【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco

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初夏編:田舎のポントワーブ

【347話】モルくん

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部屋の隅で三角座りをしているアーサー、もとい、アンジェラちゃんを放っておいて、次はカトリナがモニカに服を差し出した。白いダボっとしたコットとオーバーオール、そして短髪の黒髪カツラ。

「さてモニカ。次はあなたの番よォ。もう察してるとおもうけど、あなたは男の子に変装してもらうわァ」

「きゃーーー!!やってみたいやってみたい!!」

「あなたはカミーユと私の息子という設定よォ。だから私と同じ黒髪のカツラ。田舎っこだからオーバーオールを着ているの。名前は…モルはどうかしらァ?」

「モル!!かわいいー!!」

アーサーとは違い、モニカは大はしゃぎで着ている服を脱いだ。それに、言われてもいないのにアーサーの下着に履き替える。やるなら完璧に男の子になりたいようだ。

「モニカ。今も布を巻いて胸を隠しているのね。もう少しきつく巻き直していいかしら?」

「うん!お願いします!」

「はぁい。アーサー、手伝ってくれるかしらァ?」

「……」

アーサーはちらりとカトリナを見て、返事をせずに頬を膨らませた。こんな格好をさせられたことを怒ってるんだぞと必死に目で訴えている。カトリナはしばらく考えるそぶりを見せたあと、困ったように笑いアーサーに声をかけた。

「アーサー。私がただ面白がってアーサーにその恰好をさせたと思ってるのかしらァ?」

「だってそうなんでしょ…?」

「うーん…。あんまり言いたくなかったんだけど、そのまま不機嫌でいられちゃったら可愛いアンジェラちゃんが台無しだから白状するわァ」

「…?」

「ベニートに聞いたわ。あなたたちの噂が王都で流れているんでしょう?」

「…っ」

予想外の話題が出てきて双子は思わず目を見合わせた。カトリナはモニカの胸に布を巻きながら話を続ける。

「その噂はまだ情報通の上級冒険者しか知らないものよ。でもいつ広がってあなたたちの命が危なくなるか分からない。あなたたちの正体がバレて、変装しなきゃいけないときが来るかもしれない。ポントワーブを離れて隠れて暮らす日もそう遠くないと私は思っているわ」

「そ…そんな…」

「そしてそうなったとき、あなたたちが怪しまれないように今から架空の人物を作りこんでおくのよ。そのための変装なの。分かった?アーサー」

「カ…カトリナごめんなさい。僕、カトリナがそこまで考えてくれてるなんて気付いてなくて…。本当にごめんなさい」

「いいのよォ。先に説明していなかった私が悪いんだから。じゃあ、ちゃんとアンジェラちゃんしてくれるかしら?」

「うん!僕、がんばってアンジェラちゃんになる!」

「いい返事ねェ。約束よ?」

「約束する!」

「いい子ねェ。前言撤回しない?」

「しない!」

「分かってくれて良かったわァ。まあ、1年で女装できなくなるでしょうし結局はモルの恰好で変装しなきゃならなくなるでしょうけど」

「え?」

「さ、分かったならモニカの着替えを手伝ってちょうだいアーサー」

「…結局モルに変装するんだったら、僕がアンジェラちゃん頑張る必要ないんじゃ…?」

「前言撤回しないんでしょう?」

「ぐぬぬ…」

「アーサー!はやく手伝ってよぉ!」

「わ、分かったよぉ!」

カトリナに半ば無理矢理言いくるめられ、アーサーは観念してモニカの変装を手伝った。モニカは胸をそれはもうきつく締め付けられ息苦しそうだ。コットとオーバーオールを着て、化粧を落としカツラを被ったモニカは、とても顔立ちの良い男の子に仕上がった。モニカははしゃいでクルクル回りながらアーサーに感想を求める。

「アーサー、どう?!」

「すっごく良い感じ!!誰もモニカだって分からないよ!!」

「男の子に見えるー?!」

「男の子にしか見えないよぉ!!わぁぁ!お兄ちゃんができた気分!!」

「気に入ってもらえてよかったわァ。じゃあ、カミーユたちにお披露目しにいきましょうか」

「「うん!!」」

アーサーとモニカ…アンジェラとモルは手を繋いでドアの前に立った。カトリナが鍵を開けると、モニカは飛び出してカミーユたちの前で「じゃーーん!!」と両手を広げて見せた。アーサーはやはりまだ恥ずかしいのか、モニカのうしろに隠れてモジモジしている。二人を見たカミーユは、ジトっとした目でカトリナを見た。

「カトリナおまえなぁ…」

「あら、似合ってるでしょう?」

「似合ってるのがいたたまれねえんだよっ」

「あああ…男の子の恰好したモニカだ…」

「ギャハハハハ!!アーサーはなんで黄色のヒラヒラがそんな似合うんだぁ?!めっちゃくちゃかわいいじゃねーか!!ギャハハハ!!!」

変装した双子を目にして、ジルは鼻血を流しながら机に頭を打ち付け、リアーナは指をさして大声で笑った。ベニートは口をあんぐり開けて「お、おまえら本当にアーサーとモニカか…?」とプルプル震えている。ベニートの反応が面白くて、アーサーとモニカは目を合わせて楽し気に笑った。

「ベニート!僕たち変装上手?!」

「上手どころじゃない。まるで別人だぞ…」

「カトリナがね、大変身させてくれたのー!似合ってるー?!」

「似合ってる…。おかしなくらい似合ってる…」

「僕変じゃない?!」

「意味が分からないくらい変じゃない…」

「きゃはは!よかったねアーサー!!」

「うん!恥ずかしいけど、ちゃんとアンジェラがんばるよ!」

「うん!私がお兄ちゃんになって、いっぱいアンジェラを甘やかしてあげるからね!」

「わー、僕、お兄ちゃんいないからちょっと嬉しいかも…!」

「えへへー!!」

アンジェラとモルがじゃれ合っているところを見て、大人たちは思わず口元を緩めている。この健気な子どもたちがなんの憂いもなく笑える日が来ることを、心の底から願いながら。
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