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魂魄編:ペンダント
2人目の刺客
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「あんた、何者なの!!」
「おう。こわいこわい」
店主はおどけながら両手を上げた。だが、ヘラヘラしている表情は余裕たっぷりだ。
彼はニッと口角を上げる。
「モニカ。俺がこの町に来たのは、何年前だったか覚えてるか?」
「そんなことどうでもいい!!」
「いいや。どうでも良くないんだなこれが。俺がここに来て店を構えたのは5年前だ。5年前。お前らは何をしでかした?」
「5年前……?」
5年前。アーサーとモニカは11歳だった。それは彼らがポントワーブへやって来て1年後。ボルーノの薬屋で働いていた頃。そして……。
教会事件を解決し、王城へ出向いた歳だった。
「……まさか」
「そう。お前らは王妃を怒らせた。ついでに国王もな。王城へノコノコ姿を現し、国王と王妃を丸め込んだことで」
「……でも」
国王は約束した。もう双子の命を狙わないと。
「その後彼らは二人の刺客をここへ送り込んだのさ」
「そんな……」
5年経った今、国王と王妃が自分たちの命を狙っていることは知っていた。だが、双子が王城を去ってすぐに刺客を送り込んでいたとは、思いもしなかった。
茫然としているモニカに、店主は話を続ける。
「二人の刺客。そのうちの一人は従者の娘だった。冒険者ギルドの受付として働き、偽の依頼書を使ってお前らを殺そうとした」
「……魔女依頼の……?」
「そうだ。なんだ、カミーユから聞いてなかったのか」
「知らない……教えてくれてなかった……」
「ほー。カミーユはすぐに気付いてたぞ。だからあいつらはルンディを殺した。お前らに言わなかったのは、自分らが人殺しだなんて思われたくなったからかな?ははっ」
「カミーユたちが……受付のお姉さんを殺した……?」
「そうだ。S級冒険者でも時には裏の仕事をする。裏の仕事ってのはつまり……人の暗殺」
「……」
「お前らが慕ってたS級冒険者様も立派な人殺し集団なんだよ。あいつらの手は真っ赤だぜ」
「そんなことない!! カミーユたちを悪く言わないで!!」
店主は口に手を当て、肩を震わせた。笑いを堪えているようだ。
モニカが睨みつける中、彼は深呼吸をしてから口を開いた。
「……で、もう一人の刺客は俺。表には決して出ることがない、裏のS級冒険者だ」
「裏のS級冒険者……?」
「S級冒険者はだいたい国につき5組いると世間では言われている。……だが、もう1組いるんだよ。王族とギルド本部マスターだけが知っている、もう1組のS級冒険者パーティ。人間の暗殺や汚い仕事を専門としている、且つヒト型魔物と取引をする役目を持つ、裏のS級冒険者が、な。簡単に言えば、高い金で王族に飼われてる獰猛な犬さ。ははは」
店主は乾いた笑い声をあげ、腰に忍ばせていた短剣を抜いた。そして、それを弄びながら独り言のように呟く。
「飼い主様の命令でな。こーんな田舎町のカフェで店主をするハメになっちまった。毎日が退屈で、退屈で、退屈で退屈で仕方なかったよ。人を殺したくてしょうがなくてさ。なのに作るのはフレンチトーストやらミックスジュース。反吐が出るほどくだらないものを毎日毎日」
モニカは唇を噛んで震えた。こんな人のフレンチトーストが大好物だったなんて、今思うとゾッとする。
「そういや、俺の自己紹介してなかったな。名前を知らないだろ」
「興味ないわ」
「そんなこと言うなよ。俺の名前はヴァラリア。裏冒険者の役職としては……薬師だ」
「薬師……」
「そう。アーサーと同じ、薬師だ。ただ、こいつと違って作る薬は、人を殺したり、疫病を振りまいたりするようなもんだけどな」
「な……」
「俺は武器やら戦いがてんでダメだった。それなのにどうして裏S級に選ばれと思う? 俺には、俺にしかできないたったひとつの取柄があったからだ。反魔法液を作り出すことができるという、取柄がね」
「反魔法液……っ」
「そう。反魔法液は俺にしか作ることができない。教会にもずいぶん高値で売ったなあ。お前らが潰したせいで売れなくなっちまったが。まったく」
モニカは嫌な予感がした。
「さっきわたしが飲んだジュース……」
