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北部編:懐かしい顔ぶれ
ミドルネーム
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クルドの言葉に、カミーユが小指で耳をほじりながら「はあ?」と応えた。
「そんなわけあるか。なんでC級相手の指定依頼に、王族のサインがあるんだよ。そもそも王族の承諾者は決まって国王だろ」
「俺も知らねえよ。だが、見てみろ。こんなクソ長い名前なんて、王族くらいだろ。それに始めの綴りが〝ヴィクス〟っぽくねえか? 最後は〝バーンスタイン〟っぽいし。なんとなーく、見覚えがある気もせんでもない」
「テキトーすぎねえか?」
「お前もしっかり見ろよ!」
クルドが大騒ぎするので、仕方なくカミーユも依頼書を覗き込む。
「……確かに、こんな長い名前は王族くらいだな。それに少なくとも国王のサインじゃねえ」
カミーユはじっとそのサインを見つめた。
恐らくその長すぎる名前を、毎日何百、何千もの書類にサインしなければならないのだろう。書き慣れすぎて読めないほど崩れている。それにーー
「……クルド。お前の言ってることは合ってるかもしんねえ。よく見ろ。このサイン、綴りの切れ目から考えて、ミドルネームが四つある」
「ほう。じゃあ、確定じゃねえか」
「ど、どういうことっすかカミーユさん」
それまで静かに聞いていたイェルドが割って入った。最低限の教育しか受けてこなかった彼にとって、ミドルネームが四つあるからといってヴィクスと確定されることが理解できなかった。
そんな彼に、カミーユとクルドが説明する。
「これは大前提の知識だが、王族はミドルネームを、男は三つ、女は二つ持っている」
「一つ目は国王と王妃が自由に付ける。二つ目は、王子であれば国王のファーストネーム、王女であれば王妃のファーストネームを付ける。そして男にだけ付けられる三つ目のミドルネームには、前国王のファーストネームが付けられるんだ」
「そうだったんすか……。え、でも、アウス王子とモリア王女は……」
アウス王子のフルネームは、アウス・ウィリアムス・アルバート・バーンスタイン。
モリア王女はモリア・キャサリン・バーンスタイン。
アーサーはミドルネームを二つ、モニカは一つしか持っていない。
首を傾げるイェルドに、ベニートとアデーレは小さくため息を吐き、目を伏せた。
彼らの代わりに、カミーユとクルドが答える。
「ああ、あいつらはミドルネームが一つ少ないな。理由は分かるだろ。あいつらには一つ目のミドルネームがねえんだよ」
「あ……」
「二つ目と三つ目は自動的に付くからな。……おそらくあいつらのファーストネームだって、親に付けられたんじゃなく、従者か乳母が付けたんだろうよ」
「……」
名前すら両親にもらうことができなかった、哀れなアウス王子とモリア王女。
イェルドはたまらなくなり、ダン、とテーブルを叩きつける。
「双子ってだけで……! 名前すら付けないなんてどうかしてる……!! あんなに良い子なのに……! どうして!!」
「おい、イェルド! 声が大きい!」
「っ……」
ベニートに叱られ、イェルドは我に返り口を噤んだ。しかし感情が抑えきれないのか、震える唇を噛み、瞳がじんわり滲んでいる。
イェルドが静かになったところで、カミーユが話を続ける。
「話を戻すが、本来王族の男には三つしかミドルネームが付かねえんだ。だがヴィクス王子は四つある。なぜなら、国王と王妃からこれ以上ないほどの寵愛を受けていたからだ」
「さしずめ、国王も王妃も自分が選んだ名前を付けさせたくて揉めて、折衷案としてどちらの案も採用しようってなったんだろ」
クルドの言葉にカミーユは頷いた。
「しかも……アデーレ、ヴィクス王子のフルネームを言ってみろ」
「……ヴィクス・ヴァルダ・リンツ・ウィリアムス・アルバート・バーンスタイン」
「そうだ。〝ヴァルダ〟なんて、明らかにヴァルーダ神から取ってるだろ。創造主の名を付けてしまうほど、愛されているんだよ」
ヴィクス王子のミドルネームに、創造主の名前が入っていることなんて、ベニートパーティにとってどうでも良かった。それよりも、ヴィクスと双子の扱いの差に苛立ちを抑えられない。
「……バカらしいっす」
イェルドが吐き捨てるように呟いた。それに対してベニートとアデーレが小さく頷く。
そんな彼らの反応が、カミーユにとって声が震えるほど嬉しかった。
双子の味方になってくれるだろうと期待をして鍛えた子どもたちが、今はヴィクスの手に渡っている。
味方が減り、敵が増えた現状の中で、名前を与えられなかったことにこれほどまでに怒りを感じてくれる者が目の前にいる。
「……本当に、お前らに出会えてよかった」
思わず口に出たカミーユの震えた言葉に、クルドは微かに口角を上げた。そして、また逸れている話を戻す。
「つーわけで、この指定依頼の承諾者はヴィクス王子で決定だ。ミドルネームが四つもある人物は、歴史上で考えてもヴィクス王子だけ。イェルド、分かったな」
「あ、はい! 分かりました。ありがとうございます」
「……で、この指定依頼の承諾者がなぜヴィクス王子なのか、に戻るわけだが……。そもそもユリアン・ロベスとは何者なんだ?」
