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魂魄編:ピュトア泉
モニカの癇癪
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シチュリアは吸血しているアーサーに近寄り、背中を強めに叩いた。
我に返ったアーサーは、自分のしていることに気付き悲鳴を漏らす。
「う…うわあああ! ぼ、僕、今なにを……」
「……意識が飛んでいたのね」
「ど、どうして僕、モニカの血を……」
シチュリアとフィックは彼にも、アーサーが今後吸血行為を必要とするだろうと説明をした。アーサーはカタカタ震えてモニカを見る。
「モ……モニカ。どうしよう、僕……」
「……」
「ごめん……。ごめんなさい……。僕、またモニカにひどいことした……きっとこれからも……」
「それはいいの。そんなことはどうでも」
「どうでもよくなんかない! 僕は……魔物に憑依されてる時にひどいことしたの覚えてるんだ……! これ以上モニカにひどいことしたくないよ……! それに僕……もう、完全な人でもなくなっちゃった……」
「そんなことどうでもいいって言ってるでしょ!!」
モニカの大声に、小屋の中がシンと静まり返った。
モニカはわなわな震えながら、アーサーを睨みつける。
「わたしは……アーサーが生きててくれたらそれでいいの。もともと、たとえあんたが魔物になっても離れるつもりなんてなかったわ。こうして戻ってきてくれただけで、わたしは何よりも嬉しいのよ。わたしの血でいいならいくらでもあげるわ」
「モニカ……」
「さっきはちょっとびっくりしちゃったけど、見てる限り吸血行為以外はいつもと変わりなさそうだし。アーサーの中に残ってる吸血鬼の特徴が吸血行為だけならまだ良かったわ」
「吸血行為”だけ”かはまだ分からないですが……。まずはこの吸血行為がどの程度なのか調べる必要がありますね」
シチュリアはそう言って、アーサーを触診し始めた。
「瞳は……人のままですね。爪や歯にも変化はありません」
アーサーがあからさまに安堵のため息を漏らした。
「アーサー。先ほど飲んだ血の量で足りていますか? 正直に答えてください」
「……ちょっと、足りない」
シチュリアから目を逸らしながら、アーサーが答えた。
シチュリアは次にモニカに尋ねる。
「モニカ、あなたアーサーにどのくらい血を吸われましたか?」
「わ、分からない……」
「分かりました。ではアーサー。明日、私の血を満足するまで飲んでください」
「「えっ」」
アーサーとモニカが同時に声をあげたが、それを無視してシチュリアが言葉を続ける。
「血をどの程度欲してしまうのかを調べるためです。いいですね」
「で、でもそんな……」
「お気になさらず。血を抜かれることには慣れています」
躊躇っているアーサーに、シチュリアが事務的にそう言った。アーサーが戸惑いながらも頷こうとすると、モニカが「そんなのだめーーーー!」と手足をバタバタさせる。
「やだー! アーサーが女の子の体に口を付けてるとこなんてみたくないいい!!」
「モニカ。言い方が変ですよ。私はただアーサーの吸血行為の症状を……」
「やあああだああああ!!」
「モ、モニカ落ち着いて!?」
突然大声を出す妹を、アーサーが宥めようとしたがあまり効果がない。
「いやだあああああ!!」
大騒ぎするモニカに、シチュリアはげんなりしていて、アーサーはオロオロしていた。そこで助け舟を出したのがフィック。
「じゃあ、僕の血を飲めばいいよ。僕なら血をどのくらい抜かれたか正確に分かるよ。いいだろう、シチュリア?」
「ええ。量が分かれば誰でもいいわ」
辟易しているシチュリアが投げやりに応えた。
「男の子だったらいいだろう、モニカ?」
「あ、うん……女の子じゃないなら大丈夫……」
