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魂魄編:ペンダント
アサギリモニカ
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頭を強く打ったモニカでは、正常な思考が働かなかった。
アーサーが魔物になってしまったこと、慕っていたカフェのお兄さんがひどい人だったこと、ジルとそっくりの槍使いが自分たちに武器を向けていることが、ぐるぐると頭を駆け回っている。
それ以上のことを考えられなかった。
モニカは、魔物のような唸り声をあげるアーサーを抱きしめ、ただ茫然と地面に倒れこんでいた。
剣と槍が自分に向かって振り上げられても、無表情で眺めていた。
《クソがっ!! さっさと俺に頼れってんだ!!》
「っ……」
喚き声が聞こえたかと思えば、モニカの手に脇差が握られていた。
ヴァラリアと槍使いが一瞬動きを止めたが、目で合図をして構え直している。
《おい!! 聞いてんのかモニカ!!》
「アサギリ……アーサー、魔物になっちゃった……」
《だからどうした!? それがどうした!! とにかく逃げんだよ!! こいつらやべえ!!》
「わたし、ほんと……何もできない子ね……」
《チッ……。悪いがモニカ!おめぇの泣き言なんて聞いてる暇ねぇんだよ!! 体、借りるぜ!!》
「んっ……」
「!」
「!!」
振り下ろされた剣と槍は、真っ二つに切り落とされた。
ヴァラリアと槍使いは驚きのあまり目を見開いている。
「……は?」
「モリアは魔法しか使えないんじゃなかったの」
「……」
脇差を握ったモニカが、アーサーを抱えてゆっくりと立ち上がる。そして、ヴァラリアをギロリと睨みつけた。
「……テメェらなあ……」
「……」
「……」
「薄雪のお気に入りに何してんだコラァァァァ!!!!」
「!!」
アサギリモニカの叫び声と共に、花びらを舞わせた強風が店内に吹き荒れる。風は双子を守り、他のモノを斬りつけた。
ヴァランスは悪態をつきながら店の奥へ逃げ込んだが、槍使いは表情一つ変えずにモニカに襲い掛かる。
「びっくりした。君、誰」
「うるせぇぇぇっ!! テメェこそなにしてんだジルこらぁぁぁ!! こいつらのこと溺愛してたのに殺そうとするなんざ!! 月下か!? 月下かテメェ!! だから愛が歪んでるヤツってのは嫌いなんだよ!! クソが!!」
「だから僕はジルじゃないって。あいつと一緒にしないで」
「ちっ……声も、話し方も、その陰気な顔つきも、まんまあいつじゃねえかよコラァァア!!」
アサギリモニカが槍使いに斬りかかる。アサギリの力を借りたモニカの一閃を、槍使いはやすやすと弾き返す。
(こいつ……つえぇ!)
実力差をすぐに悟ったアサギリは、アーサーを抱えて逃げようとした。しかし。
「待て!!」
「っ!!」
背後から声がしたと同時に、脇差目掛けて5本の瓶が投げつけられた。瓶から灰色の液体が飛び散り、脇差が濡れる。その途端、アサギリモニカの体に違和感が走った。
(なんだ? 力が抜ける)
瓶を投げつけたのは、店の奥から出てきたヴァラリアだった。彼は腰につけたアイテムボックスから瓶を3本取り出し、槍使いに投げ渡す。
「……なに?」
「それをアーサーにぶっかけろ!」
「よく分からないけど、分かった」
「させるかよっ!!」
槍使いがアサギリモニカと距離を詰め、液体をアーサーの頭にぶっかけようとした。
アサギリモニカは顔を歪めてかろうじて躱し、出口へ向かって走り出す。力が徐々に入らなくなっていく。アサギリの憑依が解けかかっている。
逃げようとしたアサギリモニカの腕を槍使いが掴み、捻りあげた。
「くそっ! 離しやがれ!」
「……えーっと、骨は折っていいんだっけ」
「いいんじゃないか? 殺さなければ」
「了解」
ゴキリ、と鈍い音を立て、モニカの左腕の骨が折られた。
握っていたアサギリが床に落ちる。
「ぐぁぁぁっ……!!」
激しい痛みにアサギリモニカが呻き声を上げた。
槍使いは脇差を踏みつけ、アーサーの髪を掴み顔を上げさせた。
そして、たっぷりと液体を注ぐ。
「これ、何?」
踏みつけている脇差にも液体をかけているヴァラリアへ、槍使いが尋ねた。ヴァラリアはヘヘッと笑いながら答える。
「反魔法液だよ。この剣、おそらく魔法具だろう。魔法でモニカの体を操ってやがる。だったらそれが機能しないように、反魔法液をかけたらいいだけのことだ」
「なるほどね」
