557 / 718
北部編:イルネーヌ町
氷の洞窟型ダンジョン(G級)
しおりを挟む
一着しかない薄着の服のまま宿の外へ出た双子は、ガチガチ震えながら冒険者ギルドへ向かった。ひと気がなく静かな町だが、冒険者ギルドに入った途端、賑やかな騒音に包まれる。二人は懐かしい雰囲気に思わず頬を緩ませた。
イルネーヌ町の冒険者ギルドは、部屋の中央に大きな暖炉が設置されていた。赤々と火をくべている暖炉を、数十の丸テーブルが囲んでいる。テーブルには毛皮のマントを纏った冒険者が、酒を飲んだり地図を広げたりしている。仲には暖炉で干し肉を炙り、うめえうめえとはしゃいでいる者たちもいた。
「冒険者って、どこでも賑やかな人たちが多いんだねえ」
ほわーと幸せそうな顔をするアーサーに、モニカもコクコク頷いた。
「うんうん! やっぱり賑やかな場所の方が落ち着くね! あー、この町に冒険者ギルドがあってよかったあ」
「ほんとほんと」
わたしも毛皮のマント欲しいなあと、指をくわえて冒険者を眺めているモニカの手を引き、アーサーは情報屋の元へ向かった。そこで大銀貨二枚で周辺の地図を買い、テーブルに地図を広げる。
「さて、この町から近いのは、FとEのどっちかなあ~」
「あった! E級! きゃー! やったー!」
「げっ」
モニカが指さしたEランクダンジョンは、この町から三十分ほどの場所に位置していた。残念ながら、Fランクは町から徒歩で二時間の距離にある。
「ふふん! アーサーが言ったんだからね! Gランクの次はEランクで決まり!」
「分かったよぉ……。その代わり、始めに行くGランクダンジョンは、十割殲滅する気で素材回収しようね。良い武器と防具を揃えないといけないから」
「もちろん! あと、毛皮のマントもね!」
その後双子は冒険者ギルドを出て、余っていたお金で食料とアイテムボックスを購入した。弓矢も欲しいところだが、残念ながら所持金が足りなかった。
「うぅ……。毎日ガレットを食べてたからだ……」
「大丈夫よ。遠距離はわたしに任せて!」
「素材は傷めないようにね? モニカ」
「あっ、そうだった……。それじゃあ思いっきり魔法打てないじゃない……」
「そうだよ。残念でした」
Gランクダンジョンは、町の西門から出て徒歩一時間の場所にあった。ポントワーブあたりではまず見かけない、氷の洞窟型ダンジョンだ。つららが下がる青く光る氷でできた洞窟に、双子は感嘆の声を漏らした。
「わあ……きれい……!」
「フォントメウみたいだ……」
「アーサー、早く入りましょ!」
モニカがおおはしゃぎで洞窟の中へ走っていき、ツルンと足を滑らせて盛大に転んだ。慌ててアーサーは駆け寄り、モニカを抱き起こす。
「モニカ! 大丈夫!?」
「いったぁ……」
「床も氷でつるつるだね。気を付けて進まないと……」
「それにすごく寒いよぉ……」
「これは……あんまり長居できないかもね」
氷の床を歩くことはなかなか難しい。アーサーはすぐに慣れて器用に転ばず歩いていたが、モニカは三歩歩けば足を滑らせた。最終的には、モニカはしゃがんで兄の手に掴まり、彼に引っ張ってもらって移動した。
しばらく奥へ進むと、水色に変色したスライムが現れた。ぽよぽよと柔らかそうな体を揺らしているものもいれば、カチカチに固まっているものもいる。
「モニカ! アイススライムとアイスカチッカだ!」
「きゃー! かわいい!」
「アイススライムの液体と、カチッカの破片は素材になるよ。よし、素材を集めよう」
モニカはもう歩くことを放棄して、うつ伏せに寝そべり滑ってアイススライムを捕まえていた。革袋の中にアイススライムを放り込み、ナイフでぷちぷち刺していく。革袋がたぷたぷになるまで、それを繰り返した。
一方アーサーは、アイスカチッカをアサギリの柄先で砕いた。岩のように固いカチッカにガンガン叩きつけられるたびに、アサギリの怒号が洞窟に響き渡る。
