【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco

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魂魄編:ペンダント

新作ジュース

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「はい。お待たせ」

カフェのお兄さんがジュースをトレーに載せてやってきた。
アーサーの前には、不思議な光を放つ透明のジュースを、モニカの前には、白濁した灰色のジュースを置いた。
見たこともない色のジュースをアーサーとモニカがまじまじと見た。

「なあに、これ?」

「変わった色だねえ」

「アーサーのジュースは、神聖な森で採れたハッカのジュース。光ってて綺麗だろ? ちゃんと砂糖たっぷり入れて、アーサー好みの甘さにしてあるぞ」

「へえー! すごい~」

「モニカのジュースは、黒ゴマを砕いてミルクに混ぜたものだ。結構美味いんだぜ?」

「黒ゴマ!? 黒ゴマとミルクって合うんだぁ!」

お兄さんは、鼻をこすりながら照れくさそうに笑った。

「実は、変わり種すぎてウケるか分かんなくてさ。味見してほしいんだ」

「分かった!」

「いただきます!」

アーサーとモニカは、おそるおそる一口飲んだ。口をモゴモゴさせて味を確かめてから、首を傾げる。

「あれ? あんまり味がしないよ」

「私のも、ただのミルクの味しかしないかも」

「ん? 底にとこってんのか?」

お兄さんはジュースをマドラーでかき混ぜ、どうぞと合図をした。双子はもう一度口を付ける。

「んー……。やっぱり味があんまりしないなあ」

「わたしのは、ちょっと苦みが足されたかな……?」

「んー。アーサーのはレモンが足りてないか? モニカのは、砂糖足してみるか」

このように、双子は一口ずつ飲んでは感想を言い、それを元にお兄さんが材料を加えていった。
全て飲み終えたアーサーとモニカは、浮かない顔で「んー」と唸っている。

「正直、最後まで……あんまり味がしなかったなあ……」

「最後の方は色々足されすぎて、美味しくなかったかも……」

「まじかー。美味いと思ったんだけどなあ」

お兄さんは頭を掻きながらハハッと笑った。
「美味しいから飲め」と言われたのに、全く美味しくないものを飲まされて、双子は苦笑いをしている。

「料理が上手なお兄さんも、おいしくないもの作ったりするんだねー」

「失敗を重ねて、あんな美味しい料理を生み出してるのね! わたしもがんばろーっと」

アーサーとモニカがそう言うと、お兄さんは片目を瞑りながら指を振る。

「チッチッチ。不味いもんを作ったのはこれが初めてだよ。それに、俺は失敗なんてしていない。むしろ、成功した」

「え?」

お兄さんはアーサーの顎に指を添え、顔を覗き込んだ。

「アーサー」

「な、なに?」

「体に異変は?」

「え?」

その時。
アーサーの心臓がドクンと脈打った。そして襲い掛かる、激痛。

「うっ!?」

「アーサー!?」

床に倒れこんだアーサーを、モニカが慌てて抱きかかえた。
アーサーの瞳孔は開き、ブルブル震えている。口と鼻から血を流し、苦し気にうめき声をあげる。

「ウ"ッ……ア"ア"ア"ッ……グゥゥゥッ」

「ア…ッ、アーサー!? アーサーどうしたの!? なにこれ、毒!? ア、アーサーがこんなことになる毒なんて…」

「いや、毒じゃない」

双子を見下ろしているお兄さんが静かに呟いた。モニカは顔を上げ、キッと睨みつける。

「ちょっと!! お兄さん、アーサーに何したの!? どういうつもり!?」

「うるせえよ」

「!?」

モニカは言葉を失った。お兄さんの表情は、いつもの頼れるお兄さん、というものではなかった。無表情の冷たい目。苦しんでいるアーサーにも、一切の同情を持っていないようだった。

「アグゥゥッ……ウグッ……グアアアアア…ッ」

「なにこれ、なにこれ、こんなの普通じゃない。アーサーのこんなとこ、見たことないっ、どうしよう、どうしよう……!!」

店内に響き渡る悲鳴。アーサーの苦痛に歪む顔。そして……。
彼の手の甲に浮かび上がる、黒い痣。
モニカはその痣を見て、顔を真っ青にした。

「こ、れ……は……」

「おー。いいね。良い感じだ」

「……なにしたの。アーサーに、何したのよぉ!!!」

泣き叫ぶモニカを一瞥し、お兄さんは面倒くさそうに指を耳の穴に突っ込んだ。

「仕方ないだろ。お前ら、致死性の毒飲ませても死ななかったんだから」

「毒……?」

「半年くらい前に飲ませたのに、次の日もその次の日もケロッとしてたじゃねえか。ビビったぜ」

半年前の毒と聞いて、モニカはハッとした。
初夏……。ジッピンからポントワーブへ戻って来た双子は、久しぶりの町を満喫した。その日の帰り、アーサーが鼻血を出したので回復魔法をかけると、猛毒におかされていたことがあった。思い返せば、あの日も確か、このカフェに来てジュースを飲んだ。

(アーサーは強い毒耐性を持ってたから平気だった……。わたしは……マーニャ様の指輪をしていたから、毒が無効だったんだわ)

「困ったもんだよまったく。毒が効かないなんて、聞いてなかった。だから使わせてもらったのさ」

「……なにを……」

「魔物の魂魄」

「っ!!」

やはり。アーサーの手に浮かび上がった痣は、魔物の魂魄に憑依された時のカミーユや、魔物の呪いを受けたカミーユパーティと同じものだった。

「アーサーが飲んだジュースには、S級魔物の魂魄が入ってたのさ。アーサーは魔物に憑依され、近いうちに……」

そう言いながら、店主はちらりとアーサーに目をやった。
彼の痣はだんだんと彼の体を這いあがっていく。

「死ぬか、知性を失った魔物になるだろうなあ」

モニカはブルブル震えながら、杖をカフェの店主に突き付けた。
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