「アーサーも魔法具を持ってたらかなわねえからな。使われても魔法が通らないように、反魔法液をたっぷりかけといてくれ。これでアーサーは、回復魔法すら効かない体になった」
「へえ。やるね。ただ……次期国王に差し出すとき、こんなボロボロでいいの?」
「かまわないさ。生きてたらそれでいい」
「ふーん」
「このまま差し出したら、王族専属の聖女が反魔法解いてくれるだろう。死にそうになったら、エリクサー飲ませときゃ問題ないだろ」
「……エリクサーも、回復魔法でできてるんだけど」
「あ」
「馬鹿」
「うっ……うるさいな。回復薬作ればいいだけだ!!」
床に転がる空瓶が増えていく。アーサーもアサギリも、全身にたっぷり反魔法液をかけられた。
《はぁ……はぁ……。クソがぁ……っ。この俺様を……踏みつけにしやがって……どけやコラァァァア!!》
「っ!」
アサギリは最後の力を振り絞り、槍使いの脚を切りつけた。深い傷を負った槍使いがよろける。
アサギリは再びモニカの手に戻り、ヴァラリアと槍使いに向かって脇差を横なぎに振る。
油断していた彼らは、自分たちの腹から噴き出す鮮血に目を見開いた。
その隙に、アサギリモニカはアーサーをひっつかんで店を飛び出した。
感覚のない体。言うことが聞かない体。今にも憑依が解けてしまいそうだ。
それでもアサギリモニカは歯を食いしばり、なんとか双子の家までたどり着いた。
双子の家は荒らされていた。
ドアはこじ開けられており、引き出しという引き出しはすべてひっくりかえされている。
「薄雪!! 喜代春!! 力貸せ!! この家に結界を!!」
アサギリモニカがそう叫ぶと、窓際に飾られていた、サクラの枝と簪がホワッと光り輝いた。
そして、家のまわりを花が舞う風が包んだ。
「はっ……はっ……」
アサギリモニカは床に倒れ込んだ。もう限界だ。
アサギリの憑依は解け、意識が脇差の中へ戻ってしまった。
倒れたモニカとアーサー、そしてアサギリを、春風が包み込んだ。モニカの体の傷が瞬く間に治っていく。
だがアーサーの体は、切り傷すら治らない。
《くそっ……。薄雪や喜代春の妖力も"魔法"扱いかよ……。あいつらでも、聖魔法……神術は使えねえ。反魔法液は解けねえ……。くそ……くそぉぉっ……》
アーサーが魔物になってしまったこと、慕っていたカフェのお兄さんがひどい人だったこと、ジルとそっくりの槍使いが自分たちに武器を向けていることが、ぐるぐると頭を駆け回っている。
それ以上のことを考えられなかった。
モニカは、魔物のような唸り声をあげるアーサーを抱きしめ、ただ茫然と地面に倒れこんでいた。
剣と槍が自分に向かって振り上げられても、無表情で眺めていた。
《クソがっ!! さっさと俺に頼れってんだ!!》
「っ……」
喚き声が聞こえたかと思えば、モニカの手に脇差が握られていた。
ヴァラリアと槍使いが一瞬動きを止めたが、目で合図をして構え直している。
《おい!! 聞いてんのかモニカ!!》
「アサギリ……アーサー、魔物になっちゃった……」
《だからどうした!? それがどうした!! とにかく逃げんだよ!! こいつらやべえ!!》
「わたし、ほんと……何もできない子ね……」
《チッ……。悪いがモニカ!おめぇの泣き言なんて聞いてる暇ねぇんだよ!! 体、借りるぜ!!》
「んっ……」
「!」
「!!」
振り下ろされた剣と槍は、真っ二つに切り落とされた。
ヴァラリアと槍使いは驚きのあまり目を見開いている。
「……は?」
「モリアは魔法しか使えないんじゃなかったの」
「……」
脇差を握ったモニカが、アーサーを抱えてゆっくりと立ち上がる。そして、ヴァラリアをギロリと睨みつけた。
「……テメェらなあ……」
「……」
「……」
「薄雪のお気に入りに何してんだコラァァァァ!!!!」
「!!」
アサギリモニカの叫び声と共に、花びらを舞わせた強風が店内に吹き荒れる。風は双子を守り、他のモノを斬りつけた。
ヴァランスは悪態をつきながら店の奥へ逃げ込んだが、槍使いは表情一つ変えずにモニカに襲い掛かる。
「びっくりした。君、誰」
「うるせぇぇぇっ!! テメェこそなにしてんだジルこらぁぁぁ!! こいつらのこと溺愛してたのに殺そうとするなんざ!! 月下か!? 月下かテメェ!! だから愛が歪んでるヤツってのは嫌いなんだよ!! クソが!!」
「だから僕はジルじゃないって。あいつと一緒にしないで」
「ちっ……声も、話し方も、その陰気な顔つきも、まんまあいつじゃねえかよコラァァア!!」
アサギリモニカが槍使いに斬りかかる。アサギリの力を借りたモニカの一閃を、槍使いはやすやすと弾き返す。
(こいつ……つえぇ!)
