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初夏編:田舎のポントワーブ
【355話】叱られてばかり
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「いたぞ」
足音を立てず移動していた彼らは、カミーユの合図で木の陰に隠れた。アーサーとモニカが魔物の姿を見ようと首を伸ばすと、カミーユとジルが彼らの頭を押さえて怖い顔をした。声を出せないので、口の動きだけで二人を叱る。
《隠れてくれる?!》
《バレるだろうがバカ!!》
《ご、ごめんなさいぃ…》
ちらりとだけだが双子はダイアウルフの姿を見ることができた。カミーユを軽々と背中に乗せられそうなほどの巨大な体。全身を覆う深い群青色の毛は夜に溶け込んでおり、ギラギラした黄色い瞳が宙に浮かんでいるように見えた。
気配を感じたのか、ダイアウルフは頭をもたげて牙をむきだし唸り声を上げた。その声は低く、遠くから聞こえる雷鳴のようだった。モニカは思わず「ヒッ」と声をあげてジルにしがみついた。
内容までは分からないが、アーサーはカミーユたちが会話していることに気付いた。微かに漏れる息の音もしないので、おそらく声を出さずに唇の動きだけでやりとりしているのだろう。
(便利だなあ。僕とモニカもできるようになれないかな…)
話し合いが終わったのだろう、リアーナがこくりと頷きモニカの肩を叩いた。杖をちらちらを振り、ダイアウルフがいる方向を指さす。森へ入った時に聞いた作戦をするのだと分かったモニカは頷き、ブナの杖を取り出した。
《おお、やっと我の出番か。昨日は我を使わずに魔法をつかいおって》
杖の声にモニカはにっこり笑い、構える前にぎゅっと抱きしめた。その瞬間杖がポワッとほのかに光ったので慌てて服の中に隠す。杖も慌てて、めずらしく素直に謝っていた。杖の光がおさまってから、モニカはダイアウルフに杖を向けた。
リアーナがモニカに目で合図し、二人同時に杖を振る。瞬く間にダイアウルフを氷の壁が囲み、それは身動きが取れなくなった。突如現れた壁にダイアウルフは混乱し、助けを求めて野太い遠吠えをした。地面が揺れるほどの大声量にカミーユたちは耳を塞ぐ。
「きゃっ」
「ぐっ…!うるせぇ…っ」
「仲間が来るよ。気を付けて」
「アーサー、お前は俺とダイアウルフの親玉を倒す」
「わかった!」
「カトリナ、ジルはもうすぐ来る仲間の群れを頼む。リアーナとモニカは二人の援護だ。いいな?」
「あいよ!モニカ、ダイアウルフは魔力を吸収したら強くなる。つまりあたしらの魔力はあいつらにとってエサでしかない。だから絶対に当てんじゃねえぞ」
「うん!」
「じゃ、私ちょっと移動するわねェ」
カトリナはそう言って、近くの木にひょいと登り太い枝に腰かけた。遠くを眺めて「来たわァ」と呟きニッコリ笑う。
「小さなダイアウルフが50匹ほど」
「50匹か。まあ、この小さい森じゃそのくらいだね」
「リアーナ、モニカ。ダイアウルフの仲間が来たら、僕とカトリナが一度に10匹以上相手にしなくていいように壁を作って。10匹の始末が終わったら壁を作り直してっていうのを全滅させるまで繰り返してほしい」
「あいよ!じゃああたしはカトリナの壁係な!モニカはジル係だ!」
「はーい!」
「はは。わりと無茶なこと頼まれてんのに"はーい"だとよ。あいつらにとっては朝飯前か」
「じゃないとこんなこと頼まないよ」
「心強いったらねえぜ。…じゃ、アーサー。行くぞ」
「うん!」
アーサーは剣を抜き「準備オッケー!」と親指を立てた。カミーユと共闘するのが初めてでワクワクしているようだ。巨大な魔物を前にしても目を輝かせているアーサーに、カミーユはケタケタ笑った。
「なんだアーサー!おまえやけに嬉しそうだなあ」
「うん!だってカミーユと一緒に戦えるんだもん!」
「俺も実はちっと楽しみだ。おまえの弓技と剣技、頼りにしてるぜ」
「っ!」