《おぉぉいアーサーこらテメェ! 俺はハンマーじゃねえ脇差だ!! そんなかてぇもんに叩きつけんじゃねえクソがぁ!!》
「ごめんねアサギリ。でも君しかカチッカを砕けそうなものがなくて」
《いや俺も砕けねえよ!!》
「ううん、砕けてるよ。自信もって!」
《ちげえぇ!! それはお前のクソバカ力で無理矢理砕いてるだけだっつの!! やめろぉぉぉっ》
結局、アイスカチッカを殲滅するまでアーサーはやめてくれなかった。
「よし! 次に進もうかモニカ」
「はーい!」
《もう二度とアイスカチッカとかいうクソ魔物は出てくんなよ……アーサーてめぇ、あとで覚えてろよな……今晩嫌な夢見させてやるからなクソが……》
再び、モニカはアーサーに掴まり奥へと進む。兄に引っ張ってもらっている間に、モニカは温かい風を吹かせて濡れた服を乾かした。
「あ、モニカ。その風すっごく温かくて気持ちいい」
「ね! この風があったら寒さもしのげるかも。ずっとあったかい風吹かせとこうか」
「嬉しい! ん~。モニカの魔法は便利だなあ」
道中、ゴブリンやオークなどお馴染みの魔物も現れた。それらも氷の洞窟で棲息していたためか、毛深かったり氷魔法を扱えたりと、独自の進化をしていた。モニカによる一閃の風魔法によって、反撃する間もなく殲滅されてしまったが。
「懐かしいなあ。昔はよく、ゴブリンやオークの素材でお金稼いでたねえ」
エリクサーでお金の余裕ができてからは、あまり魔物の素材回収をしていなかった。オークの素材をサクサクと取り出していくアーサーは、その懐かしい作業に口元を緩めている。
「昔はオークの背骨を取り出すだけでバテてたのにね」
見物していたモニカがそう言うと、アーサーはクスクス笑った。
「今じゃ、こんなナイフでも楽々取り出せるよ。ちょっとは強くなったのかな」
「なってるわよ。六年間、色んな経験してきたんだもん」
イルネーヌ町の冒険者ギルドは、部屋の中央に大きな暖炉が設置されていた。赤々と火をくべている暖炉を、数十の丸テーブルが囲んでいる。テーブルには毛皮のマントを纏った冒険者が、酒を飲んだり地図を広げたりしている。仲には暖炉で干し肉を炙り、うめえうめえとはしゃいでいる者たちもいた。
「冒険者って、どこでも賑やかな人たちが多いんだねえ」
ほわーと幸せそうな顔をするアーサーに、モニカもコクコク頷いた。
「うんうん! やっぱり賑やかな場所の方が落ち着くね! あー、この町に冒険者ギルドがあってよかったあ」
「ほんとほんと」
わたしも毛皮のマント欲しいなあと、指をくわえて冒険者を眺めているモニカの手を引き、アーサーは情報屋の元へ向かった。そこで大銀貨二枚で周辺の地図を買い、テーブルに地図を広げる。
「さて、この町から近いのは、FとEのどっちかなあ~」
「あった! E級! きゃー! やったー!」
「げっ」
モニカが指さしたEランクダンジョンは、この町から三十分ほどの場所に位置していた。残念ながら、Fランクは町から徒歩で二時間の距離にある。
「ふふん! アーサーが言ったんだからね! Gランクの次はEランクで決まり!」
「分かったよぉ……。その代わり、始めに行くGランクダンジョンは、十割殲滅する気で素材回収しようね。良い武器と防具を揃えないといけないから」
「もちろん! あと、毛皮のマントもね!」
その後双子は冒険者ギルドを出て、余っていたお金で食料とアイテムボックスを購入した。弓矢も欲しいところだが、残念ながら所持金が足りなかった。
「うぅ……。毎日ガレットを食べてたからだ……」
「大丈夫よ。遠距離はわたしに任せて!」
「素材は傷めないようにね? モニカ」
「あっ、そうだった……。それじゃあ思いっきり魔法打てないじゃない……」
「そうだよ。残念でした」