実力差をすぐに悟ったアサギリは、アーサーを抱えて逃げようとした。しかし。
「待て!!」
「っ!!」
背後から声がしたと同時に、脇差目掛けて5本の瓶が投げつけられた。瓶から灰色の液体が飛び散り、脇差が濡れる。その途端、アサギリモニカの体に違和感が走った。
(なんだ? 力が抜ける)
瓶を投げつけたのは、店の奥から出てきたヴァラリアだった。彼は腰につけたアイテムボックスから瓶を3本取り出し、槍使いに投げ渡す。
「……なに?」
「それをアーサーにぶっかけろ!」
「よく分からないけど、分かった」
「させるかよっ!!」
槍使いがアサギリモニカと距離を詰め、液体をアーサーの頭にぶっかけようとした。
アサギリモニカは顔を歪めてかろうじて躱し、出口へ向かって走り出す。力が徐々に入らなくなっていく。アサギリの憑依が解けかかっている。
逃げようとしたアサギリモニカの腕を槍使いが掴み、捻りあげた。
「くそっ! 離しやがれ!」
「……えーっと、骨は折っていいんだっけ」
「いいんじゃないか? 殺さなければ」
「了解」
ゴキリ、と鈍い音を立て、モニカの左腕の骨が折られた。
握っていたアサギリが床に落ちる。
「ぐぁぁぁっ……!!」
激しい痛みにアサギリモニカが呻き声を上げた。
槍使いは脇差を踏みつけ、アーサーの髪を掴み顔を上げさせた。
そして、たっぷりと液体を注ぐ。
「これ、何?」
踏みつけている脇差にも液体をかけているヴァラリアへ、槍使いが尋ねた。ヴァラリアはヘヘッと笑いながら答える。
「反魔法液だよ。この剣、おそらく魔法具だろう。魔法でモニカの体を操ってやがる。だったらそれが機能しないように、反魔法液をかけたらいいだけのことだ」
「なるほどね」
「アーサーも魔法具を持ってたらかなわねえからな。使われても魔法が通らないように、反魔法液をたっぷりかけといてくれ。これでアーサーは、回復魔法すら効かない体になった」
「へえ。やるね。ただ……次期国王に差し出すとき、こんなボロボロでいいの?」
「かまわないさ。生きてたらそれでいい」
「ふーん」
「このまま差し出したら、王族専属の聖女が反魔法解いてくれるだろう。死にそうになったら、エリクサー飲ませときゃ問題ないだろ」
「……エリクサーも、回復魔法でできてるんだけど」
「あ」
「馬鹿」
「うっ……うるさいな。回復薬作ればいいだけだ!!」
床に転がる空瓶が増えていく。アーサーもアサギリも、全身にたっぷり反魔法液をかけられた。
《はぁ……はぁ……。クソがぁ……っ。この俺様を……踏みつけにしやがって……どけやコラァァァア!!》
「っ!」
アサギリは最後の力を振り絞り、槍使いの脚を切りつけた。深い傷を負った槍使いがよろける。
アサギリは再びモニカの手に戻り、ヴァラリアと槍使いに向かって脇差を横なぎに振る。
油断していた彼らは、自分たちの腹から噴き出す鮮血に目を見開いた。
その隙に、アサギリモニカはアーサーをひっつかんで店を飛び出した。
感覚のない体。言うことが聞かない体。今にも憑依が解けてしまいそうだ。
それでもアサギリモニカは歯を食いしばり、なんとか双子の家までたどり着いた。
双子の家は荒らされていた。
ドアはこじ開けられており、引き出しという引き出しはすべてひっくりかえされている。
「薄雪!! 喜代春!! 力貸せ!! この家に結界を!!」
アサギリモニカがそう叫ぶと、窓際に飾られていた、サクラの枝と簪がホワッと光り輝いた。
そして、家のまわりを花が舞う風が包んだ。
「はっ……はっ……」
アサギリモニカは床に倒れ込んだ。もう限界だ。
アサギリの憑依は解け、意識が脇差の中へ戻ってしまった。
倒れたモニカとアーサー、そしてアサギリを、春風が包み込んだ。モニカの体の傷が瞬く間に治っていく。
だがアーサーの体は、切り傷すら治らない。
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