【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco

文字の大きさ
532 / 718
魂魄編:ピュトア泉

お墓

しおりを挟む
アーサーとモニカは小屋を出て、泉の淵に腰かけて二人きりで話をした。ペンダントを失くしたあの日から今日までの経緯を聞けば聞くほど、アーサーの肩が落ちていく。

カフェのお兄さんが裏S級冒険者であり、ポントワーブ町へ来たのは双子を殺すためだったこと。
ヴァラリアの仲間に、ジルにそっくりな槍使いがいたこと。
アサギリとウスユキ、キヨハルが双子を守ってくれたこと。
ポントワーブ町の家が荒らされて、もしかしたら今も裏S級が見張っているかもしれないこと。

アーサーの体にロイが憑依して、タールと連携して闇オークションへ参加したこと。
参加費としてモニカの髪を、ペンダントを競り落とすために白金貨10万枚を失ったことと、タールが白金貨3万枚を与えてくれたこと。
アーサーを浄化するため、ピュトァ泉に来たこと……。

途中からアーサーは泣いていた。
双子はほとんど全てのものを失った。家も、お金も、6年前、やっと手に入れたふるさとも。
アーサーはそれが、自分のせいだと思わずにはいられなかった。

ペンダントを失くさなければ、あの時カフェに行かなければ、カフェのお兄さんに出されたジュースを飲まなければ――。

もしかしたら、何も失わなかったかもしれない。モニカに髪を切らせることも、辛い思いをさせることもなかったかもしれない。そう考えると涙が止まらなかった。

一方モニカは冷静だった。

「謝らないでねアーサー。すべてわたしが選んだことなの。今回失ったもので、アーサー以上に大切なものなんてなにもないの」

モニカはそう言って兄の肩を抱いた。アーサーは何も言えなかった。後悔だけが、ぐるぐると頭の中を巡っている。だが、それを口に出すほどアーサーは弱くなかった。彼はキュッと口をつぐみ、小さく頷いただけだった。
「血のことは心配しないでね。わたしがいくらでもあげるから」

「うん……」

「吸血欲以外で、他に今までと変わったことはない?」

「ない、かな……。まだ分からないけど」

「そっか。良かった」

それから、二人は再会した吸血鬼のことを話し合った。

ロイがモニカと一緒に寝たり、最後に告白をしたと聞いてアーサーは複雑な顔をしていたし、セルジュとアーサーが互いに好き合っていると聞いて明らかにモニカの機嫌が悪くなったが、それでも双子は吸血鬼にこれ以上ない感謝の気持ちでいっぱいになった。

アーサーはペンダントを取り出して蓋を開けた。そこにはミモレスの髪束が入っている。それを撫でながらぼそりと呟く。

「もうここに先生もロイもいないけど……。なにか、お礼がしたいな」

「うん! したい! アーサーがこうして無事に戻ってこられたのは、他の誰でもない、先生とロイのおかげだもん」

しばらく考えて、モニカが良いことを思いついた。

「そうだ! ここに二人のお墓を作ってあげようよ!」

「わ! それいいね! ピュトァ泉は先生とミモレスの思い出の場所だし。ぴったりだ!」

「ロイは先生と同じ場所だったらどこでも嬉しいと思うの! ねえ、そうしようよ!」

「そうしよう! 早速シチュリアに相談に行こう!」

アーサーとモニカは小屋へ戻り、編み物をしていたシチュリアに、墓を建てたいと相談した。聖地に魔物の墓なんて、と嫌がられるかと思ったが、意外にも彼女はあっさり承諾した。

「かまいませんよ。お好きなところへどうぞ」

「えっ? いいの?」

「ええ。守りたいもののために自ら泉へ入った吸血鬼に、私は敬意を示したいです」

モニカが思わず彼女に抱きついた。この一週間でモニカの激しいスキンシップには慣れたのか、シチュリアは何の反応も示さずに編み物を続けている。

「シチュリアってすごいね。話していると、心がきれいになる気がする」

 モニカの呟きに、シチュリアは淡々と返す。

「聖女はある種感情が欠落している存在です。人はそんな私たちのことを、綺麗な心を持っている存在だと言いますね。私にはよく分かりませんが」

「シチュリアって、いつも難しい言葉を使うから、わたしよく分からないのよ」

「私も、モニカとは語彙力の違いを痛感します。話が通じなくて苛立つことが多いですね」

「うっ……」

モニカとシチュリアのやり取りを、アーサーは興味深げに聞いていた。

(シチュリア……。ミモレスとは全然ちがうなあ)

ミモレスやミアーナは表情豊かで天真爛漫だったが、シチュリアは表情が分かりづらい。その上、どこか冷たさを感じた。アーサーは、聖女はみんなミモレスやミアーナのような温かみのある人ばかりだと思っていたので少し驚いた。

じろじろと見ていたのが悪かったのか、彼の視線に気付いたシチュリアが眉を寄せる。

「なんですか、アーサー」

「な、なんでもない!」

「そうですか。ではどうぞお好きなところへお墓を建ててください。土や石、花は好きに使ってくれていいですよ」
「ありがとう、シチュリア!」

それからアーサーとモニカは、ピュトァ泉の周囲をぐるっと一周した。ミモレスの記憶を何度も遡ったことがあるアーサーにとっては、どこも懐かしさを感じる場所だった。

結局、セルジュとロイの墓は、泉から少し離れた目立たない場所に建てることにした。

崩れ落ちた小屋のレンガや石を使って、かろうじて墓だと分かる程度の出来栄えに仕上がった。
何も埋まっていない、ただ落ちていた物を寄せ集めただけの墓。アーサーとモニカはそこに野花を添えて、祈りを捧げた。

アーサーが静かに歌を口ずさむ。

「なんの歌? はじめて聞いたわ。きれいな歌」

「これはね、ミモレスが死んだ人を弔うときに、手向けとして歌ってた歌」

「そうなの? わたしも歌いたい」

「うん。一緒に歌おう」

アーサーの歌声に合わせて、少し遅れてモニカが歌う。

その歌声は風に乗り、シチュリアの耳に届いた。

「ヴァルタニア家に伝わる弔いの歌だわ。お母様に教えてもらったのかしら」
しおりを挟む
感想 494

あなたにおすすめの小説

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。