カミーユの言葉に、アーサーの全身にぶわっと鳥肌が立った。約2年前、アーサーとモニカが魔女に能力を奪われたときは、二人はカミーユたちにしがみついて守られるだけの存在だった。それからカミーユたちから特訓を受け、学院で武術や魔法を学び、ダンジョンで実践を重ねてきたアーサーとモニカ。守るべきものなのは変わらないが、カミーユたちは今や二人を戦力として認識している。
"頼りにしてる"ー…。S級冒険者の中でも最も有名といわれているカミーユにそんな言葉をかけられ、鼓舞されない冒険者なんていないだろう。アーサーも多分に漏れず、その一言だけでいつもの100倍力が湧いてくるようだった。
「任せてカミーユ!僕、ぜったいがんばる!!」
「お前が怪我したら俺がジルに殺されるから、絶対に無理すんなよ」
「ぜったいケガしない!!」
「よし、じゃあアーサーはまずダイアウルフの目玉に弓を射てくれ。あの巨体が怯むくらいどぎつくな」
「わかった!!」
「ダイアウルフは毛も硬ければ体自体も硬い。お前の腕力じゃ全力でやらねえと傷負わせらんねえから心してかかれよ」
「はい!!」
「いくぞ」
「わっ」
必要なことを伝え終えたカミーユは、いつの間にか氷の壁の上に立ってた。まだジルたちの近くで突っ立ったままだったアーサーは慌ててカミーユのあとを追う。高い、しかも氷でできている壁の上にどうやって登ったのか分からず、困ったアーサーは壁の外からカミーユを呼んだ。
「カ、カミーユぅ!どうやって登るのぉ?!」
「近くの木に一旦登ってそっから飛び移れ」
「あっ!なるほどぉ!」
登り方を聞いたアーサーはひょいひょいと木を登り壁に飛び移った。着地した時に氷の床で滑ってしまったが、カミーユに襟首を掴まれ壁から落ちずにすんだ。その様子を見ていたリアーナはヒューと口笛を吹く。
「やるじゃんアーサー!普通やり方聞いたって簡単にできねえぞ」
「基礎能力値がびっくりするほど高いんだろうね」
「床滑ってたけどな!ぎゃはは!」
「ちょっと決まらないところもかわいい」
「アーサー!がんばってねー!!」
モニカの声援が聞こえ、アーサーは振り返り妹に向かってニカっと笑い親指を立てた。モニカも兄にグーサインをしていると、アーサーはカミーユに、モニカはリアーナに頭を掴まれ「集中しろぉ!」と叱られた。
足音を立てず移動していた彼らは、カミーユの合図で木の陰に隠れた。アーサーとモニカが魔物の姿を見ようと首を伸ばすと、カミーユとジルが彼らの頭を押さえて怖い顔をした。声を出せないので、口の動きだけで二人を叱る。
《隠れてくれる?!》
《バレるだろうがバカ!!》
《ご、ごめんなさいぃ…》
ちらりとだけだが双子はダイアウルフの姿を見ることができた。カミーユを軽々と背中に乗せられそうなほどの巨大な体。全身を覆う深い群青色の毛は夜に溶け込んでおり、ギラギラした黄色い瞳が宙に浮かんでいるように見えた。
気配を感じたのか、ダイアウルフは頭をもたげて牙をむきだし唸り声を上げた。その声は低く、遠くから聞こえる雷鳴のようだった。モニカは思わず「ヒッ」と声をあげてジルにしがみついた。
内容までは分からないが、アーサーはカミーユたちが会話していることに気付いた。微かに漏れる息の音もしないので、おそらく声を出さずに唇の動きだけでやりとりしているのだろう。
(便利だなあ。僕とモニカもできるようになれないかな…)
話し合いが終わったのだろう、リアーナがこくりと頷きモニカの肩を叩いた。杖をちらちらを振り、ダイアウルフがいる方向を指さす。森へ入った時に聞いた作戦をするのだと分かったモニカは頷き、ブナの杖を取り出した。
《おお、やっと我の出番か。昨日は我を使わずに魔法をつかいおって》
杖の声にモニカはにっこり笑い、構える前にぎゅっと抱きしめた。その瞬間杖がポワッとほのかに光ったので慌てて服の中に隠す。杖も慌てて、めずらしく素直に謝っていた。杖の光がおさまってから、モニカはダイアウルフに杖を向けた。
リアーナがモニカに目で合図し、二人同時に杖を振る。瞬く間にダイアウルフを氷の壁が囲み、それは身動きが取れなくなった。突如現れた壁にダイアウルフは混乱し、助けを求めて野太い遠吠えをした。地面が揺れるほどの大声量にカミーユたちは耳を塞ぐ。
「きゃっ」
