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初夏編:田舎のポントワーブ

【346話】アンジェラちゃん

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「カ…カトリナ…?それ…モニカのだよ…?」

「うーん、そのつもりだったんだけどねェ。あなたたちが入替っこしてるのを見て、逆のほうが良いと思ったの」

部屋に招かれたアーサーとモニカは、カトリナが大きな紙袋を開くところをそわそわしながら眺めていた。カミーユが"アーサーに似合う変装だ"と言っていたので、どんなものだろうと想像を巡らせていたのだが…。

カトリナが取り出したのは、オフショルダーの丈の短いワンピースだった。

それを見た瞬間アーサーは一目散にドアに向かって走った。だが、ドアノブを掴んで回すもドアは開かない。

「えっ、あれっ!どうして開かないのっ?!」

「鍵をかけたからよォ」

「ひぅっ…」

背後から肩に手を置かれ、耳元でカトリナが囁いた。あの美しく細長い華麗な指とは思えないほど肩を握る力が強く、アーサーが逃げ出そうとしても一歩も動けない。カトリナはそのままアーサーの脇下に手を挟み、軽々と持ち上げて部屋の中央へ連れ戻した。そこで待っていたモニカはワンピースとアーサーを交互に見て目をキラキラさせている。

「アーサー!とってもかわいいよこのワンピース!アーサーに似合うよぉかわいいよぉ!!」

「夏らしい黄色のワンピースよ。風になびくと花びらのようにヒラヒラするのよォ。腰元のリボンがお気に入りなの」

「待ってよ!!アビーの時はこんなに肌を見せるような服装じゃなかったよ?!」

「アビーは貴族で清廉なお嬢様を意識したから、脚を出すような服は着せたことなかったわねェ。でも、今回は田舎のかわいらしいお嬢さんになってもらうわ。だからちょっぴり丈が短いのォ。あ、あと今回はこのカツラをつけてね」

カトリナはそう言いながら、金髪カツラを差し出した。髪の長さはアビーのときより短く、顎のあたりまでのボブヘアーだ。

「あなたはリアーナとジルの娘という設定よォ。名前は…そうねえ。アンジェラちゃん」

「アンジェラちゃん…」

「学院に行って少し体つきががっしりしちゃったけど、それでも手足は細くて長いしお肌もきれいよ。あともうしばらくは女の子の格好ができるわ。そうね…あと1年くらいは」

「ええー!!アーサーの女の子の姿見れるのあと1年だけなのぉ?!」

「ええ。小柄と言っても年々体つきが男の子らしくなってきてるもの。あと1年が限界ね。トロワのことも考えていかなきゃいけないわねェ…。ま、それは追々考えていきましょ。今はその余命少ない女の子姿のアーサーを楽しまなきゃ。さ、おいでアンジェラちゃん?着替えましょうねェ?」

「カ…カトリナ。モニカの服たくさん持ってきてるんだけど、それじゃダメ…?」

「ダメよ。あなたたちの持ってる服、最近じゃ良い物しかないでしょう?田舎娘はそんなオシャレで生地の良い服は着ないのよォ」

「アーサー脚きれいだから大丈夫よ!」

「似合うかどうかの問題じゃないよぉ!さすがに恥ずかしいよこんな格好!!」

「アビーとそんなに変わらなくない…?」

「全然ちがう!!僕にとっては全然ちがうの!!」

「ふぅ」

アーサーとモニカのやり取りを傍で聞いていたカトリナが小さくため息をついた。駄々をこねているアーサーに真顔で近づき着ていたコットをはぎ取った。突然のことにアーサーは驚いて固まってしまっている。それをいいことに、カトリナは身に着けていたカツラとスカートも剥ぎ取り、アーサーはあっという間に下着一枚になってしまった。

「よし、これでいいわァ。あとはワンピースを着るだけね」

「楽しみ楽しみー!!」

「……」

いまだフリーズしているアーサーに、カトリナとモニカがワンピースを着せようとした。そしてやっと正気に戻ったアーサーは、ドアをガタガタ鳴らしながらドアの向こうにいるカミーユたちに助けを求める。

「わぁぁぁぁ!!!カトリナやめてぇぇっ!!やだぁぁぁっ!!」

「こらこらアーサー。暴れちゃダメじゃない」

「ここから出してぇぇぇっ!!!カミーユ!カミーユぅぅぅっ!!!」

「いくらドアノブをまわしたって無駄よォ。鍵をかけているんだから」

「カミーユのうそつき!!カミーユのうそつきぃぃぃっ!!!」

「アーサーはやく着てよぉ!絶対似合うよ!!」

「どうして今更そんなにいやがるのかしらァ」

「不思議だねー」

必死の抵抗もむなしく、半時間後にはアーサーは黄色いワンピースを着た可愛らしい女の子に変身していた。女の子らしいフニフニさがないのは残念だが、小柄で手足も細く、パッと見たくらいでは男の子だとはバレないだろうとカトリナは満足げだ。また、カトリナの化粧術は相変わらず素晴らしく、アビーとはまた違った、そばかすがチャームポイントのかわいらしい女の子の顔になった。アーサーは内またでモジモジしながらカトリナに訴えた。

「カトリナぁ…。やっぱりスカート短いよ…。スースーして変な感じがする…」

「そうねえ。風にスカートをめくられないように気を付けないとねェ」

「めくられても大丈夫なように、私の下着を付けたらいいわアーサー!」

「や、やだよぉ!!」

「あら。それはいいわねェ。モニカ、あまりの下着あるかしら?」

「あるよー!」

「や…カトリナ…わっ、わぁぁぁーーー!!!」

「ふふ。ここは10歳の頃と変わらないわねェ。これだったら万が一風にスカートをめくられても心配ないわ」

「はいアーサー!わたしの下着!」

「履かないよ?!」

「じゃあ私が履かせてあげるわねェ」

「カ…カミーユゥゥゥ!!!助けてぇぇぇっ!!!!」

アーサーの必死の叫びもむなしくカミーユは助けに来てくれなかった。むしるように下着をはぎとられ、代わりにモニカの下着を付けさせられたアーサーは、恥ずかしさのあまりちょっぴり泣いた。
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