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決戦編:裏S級との戦い

ヒトとの別れ

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「グルルルゥゥゥゥッ……!」

 素手で襲いかかってきたシルヴェストルを、カミーユは大剣で防いだ。体力を全回復した彼でも押し倒される。

「くっそ……! こんな小せえ体のどこにそんな力があんだよ……っ!」
「……セェッ……」
「は? セ?」
「コロッ……セッ……ボクヲ……ッ!」
「……」
「アウス……ヤクソク……ヤブリタク……ナイ……ッ」
「おまえ……だから俺に素手で襲い掛かってきたのか?」
「モウスグ……ショウキ……ウシナウ……ソノマエ……ニ……ボクヲ……コロセッ……!」
「じゃあちっとは手加減しろよ……っ! こちとら押し返せもしねえんだが!?」
「ヨワイ……ヒト……ヨワスギ……」
「うるせぇな!?」
「ボク……ジャクテン……シンゾウ……ヨッツ……サイゴノヒトツ……ドウジニ……クビ……」
「はぁぁっ!? お前心臓よっつもあんのかよ!!」
「アウス……アヤマットイテ……セッカク……チギリ……カワシタノニ……」

 うるうると目に涙を溜めるシルヴェストルに、カミーユはジトッとした目を向ける。

「おい……その前に俺に言うことねえのか? あ?」
「……シャナ……?」
「そうだ」
「ゴメン……アウスニモ……オコラレタ……」
「あいつ隠れて何コソコソ魔物説教してんだよ……」
「アヤマルカラ……コロシテ……」
「許さねえが……殺してやるよ」
「アウスヲ……ボクカラ……マモッテ……」
「言われなくても守るつもりだ」
「ゴメン……アウス……ゴメン……」
「はぁぁ……急にしおらしくなりやがって……」

 シルヴェストルは震える手で、ポケットから魔法瓶を取り出した。それをカミーユに差し出す。

「ボクニ……ノマセテ……」
「なんだこれ」
「ハンマホウエキ……コレデ……ボクノマホウ……フウジル……」
「……助かる」
「ヒト……ヨワイケド……ボクガ……マホウツカエナカッタラ……マダ……マシデショ……」
「ああ。だが、言っとくが俺らは弱くねえ。お前が強すぎるんだ」
「ハハ……」

 カミーユが魔物の口元に瓶を添えると、シルヴェストルは大人しくそれを飲んだ。

「ジャア……タノムヨ……ヤクソク……マモッテネ……」
「ああ。命賭けて守ってやるよ。お前のゴシュジンサマをな」
「アリガトウ……」

 そしてシルヴェストルは正気を失い、ただの魔物になった。時々理性が蘇るのか、動きが鈍くなったり、わざと攻撃をくらったりする。それでも体力全快のS級冒険者が全員でかかっても、太刀打ちできないほど強かった。

 暴れるシルヴェストルを見て、アーサーは涙が止まらなかった。そんな彼の肩をカミーユが力強く叩く。

「泣くなアーサー」
「ごめんカミーユ……っ! 僕、僕……みんなを助けられると思ったのに……! 結局僕のやったことに、意味なんてなかった……! 僕、何もできず……ただ魔物みたいになって……っ」
「違う! お前が……! お前が、あいつと契りを交わしてくれたから……! あいつは俺に弱点を教え、自ら反魔法液を飲んだ。お前のしたことは無駄じゃない!! お前はその身を捨てて、俺らを守ってくれた……! 今度は俺らがお前らを守る番だ……! だからそんなこと言うな……! 頼む……!」
「……うん……うん……っ」

 S級がシルヴェストルと戦っている中、リアーナは立ち止まり深呼吸をした。

「アーサー」
「リアーナ……?」
「これ、もらっといてくれ」
「え……?」

 リアーナがアーサーの手のひらに載せたものは、ウスユキのサクラの枝で作られたネックレスーーリアーナの中に潜む魔物を抑える役割を持つ物だ。

「リアーナ……これ……」
「アーサー! 言っとくが、お前なんてまだペーペーだ! お前なんてまだまだ人間だ!!」
「……」
「そんで、お前はずっと人間のままでいろ」
「リアーナ……?」

 顔だけ振り返り、ニッと笑ってみせるリアーナ。彼女が拳を握ると、徐々に魔物の痣が浮き上がってくる。

「〝ヒト〟としてのあたしは……もう、魔力が切れたポンコツだ……! だがな、あたしには……ずっと抑えてた魔物の力が残ってる……!!」
「リアーナ……!? リアーナやめて!! そんな……そんな……!!」
「なーに気にすんなアーサー! あたしが完全な魔物になったって、カミーユたちはあたしのこと捨てたりしねーよ! お前だって、ずっとあたしのこと好きでいてくれるだろ!?」
「そうだけど……! そうだけどでも……!!」
「うるせー!! やらねーとみんな死んじまうかもしんねえんだ! だから黙って見てろ!!」

 リアーナの瞳孔がだんだんと猫のように細くなり、口からは牙が覗く。爪が急激に伸び、鋭く尖った。

「ガルルルル……ッ」

 魔物のような呻き声をあげ、リアーナがシルヴェストルに襲いかかった。全身黒い痣に覆われた、変わり果てた彼女の姿に、S級ですら言葉を失ったがすぐに状況を呑み込んで応戦した。

 シルヴェストルとリアーナの戦いは、まるで野生動物の殺し合いのようだった。互いに唸り声を上げながら、牙と爪で攻撃する。あの怪力のシルヴェストルとすら互角に戦う魔物リアーナに、メンバーは複雑な表情を浮かべていた。

「グルァァァッ!!」

 リアーナが両手をシルヴェストルの胴体に向けて何か叫んだ。するとシルヴェストルの絶叫が洞窟に響き渡った。

「あいつ……! 魔物になっても聖魔法使えんのか!?」
「聖魔法の使える魔物……なんじゃそりゃ!!」

 聖魔法はシルヴェストルに大ダメージを負わせたが、同時にリアーナにも同じくらいダメージが入ったようだ。リアーナも苦し気に叫び、ぐったりした。その隙にシルヴェストルに蹴りを入れられ、リアーナは遠くに吹き飛ばされた。

 カミーユがリアーナに駆け寄る。

「リアーナ! クソッ……! 無茶しやがって……!」
「カミーユ……」
「喋るな……! お前今にも死にそうだぞ……!」
「心臓……潰した……ふたつ……。ごめん……あとふたつ……潰せなかった……ごめん……」
「大手柄残しといて謝んじゃねえよ! もうそのまま寝とけ!! おい、お前戻ってこれんだろうな!?」
「多分……無理……」
「は!? おい、マジで言ってんのかそれ。笑えねえ冗談じゃねえだろうな」
「マジだ……濃くなった魔物の血は……元には戻らねえ……」
「……バカばっかりかよ……!」
「なあ、カミーユ……」

 痣で埋め尽くされた手で、リアーナがカミーユの手を握る。

「こんなになったあたしでも……親友だろ……?」

 その言葉に、カミーユは思わずボロボロ涙をこぼした。

「あたりまえだろうが……っ! 聞くな、そんなこと……!! お前はどうなったって、俺の仲間で、親友で、家族だ……!」
「そうか、よかった……。へへっ」

 そして、リアーナはかくりと意識を失った。
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