【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco

文字の大きさ
371 / 718
合宿編:一週目・ご挨拶

【390話】落下訓練

しおりを挟む
合宿2日目。子どもたちはシリル、クラリッサ、ライラ組、アーサー、モニカ、ダフ組に分けられた。アーサー組は庭での特訓だったが、シリル組は森の中へ連れて行かれる。魔物まみれの森だということは足音や唸り声ですぐに分かった。

(魔物相手に特訓するのかな?)

(んひいいいっ…ここの魔物強そうっ…た、倒せるかなあ)

(魔物相手に戦ったことがないわ…。役に立てるかしら…)

「よし、着いたぞ!」

「ん~、良い風だわァ」

リアーナとカトリナが立ち止まったのは、海風が心地よいひらけた場所だった。景色が良く、地平線がよく見える。ピクニックとして遊びに来ていたのなら、ここでシートを敷いてサンドイッチを食べていただろう。

「わぁぁぁ!!!」

「きれい!わたしの領土には海がないから新鮮だわ!」

「僕もこの景色好きだな」

「特訓するにはうってつけだな!!!」

「「「……」」」

リアーナの一言に3人の目が死んだ。あまりに綺麗な景色に現実を一瞬忘れていた。そうだ僕たちはここに特訓しにきたんだ…と思い出し、おそるおそるリアーナに目をやった。リアーナはニカァっと笑い、杖をビシッと生徒たちに向けた。

「これからおまえらの瞬発力と判断力を鍛えるぞ!打ち所が悪ければ痛み耐性もな!」

「…?」

「一度に10体の魔物を倒せば次の段階に進むわねェ」

「一度…?」

「得意な武器で戦ってくれ!あ、シリルは短剣をいくつか持っといた方が良いぞー」

「あ、はい。分かりました…?」

「何十回もやってたら飽きて来たり慣れて来たりするだろうから、いろいろバリエーションは考えてんだ~!それはのちのちのお楽しみー!」

「あ、あの、私たちなにをしたら…」

「着地するまでに10体の魔物を倒すこと。単純でしょう?」

「着地???」

「じゃ、いくぞー」

「はい、おねがいしまァす」

「ちょ、ちょ、え、ちょっ?!」

頭上にクエスチョンマークが山ほど浮かんでいる生徒たちを、リアーナはひょいと柔らかい風魔法で宙に浮かせた。風魔法はどんどん高度を上げていき、止まった頃には森の木々のてっぺんが5メートル下にあった。いやな予感がした3人はお互いにしがみついて震えている。

「な、なにする気…」

「う、うそ、うそでしょ」

「わ、わぁぁぁぁ!!!!」

予想的中。風魔法が解け3人は森に向かってまっさかさまに落下する。彼らの叫び声は庭で訓練をしていたアーサーたちにも聞こえるほどだった。

落下中、シリルが真っ先に我に返った。

(そ、そういうことか!着地するまで…つまり落下中に3人で魔物を10体倒す訓練だ!だから僕に短剣を持たのか!遠距離攻撃ができるように…!)

ほぼ同時にライラもおたおたと弓を構えた。

(い、射なきゃっ!10体射なきゃ!!)

シリルが短剣を投げ、ライラが弓を射ていることに気付きクラリッサが慌てて杖を構えた。着地するまでに、シリルは短剣を2本投げて2体の魔物に当て、ライラは3本の矢を射て1体に当てた。クラリッサは炎魔法で3体を丸焦げにしたが、6体ともまだ息があった。

「ふぎっ!」

「きゃんっ!」

「ぶぅっ!」

魔物を倒すことに集中しすぎて着地することまで頭が回っていなかった。3人は思いっきり地面に体を打ち付けた(ライラにいたっては頭を打った)。幸いにも地面が柔らかい土だったので、骨にひびが入るだけで済んだ。痛みに弱いクラリッサはゼェゼェと息を荒げ、シリルは苦しそうに呻き、ライラはケロっとしている。そんな彼らの元へリアーナとカトリナが歩いてやってきた。

「おー!見事にみんな着地失敗か!!」

「まあ、6体当てたのねェ。…でも残念。すべてまだ息があるわァ。でも、一度目にしては上出来ね」

リアーナとカトリナは傷ついた魔物を確認したあと、3人にエリクサーを飲ませた。エリクサーを一気飲みしながら、生徒たちは心の中で絶叫していた。

(な、なんだこの特訓は?!下手したら死んじゃうじゃないか!!!それを説明もなしにする普通?!鬼畜の所業!!鬼畜の所業だよこれ!!)

