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決戦編:バンスティンダンジョン
ヒュドラ
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十五本もの首を生やしたヒュドラは、うねうねと首を動かして冒険者たちを威嚇した。全ての頭が舌を素早く出し入れしているところを見て、モニカは苦笑いする。
「アーサーが気絶しててよかった。こんなもの見ちゃったら、きっと死んじゃうわ」
ヒュドラのまわりを、モニカ、リアーナ、マデリア、ミントが取り囲む。他の冒険者は下手に手を出せないので、武器をしまっていざという時に魔法使いを助けられるよう身構えている。
リアーナは不敵な笑みを浮かべ、魔法使いに指示を出した。
「いいかお前ら! 作戦を言うぞー!」
「はーい!」
「作戦?」
「なにかいい案があるの~?」
手を挙げて元気に返事をしたモニカと、首を傾げるマデリア、キョトンとしているミントに、リアーナが親指を立てる。
「思いっきり! 雷魔法を打ちまくる! 以上!!」
「えっ、それだけ!?」
「それ以外に何があるんだー?」
拍子抜けしているモニカに、リアーナは「何言ってんだこいつ」という目を向けた。
予想がついていたのか、マデリアとミントは苦笑いをするだけだ。
「ま、そんなとこだと思ってたわ。だってリアーナだもの」
「よーし、さっと倒そう~」
S級魔法使いが各々杖を振った。
テンションが上がっているリアーナは余計な身振りをしてゲラゲラ笑っている。
マデリアはめんどくさそうにヒョイヒョイと軽く杖を振った。
ミントはまるで指揮棒を振っているかのように軽やかに。
彼女たちだけを見ていたら、とても目の前にいる巨大な魔物を倒せそうな魔法が放たれるとは思えない。しかし、ヒュドラの真上から三本の巨大な雷が轟音を立てて落ちた。
「ひょっ」
もはや災害だ。こんな雷が三本も落ちたら町が崩壊しそうだ。そう思ったのに、ヒュドラの首は一本も倒れていない。未だ舌をチロチロ動かしながらこちらの様子を窺っていた。
モニカは首を振り、頬を叩いた。
「だめだめ! 見惚れてるだけで突っ立っちゃって! 私もちゃんと戦わないと!」
モニカは歌を歌いながら、思いっきり杖を振り上げた。リアーナよりは小さいが、ミントには勝るとも劣らない威力の雷がヒュドラに直撃する。
ダンジョンに潜ってからずっと威力が落ちないモニカの魔法に、S級冒険者がみな舌を巻いた。
それに気付いていないモニカは、リアーナの雷よりも物足りない自分の魔法にやきもきしている。
「あーん! 全然ダメ!」
「何がダメなんだ……全く分からん」
首をひねるクルドに、カミーユが応える。
「モニカは自分のことをすごい魔法使いだと思ってねえからな」
「意味が分かんねえ」
「リアーナの傍にいすぎたせいだな。あいつの魔法が合格ラインだと思ってやがる」
「へっ。そこまできたら嫌味だぜ」
ヒュドラの反撃が始まった。十五本もの顔が、牙を剥いて魔法使いに襲いかかる。
リアーナ、マデリア、ミントは、軽い身のこなしで攻撃を避け、ヒュドラと一定の距離を保った。
モニカは「キャーッ!」と叫びながらバタバタと走り回っている。時々咄嗟に氷魔法が出てヒュドラの頭を凍らせることや、風魔法が出てしまい首をちょん切ってしまうこともあった。
「うおおおいモニカァ! まぁぁたお前風魔法出したなあああ!?」
「ひぃぃんごめんなさいごめんなさい!」
「お前の風魔法を相殺する余裕ねえんだよぉー!」
「ごめんなさあああい!」
ヒュドラの首は、今やニ十本まで増殖していた。
カミーユは「あー……」と渋い顔をしてヒュドラを眺めた。
「八本首のヒュドラを倒すのに、リアーナは一週間かかったんだ」
「たった一人でたいしたもんだぜ。マデリアとミントは二人がかりで五日かかった」
