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魂魄編:ピュトア泉
魔法のレッスン
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結局、アーサーはシチュリアの杖を借りることになった。
差し出された杖を握るが、特段何も起こらない。
「何か感じますか?」
シチュリアに尋ねられ、アーサーは首を傾げる。
「うーん……ちょっと手が熱くなったような……」
「それは緊張して体温が上がっているからです」
「あれっ、杖を握ってるところが濡れてる! 水魔法かな!?」
「それはあなたの手汗です」
「……」
「……」
「……何も感じません」
「そうですよね。杖も全く反応していませんし」
「うぅ……」
せっかく魔力を手に入れたのに幸先が悪い。杖を握ると勝手に魔法が発動すると考えていたアーサーは、しょんぼりと肩を落とした。
「一度杖を振ってみてください」
シチュリアにそう言われて、アーサーはモニカの真似をして杖を振った。
しかし、何も起こらない。
「……」
「……」
「……なにこれぇ。恥ずかしいよ……」
「始めは誰でも上手に魔法を使いこなせませんから」
「そうなの? モニカは初めての魔法でイノシシを丸焼きにしたよ……?」
「彼女は特別です。魔力量もセンスもずば抜けていますから」
さらっと褒め言葉をかけられて、モニカはもじもじと頬を赤らめた。
シチュリアは何度かアーサーに杖を振らせてから(何も起きなかった)、しばらく考え込んで大雑把な提案をする。
「とりあえず、簡単な魔法を教えるのでやってみてくれますか?」
「わ、分かった!」
目をキラキラさせて杖を握りしめる兄に、モニカが思わず噴き出した。
「ぷっ! アーサー、すっごく嬉しそうな顔しちゃって!」
「だって! 実はずっと魔法に憧れてたんだー! 僕もモニカみたいに、杖をひゅーんって振ったら色んなことができるようになりたいなーって!」
アーサーは満面の笑みを浮かべて応えた。モニカもつられて笑い、「わたしも教えてあげるー!!」と言いながら彼に抱きついた。
ハグをしながらキャハキャハ笑っている双子をしばらく眺めていたが、黙っていたら日が暮れるまで続くのではないかと心配になるほどずっとはしゃいでいるので、堪りかねたシチュリアが咳ばらいをする。
「ンンッ! もういいですか? そろそろアーサーの魔法を調べたいのですが」
「あっ! ごめん!」
「ねえシチュリア! わたしがアーサーに魔法を教えてもいい!?」
モニカの申し出にシチュリアは頷いた。
「もちろん構いませんよ。あなたの魔法能力でしたら申し分ありません」
「やった! これでもわたし、学院でみんなに魔法を教えてたんだからね!」
ふんぞり返るモニカに、アーサーはふざけて「よろしくお願いします! モニカ先生!」と言って敬礼した。
「アーサーくん、ではまず、杖を構えてください!」
「はい!」
「じゃあまず火の魔法からいくね! 火魔法は、子守唄を歌います!」
「はい!」
「?」
「杖は良い感じにゆらゆら揺らします!」
「はい!」
「??」
「それで、出したい大きさの火をイメージするの! そしたらできるよ!」
「やってみる!」
「???」
「じゃあ、わたしの真似をしてみてね!」
モニカは杖を取り出し、指揮棒を振るようにゆったりと手首をストロークさせながら子守唄を歌い始めた。すると杖からぽぽぽと小さな火が灯り、彼女のまわりを舞う。
アーサーも妹を見習って、歌いながら杖を振った。歌も杖の動きもモニカと完璧に一致している。双子は5分ほど歌い続けた。だがーー
「うーん、火が出ないなあ」
アーサーの杖からは一向に火が灯らない。モニカは不思議そうに首を傾げる。
「どうしてだろう。同じようにしたのにねえ?」
「ねー」
「アーサーが使えるのは火魔法じゃないのかもね。じゃあ次は水魔法をーー」
「……いやいやいや。今のは冗談ではなかったのですか、モニカ?」
慌ててシチュリアが口を挟んだ。「何してるんだこの人は」という目でモニカを見ている。だが、当のモニカは大まじめだ。
「え? 冗談?」
「歌で魔法を使うなんて聞いたことがありませんよ。それに、なんですか今の杖の振り方は? あれでどうやって火魔法を放ったのです?」
「どうやって……? だってあれで火魔法出るから……」
「これだから天才は……」
シチュリアは深いため息をつき、アーサーの肩にぽんと手を載せた。
「アーサー。先ほどモニカに教わったことは全て忘れてください」
「「えー!?」」
「えー、じゃありません。あのような特殊な魔法の使い方は、モニカの魔力量と魔力の質の良さとセンスがあって初めて成立するのです。魔力も魔力の器も小さいアーサーに、あのような方法で魔法が使えるようになるわけないじゃないですか」
