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魂魄編:ピュトア泉
もしかして嫌われてる…?
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シチュリアは不思議な聖女だった。
寛容で優しいにもかかわらず、目は冷たくて表情が乏しい。いつもの表情がまず、眉を寄せて口をきゅっと結んでいるので、双子は怒っているのかなと不安になった。彼らに見せる表情と言えば、苛立ちか呆れ顔がほとんどだった。
では彼女が笑わないかと言われるとそうではなくて、フィックと話しているときは、いつものほほんとした笑みを浮かべていた。
「ねえ、アーサー」
「ん?」
その日の夜、晩食を終えて小さなソファで白湯を飲んでいるシチュリアとフィックを、遠くから眺めながらモニカが兄に耳打ちをした。
「もしかして、わたしたちシチュリアに嫌われてる?」
「あー……」
アーサーは苦笑いを浮かべた。彼もそれは感じ取っていたようだ。
「まあ、仕方ないんじゃないかな? だって僕、こんなだし」
こんなだし、が、一部が魔物になってしまったことを言っていることはすぐに分かった。
モニカは首を振り、それを否定する。
「ううん。シチュリアはロイと先生には好感を持っていたもん。それが問題なんかじゃないわ」
「そうなんだ。じゃあ、どうしてだろう。僕、なにか気に障ることしっちゃったかなあ」
「わたしのせいな気がする……。わたしってほら、言葉をあまり知らないから……」
「えー? そんなモニカがかわいいのにね」
アーサーはそう言ってデレッとだらしない顔で妹の顔を覗き込んだ。
意識を取り戻してから、アーサーはずっと彼女の顔を見てはデレデレしている。モニカとまたこうして一緒に過ごせることが、よほど嬉しいようだ。もしくは、モニカの短髪をよほど気に入ったかのどちらかだ。
こんな兄を見たら、モニカは心配事なんて全て吹っ飛んで、彼のことしか考えられなくなる。結局二人は考え事も忘れて、お互いにじゃれ合ってキャハキャハ笑い声をあげた。
しばらくじゃれていると、遠くからの視線に気付いた。シチュリアとフィックがこちらを見ている。双子は慌てて口に手を当てて、部屋の隅で縮こまった。
シチュリアの小屋は、リビング、寝室、浴室しかない小さな家だった。なので、ピュトア泉に滞在している間は、基本的にシチュリア、フィック、アーサー、モニカはずっと同じ空間で過ごさなければいけない。
寝るときは、シチュリアとフィックが寝室で眠り、アーサーとモニカはリビングのソファにぎゅうぎゅう詰めになって眠る。
部屋は違っても、普通の声で話したら隣の部屋で眠っている人たちに聞こえてしまうくらい壁が薄いので、双子は彼らに気を遣いっぱなしだった。
アーサーが目覚めるまで、モニカはシチュリアとフィックと毎日過ごしていたが、アーサーの看病を交代でしていた彼らに、のほほんと話をする余裕なんてなかった。そのため、モニカもアーサーと同じくらい、彼らのことを知らなかった。
モニカがまたコソコソとアーサーの耳に囁く。
「アーサー、二人とお喋りしてみてよ」
「えっ!」
「だってずっとこんな気まずいのいやでしょ? わたしが喋ったらシチュリアをイライラさせちゃうかもしれないから、アーサーが喋ってよ」
「わ、わかったあ……」
モニカに小突かれて立ち上がったアーサーは、おそるおそるシチュリアとフィックに視線を向けた。彼らは相変わらず白湯をすすりながらこちらを見ている。
アーサーはぎこちない笑顔を作り、二人に話しかけた。
「えーっと、シチュリアとフィックって仲良いよね!」
「そうですか?」
「僕とシチュリアも、会ってまだ半月も経っていないんだけどね」
シチュリアが不愛想に、フィックは落ち着いて返事をした。アーサーは「あ、そうなんだ……」と話題の選択ミスに後悔をしたが、なんとか間を持たせようと踏ん張った。
「で、でも、とっても仲が良さそうに見えるよ! 出会って半月とは思えない!」
「まあ、確かに、彼女とは初めて会ったけど、初めて会った気がしなかったかな」
フィックがうーんと考えながら呟いた。それに対してシチュリアが目じりを下げる。
「私はフィックと会っても懐かしさなんて感じなかったわ。だって初めて会ったんだもの。……でも、一目見てあなたを……救ってあげたいと思った」
「……」
フィックは応えず、彼女に微笑みを返しただけだった。
「もしかして、病気のこと?」
アーサーが首を傾げると、シチュリアも首を傾げた。
「どうなのかしら。病気もそうですが、それよりも深いところで」
シチュリアがフィックの胸にトンと手を当てると、フィックはその手をそっと握り、目を閉じた。二人の静かなやりとりに、彼の穏やかな鼓動が双子の耳にまで届いた気がした。