「じゃあ、そういうことにしよう」
フィックのおかげでモニカが少し落ち着いたが、当の本人の意向を無視して話が進んでいることに気付き、アーサーは瞬いた。
「あれ……フィック? 僕の意向は聞かないの?」
「君に拒否権なんてないよ。大丈夫、僕の血を飲んでも病気は移らないから」
フィックが爽やかに微笑んだが、アーサーはぷぅと頬を膨らませる。
「病気のことをこわがってるんじゃないよ。ただでさえ病弱なフィックの血を抜いていいか心配になっただけだもん」
「心配してくれてありがとう。でも、もう決まったことだから、いいよね」
それ以上アーサーは何も言えなかった。
フィックの話し方や表情には、有無を言わせず人を従えさせてしまうものを持っていた。アーサーは唇をとがらせながら、いやいや頷くことしかできなかった。
そしてアーサーは改めて、ひとりひとりに謝った。
「モニカ、さっきはごめんね。モニカの匂いを嗅いだら頭がぼぉっとして、意識が飛んじゃった。痛いことしてごめんなさい。シチュリアとフィックも、いろいろと迷惑をかけてごめんなさい」
「だから、いいって言ってるでしょ! アーサーがこうして意識を取り戻してくれただけで、死んじゃうくらい嬉しいんだから!」
「私のこともお気にならさず。苦しむ人を救うのは聖女の役目ですから」
「僕になんて謝らないで、アーサー。謝らなきゃいけないのは、僕の方なんだから」
「……?」
頭を下げるアーサーに、モニカ、シチュリア、フィックがそれぞれ声をかけた。
兄が無事目覚めたことが嬉しくて、モニカにとっては他の出来事なんて些細なことだった。
シチュリアは、聖女としての使命を果たせて安堵しているようだった。
フィックは、アーサーが目覚めてから今に至るまでずっと、ほとんど変わらない微笑みを浮かべている。
「さて、ドタバタしていろいろと順番が乱れてしまいましたね。アーサー、今からあなたの身に起こったことを説明します。主にモニカが、ですが」
フィックの言葉に引っかかったが、シチュリアにそう言われてアーサーは頷いた。彼はまず知らなければいけない。ペンダントを失くした日から今日までの出来事を。
我に返ったアーサーは、自分のしていることに気付き悲鳴を漏らす。
「う…うわあああ! ぼ、僕、今なにを……」
「……意識が飛んでいたのね」
「ど、どうして僕、モニカの血を……」
シチュリアとフィックは彼にも、アーサーが今後吸血行為を必要とするだろうと説明をした。アーサーはカタカタ震えてモニカを見る。
「モ……モニカ。どうしよう、僕……」
「……」
「ごめん……。ごめんなさい……。僕、またモニカにひどいことした……きっとこれからも……」
「それはいいの。そんなことはどうでも」
「どうでもよくなんかない! 僕は……魔物に憑依されてる時にひどいことしたの覚えてるんだ……! これ以上モニカにひどいことしたくないよ……! それに僕……もう、完全な人でもなくなっちゃった……」
「そんなことどうでもいいって言ってるでしょ!!」
モニカの大声に、小屋の中がシンと静まり返った。
モニカはわなわな震えながら、アーサーを睨みつける。
「わたしは……アーサーが生きててくれたらそれでいいの。もともと、たとえあんたが魔物になっても離れるつもりなんてなかったわ。こうして戻ってきてくれただけで、わたしは何よりも嬉しいのよ。わたしの血でいいならいくらでもあげるわ」
「モニカ……」
「さっきはちょっとびっくりしちゃったけど、見てる限り吸血行為以外はいつもと変わりなさそうだし。アーサーの中に残ってる吸血鬼の特徴が吸血行為だけならまだ良かったわ」
「吸血行為”だけ”かはまだ分からないですが……。まずはこの吸血行為がどの程度なのか調べる必要がありますね」
シチュリアはそう言って、アーサーを触診し始めた。
「瞳は……人のままですね。爪や歯にも変化はありません」
