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画廊編:4人での日々

王女が魅入られた絵

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「あっ」

「ん?」

「モニカ様。わたくし、この絵が好きです」

ジュリアが一枚の絵を指さした。

「ふふ。他の絵よりも稚拙なように感じますが、モデルに対する愛情が伝わってきます。それに、このモデルがアーサー様に似ていますわね。…ん?アーサー様かしら…?それに隣にいる男の子は…リーノとニコロ…?」

「……」

返事が返ってこないのでモニカに目をやると、彼女は顔を赤らめてぷるぷる震えていた。

「モニカ様?どうされたのです?」

「……」

「?」

様子がおかしいわね、と思いながらジュリアが絵の下にかけられているキャプションを読んだ。

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モニカ
少年の笑顔
油彩・カンヴァス
------------

「え!?」

ジュリアはバッと振り返った。モニカは恥ずかしさのあまり顔を手で覆っている。

「モニカ様!?この絵はモニカ様が描かれたのですか!?」

「うぅぅ…恥ずかしいよぉぉ…。アーサーがね、勝手に展示しちゃったのぉ…外してくれないのぉ…」

「当然です!!こんな素晴らしい絵、展示しない方がおかしいですわ!!まあ!!なんてこと!!モニカ様は魔法だけでなく絵まで描けるのですね!!なんて多才なお方なんでしょう!!」

「そんな褒めないでぇぇ…。クロネの隣に並べられるなんて恥ずかしすぎるよぉぉ…」

「クロネ…。…そ、そういえばこの絵の隣に展示されているクロネの絵のモデル、モニカ様じゃありませんの!?」

「そうだよぉぉ…。いつの間にか描かれてたのぉぉ…。うぅぅ…恥ずかしいよぉ…」

「まあまあまあ…!」

それからジュリアのクロネに対する絵へ見方ががらりと変わった。雑な筆使いで描かれているにも関わらず、少女の柔らかい髪が風になびいているのが分かる。ぼんやりした顔の描写なのに、少女がなにかに魅入られているのが分かる。淡い色彩で描かれた背景が、彼女の美しい髪と服をより際立たせている。それにこの境界線のないふんわりとした絵が、モニカの優しく明るい内面を巧みに表現しているように思えた。

「なんて…素晴らしい絵なの…」

「え…?」

「まあ…。どうしましょう。ずるいわ。モデルをモニカ様にするなんて。クロネ…」

「ジュ、ジュリア…?」

「お姉さま、この絵は購入できないのでしょうか?」

「え!!!」

「できないですわよね…。展示している絵ですもの…」

ジュリアがため息をつき、未練たらしく2枚の絵を見つめていた。モニカはオロオロとして兄を呼びに行った。

「アーサー!!」

「ん?どうしたの?あとトロワではアビーって呼んでね。一応」

「ごめん!ちょっと来て!!あのね、ジュリアが私とクロネの絵を購入したいって…!」

「ええええ!?」

「えっ!?お姉さま絵を購入するんですか!?だったら僕も購入したいんですが!!」

「えええええ!!」

予想もしていなかったことに双子は取り乱した。どうしよう、どうしよう、とドタバタしていたが、なんとか話し合いが進み、それぞれ金貨10枚で販売することにした(モニカの絵はタダで良いと言ったが、ジュリアが頷かなかった)。

「モニカ様。ご自身の才能を安売りしてはいけません。胸を張って堂々と値段をつけなければ」

「う…うん…」

「よかったねモニカ!モニカの絵をジュリアが買ってくれるなんて!!」

「えへへ…いいのかなあ…」

「ええ。わたくしはこの絵をモニカ様が描いたものだと知らずに惹かれました。つまりそれだけの魅力がこの絵にはあるということです。モニカ様は絵描きの才能がおありだったのですね」

「そうなんだよ!モニカはね、クロネたちにも才能を認められたすごい画家なんだよぉ!」

「ちょっとアビーやめてよぉ」

得意げに妹自慢をするアーサーの口を慌ててモニカが塞いだ。上機嫌のアーサーは、モニカの手のひらをペロッと舐める。びっくりしたモニカが手を離し、兄の頭をぺちんと叩いた。

ジュリアがモニカとクロネの絵を購入したかたわらで、ウィルクはリュノの絵を1枚購入していた。まさか購入してもらえるなんて思いもしていなかった双子は、早くルアンにいる画家仲間にそのことを伝えたかった。

「クロネたち、きっとびっくりするぞー」

「ねー!私とクロネの絵をセットで買ってもらえるなんてすごく嬉しい!!」

「僕もうれしい!でもモニカの絵なくなっちゃったね。また描いてね」

「うん!!…いや私の絵は展示しなくていいから!!」

「やだよ展示するよ」

「もぉぉっ!」

その後も彼らは館内を観覧した。ウィルクは明るい絵が好きなようで、リュノやクロネ、シスルの絵が気に入ったようだった。ジュリアはモニカの絵を観てからクロネの絵に興味を持ち始めていたが、エドガのデッサンに一番感心していた。

「素晴らしいデッサンね。美しい線。アンギーを彷彿とさせるわ」

「さすがジュリアね!エドガはアンギーさんのお弟子さんよ!」

「まあ!そうだったのですね。では彼はアカデミックな絵を描こうと思えば描けるはずですわよね。なのにどうしてこんな…」

「ここに展示してる画家のみんな、アカデミックな絵を描けるよ。でも退屈だから描かないんだって!」

「退屈。ふふ」

ジュリアはクスクス笑い、もう一度エドガの絵画に目をやった。荒い筆致で描かれた、バレリーナが踊っている薄暗い絵。今までだったらこのような絵画なんて見向きもしなかっただろう。今でもこの館内にある絵よりもアカデミックな絵の方が好きだと感じた。だが少しだけ、軽蔑に似た感情は薄まっていた。

美術館を出た双子たちは児童養護施設へ向かった。歩きながら、ジュリアは買ったばかりのクロネの絵を取り出した。誰よりも大切な人がモデルの絵画に自然と頬が緩む。それが例え絵具をぶちまけたような絵だったとしても、とても美しく、輝いて見えた。
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