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魂魄編:ペンダント
三白眼
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噴き上がる鮮血。響き渡る悲鳴。返り血を浴びる、ヴァラリアとモニカ。
「ガボッ……」
「あ……あ……」
「へえ、まだ動けんのか。すごいな」
「アーサァァァ!!」
ヴァラリアの短剣がモニカの首に触れる直前、アーサーがモニカに覆いかぶさった。短剣は、アーサーの腕から背中にかけて深い傷を負わせた。
魂魄が憑依したアーサーは、今や痣が首元にまで這いあがってきている。意識が朦朧としていて、目も虚ろだ。彼は口から血を吐き出しながら、震える声を絞り出す。
「モニ……カ……に、手……出すな……」
その声は、かろうじてモニカとヴァラリアの耳に届いた。
モニカは涙を溢れさせ、兄を抱きしめる。
「アーサーのバカ……ッ!! そんなになってまで……わたしを守ろうとしないで!! アーサーはっ……アーサーはわたしが……」
「モニカ……怪我……ない……?」
「ないっ! ないからっ!! だからアーサーはわたしのうしろに……っ!!」
「よか……った……」
アーサーは力なく微笑んだ。モニカとアーサーの目が合わない。灰色の目が黒ずんできている。おそらく今、アーサーは目が見えていない。
いつもなら簡単に治してあげられる傷が治せない。
アーサーの生暖かい血がモニカの手を濡らす。モニカは兄の傷口に手を押し付け、できるだけ血が流れないよう食い止めようとする。
「アーサー……! アーサー……! ま、待ってて。 回復液を飲ませるからっ……! そ、そうだ、聖魔法液もあるから……っ。治せるよ…! 治せるからねっ…!」
モニカがアイテムボックスに手を差し込んだ。
その瞬間、モニカは背後から蹴りつけられた。頭が真っ白になり、ここがどこなのか分からなくなる。
モニカを蹴り倒した男性が、双子のアイテムボックスを奪いながら、ヴァラリアに話しかける。
「なにを仲良くおしゃべりしてるの? 時間がもったいない」
「いいじゃないか。5年かけて成功した計画だぞ? ちょっとくらい余韻に浸らせろよ」
「……まあ、いいけど。それより、アウスにちゃんとS級魔物の魂魄、丸々分飲ませたの? まだ自我があるみたいだけど」
「飲ませたさ! お前らこそちゃんとペンダント盗んだのか?」
「もちろん」
「ペンダントはもぬけの殻で、もうすでにその中に入ってた魂魄に憑依されてたとかないか? まだ動けるなんざ、あまりに憑依するのに時間がかかりすぎてるぞ」
「シルヴェストルがちゃんとペンダントの中に魂魄が入ってることも確認してたよ」
「あいつが言うなら、間違いないか……」
「彼は魂魄を視認できる。間違いないでしょ」
「だな。……全く。元フィールディング騎士である吸血鬼の魂魄入りペンダントなんざ、どこで手に入れたんだか」
「さあ。そのあたりはシルヴェストルと次期国王が話し合った末結論付けたことだし、僕にとってはどうでもいいし興味もない」
「はあ、お前は何に対しても淡泊だなあ」
「う……」
「ん?」
歪む視線の中、モニカはアイテムボックスを奪った男性を見た。そして、目を疑う。
「え……」
「なに」
少女と目が合った男性は首を傾げた。
黒い髪、灰色がかった黄緑色の三白眼。長身の、猫背……。
「……ジル……? ど、どうして……」
その言葉に、男性はムッとした表情を浮かべた。
「ジル? いやだな。そんなやつと一緒にしないでよ。あんな出来損ないと」
男性はため息をつき、モニカを蹴ろうと足を地面から離した。
よろよろと、アーサーがモニカに覆いかぶさった。蹴られても、短剣を斬りつけられても、微動だにしない。
そんな二人を見て、ヴァラリアはけたたましい笑い声をあげた。
「アハハハハ!! 美しい兄妹愛を目の前で見せつけられちまったよ!! 安心しろ。お前らどっちも死ぬからさ。地獄で再会でもしてろ」
「ちょっとヴァラリア。殺すなって次期国王に言われてるでしょ。アウスの方は魂魄に負けて死んだら仕方ないけど、魔物になったら生け捕り、モリアの方も生け捕りにしろって」
「あー。そうだったな。王妃と次期国王の命令が違うから混乱する」
「もちろん、従うは次期国王の方。王妃は愚かなお飾りなだけ」
「はいはい。じゃ、とりあえず半殺しにするか」
「だね」
ヴァラリアともう一人の男性が武器を構えた。ヴァラリアは剣に持ち替え、男性は槍を握る。
「モ……ニカ……」
アーサーがモニカの耳元で囁いた。
「アサ……ギリの……力、借りて……モニカだけでも……逃げ……て……」
「いや……、いや……。アーサーを置いてなんていかない……」
「だめ……。僕、もう……限界……。意識が保てそうに……ないんだ……。魔物になって……モニカにひどいことなんて……したくないよ……。ごめん。ずっと……一緒にいてあげられなく……て……」
そう言い残し、アーサーの力が、ふ、と抜けた。
「……アーサー……?」
アーサーからの返事はこない。