アーサーがあからさまに安堵のため息を漏らした。
「アーサー。先ほど飲んだ血の量で足りていますか? 正直に答えてください」
「……ちょっと、足りない」
シチュリアから目を逸らしながら、アーサーが答えた。
シチュリアは次にモニカに尋ねる。
「モニカ、あなたアーサーにどのくらい血を吸われましたか?」
「わ、分からない……」
「分かりました。ではアーサー。明日、私の血を満足するまで飲んでください」
「「えっ」」
アーサーとモニカが同時に声をあげたが、それを無視してシチュリアが言葉を続ける。
「血をどの程度欲してしまうのかを調べるためです。いいですね」
「で、でもそんな……」
「お気になさらず。血を抜かれることには慣れています」
躊躇っているアーサーに、シチュリアが事務的にそう言った。アーサーが戸惑いながらも頷こうとすると、モニカが「そんなのだめーーーー!」と手足をバタバタさせる。
「やだー! アーサーが女の子の体に口を付けてるとこなんてみたくないいい!!」
「モニカ。言い方が変ですよ。私はただアーサーの吸血行為の症状を……」
「やあああだああああ!!」
「モ、モニカ落ち着いて!?」
突然大声を出す妹を、アーサーが宥めようとしたがあまり効果がない。
「いやだあああああ!!」
大騒ぎするモニカに、シチュリアはげんなりしていて、アーサーはオロオロしていた。そこで助け舟を出したのがフィック。
「じゃあ、僕の血を飲めばいいよ。僕なら血をどのくらい抜かれたか正確に分かるよ。いいだろう、シチュリア?」
「ええ。量が分かれば誰でもいいわ」
辟易しているシチュリアが投げやりに応えた。
「男の子だったらいいだろう、モニカ?」
「あ、うん……女の子じゃないなら大丈夫……」
「じゃあ、そういうことにしよう」
フィックのおかげでモニカが少し落ち着いたが、当の本人の意向を無視して話が進んでいることに気付き、アーサーは瞬いた。
「あれ……フィック? 僕の意向は聞かないの?」
「君に拒否権なんてないよ。大丈夫、僕の血を飲んでも病気は移らないから」
フィックが爽やかに微笑んだが、アーサーはぷぅと頬を膨らませる。
「病気のことをこわがってるんじゃないよ。ただでさえ病弱なフィックの血を抜いていいか心配になっただけだもん」
「心配してくれてありがとう。でも、もう決まったことだから、いいよね」
それ以上アーサーは何も言えなかった。
フィックの話し方や表情には、有無を言わせず人を従えさせてしまうものを持っていた。アーサーは唇をとがらせながら、いやいや頷くことしかできなかった。
そしてアーサーは改めて、ひとりひとりに謝った。
「モニカ、さっきはごめんね。モニカの匂いを嗅いだら頭がぼぉっとして、意識が飛んじゃった。痛いことしてごめんなさい。シチュリアとフィックも、いろいろと迷惑をかけてごめんなさい」
「だから、いいって言ってるでしょ! アーサーがこうして意識を取り戻してくれただけで、死んじゃうくらい嬉しいんだから!」
「私のこともお気にならさず。苦しむ人を救うのは聖女の役目ですから」
「僕になんて謝らないで、アーサー。謝らなきゃいけないのは、僕の方なんだから」
「……?」
頭を下げるアーサーに、モニカ、シチュリア、フィックがそれぞれ声をかけた。
兄が無事目覚めたことが嬉しくて、モニカにとっては他の出来事なんて些細なことだった。
シチュリアは、聖女としての使命を果たせて安堵しているようだった。
フィックは、アーサーが目覚めてから今に至るまでずっと、ほとんど変わらない微笑みを浮かべている。
「さて、ドタバタしていろいろと順番が乱れてしまいましたね。アーサー、今からあなたの身に起こったことを説明します。主にモニカが、ですが」
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