クルドの質問に、ベニートは気まずそうに体を揺らした。
「そんなわけあるか。なんでC級相手の指定依頼に、王族のサインがあるんだよ。そもそも王族の承諾者は決まって国王だろ」
「俺も知らねえよ。だが、見てみろ。こんなクソ長い名前なんて、王族くらいだろ。それに始めの綴りが〝ヴィクス〟っぽくねえか? 最後は〝バーンスタイン〟っぽいし。なんとなーく、見覚えがある気もせんでもない」
「テキトーすぎねえか?」
「お前もしっかり見ろよ!」
クルドが大騒ぎするので、仕方なくカミーユも依頼書を覗き込む。
「……確かに、こんな長い名前は王族くらいだな。それに少なくとも国王のサインじゃねえ」
カミーユはじっとそのサインを見つめた。
恐らくその長すぎる名前を、毎日何百、何千もの書類にサインしなければならないのだろう。書き慣れすぎて読めないほど崩れている。それにーー
「……クルド。お前の言ってることは合ってるかもしんねえ。よく見ろ。このサイン、綴りの切れ目から考えて、ミドルネームが四つある」
「ほう。じゃあ、確定じゃねえか」
「ど、どういうことっすかカミーユさん」
それまで静かに聞いていたイェルドが割って入った。最低限の教育しか受けてこなかった彼にとって、ミドルネームが四つあるからといってヴィクスと確定されることが理解できなかった。
そんな彼に、カミーユとクルドが説明する。
「これは大前提の知識だが、王族はミドルネームを、男は三つ、女は二つ持っている」
「一つ目は国王と王妃が自由に付ける。二つ目は、王子であれば国王のファーストネーム、王女であれば王妃のファーストネームを付ける。そして男にだけ付けられる三つ目のミドルネームには、前国王のファーストネームが付けられるんだ」
「そうだったんすか……。え、でも、アウス王子とモリア王女は……」
アウス王子のフルネームは、アウス・ウィリアムス・アルバート・バーンスタイン。
モリア王女はモリア・キャサリン・バーンスタイン。
アーサーはミドルネームを二つ、モニカは一つしか持っていない。
首を傾げるイェルドに、ベニートとアデーレは小さくため息を吐き、目を伏せた。
彼らの代わりに、カミーユとクルドが答える。
「ああ、あいつらはミドルネームが一つ少ないな。理由は分かるだろ。あいつらには一つ目のミドルネームがねえんだよ」
「あ……」
「二つ目と三つ目は自動的に付くからな。……おそらくあいつらのファーストネームだって、親に付けられたんじゃなく、従者か乳母が付けたんだろうよ」
「……」
名前すら両親にもらうことができなかった、哀れなアウス王子とモリア王女。
イェルドはたまらなくなり、ダン、とテーブルを叩きつける。
「双子ってだけで……! 名前すら付けないなんてどうかしてる……!! あんなに良い子なのに……! どうして!!」
「おい、イェルド! 声が大きい!」
「っ……」
ベニートに叱られ、イェルドは我に返り口を噤んだ。しかし感情が抑えきれないのか、震える唇を噛み、瞳がじんわり滲んでいる。
イェルドが静かになったところで、カミーユが話を続ける。
「話を戻すが、本来王族の男には三つしかミドルネームが付かねえんだ。だがヴィクス王子は四つある。なぜなら、国王と王妃からこれ以上ないほどの寵愛を受けていたからだ」
「さしずめ、国王も王妃も自分が選んだ名前を付けさせたくて揉めて、折衷案としてどちらの案も採用しようってなったんだろ」
クルドの言葉にカミーユは頷いた。
「しかも……アデーレ、ヴィクス王子のフルネームを言ってみろ」
「……ヴィクス・ヴァルダ・リンツ・ウィリアムス・アルバート・バーンスタイン」
「そうだ。〝ヴァルダ〟なんて、明らかにヴァルーダ神から取ってるだろ。創造主の名を付けてしまうほど、愛されているんだよ」
ヴィクス王子のミドルネームに、創造主の名前が入っていることなんて、ベニートパーティにとってどうでも良かった。それよりも、ヴィクスと双子の扱いの差に苛立ちを抑えられない。
「……バカらしいっす」
イェルドが吐き捨てるように呟いた。それに対してベニートとアデーレが小さく頷く。
そんな彼らの反応が、カミーユにとって声が震えるほど嬉しかった。
双子の味方になってくれるだろうと期待をして鍛えた子どもたちが、今はヴィクスの手に渡っている。
味方が減り、敵が増えた現状の中で、名前を与えられなかったことにこれほどまでに怒りを感じてくれる者が目の前にいる。
「……本当に、お前らに出会えてよかった」
思わず口に出たカミーユの震えた言葉に、クルドは微かに口角を上げた。そして、また逸れている話を戻す。
「つーわけで、この指定依頼の承諾者はヴィクス王子で決定だ。ミドルネームが四つもある人物は、歴史上で考えてもヴィクス王子だけ。イェルド、分かったな」
「あ、はい! 分かりました。ありがとうございます」
「……で、この指定依頼の承諾者がなぜヴィクス王子なのか、に戻るわけだが……。そもそもユリアン・ロベスとは何者なんだ?」
クルドの質問に、ベニートは気まずそうに体を揺らした。
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