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決戦編:来客
破かれた依頼書
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こまぎれになった上等な羊皮紙が、ヒラヒラと床に落ちる。ヴィクスは表情一つ変えずにその紙きれを目で追った。
「それは、どうかな」
「ああ? 俺らはもう処刑なんざを恐れてる段階じゃねえ。……つーかこのタイミングで指定依頼なんざ、俺らの目論見を阻止しようとしか思えねえ。王子、あんたの本当の狙いはなんなんだ」
カミーユがヴィクスを睨みつけるが、ヴィクスはいつもの微笑を浮かべるだけだった。しばらく沈黙していた王子が、囁くように口を小さく開く。
「裏S級」
「っ……!」
「この国に裏S級冒険者という存在があることは、お兄さまとお姉さまから聞いているだろう」
「……」
「彼らは王族の凶悪な犬なんだよ。放っておくと何をされるか分からない。だから、お兄さまに国をお渡しする前に、消えてもらわないと困るんだ」
「……おい。ってことはまさか、Sランクダンジョンの中に……」
「ああ。王族が長年かけて育ててきた恐ろしい魔物たちと共に、裏S級冒険者もいる。彼らは君たちを待っているよ。そして、裏S級冒険者は君たちでしか倒せない」
彼の言っていることが本心なのか口車なのか、カミーユには判断できなかった。だが、彼の発言と行動に矛盾があることは確かだ。
「お、おい……そんなところに、なぜアーサーとモニカを……。お前はこいつらを殺したいわけじゃねーだろ」
何を当然のことを言っているんだと、ヴィクスは呆れたようにため息を吐いた。
「君たちだけだと、おそらく裏S級とその他諸々の魔物全てを倒せないんだ。お兄さまとお姉さまの協力を得ないと、ね」
彼の言葉に、カミーユの眉がピクリと動く。
「俺らでも倒せないだと?」
「そうだよ。君たちは非常に優秀だ。だけど、うじゃうじゃと蠢くS級魔物と裏S級を相手にして、果たして生き残ることができるかな。もし君たちが、リアーナを真っ先に失ってしまったら? 聖魔法と反魔法を使える彼女がいなくなれば、君たちはあっという間に窮地に立たされてしまうよ」
「……だから、聖魔法を使えるモニカが必要なのか」
「それだけじゃない。お姉さまの回復魔法も必要だろうし、なにより……お姉さまはジッピンの剣を持っているよね。それが今回の一件で裏S級から辛くも逃げられたことに大いに貢献したことは知っているよ」
「アサギリか……確かにアレは、すげえもんだが……」
「お姉さまの存在が今回の戦いで最も大切なことは、ここにいる全員が分かっているだろう」
「……」
確かにヴィクスの言う通りだ。以前カミーユパーティが指定依頼で死にかけた時も、リアーナが戦闘不能になってしまったのが一番の原因だった。
「……いくら魔力の器が大きくとも、いつかは魔力切れが訪れる。だから、優秀な魔法使いは多ければ多いほど良い」
「……まあ、その通りだ」
「そして言うまでもなく、お兄さまの力も必要だろう? 彼の剣技と弓技、君たちには敵わないだろうが、地力の底上げになる。そして薬師として傍に置くことが重要だ」
正直に言えば、アーサーの存在はモニカほどは必要不可欠ではない。だが、優秀な戦力と怪我を治癒してくれる存在が増えるのは純粋に心強い。
「……ヴィクス王子。あんたの言いたいことは分かった。だがな、もしこの依頼を受けちまったら……恐らく俺らは、無傷で帰って来れねえだろう。誰かが死ぬ可能性だってありえる」
「そうだね。お兄さまとお姉さまのことは、傷付けはしても命を奪うことがないよう、裏S級に強く言ってある。だけど君たちの命は保障できないね。僕は少なくとも、このうちの二、三人は死ぬと思っているよ」
「だろうな。お前がアーサーとモニカを危険に晒してまで依頼を出したところからも、危険度がとんでもなく高いことがうかがえる。だがな、そうなると反乱を起こす人員まで減るんだよ。それで反乱が失敗したら、本末転倒だ。だからやっぱり、この依頼は受けねえ」
再度断りを入れたカミーユにも、ヴィクスは驚く様子を見せない。ここまで想定通りなのだろう。
「……いいかいカミーユ。これを聞いて、君は断ることができるかな」
「……?」
「裏S級の一人は、ある恐ろしいヒト型魔物だ」
「……」
「彼の名は、シルヴェストル」
ヴィクスはゆっくりと、シャナを見た。
「約二百五十年前に、フォントメウを襲った魔物だ」
「っ……!」
カミーユとシャナ、そしてモニカに衝撃が走る。
「そう。シャナ、君の愛する家族を奪った魔物。彼は今、裏S級として王族に飼われているんだよ」
