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画廊編:4人での日々
画廊
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その日の午前中に、ジュリア、ウィルク、ビアンナ先生、カーティス先生が、画廊"夢見"にやってきた。王女と王子だけでなく、先生も庶民の恰好をして町に(かろうじて)溶け込んでいた。
いつもマントと山高帽を身に付けていたビアンナ先生の庶民姿は新鮮だった。いつもきつく結っている髪をふわりとおろし、控えめな化粧をしている。色味のない質素なコットとスカートがここまで似合わない人がいるのか、と双子は内心思った。
「アーサーさん。モニカさん。お久しぶりです。お元気そうで」
「お久しぶりですビアンナ先生!!」
「はい!元気です!」
彼女に再会できたことが嬉しく、双子は思わず駆け寄りハグをした。驚きかたまっている先生に気付き、ハッとして体を離す。学院では先生に触れたことすらなかったのに、ついついいつものくせで大人に抱きついてしまった。アーサーとモニカは顔を真っ赤にして先生に謝った。
「ご、ごめんなさい!」
「かまいませんよ」
先生は双子から顔をそらしながら小声で言った。彼女もほんのり頬を赤らめている。少なくとも、怒ってはいなさそうで双子はほっとした。
カーティス先生は、庶民姿よりも冒険者姿をした方がよかったのではないかと双子は思った。カミーユ並みにムキムキな彼はきっとそっちの方が町に溶け込めたはずだ。
「アーサー!モニカ!なんだその目は!」
「い、いえ!」
「なんでもないです!」
「そうか?ならいいんだが!それよりなんだこの店は!お前ら、ルアンの一等地に店建てたのか!」
「はい!」
「友人が建ててくれました!」
「ほー、パトロンがいたのか。顔が広いんだな。なんかよく分からんものばかり並んでやがるぜ」
「ジッピンの芸術品です!」
「ジッピン!こりゃまたえらいとこの芸術品を手に入れたもんだな」
カーティス先生は興味本位で店内の作品をざっと見渡した。あまり芸術に興味がないのか「へー」と呟いただけで再び双子に目を向ける。それよりアーサーと対戦したくてしょうがないのか、腕をぐるぐる回しながら彼の体つきを観察している。
「ふむ。1年前より若干…背が伸びた…のか?」
「どうなんでしょうか…。伸びたと思いたい…」
「まあ、これから伸びるだろう。なんたってお前はまだ声変わりすらしてないんだからな。ガッハッハ」
そう言われて、アーサーの顔がボッと赤くなった。どうやら声変わりがまだなことを少し気にしているようだ。ユーリが声変わりをしてから特に、彼は自分の幼い声にコンプレックスを抱いていた。その様子を隣で見ていたモニカが兄の手を握る。
「アーサー!わたしは今のアーサーの声がすきよ!」
「ううう。僕もはやくみんなみたいな低音ボイスになりたい…」
「いやよ!アーサーはずっと今のままでいて!」
「やだよ!ムキムキになってもこんな声だったらちぐはぐじゃんか!」
「その顔でムキムキの方がチグハグだわ!!やだあ!」
双子のくだらないやり取りを聞いて、生徒も王子王女もクスクス笑っている。学院にいたころから少しも変わっていない仲睦まじい姿に、ピリピリしていた4人の空気が柔らかくなる。
「さて、早速ですが店内を見て回ってよろしいですか?わたくし、ジッピンの芸術品にとても興味がありますの」
ジュリアがそう言うと、モニカがパッと顔を輝かせて妹の手を取った。
「わー!うれしい!!ジュリア、一緒に見て回らない!?」
「まあ、嬉しいですわ!ぜひ、お願いいたします、モニカ様!」
「おにいさま、もしよければ、僕と一緒に回ってジッピンの作品について教えていただけますか…?」
ウィルクがもじもじとアーサーの服の裾を掴んだ。アーサーはにっこり笑い、その手を握ってお気に入りのウキヨエのところまで案内する。ウィルクは嬉しそうに、兄の腕にしがみついた。
ビアンナ先生とカーティス先生は、遠くから4人の様子を眺めていた。
「はあ、どうなることかと思いましたが…。王女と王子は本当にあいつらに会いたかっただけだったんですね」
「ええ…。まったく、あんな手荒な真似をして…」
ビアンナ先生がうんざりした表情でジュリアを見た。激怒とはいかないまでも、まだあの夜のできごとを根に持っているようだ。カーティス先生はどちらの味方をするか決めかねている様子で、口をすぼめて肩をすくめた。
「まあ、王族とはいえ彼女もまだ子供ですからねぇ。俺は同情しますよ。公務以外で城から一歩も出られず、学院でも缶詰でしょう。そりゃあ一度はワガママを言ってでも行きたいところに行きたいと思っても仕方ありませんよ」