「御名答。あれは反魔法液をミルクで割ったジュースだ。ミルクの味しかしなくて当然なんだよ」
「っ…!」
先ほどから何度か魔法を放とうとはしていた。だが発動しなかった。悟られないよう振舞っていたが、まさか魔法を封じ込められていたとは。
ヴァラリアは笑いを堪えきれず、とうとうけたたましい笑い声をあげた。
「お前らが王城に顔を出したあの日から、この計画は進められてたんだよ! はあ……長かった……! 俺はこの町へ来てから、ずっと、ずっと、お前らを殺すことだけを考えてた。俺がお前に優しくしていたのは、信用されて殺しやすくするためだ」
「発動してっ! 魔法! お願い!!」
「お前たちのことは気に入ってたぞ。俺の作ったフレンチトーストを、美味い美味いって食うしな。お前らはかわいらしい笑顔が良いよな。見てる大人がお前らが笑うのを見てほっこりしてんだ。
そんなお前らがこうやって! 苦しみ、悶え、絶望しているサマを、5年間ずっと想像してたよ!! アハッアハハハ!!!」
「やだ!! 死にたくない!! これからもずっと、アーサーと楽しい毎日を過ごすって決めてるのに!! やりたいこと、まだまだいっぱいあるの!!」
モニカは泣き叫びながら、何度も杖を振った。しかし、魔法は発動しない。
「トロワに学校を建てたいの!! ウィルクを迎えに行きたいの!! もっと絵を描きたい!! これからもずっと、アーサーに美味しいもの食べてもらいたいのぉぉぉっ!!」
「うるせえよ!!」
「んっ!!」
ヴァラリアがモニカを蹴り倒す。モニカは床に打ち付けられ、頭を強打した。口からは血を流している。
「何をアホなヒロインみたいなこと言ってんだ? よく考えろよ。お前らが王城に顔を出したせいで、何人の人が殺されたと思う? あの日それはもうひどいもんだったと聞くぞ。 腹いせに、罪もない臣下や従者が数多く処刑されたんだ」
「う、うそ……」
「本当だよ。やっぱり双子が不吉の象徴というのは間違いじゃあないなあ」
コツ、と足音が聞こえた。ヴァラリアはモニカの髪を掴み、頭を持ち上げる。
ヴァラリアの手に握られた短剣がきらりと光った。
「王妃からの伝言だ」
「離して!! いやー!!」
「お前たちが生まれた罪。死を以て贖え、ってな」
短剣がモニカの首に触れる。
そして、血しぶきが壁に飛び散った。
「おう。こわいこわい」
店主はおどけながら両手を上げた。だが、ヘラヘラしている表情は余裕たっぷりだ。
彼はニッと口角を上げる。
「モニカ。俺がこの町に来たのは、何年前だったか覚えてるか?」
「そんなことどうでもいい!!」
「いいや。どうでも良くないんだなこれが。俺がここに来て店を構えたのは5年前だ。5年前。お前らは何をしでかした?」
「5年前……?」
5年前。アーサーとモニカは11歳だった。それは彼らがポントワーブへやって来て1年後。ボルーノの薬屋で働いていた頃。そして……。
教会事件を解決し、王城へ出向いた歳だった。
「……まさか」
「そう。お前らは王妃を怒らせた。ついでに国王もな。王城へノコノコ姿を現し、国王と王妃を丸め込んだことで」
「……でも」
国王は約束した。もう双子の命を狙わないと。
「その後彼らは二人の刺客をここへ送り込んだのさ」
「そんな……」
5年経った今、国王と王妃が自分たちの命を狙っていることは知っていた。だが、双子が王城を去ってすぐに刺客を送り込んでいたとは、思いもしなかった。
茫然としているモニカに、店主は話を続ける。
「二人の刺客。そのうちの一人は従者の娘だった。冒険者ギルドの受付として働き、偽の依頼書を使ってお前らを殺そうとした」
「……魔女依頼の……?」
「そうだ。なんだ、カミーユから聞いてなかったのか」
「知らない……教えてくれてなかった……」
「ほー。カミーユはすぐに気付いてたぞ。だからあいつらはルンディを殺した。お前らに言わなかったのは、自分らが人殺しだなんて思われたくなったからかな?ははっ」
「カミーユたちが……受付のお姉さんを殺した……?」
「そうだ。S級冒険者でも時には裏の仕事をする。裏の仕事ってのはつまり……人の暗殺」
「……」
「お前らが慕ってたS級冒険者様も立派な人殺し集団なんだよ。あいつらの手は真っ赤だぜ」
「そんなことない!! カミーユたちを悪く言わないで!!」
店主は口に手を当て、肩を震わせた。笑いを堪えているようだ。
モニカが睨みつける中、彼は深呼吸をしてから口を開いた。