「モニカの戦力はでけえ。首を増やされたっておつりが出るくらいにな。だが……増えない方が良いに決まってる」
「ははっ。ちげえねえ」
三日三晩、ヒュドラと魔法使いの戦いは続いた。
モニカもできるだけ風魔法を出さないように気を付けていたので、二十六本でとどまっている。
しかし、三日目のしてミントに異変が起きた。
「はぁっ……はぁっ……。みんなっ、ごめん……っ」
「どうしたミント!」
「魔力が半分を切ったみたい……。魔力の回復速度が落ちてきて……まずいかも~……」
「ちっ……。回復魔法を使いすぎたせいだな。おいお前らのせいだぞ! 聞こえてるか前衛~!!」
リアーナが怒りに任せて雷を落としてから、カミーユとクルドに文句を垂れた。
「それは……まじですまねえと思ってる」
「戦力が増える分回復魔法使いの負担は増えるからな……」
「ちっ……。ミント、下がれ! あとはあたしら三人でやる!」
「ごめんね~……」
カミーユはヘトヘトのミントを、少し離れた洞窟で隔離しているアーサーの元へ連れて行った。アーサーは手際よく彼女にエーテルを飲ませ、その他の怪我の手当てをした。
残された三人の魔法使いも、さすがに疲労がたまっている。
(あたしの魔力はまだまだたっぷり残ってる。モニカも余裕そうだが、体力がもう限界か? それにマデリアはあたしらほど魔力が多くねえから、ここであいつの魔力を浪費するにはもったいねえ……)
リアーナは悩んだ末、モニカに声をかけた。
「モニカ!」
「はい!」
「お前はまだたっぷり魔力余ってるだろ!?」
「う、うん! 魔力は……!」
「よし! じゃあさっさと終わらせるために作戦変更だ!」
リアーナは落とし続けていた雷をやめ、深呼吸をして杖を振った。すると杖の先から、まばゆい金色の光が放たれヒュドラの首を包み込む。
「ギァァァァッ!!」
たった一振りで、雷百本分ほどのダメージを受けた首の一本が、もだえ苦しみ地面に頭を打ち付けた。
モニカはその首を見たあと、リアーナに目をやった。
「聖魔法……?」
「そうだ! 今からあたしとお前は、聖魔法を打ちまくる! ヒュドラの首が全部ぶっ倒れるまでな!」
「アーサーが気絶しててよかった。こんなもの見ちゃったら、きっと死んじゃうわ」
ヒュドラのまわりを、モニカ、リアーナ、マデリア、ミントが取り囲む。他の冒険者は下手に手を出せないので、武器をしまっていざという時に魔法使いを助けられるよう身構えている。
リアーナは不敵な笑みを浮かべ、魔法使いに指示を出した。
「いいかお前ら! 作戦を言うぞー!」
「はーい!」
「作戦?」
「なにかいい案があるの~?」
手を挙げて元気に返事をしたモニカと、首を傾げるマデリア、キョトンとしているミントに、リアーナが親指を立てる。
「思いっきり! 雷魔法を打ちまくる! 以上!!」
「えっ、それだけ!?」
「それ以外に何があるんだー?」
拍子抜けしているモニカに、リアーナは「何言ってんだこいつ」という目を向けた。
予想がついていたのか、マデリアとミントは苦笑いをするだけだ。
「ま、そんなとこだと思ってたわ。だってリアーナだもの」
「よーし、さっと倒そう~」
S級魔法使いが各々杖を振った。
テンションが上がっているリアーナは余計な身振りをしてゲラゲラ笑っている。
マデリアはめんどくさそうにヒョイヒョイと軽く杖を振った。
ミントはまるで指揮棒を振っているかのように軽やかに。
彼女たちだけを見ていたら、とても目の前にいる巨大な魔物を倒せそうな魔法が放たれるとは思えない。しかし、ヒュドラの真上から三本の巨大な雷が轟音を立てて落ちた。
「ひょっ」
もはや災害だ。こんな雷が三本も落ちたら町が崩壊しそうだ。そう思ったのに、ヒュドラの首は一本も倒れていない。未だ舌をチロチロ動かしながらこちらの様子を窺っていた。
モニカは首を振り、頬を叩いた。
「だめだめ! 見惚れてるだけで突っ立っちゃって! 私もちゃんと戦わないと!」