アーサーとモニカが感じたものは、ほわっと胸があたたかくなる懐かしさ。二人は小さい頃、このあたたかさを誰かにもらったことがあった。そしてそれを与えてくれた人もまた――聖女だった。
寛容で優しいにもかかわらず、目は冷たくて表情が乏しい。いつもの表情がまず、眉を寄せて口をきゅっと結んでいるので、双子は怒っているのかなと不安になった。彼らに見せる表情と言えば、苛立ちか呆れ顔がほとんどだった。
では彼女が笑わないかと言われるとそうではなくて、フィックと話しているときは、いつものほほんとした笑みを浮かべていた。
「ねえ、アーサー」
「ん?」
その日の夜、晩食を終えて小さなソファで白湯を飲んでいるシチュリアとフィックを、遠くから眺めながらモニカが兄に耳打ちをした。
「もしかして、わたしたちシチュリアに嫌われてる?」
「あー……」
アーサーは苦笑いを浮かべた。彼もそれは感じ取っていたようだ。
「まあ、仕方ないんじゃないかな? だって僕、こんなだし」
こんなだし、が、一部が魔物になってしまったことを言っていることはすぐに分かった。
モニカは首を振り、それを否定する。
「ううん。シチュリアはロイと先生には好感を持っていたもん。それが問題なんかじゃないわ」
「そうなんだ。じゃあ、どうしてだろう。僕、なにか気に障ることしっちゃったかなあ」
「わたしのせいな気がする……。わたしってほら、言葉をあまり知らないから……」
「えー? そんなモニカがかわいいのにね」
アーサーはそう言ってデレッとだらしない顔で妹の顔を覗き込んだ。
意識を取り戻してから、アーサーはずっと彼女の顔を見てはデレデレしている。モニカとまたこうして一緒に過ごせることが、よほど嬉しいようだ。もしくは、モニカの短髪をよほど気に入ったかのどちらかだ。
こんな兄を見たら、モニカは心配事なんて全て吹っ飛んで、彼のことしか考えられなくなる。結局二人は考え事も忘れて、お互いにじゃれ合ってキャハキャハ笑い声をあげた。
しばらくじゃれていると、遠くからの視線に気付いた。シチュリアとフィックがこちらを見ている。双子は慌てて口に手を当てて、部屋の隅で縮こまった。
シチュリアの小屋は、リビング、寝室、浴室しかない小さな家だった。なので、ピュトア泉に滞在している間は、基本的にシチュリア、フィック、アーサー、モニカはずっと同じ空間で過ごさなければいけない。
寝るときは、シチュリアとフィックが寝室で眠り、アーサーとモニカはリビングのソファにぎゅうぎゅう詰めになって眠る。
部屋は違っても、普通の声で話したら隣の部屋で眠っている人たちに聞こえてしまうくらい壁が薄いので、双子は彼らに気を遣いっぱなしだった。
アーサーが目覚めるまで、モニカはシチュリアとフィックと毎日過ごしていたが、アーサーの看病を交代でしていた彼らに、のほほんと話をする余裕なんてなかった。そのため、モニカもアーサーと同じくらい、彼らのことを知らなかった。
モニカがまたコソコソとアーサーの耳に囁く。
「アーサー、二人とお喋りしてみてよ」
「えっ!」
「だってずっとこんな気まずいのいやでしょ? わたしが喋ったらシチュリアをイライラさせちゃうかもしれないから、アーサーが喋ってよ」
「わ、わかったあ……」
モニカに小突かれて立ち上がったアーサーは、おそるおそるシチュリアとフィックに視線を向けた。彼らは相変わらず白湯をすすりながらこちらを見ている。
アーサーはぎこちない笑顔を作り、二人に話しかけた。
「えーっと、シチュリアとフィックって仲良いよね!」
「そうですか?」
「僕とシチュリアも、会ってまだ半月も経っていないんだけどね」
シチュリアが不愛想に、フィックは落ち着いて返事をした。アーサーは「あ、そうなんだ……」と話題の選択ミスに後悔をしたが、なんとか間を持たせようと踏ん張った。
「で、でも、とっても仲が良さそうに見えるよ! 出会って半月とは思えない!」
「まあ、確かに、彼女とは初めて会ったけど、初めて会った気がしなかったかな」
フィックがうーんと考えながら呟いた。それに対してシチュリアが目じりを下げる。
「私はフィックと会っても懐かしさなんて感じなかったわ。だって初めて会ったんだもの。……でも、一目見てあなたを……救ってあげたいと思った」
「……」
フィックは応えず、彼女に微笑みを返しただけだった。
「もしかして、病気のこと?」
アーサーが首を傾げると、シチュリアも首を傾げた。
「どうなのかしら。病気もそうですが、それよりも深いところで」
シチュリアがフィックの胸にトンと手を当てると、フィックはその手をそっと握り、目を閉じた。二人の静かなやりとりに、彼の穏やかな鼓動が双子の耳にまで届いた気がした。
アーサーとモニカが感じたものは、ほわっと胸があたたかくなる懐かしさ。二人は小さい頃、このあたたかさを誰かにもらったことがあった。そしてそれを与えてくれた人もまた――聖女だった。
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