「……で、もう一人の刺客は俺。表には決して出ることがない、裏のS級冒険者だ」
「裏のS級冒険者……?」
「S級冒険者はだいたい国につき5組いると世間では言われている。……だが、もう1組いるんだよ。王族とギルド本部マスターだけが知っている、もう1組のS級冒険者パーティ。人間の暗殺や汚い仕事を専門としている、且つヒト型魔物と取引をする役目を持つ、裏のS級冒険者が、な。簡単に言えば、高い金で王族に飼われてる獰猛な犬さ。ははは」
店主は乾いた笑い声をあげ、腰に忍ばせていた短剣を抜いた。そして、それを弄びながら独り言のように呟く。
「飼い主様の命令でな。こーんな田舎町のカフェで店主をするハメになっちまった。毎日が退屈で、退屈で、退屈で退屈で仕方なかったよ。人を殺したくてしょうがなくてさ。なのに作るのはフレンチトーストやらミックスジュース。反吐が出るほどくだらないものを毎日毎日」
モニカは唇を噛んで震えた。こんな人のフレンチトーストが大好物だったなんて、今思うとゾッとする。
「そういや、俺の自己紹介してなかったな。名前を知らないだろ」
「興味ないわ」
「そんなこと言うなよ。俺の名前はヴァラリア。裏冒険者の役職としては……薬師だ」
「薬師……」
「そう。アーサーと同じ、薬師だ。ただ、こいつと違って作る薬は、人を殺したり、疫病を振りまいたりするようなもんだけどな」
「な……」
「俺は武器やら戦いがてんでダメだった。それなのにどうして裏S級に選ばれと思う? 俺には、俺にしかできないたったひとつの取柄があったからだ。反魔法液を作り出すことができるという、取柄がね」
「反魔法液……っ」
「そう。反魔法液は俺にしか作ることができない。教会にもずいぶん高値で売ったなあ。お前らが潰したせいで売れなくなっちまったが。まったく」
モニカは嫌な予感がした。
「さっきわたしが飲んだジュース……」
「御名答。あれは反魔法液をミルクで割ったジュースだ。ミルクの味しかしなくて当然なんだよ」
「っ…!」
先ほどから何度か魔法を放とうとはしていた。だが発動しなかった。悟られないよう振舞っていたが、まさか魔法を封じ込められていたとは。
ヴァラリアは笑いを堪えきれず、とうとうけたたましい笑い声をあげた。
「お前らが王城に顔を出したあの日から、この計画は進められてたんだよ! はあ……長かった……! 俺はこの町へ来てから、ずっと、ずっと、お前らを殺すことだけを考えてた。俺がお前に優しくしていたのは、信用されて殺しやすくするためだ」
「発動してっ! 魔法! お願い!!」
「お前たちのことは気に入ってたぞ。俺の作ったフレンチトーストを、美味い美味いって食うしな。お前らはかわいらしい笑顔が良いよな。見てる大人がお前らが笑うのを見てほっこりしてんだ。
そんなお前らがこうやって! 苦しみ、悶え、絶望しているサマを、5年間ずっと想像してたよ!! アハッアハハハ!!!」
「やだ!! 死にたくない!! これからもずっと、アーサーと楽しい毎日を過ごすって決めてるのに!! やりたいこと、まだまだいっぱいあるの!!」
モニカは泣き叫びながら、何度も杖を振った。しかし、魔法は発動しない。
「トロワに学校を建てたいの!! ウィルクを迎えに行きたいの!! もっと絵を描きたい!! これからもずっと、アーサーに美味しいもの食べてもらいたいのぉぉぉっ!!」
「うるせえよ!!」
「んっ!!」
ヴァラリアがモニカを蹴り倒す。モニカは床に打ち付けられ、頭を強打した。口からは血を流している。
「何をアホなヒロインみたいなこと言ってんだ? よく考えろよ。お前らが王城に顔を出したせいで、何人の人が殺されたと思う? あの日それはもうひどいもんだったと聞くぞ。 腹いせに、罪もない臣下や従者が数多く処刑されたんだ」
「う、うそ……」
「本当だよ。やっぱり双子が不吉の象徴というのは間違いじゃあないなあ」
コツ、と足音が聞こえた。ヴァラリアはモニカの髪を掴み、頭を持ち上げる。
ヴァラリアの手に握られた短剣がきらりと光った。
「王妃からの伝言だ」
「離して!! いやー!!」
「お前たちが生まれた罪。死を以て贖え、ってな」
短剣がモニカの首に触れる。
そして、血しぶきが壁に飛び散った。
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