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画廊編:再会

開店初日

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午前10時。画廊"夢見"のショーウィンドウに張られていた赤い布が外される。突如現れた異国の芸術品が飾られた店に通行人が立ち止まる。ふいと顔を背け再び歩き出す人もいれば、そろそろとショーウィンドウに近づき飾られた商品をじっと眺める人もいた。アーサーとモニカは緊張した面持ちで彼らの様子をうかがっている。

「ううう…。なかなか中に入ってきてくれないよぉ…」

通行人の視線はたくさん感じるが、1時間経っても店内に人が入ってこない。モニカは簪をぎゅっと握りながらしょんぼりと呟いた。

「ふむ。しかし思った以上に通行人の興味をそそっているね。ルアンは店が多い。目にもとまらない店もたくさんある。だがここを通る人全員がショーウィンドウを一度は見ているね」

「あまりに見慣れないものだから入りづらいんだろう。それに…値段がかわいくないし」

「確かに。気軽に入れる雰囲気ではないだろうね」

「ルアンの住人でも簪や雑貨くらいなら買えると思うんだが…」

「買えんことはないが、髪飾りに金貨5枚出すのはやはり金持ちか貴族くらいだろう」

「ああ、確かに」

「気長に待つしかないさ」

「ねえ、ヴァジー、カユボティ」

「ん?」

大人2人が話していると、アーサーとモニカが近づいてきた。

「やっぱりお店に入ったら、商品を買わないといけないの?」

「そんなことはないよ。ここは画廊だから。買ってもらえるのが一番いいけれど、芸術作品を鑑賞する目的で入ってもらってもなんら問題はない」

「買ってもらえるのが一番いいけれどね」

「じゃあ、興味持ってくれてる人に声をかけて入ってもらってもいい?!」

「ほう。アーサーとモニカが客寄せをすると?」

「うん!!」

「やるね君たち。店内に客がいると通行人も入ってきやすい」

「ってことは、いいってこと?!」

「ああ。是非そうしてほしいね」

「異国の服に身を包んだ可愛らしい子どもに声をかけられるなんて、ルアンの人たちはきっとそういうのが好きだよ」

「ついでにジッピンのおもちゃを手に持っていきなさい」

カユボティは、モニカにマリというジッピンのボールを、アーサーにハゴイタと呼ばれるジッピンのラケットを持たせた。双子はそれを手に取り、ドキドキしながら店を出る。

「わっ」

足を止めてショーウィンドウを覗いていた人たちが、店から出てきた双子を見て驚きの声をあげた。ショーウィンドウに飾られている異国の服に身を包んだ彼らは、バンスティン人であるにもかかわらずその服を着こなしている。ひとりの子どもがモニカを指さしてキャーと嬉しそうな歓声をあげた。

「おかあさん!みてー!かわいいーー!!」

「しーっ!人を指さしちゃいけないでしょっ」

「おはようございます!よかったら店内をのぞいてみませんか?」

「ジッピンという異国の芸術作品がたくさん飾ってありますよ」

「え…で、でも…」

「おかあさん!はいりたいー!!」

「しーっ!おかあさんじゃ買えない金額なんだから静かにしてっ」

「見ていくだけでも大丈夫ですよ!」

「素敵な作品ばかりなので、是非見て行ってください!」

「え…で、でも…」

「おかあさーん!!はいろー!!」

「…ほ、本当に買わなくてもいいんですか…?」

「はい!」

「僕たち、異国にはこういった芸術があるんだってことを知って欲しいんです!」

「そ、そう…?じゃあ、見るだけなら…」

「みなさんもぜひお立ち寄りください!」

「ご希望であれば作品の解説もさせていただきます!」

子連れの夫婦が遠慮がちに入店したのを見て、他の通行人も「ほ、本当に買わなくていいんだな…?」と念を押してから店の中へ入っていった。さすがルアンに住む人たちなだけあり、芸術に興味がある人たちばかりなようだ。彼らは好奇心に勝てず次々と入店した。

「おっと…突然客が増えた」

「アーサーとモニカが外へ出てまだ5分しか経っていないよ?すごいな」

「客層からして購入はしてくれないだろうが…噂が立てばおいしいね」

「皮肉なことに僕たちの展覧会より客が来てるよ」

「その上好評のようだね。ふーむ。複雑な気分だ」

「これから僕たちの展覧会もアーサーとモニカに客寄せをしてもらおう」

「はは。それはいい」

「…そろそろアーサーとモニカだけじゃ手が回らなくなってきたね。僕たちも行こうか」

「ああ。そうしよう」

2階で様子を見ていたカユボティとヴァジーは、客が増えすぎてオタオタしている双子に助け舟を出すべく1階へ降りた。一生懸命ジッピンの芸術作品についての解説をする双子も立派で客に好印象を抱かせたが、やはりカユボティとヴァジーのほうが一枚上手だった。

彼らは、気になる1枚のウキヨエの前で立ち止まって動かない客のうしろにそっと立ち、さりげなく解説をしたり絵師のおもしろいエピソードなどを話した。客はいつの間にか彼らの話に夢中になり、もっとその絵のことが好きになってしまう。

「……」

「おや?どうされましたかマドモアゼル」

「い、いえ…」

「失礼。話が過ぎましたね」

「そうではないんです。とても素敵なお話を聞かせていただいて…。この絵のことがとても気に入ってしまいました。でも…」

カユボティが接客していた女性がちらりとウキヨエの下にかけられている値札に視線を落とし、ため息をついた。

「金貨10枚は…わたしにはとても…」

「おや」

「でもこの絵が他の人に買われてしまうと考えると…」

「ふむ…」

「……」

カユボティはしばらく考える素振りをしてみせた。そして女性の腰に手をまわし、耳元で囁く。

「かしこまりました。ではマドモアゼルには特別に、金貨8枚にさせていただきます」

「えっ?」

「実は私も画家のはしくれでしてね。絵を愛してくれる人の手に渡って欲しいと私は思っております。マドモアゼル、あなたはこの絵に恋をしてくださった。それは画家にとってこの上のない喜びです。なのであなたには特別にこの絵を金貨8枚でお渡ししたい」

「ほ、本当に…?いいんですか?」

「ええ。もちろん」

女性はしばらく考え込んだあと、おもむろにアイテムボックスから麻袋を取り出した。中身を確認して再び悩んだ後、意を決して金貨8枚をカユボティに手渡す。

「この絵をください!」

「ありがとうございます。ではお包み致しますのでしばらくお待ちください」

カユボティは金貨8枚を丁寧に受け取り、1枚のウキヨエを壁から外した。少し離れた場所で見ていたヴァジーは「うわぁ…」と小声で呻いたが、彼もちゃっかりウキヨエを販売することに成功していた。
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