震えながら兄に目をやると、急激な速さで、痣が体を覆いつくそうとしている。
「やだ……アーサー……」
虚ろな瞳が漆黒になった。そして彼の瞳孔は、猫のように細くなる。
「ガボッ……」
「あ……あ……」
「へえ、まだ動けんのか。すごいな」
「アーサァァァ!!」
ヴァラリアの短剣がモニカの首に触れる直前、アーサーがモニカに覆いかぶさった。短剣は、アーサーの腕から背中にかけて深い傷を負わせた。
魂魄が憑依したアーサーは、今や痣が首元にまで這いあがってきている。意識が朦朧としていて、目も虚ろだ。彼は口から血を吐き出しながら、震える声を絞り出す。
「モニ……カ……に、手……出すな……」
その声は、かろうじてモニカとヴァラリアの耳に届いた。
モニカは涙を溢れさせ、兄を抱きしめる。
「アーサーのバカ……ッ!! そんなになってまで……わたしを守ろうとしないで!! アーサーはっ……アーサーはわたしが……」
「モニカ……怪我……ない……?」
「ないっ! ないからっ!! だからアーサーはわたしのうしろに……っ!!」
「よか……った……」
アーサーは力なく微笑んだ。モニカとアーサーの目が合わない。灰色の目が黒ずんできている。おそらく今、アーサーは目が見えていない。
いつもなら簡単に治してあげられる傷が治せない。
アーサーの生暖かい血がモニカの手を濡らす。モニカは兄の傷口に手を押し付け、できるだけ血が流れないよう食い止めようとする。
「アーサー……! アーサー……! ま、待ってて。 回復液を飲ませるからっ……! そ、そうだ、聖魔法液もあるから……っ。治せるよ…! 治せるからねっ…!」
モニカがアイテムボックスに手を差し込んだ。
その瞬間、モニカは背後から蹴りつけられた。頭が真っ白になり、ここがどこなのか分からなくなる。
モニカを蹴り倒した男性が、双子のアイテムボックスを奪いながら、ヴァラリアに話しかける。
「なにを仲良くおしゃべりしてるの? 時間がもったいない」
「いいじゃないか。5年かけて成功した計画だぞ? ちょっとくらい余韻に浸らせろよ」
「……まあ、いいけど。それより、アウスにちゃんとS級魔物の魂魄、丸々分飲ませたの? まだ自我があるみたいだけど」
「飲ませたさ! お前らこそちゃんとペンダント盗んだのか?」
「もちろん」
「ペンダントはもぬけの殻で、もうすでにその中に入ってた魂魄に憑依されてたとかないか? まだ動けるなんざ、あまりに憑依するのに時間がかかりすぎてるぞ」
「シルヴェストルがちゃんとペンダントの中に魂魄が入ってることも確認してたよ」
「あいつが言うなら、間違いないか……」
「彼は魂魄を視認できる。間違いないでしょ」
「だな。……全く。元フィールディング騎士である吸血鬼の魂魄入りペンダントなんざ、どこで手に入れたんだか」
「さあ。そのあたりはシルヴェストルと次期国王が話し合った末結論付けたことだし、僕にとってはどうでもいいし興味もない」
「はあ、お前は何に対しても淡泊だなあ」
「う……」
「ん?」
歪む視線の中、モニカはアイテムボックスを奪った男性を見た。そして、目を疑う。
「え……」
「なに」
少女と目が合った男性は首を傾げた。
黒い髪、灰色がかった黄緑色の三白眼。長身の、猫背……。
「……ジル……? ど、どうして……」
その言葉に、男性はムッとした表情を浮かべた。
「ジル? いやだな。そんなやつと一緒にしないでよ。あんな出来損ないと」
男性はため息をつき、モニカを蹴ろうと足を地面から離した。
よろよろと、アーサーがモニカに覆いかぶさった。蹴られても、短剣を斬りつけられても、微動だにしない。
そんな二人を見て、ヴァラリアはけたたましい笑い声をあげた。
「アハハハハ!! 美しい兄妹愛を目の前で見せつけられちまったよ!! 安心しろ。お前らどっちも死ぬからさ。地獄で再会でもしてろ」
「ちょっとヴァラリア。殺すなって次期国王に言われてるでしょ。アウスの方は魂魄に負けて死んだら仕方ないけど、魔物になったら生け捕り、モリアの方も生け捕りにしろって」
「あー。そうだったな。王妃と次期国王の命令が違うから混乱する」
「もちろん、従うは次期国王の方。王妃は愚かなお飾りなだけ」
「はいはい。じゃ、とりあえず半殺しにするか」
「だね」
ヴァラリアともう一人の男性が武器を構えた。ヴァラリアは剣に持ち替え、男性は槍を握る。
「モ……ニカ……」
アーサーがモニカの耳元で囁いた。
「アサ……ギリの……力、借りて……モニカだけでも……逃げ……て……」
「いや……、いや……。アーサーを置いてなんていかない……」
「だめ……。僕、もう……限界……。意識が保てそうに……ないんだ……。魔物になって……モニカにひどいことなんて……したくないよ……。ごめん。ずっと……一緒にいてあげられなく……て……」
そう言い残し、アーサーの力が、ふ、と抜けた。
「……アーサー……?」
アーサーからの返事はこない。
震えながら兄に目をやると、急激な速さで、痣が体を覆いつくそうとしている。
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