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北部編:懐かしい顔ぶれ

ベニートパーティとの再会

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「……おいおい。どうしてお前らがこんな北の端っこにいるんだ?」

再会を喜ぶより先に、不自然なことの連続でカミーユは怪訝な顔をした。
アデーレとベニートも、カミーユとここで会うなど思っていなかったのか、眉をひそめている。

「指定依頼が入ったんです」

「指定依頼?」

「はい。なぜか俺たちにこんなところの依頼が。それよりカミーユさん、話があります」

「ん? なんだ?」

「ちょっとここでは……」

ベニートがちらりとクルドに視線を送り、目で合図をする。
双子絡みだと察したカミーユは、とんとんとテーブルを叩いた。

「大丈夫だ。クルドもあいつらの事情を知ってる。とりあえず座れ」

「あ、はい……」

「ちなみにお前らは、どこまで知ってるんだ?」

「俺たち全員、二人の正体を知ってます」

「ま、前から知ってたのはベニートとアデーレだけで、俺はついこの間聞いただけっすけどね!」

自分だけアーサーとモニカの正体に気付いていなかったことが、悲しいやら悔しいやらで、イェルドは頬を膨らませて言った。

「仕方ないだろ。口止めされてたんだから。でも、今の状況は、そうも言ってられないからな……」

椅子に腰かけたベニートは、声をひそめて報告する。

「カミーユさん。俺たち、ここに来たのは一週間前で、ここに来る前は別の指定依頼で王都にいたんです」

「……ほう」

「それで……ふたつ、気になる噂が」

「なんだ?」

「まずひとつ目は、ヴィクス王子が近衛兵として、ダフ、シリル、ライラ、クラリッサを王城に呼んだとか」

「「おいおいおい……」」

カミーユとクルドが額に手を当て項垂れる。ショックすぎて、二人ともすぐに声が出なかった。

「待ってくれ……。あいつらはジュリア王女の近衛兵になるんじゃなかったのか? それでも嬉しくねえことには変わりねえが、ジュリア王女はアーサーとモニカに懐いてるらしいからまだマシだと思ってたのに。なんでヴィクス王子の近衛兵になってんだよ……」

「ダフがヴィクス王子の近衛兵にだとぉ……? 嘘だろ。嘘だろぉぉぉ……」

「せっかくあいつらを守ってくれる存在になると思って育てたのに……。完全に敵サイドにいってんじゃねえかよぉ……」

「ダフが死んじまうよぉ……俺のダフがぁ……。あいつのこった、初日でやらかして首はねられるんだあいつはぁ……。ぉぉぉ……ダフぅぅぅ……」

クルドがぼたぼたと涙を流す隣で、カミーユはテーブルに顔をべったり押し付ける。

「終わった……。俺の計画がぁ……。敵に塩を送っただけのクソ計画に……」

この世の終わりのような雰囲気を醸し出す二人に、ベニートは言いづらそうにもうひとつの噂について話した。

「あと……あの、信じたくないんですが……。こっそりと流れていた〝アウス王子とモリア王女の首を王城へ差し出したら、多額の報酬がもらえる〟という噂があったんですが」

「ああ……あったな、そんなクソみてえな噂……」

「それが上書きされました。〝彼らが死んだ〟と」

「……」

「そして、王城から花火が何発も上がったんです。まるでお祝いのように」

「……そうか」

「あの……。アーサーとモニカ、生きてます、よね……」

「ああ、生きてる」

「よかった……」

「ギリギリな」

「ギリギリ……?」

安堵のため息をついたのも束の間、カミーユの言葉に、ベニートパーティがおそるおそる彼を見た。
カミーユは彼らに、双子が裏S級冒険者なるものに命を狙われ、家を破壊されたことを伝えた。モニカが心に深い傷を負い、アーサーの一部が魔物になったことも。

「それでも、生きててよかったです」

話を聞き終えたベニートが、はっきりとそう言った。彼は冷静だったが、アデーレとイェルドはホッとしすぎて目を潤ませている。

「ああ、よかった……。ほんとによかった……」

「もう、まじで……王城で花火なんか上げるから……まじで死んじまったのかと……!」

ベニートパーティのグラスにビールを注ぎながら、カミーユがクルドに話しかける。

「しかし、王族はあいつらをまじで暗殺できたと思ってんのか?」

「花火を上げるってのはつまり、そうだろうな」

「ってことは、裏S級は暗殺できたと嘘をついたと?」

「その可能性もあるが、王族の指定依頼はだいたい死んだ証拠に体の一部を持ち帰らせるだろ。あいつらの体に欠損はあるか?」

「ない。耳も指も、もちろん首もしっかりくっついてるな」

「なくしたといえば、モニカの髪くらいか。まさかあれが証拠になったとかか?」

「かもな。なるほど? あいつらの暗殺が完了したと勘違いしてるのなら、俺らの依頼が止まったのも頷ける……のか?」

「だがアーサーの分がねえぞ。うーむ、考えても分からん……」

カミーユとクルドは、未だ頭を悩ませる。

「なんか色々不自然なんだよな……。ベニートたちがこんな北部の指定依頼を出されるのもおかしい。C級なんて、こいつらには悪いが掃いて捨てるほどいるぞ。もちろんこの町にだっているはずだ。なのになぜこいつらに……」

「それを言ったら王都の指定依頼もおかしいだろ。それこそ、王都にC級冒険者なんてアホほどいるしな」

彼らの会話を聞いていたベニートが、おそるおそる会話に割り込んだ。

「俺たちが指定依頼を受けたのは、これで三度目です」

「ほう。C級で三度も指定依頼を受けたのなら上出来だな」

「……全て、同じ依頼主からなんです」

「……なに?」

ベニートは、テーブルに指定依頼用紙を広げた。
依頼主の名前は、〝ユリアン・ロベス〟と記載されている。

カミーユとクルドが依頼用紙を覗き込む。

「ユリアン・ロベス……?」

「聞いたことがないな。名前からして女。報酬額から見て高位の貴族だが」

「クルドでも知らねえ高位の貴族? そんなやついるのか」

「まあ、それなりに覚えてるはずなんだがな。そもそもロベスって貴族を俺は知らねえ」

「俺もだ」

謎は深まるばかりだ。
ベニートもずっと気になっていたようで、アドバイスを求めるように、カミーユたちの様子を窺っている。

「ん?」

何かに気付いたクルドが、依頼用紙を自分の手元に寄せてじっと見た。

「おい、カミーユ」

「なんだ?」

「これ、見ろ」

「あん?」

クルドが指さしたのは、指定依頼承諾者のサインだ。

指定依頼をする時は、基本的に依頼主とは別に地位のある第三者のサインが必要だ。

過去に双子がカミーユパーティから受けたような、公的な効力を発揮しない内々の指定依頼などであればその限りではないが、一般的な指定依頼は冒険者ギルドマスターのサインが多く、S級冒険者向けや暗殺依頼などの特別な指定依頼には、国王のサインがそこに入る。

しかしそこにサインされていたのは――

「ヴィクス王子のサインじゃねえか、これ?」
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