「「そうなのぉー!?」」
差し出された杖を握るが、特段何も起こらない。
「何か感じますか?」
シチュリアに尋ねられ、アーサーは首を傾げる。
「うーん……ちょっと手が熱くなったような……」
「それは緊張して体温が上がっているからです」
「あれっ、杖を握ってるところが濡れてる! 水魔法かな!?」
「それはあなたの手汗です」
「……」
「……」
「……何も感じません」
「そうですよね。杖も全く反応していませんし」
「うぅ……」
せっかく魔力を手に入れたのに幸先が悪い。杖を握ると勝手に魔法が発動すると考えていたアーサーは、しょんぼりと肩を落とした。
「一度杖を振ってみてください」
シチュリアにそう言われて、アーサーはモニカの真似をして杖を振った。
しかし、何も起こらない。
「……」
「……」
「……なにこれぇ。恥ずかしいよ……」
「始めは誰でも上手に魔法を使いこなせませんから」
「そうなの? モニカは初めての魔法でイノシシを丸焼きにしたよ……?」
「彼女は特別です。魔力量もセンスもずば抜けていますから」
さらっと褒め言葉をかけられて、モニカはもじもじと頬を赤らめた。
シチュリアは何度かアーサーに杖を振らせてから(何も起きなかった)、しばらく考え込んで大雑把な提案をする。
「とりあえず、簡単な魔法を教えるのでやってみてくれますか?」
「わ、分かった!」
目をキラキラさせて杖を握りしめる兄に、モニカが思わず噴き出した。
「ぷっ! アーサー、すっごく嬉しそうな顔しちゃって!」
「だって! 実はずっと魔法に憧れてたんだー! 僕もモニカみたいに、杖をひゅーんって振ったら色んなことができるようになりたいなーって!」
アーサーは満面の笑みを浮かべて応えた。モニカもつられて笑い、「わたしも教えてあげるー!!」と言いながら彼に抱きついた。
ハグをしながらキャハキャハ笑っている双子をしばらく眺めていたが、黙っていたら日が暮れるまで続くのではないかと心配になるほどずっとはしゃいでいるので、堪りかねたシチュリアが咳ばらいをする。
「ンンッ! もういいですか? そろそろアーサーの魔法を調べたいのですが」
「あっ! ごめん!」
「ねえシチュリア! わたしがアーサーに魔法を教えてもいい!?」
モニカの申し出にシチュリアは頷いた。
「もちろん構いませんよ。あなたの魔法能力でしたら申し分ありません」
「やった! これでもわたし、学院でみんなに魔法を教えてたんだからね!」
ふんぞり返るモニカに、アーサーはふざけて「よろしくお願いします! モニカ先生!」と言って敬礼した。
「アーサーくん、ではまず、杖を構えてください!」
「はい!」
「じゃあまず火の魔法からいくね! 火魔法は、子守唄を歌います!」
「はい!」
「?」
「杖は良い感じにゆらゆら揺らします!」
「はい!」
「??」
「それで、出したい大きさの火をイメージするの! そしたらできるよ!」
「やってみる!」
「???」
「じゃあ、わたしの真似をしてみてね!」
モニカは杖を取り出し、指揮棒を振るようにゆったりと手首をストロークさせながら子守唄を歌い始めた。すると杖からぽぽぽと小さな火が灯り、彼女のまわりを舞う。
アーサーも妹を見習って、歌いながら杖を振った。歌も杖の動きもモニカと完璧に一致している。双子は5分ほど歌い続けた。だがーー
「うーん、火が出ないなあ」
アーサーの杖からは一向に火が灯らない。モニカは不思議そうに首を傾げる。
「どうしてだろう。同じようにしたのにねえ?」
「ねー」
「アーサーが使えるのは火魔法じゃないのかもね。じゃあ次は水魔法をーー」
「……いやいやいや。今のは冗談ではなかったのですか、モニカ?」
慌ててシチュリアが口を挟んだ。「何してるんだこの人は」という目でモニカを見ている。だが、当のモニカは大まじめだ。
「え? 冗談?」
「歌で魔法を使うなんて聞いたことがありませんよ。それに、なんですか今の杖の振り方は? あれでどうやって火魔法を放ったのです?」
「どうやって……? だってあれで火魔法出るから……」
「これだから天才は……」
シチュリアは深いため息をつき、アーサーの肩にぽんと手を載せた。
「アーサー。先ほどモニカに教わったことは全て忘れてください」
「「えー!?」」
「えー、じゃありません。あのような特殊な魔法の使い方は、モニカの魔力量と魔力の質の良さとセンスがあって初めて成立するのです。魔力も魔力の器も小さいアーサーに、あのような方法で魔法が使えるようになるわけないじゃないですか」
「「そうなのぉー!?」」
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