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北部編:イルネーヌ町
ドン引きの兄とジト目の妹
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双子は三日間Gランクダンジョンに滞在して、隅から隅まで、目に見える魔物は一匹残らず倒して素材を回収した。それだけでは飽き足らず、魔物の死体捨て場となっている場所を見つけては、死体から高く売れそうな素材を回収した。
「見てモニカ! イエティの死体があるよー! イエティの毛皮はきっと高く売れるぞ~!」
「きゃっ! アーサー! 死体に今にも生まれそうなゴブリンの卵がくっついてるわ! 生まれるまで観察してていい~?」
「いいよ。休憩がてら観察してて。僕はもうちょっと回収するから」
「赤ちゃん生まれたら、わたしもちゃんと手伝うね!」
「うん、お願い」
それにしても、どうしてモニカはこんなにゲテモノ好きなのだろう、とアーサーは妹に悟られないよう軽くため息をついた。
モニカは果物を頬張りながら、キラキラと目を輝かせてゴブリンの赤子が入っている粘膜を間近くで眺めている。赤子がピクッと動くだけで大喜びだ。粘膜から地上に生れ落ちた時には、モニカは「よく頑張ったねェ~!!」と嬉し泣きをしていた。
よちよち歩く赤子ゴブリンは、魔物の死体に口を付けて、何かをちゅうちゅう吸い始めた。栄養補給ができたそれは、満足げに死体に間に挟まって寝息を立てる。
「食べて疲れちゃったのかなあ。おやすみ、ゴブリンちゃん」
すっかり母親気取りのモニカは、寝ている赤子ゴブリンの頭を優しく撫でた。ゴブリンの頬にキスをしようとしたので、さすがにアーサーが引き留める。
「ほっぺにキスはさすがにやめてモニカ!?」
「はっ……! ごめん、かわいくってつい……」
「なんにでも愛情を注げるモニカのことは尊敬するけど、さすがにゴブリンはやめてほしい……。お兄ちゃんは妹のことが本気で心配になるよ……」
額に手を当てて首を振るアーサーに、モニカは真顔で呟いた。
「心配してくれるのは嬉しいけど、どうしてこんなにモヤモヤするんだろう」
その後アーサーは、死体捨て場にポイフロギンと呼ばれるカエル型の魔物を見つけた。極寒地で唯一毒を持っているその魔物に、彼は感激しすぎてじんわり涙を滲ませる。毒を抽出するだけでは飽き足らず、まだかろうじて生きているポイフロギンの為に回復薬を調合し始めた。
「僕が君にぴったりの回復薬を調合してあげるからね! 元気いっぱいになって、いっぱい毒を分泌しようね! 待っててねポイフロギンくん!」
その様子を、モニカがじとーっとした目で眺めている。
「私は心配なんてしないわよ。だって昔から私のお兄ちゃんは変態だもん」
◇◇◇
町へ戻ったアーサーとモニカは、一旦宿へ戻った。魔物の血まみれで、しかもぷんぷん死臭がする彼らに、宿屋の店主は思わず鼻を摘まむ。
「あ、あんたたち、なにがあったのさぁ?」
「あっ、ごめんね、宿屋のおばさん」
「ちょっとね、ダンジョンに潜ってて」
「すぐにお風呂入るし、服も洗うから、宿に泊めてくれないかなあ?」
「お願い!」
両手を合わせる双子に、宿屋の店主は「料金を上乗せするよぉ?」とほんのりニヤけた。
数日イルネーヌ町で滞在してだんだん分かってきたが、この宿屋の店主だけでなく、この町の住民は全員お金が大好きだ。お金さえ払えば大抵なことは解決できたので、それは双子にとっても都合が良かった。
双子は一泊分で大銀貨七枚を後払いで支払うと約束して、宿を確保することができた。