モニカは歌を歌いながら、思いっきり杖を振り上げた。リアーナよりは小さいが、ミントには勝るとも劣らない威力の雷がヒュドラに直撃する。
ダンジョンに潜ってからずっと威力が落ちないモニカの魔法に、S級冒険者がみな舌を巻いた。
それに気付いていないモニカは、リアーナの雷よりも物足りない自分の魔法にやきもきしている。
「あーん! 全然ダメ!」
「何がダメなんだ……全く分からん」
首をひねるクルドに、カミーユが応える。
「モニカは自分のことをすごい魔法使いだと思ってねえからな」
「意味が分かんねえ」
「リアーナの傍にいすぎたせいだな。あいつの魔法が合格ラインだと思ってやがる」
「へっ。そこまできたら嫌味だぜ」
ヒュドラの反撃が始まった。十五本もの顔が、牙を剥いて魔法使いに襲いかかる。
リアーナ、マデリア、ミントは、軽い身のこなしで攻撃を避け、ヒュドラと一定の距離を保った。
モニカは「キャーッ!」と叫びながらバタバタと走り回っている。時々咄嗟に氷魔法が出てヒュドラの頭を凍らせることや、風魔法が出てしまい首をちょん切ってしまうこともあった。
「うおおおいモニカァ! まぁぁたお前風魔法出したなあああ!?」
「ひぃぃんごめんなさいごめんなさい!」
「お前の風魔法を相殺する余裕ねえんだよぉー!」
「ごめんなさあああい!」
ヒュドラの首は、今やニ十本まで増殖していた。
カミーユは「あー……」と渋い顔をしてヒュドラを眺めた。
「八本首のヒュドラを倒すのに、リアーナは一週間かかったんだ」
「たった一人でたいしたもんだぜ。マデリアとミントは二人がかりで五日かかった」
「モニカの戦力はでけえ。首を増やされたっておつりが出るくらいにな。だが……増えない方が良いに決まってる」
「ははっ。ちげえねえ」
三日三晩、ヒュドラと魔法使いの戦いは続いた。
モニカもできるだけ風魔法を出さないように気を付けていたので、二十六本でとどまっている。
しかし、三日目のしてミントに異変が起きた。
「はぁっ……はぁっ……。みんなっ、ごめん……っ」
「どうしたミント!」
「魔力が半分を切ったみたい……。魔力の回復速度が落ちてきて……まずいかも~……」
「ちっ……。回復魔法を使いすぎたせいだな。おいお前らのせいだぞ! 聞こえてるか前衛~!!」
リアーナが怒りに任せて雷を落としてから、カミーユとクルドに文句を垂れた。
「それは……まじですまねえと思ってる」
「戦力が増える分回復魔法使いの負担は増えるからな……」
「ちっ……。ミント、下がれ! あとはあたしら三人でやる!」
「ごめんね~……」
カミーユはヘトヘトのミントを、少し離れた洞窟で隔離しているアーサーの元へ連れて行った。アーサーは手際よく彼女にエーテルを飲ませ、その他の怪我の手当てをした。
残された三人の魔法使いも、さすがに疲労がたまっている。
(あたしの魔力はまだまだたっぷり残ってる。モニカも余裕そうだが、体力がもう限界か? それにマデリアはあたしらほど魔力が多くねえから、ここであいつの魔力を浪費するにはもったいねえ……)
リアーナは悩んだ末、モニカに声をかけた。
「モニカ!」
「はい!」
「お前はまだたっぷり魔力余ってるだろ!?」
「う、うん! 魔力は……!」
「よし! じゃあさっさと終わらせるために作戦変更だ!」
リアーナは落とし続けていた雷をやめ、深呼吸をして杖を振った。すると杖の先から、まばゆい金色の光が放たれヒュドラの首を包み込む。
「ギァァァァッ!!」
たった一振りで、雷百本分ほどのダメージを受けた首の一本が、もだえ苦しみ地面に頭を打ち付けた。
モニカはその首を見たあと、リアーナに目をやった。
「聖魔法……?」
「そうだ! 今からあたしとお前は、聖魔法を打ちまくる! ヒュドラの首が全部ぶっ倒れるまでな!」
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