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魂魄編:ピュトア泉

藍と双子の三角関係

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アーサーが使える魔法を突き止めるために、三人は泉近くの森へ向かった。到着すると、シチュリアが二本の杖を差し出した。そのうちの一本は、モニカの杖である藍だった。

「本当は数ある杖の中からご自身に一番合う杖を選んでいただくべきなのですが、私は杖を一本しか持っていません。なので、モニカの杖か私の杖、どちらかマシな方を選んでください」

「どうしよっかなー!」

ずっと憧れていたのだろう。アーサーは目をキラキラさせて杖を選ぼうとした。だが、悩もうとした矢先に怒声が飛んでくる。

《おおおい! アーサー! なぜ即決で我を選ばんのだ!! 我を選ばんか!》

「えー、でも、僕に合った方を選びたいじゃないかあ」

《我の方が合っているに決まっておろうが!! 何年共に歩んできたと思っておるのだ!!》

「確かに……」

《それに我ならばこうして会話ができる! 我に魔力が伝わっているか伝わっていないか、分かりやすいであろう!!》

「確かにぃ……!」

「どうしてそんなに必死なのよ藍! 藍はわたしの杖でしょぉ!?」

思わずモニカが口を挟むと、藍は焦りながら弁解をする。

《ち、ちがうぞモニカ! 我は主の杖でありながら、アーサーの保護者でもあるのだ……!! どこの馬の骨かもしれん杖を主の兄に握らせるなど、そんなこと我が許せるわけがなかろうが!!》

「まあまあ、ふたりとも落ち着いて……」

《アーサーは黙っておれ!!》

「アーサーは黙ってて!!」

「はい……」

どうして僕の杖選びなのに怒られなきゃいけないんだろうと思いながら、アーサーは困ったようにシチュリアを見た。

シチュリアには杖の声が聞こえないので、突然騒ぎ出した双子に面食らっているようだった。

「えーっと……? アーサーとモニカは杖の声が聞こえるのですか?」

「うん。モニカは元々で、僕は加護の糸のおかげで声が聞こえるよ」

「ああ、そのために結ばれた加護の糸だったのですね」

「モニカの杖が、自分にしろってうるさくて、モニカはモニカでどうして自分以外の人に握られたいんだみたいな感じで怒ってる……」

「なんとも複雑な三角関係ですね」

アーサーとシチュリアが見守る中、モニカと藍は大げんかを繰り広げている。

「藍のバカ! 浮気者ー!!」

《そ、それは主の方ではないか!! 我というものがありながら、朝霧を引っさげて悪びれもせずに我の前に現れおって!!》

「うっ……で、でも! アサギリは杖じゃないもん!!」

《それがどうしたというのだ!! 杖かそうでないかなど重要なところではない!!》

「関係あるもん!」

《最近は朝霧が活躍しすぎて我は面白くない!!》

「そんなことないもん!」

《我は……我はいつ主に愛想を尽かされるかと考えると毎夜眠れんのだ!!》

「えっ」

まさかのカミングアウトに、モニカとアーサーはきょとんとした顔で杖を見た。杖はぷるぷる震えながら、涙声を絞り出す。

《朝霧は自ら動くことができる。特殊能力をたくさん持っておるし、薄雪の力まで借りることができるのだぞ……。我など、主の命令がなければ何もしてはいけないという強い誓約の元再び入れ物を与えられた、本来存在するはずのない杖なのだ……》

「あ、藍。そんなこと考えてたの?」

《今回の一件も、我は何もできなかった……。朝霧はあれほど主らを守ったというのに》

「ちがう!! そんな風に考えないでよ藍!!」

杖がそれほど思いつめているとは思いもよらず、モニカはオロオロと杖に励ましの言葉をかけた。だが杖はショボンとしているだけで、全く心に響いていないようだ。

モニカは助けを求めてアーサーに目線を送った。アーサーはこくんと頷き、杖に囁きかける。

「藍。それだったら僕の杖になってよ。藍を一番大切にするから」

「な、なに言ってんのアーサー!?」

《アーサー……》

ズキューンという音が聞こえた気がした。
杖の周りにポワポワとほんのり赤い光が浮かんでいる。

《なっ、何を言っておるのだ! そなたのような微弱な魔力しか持たぬ者が我の主になろうなどと烏滸がましいやつめ!》

「そんなこと言いながら嬉しいんでしょー? 嬉しくて光が出ちゃってるよ、藍」

ニヤニヤしているアーサーに小突かれ、杖は彼を吹き飛ばした。

「わぶっ!」

《ち、違う! こ、これは、あれだ! 怒りの光だ!》

「あはは! 素直じゃない藍も好きだよ! だから僕の杖になってよー!」

《う、うぐぅ……》

「いやちょっと待って!? アーサー!! なにわたしの藍取ろうとしてるの!?」

たまりかねたモニカが、杖を抱きしめて兄から引き離した。アーサーはふふんと笑い、首を傾ける。

「モニカにはアサギリがいるでしょ? だから藍は僕にちょうだい?」

「何言ってるの!? いやよ藍はわたしの杖だもん!!」

「大事にするって約束するから! お願い、ね?」

「だめぇぇぇっ!! わたしから藍を取ろうとしないでアーサー! わたしは藍が杖じゃないといやだもん!!」

「でも藍はまんざらでもなさそうだしなあ」

《ちがっ……》

「いやぁぁぁっ!! 藍はわたしの杖だもん! アーサーのじゃないもん!! やぁぁぁだぁぁぁっ!! なんでそんなこと言うのぉ!? アーサーの意地悪!! びえぇぇぇぇえん!!」

とうとうモニカが泣き出してしまった。大声で泣き喚くモニカに抱きしめられている杖は、オロオロしながら彼女の名前を呼ぶ。だが泣くことに必死なモニカには、杖の声が届かなかった。

《モ、モニカ……っ。落ち着くのだ》

「藍はわたしの杖だもん~~~!! うあぁぁぁん!!」

《泣いてばかりおらず我の声に耳を傾けんか……》

「藍、分かった?」

モニカの背後から、こそっとアーサーが顔を出して杖に囁いた。

《アーサー……。モニカが泣き止まぬ……》

「それくらい藍のことが大好きなんだよ。僕にさえも取られたくないくらいに」

《……》

「だから、これからもモニカの杖でいてあげてよ。寂しくなったら、僕がいつでも話し相手になるからさ!」

《……フン。アーサーのくせに生意気な》

つっけんどんな声を出した杖のまわりには、今では色とりどりの光が散りばめられていた。
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