部屋へ入るなり、蛇口でお湯を溜める時間を待てなかったモニカが、水魔法で浴槽たっぷりの水を一瞬にして注ぎ込み、水中に火魔法を放ってちょっぴり熱めのお湯になるまで温めた。
アーサーは血まみれの服を脱ぎ捨て、湯に飛び込み「熱ぅぃっ!!」と叫んだ。
そんな兄の脱ぎ捨てた服と、モニカ自身の服をワイン樽(宿屋のおばさんにもらった)に放り込んだ。樽の中にも水をたっぷり注ぎ込み、石鹸をひとかけら落とす。モニカは浴槽に浸かりながら、樽の中に風魔法を放ち、水中で服を泳がせた。
ちなみに、これらの便利な発想はシチュリアに教えてもらった。
「シチュリアは天才だわ。基本的な魔法だけで、こんなに生活が楽になる方法を編み出しちゃうんだもの!」
モニカが興奮気味に兄に熱弁すると、アーサーもうんうんと頷く。
「ほんとにありがたいよ。洗ったあとは温風で乾かしてくれるしね。でもこれって、モニカやシチュリアみたいに、魔法が上手で魔力量が多くないとできない技だよね?」
「まあ……そうね。魔力量は結構必要かもね」
「魔法っていいなあ~。いいなあいいなあ~」
アーサーは頬を膨らませて、魔法を放っているモニカの指先をじっと見つめている。今までモニカの魔法を見て「すごいね」と褒めていた彼が、「いいなあ」と羨ましそうな顔をするようになってしまった。使えなくて当り前だったことが、もしかしたら使えるかもしれないという一縷の望みを与えられてしまったせいだ。
モニカは困ったように目尻を下げて、兄の頭をぽんぽんと撫でる。
「落ち着いたら魔法の練習しよ。アーサーだったらきっと使えるようになるわ」
「うんっ。魔力があるのに魔法が使えないなんて、悔しいよ」
「シャナに杖を選んでもらえたらなあ」
「それこそ落ち着いてからでいいよ。だから時々藍を貸してくれる?」
「仕方ないなあ」
「やったー! ありがと、モニカ!」
バシャンと湯を波立たせて、アーサーはモニカに抱きついた。
よく温まってから、双子はしっかりと体を洗う。三日ぶりのお風呂は最高に気持ちが良かった。
「見てモニカ! イエティの死体があるよー! イエティの毛皮はきっと高く売れるぞ~!」
「きゃっ! アーサー! 死体に今にも生まれそうなゴブリンの卵がくっついてるわ! 生まれるまで観察してていい~?」
「いいよ。休憩がてら観察してて。僕はもうちょっと回収するから」
「赤ちゃん生まれたら、わたしもちゃんと手伝うね!」
「うん、お願い」
それにしても、どうしてモニカはこんなにゲテモノ好きなのだろう、とアーサーは妹に悟られないよう軽くため息をついた。
モニカは果物を頬張りながら、キラキラと目を輝かせてゴブリンの赤子が入っている粘膜を間近くで眺めている。赤子がピクッと動くだけで大喜びだ。粘膜から地上に生れ落ちた時には、モニカは「よく頑張ったねェ~!!」と嬉し泣きをしていた。
よちよち歩く赤子ゴブリンは、魔物の死体に口を付けて、何かをちゅうちゅう吸い始めた。栄養補給ができたそれは、満足げに死体に間に挟まって寝息を立てる。
「食べて疲れちゃったのかなあ。おやすみ、ゴブリンちゃん」
すっかり母親気取りのモニカは、寝ている赤子ゴブリンの頭を優しく撫でた。ゴブリンの頬にキスをしようとしたので、さすがにアーサーが引き留める。
「ほっぺにキスはさすがにやめてモニカ!?」
「はっ……! ごめん、かわいくってつい……」
「なんにでも愛情を注げるモニカのことは尊敬するけど、さすがにゴブリンはやめてほしい……。お兄ちゃんは妹のことが本気で心配になるよ……」
額に手を当てて首を振るアーサーに、モニカは真顔で呟いた。
「心配してくれるのは嬉しいけど、どうしてこんなにモヤモヤするんだろう」