「…気持ちは分からないでもありませんが、やり方が姑息です。まったく…」
だから王族は…と言葉にしなかった声が、カーティス先生には聞こえた気がした。
いつもマントと山高帽を身に付けていたビアンナ先生の庶民姿は新鮮だった。いつもきつく結っている髪をふわりとおろし、控えめな化粧をしている。色味のない質素なコットとスカートがここまで似合わない人がいるのか、と双子は内心思った。
「アーサーさん。モニカさん。お久しぶりです。お元気そうで」
「お久しぶりですビアンナ先生!!」
「はい!元気です!」
彼女に再会できたことが嬉しく、双子は思わず駆け寄りハグをした。驚きかたまっている先生に気付き、ハッとして体を離す。学院では先生に触れたことすらなかったのに、ついついいつものくせで大人に抱きついてしまった。アーサーとモニカは顔を真っ赤にして先生に謝った。
「ご、ごめんなさい!」
「かまいませんよ」
先生は双子から顔をそらしながら小声で言った。彼女もほんのり頬を赤らめている。少なくとも、怒ってはいなさそうで双子はほっとした。
カーティス先生は、庶民姿よりも冒険者姿をした方がよかったのではないかと双子は思った。カミーユ並みにムキムキな彼はきっとそっちの方が町に溶け込めたはずだ。
「アーサー!モニカ!なんだその目は!」
「い、いえ!」
「なんでもないです!」
「そうか?ならいいんだが!それよりなんだこの店は!お前ら、ルアンの一等地に店建てたのか!」
「はい!」
「友人が建ててくれました!」
「ほー、パトロンがいたのか。顔が広いんだな。なんかよく分からんものばかり並んでやがるぜ」
「ジッピンの芸術品です!」
「ジッピン!こりゃまたえらいとこの芸術品を手に入れたもんだな」
カーティス先生は興味本位で店内の作品をざっと見渡した。あまり芸術に興味がないのか「へー」と呟いただけで再び双子に目を向ける。それよりアーサーと対戦したくてしょうがないのか、腕をぐるぐる回しながら彼の体つきを観察している。
「ふむ。1年前より若干…背が伸びた…のか?」
「どうなんでしょうか…。伸びたと思いたい…」
「まあ、これから伸びるだろう。なんたってお前はまだ声変わりすらしてないんだからな。ガッハッハ」
そう言われて、アーサーの顔がボッと赤くなった。どうやら声変わりがまだなことを少し気にしているようだ。ユーリが声変わりをしてから特に、彼は自分の幼い声にコンプレックスを抱いていた。その様子を隣で見ていたモニカが兄の手を握る。
「アーサー!わたしは今のアーサーの声がすきよ!」
「ううう。僕もはやくみんなみたいな低音ボイスになりたい…」
「いやよ!アーサーはずっと今のままでいて!」
「やだよ!ムキムキになってもこんな声だったらちぐはぐじゃんか!」
「その顔でムキムキの方がチグハグだわ!!やだあ!」
双子のくだらないやり取りを聞いて、生徒も王子王女もクスクス笑っている。学院にいたころから少しも変わっていない仲睦まじい姿に、ピリピリしていた4人の空気が柔らかくなる。
「さて、早速ですが店内を見て回ってよろしいですか?わたくし、ジッピンの芸術品にとても興味がありますの」
ジュリアがそう言うと、モニカがパッと顔を輝かせて妹の手を取った。
「わー!うれしい!!ジュリア、一緒に見て回らない!?」
「まあ、嬉しいですわ!ぜひ、お願いいたします、モニカ様!」
「おにいさま、もしよければ、僕と一緒に回ってジッピンの作品について教えていただけますか…?」
ウィルクがもじもじとアーサーの服の裾を掴んだ。アーサーはにっこり笑い、その手を握ってお気に入りのウキヨエのところまで案内する。ウィルクは嬉しそうに、兄の腕にしがみついた。
ビアンナ先生とカーティス先生は、遠くから4人の様子を眺めていた。
「はあ、どうなることかと思いましたが…。王女と王子は本当にあいつらに会いたかっただけだったんですね」
「ええ…。まったく、あんな手荒な真似をして…」
ビアンナ先生がうんざりした表情でジュリアを見た。激怒とはいかないまでも、まだあの夜のできごとを根に持っているようだ。カーティス先生はどちらの味方をするか決めかねている様子で、口をすぼめて肩をすくめた。
「まあ、王族とはいえ彼女もまだ子供ですからねぇ。俺は同情しますよ。公務以外で城から一歩も出られず、学院でも缶詰でしょう。そりゃあ一度はワガママを言ってでも行きたいところに行きたいと思っても仕方ありませんよ」
「…気持ちは分からないでもありませんが、やり方が姑息です。まったく…」
だから王族は…と言葉にしなかった声が、カーティス先生には聞こえた気がした。
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