【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco

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北部編:決断

カミーユの決意

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「反乱……!?」

「いいか。気にするだろうからお前らには言ってなかったが、王族の政治が見るからに悪化したのは、教会事件があってからだ。始めは、多額の賄賂を受け取れなくなった国王の腹いせかと思ってたが、そうなると年々悪化する一方の政治に違和感がある」

カミーユは言葉を続ける。

「国王と王妃はバカだが、したたかでもあった。本来ここまで見るからに庶民からの評価を下げるような行いを、隠しもせずにやるようなやつらじゃねえ。少なくとも、教会事件まではそうじゃなかった。もちろん、だからって良い国王なわけはなかったがな。実際、教会の実情を知っていながら賄賂を受け取って黙認していたわけだし」

カミーユが葉巻の灰を落としている間に、サンプソンが補足をする。

「教会事件前の国王の行いはね、教会からの賄賂受け取り、貴族の賄賂を受け取り優遇、闇オークションの参加、トロワなどの問題がある町を放置していた、とかだよ。まあ、歴代国王とそんなに変わらないくらいの、今思うと可愛らしい悪事しか働いていないんだ」

「対して今は、増税に次ぐ増税、賄賂を支払わない貴族の冷遇、闇オークションを活性化、気に食わないやつらを処刑しまくっている……その他諸々。今の悪政は、歴代最悪と言われているマリウス国王よりもひどい」

「そ……そんなひどいことになってたんだ。知らなかった……」

アーサーが呟くと、カミーユが頷く。

「おう。お前らは金に困ってもねえし、頓着もねえ。毎月納める税金が上がってることにも気付いてなかったもんな」

「お、お店の商品が値上がりしてるのは、知ってたもん……」

「そうだ。お前らにとったら微々たるものだったろうが、庶民にとっては苦しすぎる値上がりだった。ポントワーブ町民の平均収入は、だいたい金貨二十枚。銅貨一枚の値上がりだって、きついんだぜ」

「……」

「当然、こんなことをしていたら、庶民の不満は膨れ上がる一方だ。実際に、どの町に行っても王族の悪口を言ってるやつらがいる。今は爆発寸前といったところだ」

「つまり、国王と王妃だけだったらそこまではしてないのに、ヴィクスが二人をそそのかして、こんな悪政を敷いているってこと……?」

「その通りだ、アーサー」

「あ……」

アーサーがハッとして顔を青ざめさせたので、カミーユは首を傾げた。

「どうした、アーサー」

「……学院で……ウィルクが言ってた……」

「ウィルク? ウィルク王子が? 何をだ」

「〝三年前から、ヴィクスお兄様は変わってしまいました。それまで優しかったのに、急に人が変わってしまったように怖くなって〟って……」

「お前らが学院にいたのは……十四歳の時だな。その三年前っつったら、十一歳の時。教会事件があったのは、お前らが十一歳の時だな」

「ビンゴじゃねえか」

クルドがそう言ってヘッと笑った。

「ヴィクス王子は王城に出向いたお前らを見ていた。それから悪政を激化させた」

「でも、どうして僕たちの姿を見たからと言って、反乱を起こさせるために悪政をするの……?」

「……完全に俺らの推測だが」

「……」

「ヴィクス王子は、国王と王妃を憎んでいるんじゃねえかと思う」

「ヴィクスが……」

「心当たりはあるよね、アーサー?」

サンプソンにそう聞かれ、アーサーは俯き、頷いた。

「王妃から注意をされても、君たちのことを〝お兄さま〟〝お姉さま〟と呼んでいたヴィクス王子。そんな彼に王妃はナイフを握らせて、君のおなかに刺させていた。何度も、何度も。彼の心が壊れてしまうまで」

「……」

「そもそも敬愛している兄と姉が、牢獄で閉じ込められ、虐待されていること自体も許せなかったんじゃないかと、僕は思う」

「その他にもヴィクス王子は……王妃……と、国王から、ある種虐待をされていたんじゃねえかと思う。体じゃなくて、心に傷を負うようなことを」

ユーリが顔をしかめたので、カミーユは彼の頭をそっと撫でた。

「こう考えていくと、ヴィクス王子が国王と王妃を憎む理由ってのがボロボロ出てくるんだよ。そんで、こんなクソみてえな王族ぶっ潰しちまえって思ったんじゃねえかと、俺たちは考えた。ぶっ潰して……お前に国を渡そうとしたってな」

「え……」

「ヴィクスの一番の目的はそれだ。国王に悪政をさせ、庶民の不満を膨れ上がらせ、反乱を起こさせる。そして王族をぶっ潰し、本来国王になるはずの……アーサー、お前に国を渡そうとしている」

「……」

「そうすると辻褄が合うんだ。アーサーとモニカの暗殺を企む国王と王妃に乗っかるふりをして、コソコソとお前らを守っていたヴィクス王子の行動が。ヴィクス王子は説得しようとしたら、お前らへの暗殺だって止めさせることができただろう。それでもしなかったのは、国王と王妃に手の内を最後まで見せずにあいつらの望む王子を演じ続け、手のひらで転がして悪政を働かせ続けるためだったんだ。……全て、お前に国を明け渡すための行動だったんだよ」

みなの視線がアーサーに注がれる。
アーサーはブルッと震え、首を横に振った。

「カ、カミーユ……ぼ、僕……僕が国王になんて、そんな。そんなの、今さら……」

「国王じゃねえ。ヴィクス王子は王政をぶっ潰そうとしてんだから。ヴィクス王子は庶民の代表として〝アーサー〟に、バンスティン国を統治させるつもりだ」

「……同じことじゃないか……」

「ちょ、ちょっと待ってカミーユ。じゃあヴィクスはどうなるの? ジュリアだってウィルクだっているのに、アーサーが統治者になるなんて、おかしいじゃない」

モニカが震えた声を出す。カミーユは言葉に詰まり、頭をガシガシと掻いた。

「……お前ら、まだ分かってねーのか? ヴィクス王子は王政をぶっ潰そうとしてるんだと言ってるだろ。つまり、王族である王子と王女は……処刑される運命なんだよ」

「っ……」

双子の目にぶわっと涙が溢れ、たまらず叫んだ。

「そんなのおかしいわ!! どうしてヴィクスも、ジュリアも、ウィルクも処刑されなきゃいけないの!?」

「あの子たちが死んで、僕がこの国の統治者にだなんて!! そんなのなりたくないに決まってる!!」

「モニカ。ヴィクス王子は悪政によってバンスティン国をボロボロにした張本人だ。ジュリア王女は贅沢三昧で国の資金を散財している。ウィルク王子が何人罪のない人を殺してきたと思っているんだ? それでも〝どうして処刑されなきゃいけないの〟と言えるか?」

「っ……」

「アーサー。お前が統治者にならなきゃ、ヴィクス王子はずっと暴走したままだ。トロワという小さな町の惨状に胸を痛めていたお前が、バンスティン国全土をトロワにするのか?」

「……っ」

黙りこむモニカとアーサーに、カミーユは決意した目を向ける。

「アーサー、モニカ。俺らは、ヴィクス王子の思惑に乗っかってやろうと思ってる」

「え……?」

「この国に、反乱を起こすぞ」
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