「ぐっ…!うるせぇ…っ」
「仲間が来るよ。気を付けて」
「アーサー、お前は俺とダイアウルフの親玉を倒す」
「わかった!」
「カトリナ、ジルはもうすぐ来る仲間の群れを頼む。リアーナとモニカは二人の援護だ。いいな?」
「あいよ!モニカ、ダイアウルフは魔力を吸収したら強くなる。つまりあたしらの魔力はあいつらにとってエサでしかない。だから絶対に当てんじゃねえぞ」
「うん!」
「じゃ、私ちょっと移動するわねェ」
カトリナはそう言って、近くの木にひょいと登り太い枝に腰かけた。遠くを眺めて「来たわァ」と呟きニッコリ笑う。
「小さなダイアウルフが50匹ほど」
「50匹か。まあ、この小さい森じゃそのくらいだね」
「リアーナ、モニカ。ダイアウルフの仲間が来たら、僕とカトリナが一度に10匹以上相手にしなくていいように壁を作って。10匹の始末が終わったら壁を作り直してっていうのを全滅させるまで繰り返してほしい」
「あいよ!じゃああたしはカトリナの壁係な!モニカはジル係だ!」
「はーい!」
「はは。わりと無茶なこと頼まれてんのに"はーい"だとよ。あいつらにとっては朝飯前か」
「じゃないとこんなこと頼まないよ」
「心強いったらねえぜ。…じゃ、アーサー。行くぞ」
「うん!」
アーサーは剣を抜き「準備オッケー!」と親指を立てた。カミーユと共闘するのが初めてでワクワクしているようだ。巨大な魔物を前にしても目を輝かせているアーサーに、カミーユはケタケタ笑った。
「なんだアーサー!おまえやけに嬉しそうだなあ」
「うん!だってカミーユと一緒に戦えるんだもん!」
「俺も実はちっと楽しみだ。おまえの弓技と剣技、頼りにしてるぜ」
「っ!」
カミーユの言葉に、アーサーの全身にぶわっと鳥肌が立った。約2年前、アーサーとモニカが魔女に能力を奪われたときは、二人はカミーユたちにしがみついて守られるだけの存在だった。それからカミーユたちから特訓を受け、学院で武術や魔法を学び、ダンジョンで実践を重ねてきたアーサーとモニカ。守るべきものなのは変わらないが、カミーユたちは今や二人を戦力として認識している。
"頼りにしてる"ー…。S級冒険者の中でも最も有名といわれているカミーユにそんな言葉をかけられ、鼓舞されない冒険者なんていないだろう。アーサーも多分に漏れず、その一言だけでいつもの100倍力が湧いてくるようだった。
「任せてカミーユ!僕、ぜったいがんばる!!」
「お前が怪我したら俺がジルに殺されるから、絶対に無理すんなよ」
「ぜったいケガしない!!」
「よし、じゃあアーサーはまずダイアウルフの目玉に弓を射てくれ。あの巨体が怯むくらいどぎつくな」
「わかった!!」
「ダイアウルフは毛も硬ければ体自体も硬い。お前の腕力じゃ全力でやらねえと傷負わせらんねえから心してかかれよ」
「はい!!」
「いくぞ」
「わっ」
必要なことを伝え終えたカミーユは、いつの間にか氷の壁の上に立ってた。まだジルたちの近くで突っ立ったままだったアーサーは慌ててカミーユのあとを追う。高い、しかも氷でできている壁の上にどうやって登ったのか分からず、困ったアーサーは壁の外からカミーユを呼んだ。
「カ、カミーユぅ!どうやって登るのぉ?!」
「近くの木に一旦登ってそっから飛び移れ」
「あっ!なるほどぉ!」
登り方を聞いたアーサーはひょいひょいと木を登り壁に飛び移った。着地した時に氷の床で滑ってしまったが、カミーユに襟首を掴まれ壁から落ちずにすんだ。その様子を見ていたリアーナはヒューと口笛を吹く。
「やるじゃんアーサー!普通やり方聞いたって簡単にできねえぞ」
「基礎能力値がびっくりするほど高いんだろうね」
「床滑ってたけどな!ぎゃはは!」
「ちょっと決まらないところもかわいい」
「アーサー!がんばってねー!!」
モニカの声援が聞こえ、アーサーは振り返り妹に向かってニカっと笑い親指を立てた。モニカも兄にグーサインをしていると、アーサーはカミーユに、モニカはリアーナに頭を掴まれ「集中しろぉ!」と叱られた。
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