(びびびびびっくりしたよぉぉぉっ!こんな特訓今までしたことない!!で…でも、こわいけど、ちょっとワクワクするかも…。でも前もって説明はしてほしかった…こわかった…)

(生きてるのが不思議なくらいだわ!!!なんてことをするのこの方たち!!そもそも落下している短時間で魔物を10体も倒せるわけないでしょう?!)

(…3人で10体。一人約3体か。さっきは短剣を2本投げるので精一杯だった。次は3本投げられるようにしよう。最終的に4本投げられるように…)

(…また矢を外しちゃった。次は全部の矢が当たるようにがんばるぞぉ…。あと、着地のことも考えないと…)

(…炎魔法の威力が弱すぎたわ。もっと強く放たなきゃだめね。遠距離型のわたしとライラが多めに倒さなきゃ、シリルには不利すぎる特訓だわ。フォローしないと)

恨めし気にS級冒険者を睨んでいた生徒たちは、いつの間にか考え込んで次のことを考えていた。もっと騒がれたり文句を言われると予想していたカトリナとリアーナはキョトンとして目を合わす。

「へえ。やるじゃん」

「驚いたわァ。現状を受け入れるのが早いわねェ」

「さすがはあたしらが選んだやつらだな!」

「ええ。教え甲斐がありそう」

「面白くなってきた!」

それからも生徒たちは何度も何度も空高くから落とされた。ときに骨を折り、ときに気を失いながらも彼らは食らいついていく。マンネリ化を防ぐためといって、5回に一度は海へ落とされた。着地に関しては森よりも心配がいらないが、海の中は魔物まみれ。海水を含んだ重い服で浜辺まで泳ぎ体力をゴッソリ奪われる。ビショ濡れになったあとの落下特訓は、うまく体が動かなくて苦戦した。

落下特訓30回目。海から上がってきたクラリッサが「森へ戻りたくない」と駄々をこね木にしがみついて離れなくなった。そんな彼女をシリルとライラが引きずり戻す。

落下特訓50回目。シリルがトイレからなかなか戻ってこなかった。様子を見にきたライラに気付き、シリルは一目散に逃げだした。ライラが慌てて追いかけ捕まえると、「しばらくここにいさせてよぉぉぉ」と半べそをかいた。(容赦なくライラは森へ引きずっていった)

落下特訓100回目。日が暮れかけた頃、ボロボロになった3人は無言で顔を見合わせ頷いた。リアーナとカトリナが気付いた頃には、彼らは森の奥へ逃走していた。

リアーナはケタケタ笑いながら3人に向かい風の風魔法を放った。が、本気で逃げたいクラリッサの渾身の反属性魔法で綺麗に打ち消される。さらに土魔法で壁を作り行く手を阻んだ。

カトリナは軽やかに壁を登り、そこから彼らに弓を引いた。次々と振ってくる矢の海を、なんとしてでも逃げたいシリルが弾き落とす。その間にライラがカトリナに3本同時攻撃を3回連射した。そのうちの一本を手で掴み、カトリナは「あらまぁ」と嬉しそうに呟いた。リアーナも壁にのぼり、必死に逃走するシリルたちを眺めてゲラゲラ笑った。

「なんだあいつら!まだまだ元気じゃん!!」

「良い連携だったわァ。クラリッサの反属性魔法素晴らしかったわね」

「おう!!シリルとライラも良い動きしてたな!!」

「ええ。とっても」

合宿記録:カトリナ--------------

シリル、ライラ、クラリッサ組。合宿2日目。落下訓練。最高成績8体(シリル2、ライラ3、クラリッサ3)。訓練回数100回目にて逃走。逃走時の連携は胸が躍るほど素晴らしかった。クラリッサは反属性魔法でリアーナの風魔法を完全相殺。シリルは私の矢10本から味方を守った。ライラは私に9本の矢を射る。そのうちの一本は確実に急所に向けて放たれていた。
アーサーとモニカほどの我慢強さや根気はないけれど、きっとそのうち慣れてくれるはず。

---------------------------------
しおりを挟む
感想 494

あなたにおすすめの小説

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

余命半年のはずが?異世界生活始めます

ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明… 不運が重なり、途方に暮れていると… 確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。