Gランクダンジョンは、町の西門から出て徒歩一時間の場所にあった。ポントワーブあたりではまず見かけない、氷の洞窟型ダンジョンだ。つららが下がる青く光る氷でできた洞窟に、双子は感嘆の声を漏らした。
「わあ……きれい……!」
「フォントメウみたいだ……」
「アーサー、早く入りましょ!」
モニカがおおはしゃぎで洞窟の中へ走っていき、ツルンと足を滑らせて盛大に転んだ。慌ててアーサーは駆け寄り、モニカを抱き起こす。
「モニカ! 大丈夫!?」
「いったぁ……」
「床も氷でつるつるだね。気を付けて進まないと……」
「それにすごく寒いよぉ……」
「これは……あんまり長居できないかもね」
氷の床を歩くことはなかなか難しい。アーサーはすぐに慣れて器用に転ばず歩いていたが、モニカは三歩歩けば足を滑らせた。最終的には、モニカはしゃがんで兄の手に掴まり、彼に引っ張ってもらって移動した。
しばらく奥へ進むと、水色に変色したスライムが現れた。ぽよぽよと柔らかそうな体を揺らしているものもいれば、カチカチに固まっているものもいる。
「モニカ! アイススライムとアイスカチッカだ!」
「きゃー! かわいい!」
「アイススライムの液体と、カチッカの破片は素材になるよ。よし、素材を集めよう」
モニカはもう歩くことを放棄して、うつ伏せに寝そべり滑ってアイススライムを捕まえていた。革袋の中にアイススライムを放り込み、ナイフでぷちぷち刺していく。革袋がたぷたぷになるまで、それを繰り返した。
一方アーサーは、アイスカチッカをアサギリの柄先で砕いた。岩のように固いカチッカにガンガン叩きつけられるたびに、アサギリの怒号が洞窟に響き渡る。
《おぉぉいアーサーこらテメェ! 俺はハンマーじゃねえ脇差だ!! そんなかてぇもんに叩きつけんじゃねえクソがぁ!!》
「ごめんねアサギリ。でも君しかカチッカを砕けそうなものがなくて」
《いや俺も砕けねえよ!!》
「ううん、砕けてるよ。自信もって!」
《ちげえぇ!! それはお前のクソバカ力で無理矢理砕いてるだけだっつの!! やめろぉぉぉっ》
結局、アイスカチッカを殲滅するまでアーサーはやめてくれなかった。
「よし! 次に進もうかモニカ」
「はーい!」
《もう二度とアイスカチッカとかいうクソ魔物は出てくんなよ……アーサーてめぇ、あとで覚えてろよな……今晩嫌な夢見させてやるからなクソが……》
再び、モニカはアーサーに掴まり奥へと進む。兄に引っ張ってもらっている間に、モニカは温かい風を吹かせて濡れた服を乾かした。
「あ、モニカ。その風すっごく温かくて気持ちいい」
「ね! この風があったら寒さもしのげるかも。ずっとあったかい風吹かせとこうか」
「嬉しい! ん~。モニカの魔法は便利だなあ」
道中、ゴブリンやオークなどお馴染みの魔物も現れた。それらも氷の洞窟で棲息していたためか、毛深かったり氷魔法を扱えたりと、独自の進化をしていた。モニカによる一閃の風魔法によって、反撃する間もなく殲滅されてしまったが。
「懐かしいなあ。昔はよく、ゴブリンやオークの素材でお金稼いでたねえ」
エリクサーでお金の余裕ができてからは、あまり魔物の素材回収をしていなかった。オークの素材をサクサクと取り出していくアーサーは、その懐かしい作業に口元を緩めている。
「昔はオークの背骨を取り出すだけでバテてたのにね」
見物していたモニカがそう言うと、アーサーはクスクス笑った。
「今じゃ、こんなナイフでも楽々取り出せるよ。ちょっとは強くなったのかな」
「なってるわよ。六年間、色んな経験してきたんだもん」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
4,348
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。