身がちぎれそうになりながらアイテムボックスから取り出された剣に手を伸ばした。苦し気な小さな声で聖歌を口ずさむ。モニカの口から血がツーと流れたが、それでも歌をやめなかった。剣は徐々に銀色の光を纏い、聖魔法剣と姿を変えた。
魔法をかけ終えたモニカの体から力が抜けてぐったりとした。
「無理させてごめんね。すぐに終わらせるから。狩怪隊のみなさんも、もうしばらく辛抱してください」
「なっ…!アーサー…おまえまさか行く気じゃ…」
「行っても無駄だ…!それより喜代春さんへ連絡を…!」
「あ、本当だ。キヨハルさんに連絡しとかなきゃ」
トウジにそう言われ、アーサーはアイテムボックスから伝書インコを取り出した。ここのところ出番がなかったインコは、急に明るい場所へ出されて不機嫌そうだ。
「えーっと、インコってジッピンの言葉覚えられるかな…。今から言うこと伝言してね。モノノケ キョウテキ タスケテ」
「モノノケ キョテキ アスケエ」
「ジッピン訛りだけど…キヨハルさんならそれで伝わるはず。伝言お願い」
インコを飛び立させ、アーサーは立ち上がり月下を見た。月下は歓喜の声をあげながらなにか見えないものにかぶりついているように見えた。だが突然ソレは大声をあげて苦しみ始めた。
「うがぁぁぁっ…!ゲホッ…!ガハァッ!!」
「?!」
◇◇◇
「月下。苦しいかい?」
血を吐きながら地面に膝をついた月下に薄雪は目線を合わせて尋ねた。薄雪の首や腕は、血肉を食われて骨が丸見えになっている。白い着物も今では真っ赤に染まっていた。それでも彼は穏やかな笑みを浮かべていた。
「体が…っ!焼けるっ…!ガァッ!アァァッ!苦しいっ!苦しいよ薄雪ィッ…!」
「月下。今のあなたにとって、私の血と肉は毒でしかないのだよ」
「どうじでっ…!僕はごんなに美じぐなっだのにっ…!!ぞれでも僕はまだっ…あなだを食うごどが許ざれないのっ?!」
「逆だよ。もしあなたが何も犠牲にせず私の元へ来たのなら、あなたの体はきっと私の血肉を受け入れたでしょう。でも月下。仲間を食べ、あやかしを食べ、穢れきったあなたの体に私の血肉は清らかすぎる」
「ぞんなばずないっ!!僕ば美じぐなっだ…!良い香りがずるっ…!神と崇められるあやかしをいっぱい食べだ…!僕の体が穢れでるわげないっ!!!」
「…そうですね。私の言い方がまちがっていたかもしれない。穢れではなく、呪いに近い」
「呪い…?」
「あなたに食べられたモノの怒りが、憎しみが、恨みが、あなたに纏わりついている。それに…美しさに囚われ、他のモノを快楽と己の望みのために殺し食い続けたあなたの生命力はひどく濁っているんだ。私がさきほど、以前と随分変わったと言ったのはそういうことを思って発した言葉だよ。幼かった頃と比べようがないほど醜くなっていたあなたに驚いたんだ」
「ぞ…ぞんな…っ。嘘だ…。だっで僕、ごんなに…」
「すまないね月下。私はヒトではないから、外見や顔立ちなんて気にしないんだ」
「うぅっ…うわぁぁん…!うそだぁあっ…!!!今の僕が醜いわけがないっ!!」
月下は薄雪の手を払いのけ、吐血しながら着物の袖を探った。アーサーから奪ったペンダントを取り出し縋り付くように握りしめる。
「ぞ…ぞうだ…。僕にはまだごれがある…っ。ごれを食えばぎっど…!ぎっど薄雪を食えるようになる…っ!」
「ほう、それはまた不思議なモノを持っているね」
「アレが持っでだ…っ!薄雪も気に入っだ…?ずごぐいいでしょ、ごれ…」
「ああ。素晴らしいね。体を失ってもなお、モニカとお兄さんを守ろうとしている」
「ごれ、美じいでじょ…っ?」
「美しい。きっと生前も美しかったんだろう。この感じ…もともとヒトだったのだろうか」
薄雪はペンダントにそっと触れ、悲し気な笑みを浮かべた。
「…あなたも一度はヒトに愛想を尽かしたんだね。それでもあなたはあの子たちを守ろうとしている。…喜代春と同じであなたもヒトを憎みきれないのかい?それともあの子たちは特別なのかな」
「薄雪…!僕っ!ごれ食うがらっ…!!だがらっ!醜いなんて言わないでっ!!」
「おやめなさい。コレをあなたで穢してはいけないよ。きっとあの子にとって大切なモノなのだから」
「穢ずなんでぞんな風に言わないでぇぇえ!!!僕は汚いものじゃない!!綺麗なものなんだぁあっ!!!」
《まったく…。なんだ図体が大人になっただけで中身はあのときと同じガキのまんまじゃねぇか話通じねえなあおい…》
子どものように泣き叫ぶ月下に朝霧が呆れた声を出した。薄雪はそんな月下を抱き上げ、こちらを見ているアーサーを指さした。
「ごらん月下。あの少年を。美しいとはああいうことだよ」
「あんなの…っ!顔がいいだげのガキじゃないがっ…!ぐぞっ…!僕もあんな顔に生まれでだらいじめられるごども…!親に捨でられるごどもながっだ…!仲間を食うごども…!あやがじを食うごどもぜずに幸ぜに暮らじでだ…!ぐぞっ!あいづの顔を見でるだげで腹が立っでぐる…!指を一本ずづ折っで…!ちょっどずづ体を切り落とじでやるっ…!」
「外見のことではないよ。…そうか、あなたは何も見えないんだね。あの子の生い立ちも、あの子が味わってきた苦しみも、あの子の清らかさもなにも見えないんだね」
「ぐぞぉっ…!どうじでおまえが薄雪に美じいと言われるんだぁぁっ!!僕じゃなぐでっ…!どうじでっ!!お前なんで…!お前なんで…殺じでやるぅぅぅうっ!!!」
「っ?!」
憎しみに駆られた月下がゆっくりと起き上がり、血反吐を吐きながらアーサーに襲い掛かった。先ほどまで見えないなにかに気を取られていたソレが突然怒り狂い飛び掛かってきたので、アーサーは驚き一瞬固まったがすぐに剣を構えた。
思いがけず神経を逆なでしてしまった薄雪はぽかんとした顔で怒り狂っている月下を見た。
「おや」
《おい薄雪なにしてんだよボケがぁぁぁっ!!!なんであんなこと言うんだアホか!!あのガキ大丈夫なのか?!》
「本当の美しさを教えてあげようと思ったのに…。気の短い子だねまったく…」
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