「……」
顔面蒼白のカミーユに、ヴィクスは余裕の笑みを浮かべた。
「それを聞いても君は、この依頼を断れるのかな」
「それは、どうかな」
「ああ? 俺らはもう処刑なんざを恐れてる段階じゃねえ。……つーかこのタイミングで指定依頼なんざ、俺らの目論見を阻止しようとしか思えねえ。王子、あんたの本当の狙いはなんなんだ」
カミーユがヴィクスを睨みつけるが、ヴィクスはいつもの微笑を浮かべるだけだった。しばらく沈黙していた王子が、囁くように口を小さく開く。
「裏S級」
「っ……!」
「この国に裏S級冒険者という存在があることは、お兄さまとお姉さまから聞いているだろう」
「……」
「彼らは王族の凶悪な犬なんだよ。放っておくと何をされるか分からない。だから、お兄さまに国をお渡しする前に、消えてもらわないと困るんだ」
「……おい。ってことはまさか、Sランクダンジョンの中に……」
「ああ。王族が長年かけて育ててきた恐ろしい魔物たちと共に、裏S級冒険者もいる。彼らは君たちを待っているよ。そして、裏S級冒険者は君たちでしか倒せない」
彼の言っていることが本心なのか口車なのか、カミーユには判断できなかった。だが、彼の発言と行動に矛盾があることは確かだ。
「お、おい……そんなところに、なぜアーサーとモニカを……。お前はこいつらを殺したいわけじゃねーだろ」
何を当然のことを言っているんだと、ヴィクスは呆れたようにため息を吐いた。
「君たちだけだと、おそらく裏S級とその他諸々の魔物全てを倒せないんだ。お兄さまとお姉さまの協力を得ないと、ね」
彼の言葉に、カミーユの眉がピクリと動く。
「俺らでも倒せないだと?」
「そうだよ。君たちは非常に優秀だ。だけど、うじゃうじゃと蠢くS級魔物と裏S級を相手にして、果たして生き残ることができるかな。もし君たちが、リアーナを真っ先に失ってしまったら? 聖魔法と反魔法を使える彼女がいなくなれば、君たちはあっという間に窮地に立たされてしまうよ」
「……だから、聖魔法を使えるモニカが必要なのか」
「それだけじゃない。お姉さまの回復魔法も必要だろうし、なにより……お姉さまはジッピンの剣を持っているよね。それが今回の一件で裏S級から辛くも逃げられたことに大いに貢献したことは知っているよ」
「アサギリか……確かにアレは、すげえもんだが……」
「お姉さまの存在が今回の戦いで最も大切なことは、ここにいる全員が分かっているだろう」
「……」
確かにヴィクスの言う通りだ。以前カミーユパーティが指定依頼で死にかけた時も、リアーナが戦闘不能になってしまったのが一番の原因だった。
「……いくら魔力の器が大きくとも、いつかは魔力切れが訪れる。だから、優秀な魔法使いは多ければ多いほど良い」
「……まあ、その通りだ」
「そして言うまでもなく、お兄さまの力も必要だろう? 彼の剣技と弓技、君たちには敵わないだろうが、地力の底上げになる。そして薬師として傍に置くことが重要だ」
正直に言えば、アーサーの存在はモニカほどは必要不可欠ではない。だが、優秀な戦力と怪我を治癒してくれる存在が増えるのは純粋に心強い。
「……ヴィクス王子。あんたの言いたいことは分かった。だがな、もしこの依頼を受けちまったら……恐らく俺らは、無傷で帰って来れねえだろう。誰かが死ぬ可能性だってありえる」
「そうだね。お兄さまとお姉さまのことは、傷付けはしても命を奪うことがないよう、裏S級に強く言ってある。だけど君たちの命は保障できないね。僕は少なくとも、このうちの二、三人は死ぬと思っているよ」
「だろうな。お前がアーサーとモニカを危険に晒してまで依頼を出したところからも、危険度がとんでもなく高いことがうかがえる。だがな、そうなると反乱を起こす人員まで減るんだよ。それで反乱が失敗したら、本末転倒だ。だからやっぱり、この依頼は受けねえ」
再度断りを入れたカミーユにも、ヴィクスは驚く様子を見せない。ここまで想定通りなのだろう。
「……いいかいカミーユ。これを聞いて、君は断ることができるかな」
「……?」
「裏S級の一人は、ある恐ろしいヒト型魔物だ」
「……」
「彼の名は、シルヴェストル」
ヴィクスはゆっくりと、シャナを見た。
「約二百五十年前に、フォントメウを襲った魔物だ」
「っ……!」
カミーユとシャナ、そしてモニカに衝撃が走る。
「そう。シャナ、君の愛する家族を奪った魔物。彼は今、裏S級として王族に飼われているんだよ」
「……」
顔面蒼白のカミーユに、ヴィクスは余裕の笑みを浮かべた。
「それを聞いても君は、この依頼を断れるのかな」
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