その後アーサーは、死体捨て場にポイフロギンと呼ばれるカエル型の魔物を見つけた。極寒地で唯一毒を持っているその魔物に、彼は感激しすぎてじんわり涙を滲ませる。毒を抽出するだけでは飽き足らず、まだかろうじて生きているポイフロギンの為に回復薬を調合し始めた。
「僕が君にぴったりの回復薬を調合してあげるからね! 元気いっぱいになって、いっぱい毒を分泌しようね! 待っててねポイフロギンくん!」
その様子を、モニカがじとーっとした目で眺めている。
「私は心配なんてしないわよ。だって昔から私のお兄ちゃんは変態だもん」
◇◇◇
町へ戻ったアーサーとモニカは、一旦宿へ戻った。魔物の血まみれで、しかもぷんぷん死臭がする彼らに、宿屋の店主は思わず鼻を摘まむ。
「あ、あんたたち、なにがあったのさぁ?」
「あっ、ごめんね、宿屋のおばさん」
「ちょっとね、ダンジョンに潜ってて」
「すぐにお風呂入るし、服も洗うから、宿に泊めてくれないかなあ?」
「お願い!」
両手を合わせる双子に、宿屋の店主は「料金を上乗せするよぉ?」とほんのりニヤけた。
数日イルネーヌ町で滞在してだんだん分かってきたが、この宿屋の店主だけでなく、この町の住民は全員お金が大好きだ。お金さえ払えば大抵なことは解決できたので、それは双子にとっても都合が良かった。
双子は一泊分で大銀貨七枚を後払いで支払うと約束して、宿を確保することができた。
部屋へ入るなり、蛇口でお湯を溜める時間を待てなかったモニカが、水魔法で浴槽たっぷりの水を一瞬にして注ぎ込み、水中に火魔法を放ってちょっぴり熱めのお湯になるまで温めた。
アーサーは血まみれの服を脱ぎ捨て、湯に飛び込み「熱ぅぃっ!!」と叫んだ。
そんな兄の脱ぎ捨てた服と、モニカ自身の服をワイン樽(宿屋のおばさんにもらった)に放り込んだ。樽の中にも水をたっぷり注ぎ込み、石鹸をひとかけら落とす。モニカは浴槽に浸かりながら、樽の中に風魔法を放ち、水中で服を泳がせた。
ちなみに、これらの便利な発想はシチュリアに教えてもらった。
「シチュリアは天才だわ。基本的な魔法だけで、こんなに生活が楽になる方法を編み出しちゃうんだもの!」
モニカが興奮気味に兄に熱弁すると、アーサーもうんうんと頷く。
「ほんとにありがたいよ。洗ったあとは温風で乾かしてくれるしね。でもこれって、モニカやシチュリアみたいに、魔法が上手で魔力量が多くないとできない技だよね?」
「まあ……そうね。魔力量は結構必要かもね」
「魔法っていいなあ~。いいなあいいなあ~」
アーサーは頬を膨らませて、魔法を放っているモニカの指先をじっと見つめている。今までモニカの魔法を見て「すごいね」と褒めていた彼が、「いいなあ」と羨ましそうな顔をするようになってしまった。使えなくて当り前だったことが、もしかしたら使えるかもしれないという一縷の望みを与えられてしまったせいだ。
モニカは困ったように目尻を下げて、兄の頭をぽんぽんと撫でる。
「落ち着いたら魔法の練習しよ。アーサーだったらきっと使えるようになるわ」
「うんっ。魔力があるのに魔法が使えないなんて、悔しいよ」
「シャナに杖を選んでもらえたらなあ」
「それこそ落ち着いてからでいいよ。だから時々藍を貸してくれる?」
「仕方ないなあ」
「やったー! ありがと、モニカ!」
バシャンと湯を波立たせて、アーサーはモニカに抱きついた。
よく温まってから、双子はしっかりと体を洗う。三日ぶりのお風呂は最高に気持ちが良かった。
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