【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco

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異国編:ジッピン後編:別れ

【309話】オツユに挨拶

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「今日でおわりかあ…」

「みんなとお別れ、さみしいね…」

アーサーとモニカはしょぼんと俯いた。よほどジッピンが気に入ったのか"最終日"と聞いてぐっと気分が落ちてしまっている。そんな双子にキヨハルが声をかけた。

「アーサー、モニカ。君たちは幸運かもしれない。今日は一年に一度しかおこなわれない春祭りの日なんだ。君たちも祭りに参加して最後の日を楽しみなさい」

「お祭りって外の屋台とか並んでるやつ?」

「ああ。カユボティとヴァジーに連れて行ってもらいなさい」

「ノリスケも一緒が良いなあ…」

「えっ?俺も?」

「付き合ってあげなさい徳助」

「いいんですか?わー、嬉しいな!いっぱい楽しもうな!」

「キヨハルモ イッショニ キテクレル…?」

お祭りと聞いてもアーサーとモニカはまだしょぼんとしていた。モニカが上目遣いでキヨハルにお願いすると、彼は「うーん…」と困ったように笑った。

「私は…その、あまりヒト混みが…」

「行ってあげて」

「命の恩人のお願い」

「聞かないの?」

断ろうとしたキヨハルを、レンゲとムクゲがすかさず引き留める。両端から睨まれたキヨハルは小さくため息をついて「分かったよ…」と言って立ちあがった。

「行こうか」

「ほんとー?!」

「やったー!!」

キヨハルも来てくれると聞いたとたん、アーサーとモニカは満面の笑顔になりハイタッチした。どうやら半分は演技だったようだ。

「まったく…。この子たちには負けるよ」

「してやられましたね、キヨハルさん」

「すっかり命の恩人の言いなりさ」

そのあと彼らは6人で食事をとり(レンゲとムクゲは食べずに二人であやとりをして遊んでいた)、顔を洗った双子を連れてオツユの服屋へ向かった。

久しぶりに来店したバンスティン人に、オツユは静かに微笑んだ。キモノを縫いながら「いらっしゃい」と小さく呟く。キヨハルは彼女の傍に座り微笑み返した。

「今日はどうされましたか?」

「小物は置いているかな?」

「ええ。少しだけですが」

「では、モニカに花の髪飾り、アーサーに扇子を選んでくれないかな?」

「髪飾りと扇子ですね」

オツユはゆったりと立ち上がり、店の奥に置いてある引き出しを開けた。双子をちらちら見ながら小物を選んでいる。しばらくして戻って来たオツユが手に持っていたものは、赤色の大きな花の髪飾りと紺色の扇子だった。

「アーサーにはこの扇子」

「わっ!これキヨハルさんがいつも持ってるやつだー!」

「こうやって開いて、あおぐと風がきて涼しいの」

そう言いながらオツユが扇子をぱたぱたとあおいでみせた。涼しい風が気持ち良く、アーサーは目を瞑り心地よさそうに風を受けた。それを受け取りキヨハルの真似をして帯にさす。

次にオツユはモニカの髪を結い、髪飾りを挿した。鏡に映る自分にモニカは嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねている。

「きゃー!!かわいい髪型と髪飾り!!アリガト オツユ!!」

「銀色の髪と赤い飾りがよく似合うわ」

「モニカかわいいよー!!うわぁーかわいいー!!」

「えへへ、ありがとうアーサー!」

アーサーとモニカはオツユにお礼を言ったあと、お別れのハグをした。ハグに慣れていないオツユはガチガチに固まってしまっていたが、ぎこちなく二人の頭を撫でている。

「アーサー、モニカ。あなたたちの着物を仕立てられて嬉しかったわ。ジッピンにはまた来てくれるんでしょう?」

「ウン!クル!」

「いつになるか分からないけど、きっとまた来るよ!」

「良かった。次来たときもあなたたちの着物を仕立てさせてね」

「ウン!!オツユノ キモノ スキ!」

「僕もだいすき!」

「ふふ。だいすきなんて、そんなこと面と向かって言ってもらったのははじめてだわ。ありがとうね」

オツユとお別れの挨拶を済ませた彼らは、春祭りを楽しむことにした。屋敷前まで戻ったとき、アーサーとモニカがキヨハルにコソコソと話しかける。

「キヨハル キヨハル」

「ん?どうしたんだい?」

「春祭り、レンゲとムクゲとも一緒に行きたいなぁ」

「……」

「ダメ…?」

キヨハルが黙ってしまったので双子はしゅんとした顔で彼を見上げた。その表情を見てキヨハルは、はぁ…とちいさくため息をつく。

「だからヒトの子は好きじゃないんだ…。おねだりが上手でかなわない」

「キヨハルさぁん…」

「…分かったよ。ただし蓮華と蕣とは会話をしてもいけないし視線をやってもいけないよ」

「ワカッタ!!」

「やったぁ!キヨハルさん、ありがとう!」

「カユボティ、ヴァジー。忘れ物をしたようだから少し外で待っていてくれるかな」

「もちろんいいですよ」

画家たちに一言断りを入れ、キヨハルが屋敷へ入って行った。戻って来たときにはうしろにレンゲとムクゲがついてきていた。二人ともモジモジソワソワしており、キヨハルの着物をぎゅっと握っている。アーサーとモニカは座敷童に向かって微笑みかけ、それからは知らないふりをして画家たちと会話を始めた。キヨハルがちらりとあやかしに目をやると、レンゲとムクゲがぼそぼそと呟いた。

「春祭り、はじめて」

「ヒトと出かけるの、はじめて」

「…たのしみ」
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