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最終編:反乱編:南部モリア軍

サンプソンの兄

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 バンスティン大公軍の中に切り込んでいくと、A級魔物の群れが現れた。魔物は敵味方関係なくヒトを襲っている。

「うぎゃあああああ!」
「ひぃっ! ひぃぃぃ! 誰か! 誰か助けてくれぇぇぇっ!」

 兵たちが魔物に襲われる中、やぐらの上でゲス笑いをしている人の姿があった。

「……兄さん」

 サンプソンが小さく呟いたので、モニカもやぐらに目をやった。サンプソンと同じピンク色の髪をしているが、醜い笑みを浮かべている彼がサンプソンの兄弟とはとても思えない。
 サンプソンの兄の叫び声がその場に響く。

「食い尽くせ! 食い尽くせぇ! 勝って王族に恩を売るんだぁあ!」
「……たかがA級魔物の群れで、僕たちの相手になるとでも思ったんだろうか」

 サンプソンはため息を吐き、モニカを乗せたまま魔物の群れに直進した。

「モニカ、大丈夫だよね」
「うん! 大丈夫、任せて!」

 サンプソンが弓を引く。彼の放つ矢一本で、魔物はキャウンと声を出して息絶えた。目にも止まらない速さで次々と放たれる矢は、人を襲う魔物をあっという間に一掃した。

「……なんで、敵の俺まで助ける……?」

 魔物に襲われていた敵兵が茫然と立ち尽くす。そんな彼にサンプソンはエリクサーを投げ渡し、甘い笑みを浮かべた。

「モリア印のエリクサーです。どうぞごひいきに」
「……」
「魔物は理性がない生き物だ。君も離れて」

 キュンッ……と敵兵の胸からときめきの音が聞こえたので、マデリアが呆れた口調でサンプソンに言った。

「あなたね、老若男女敵味方関係なく口説き落とすのはやめなさい?」
「口説いたつもりはないよ。ただ僕が老若男女敵味方関係なく惚れられてしまうほどの色男ってだけで」
「あとでカトリナに言っておくわ」
「……それはやめてくれるかな?」

 モニカは二人の会話にケタケタ笑いながら、元気いっぱいに杖を振った。

「……え?」
「えーーーーー!?」

 やぐらにいるサンプソンの兄、敵兵、味方の兵みなが、モニカのたった一振りの魔法に目玉を飛び出させた。
 A級魔物の群れが、一瞬にして消し炭になったのだ。

「モリア王女は並外れた魔法の素質を持つと言われている……! あ……あれが……モリア様の魔法……!」
「みんなでおいしいもの食べようねーって可愛い声で言ってた子が……あんな強いなんて……」
「あんなの……S級冒険者レベルなんじゃないのか……!? 強すぎる……!!」

 モニカの魔法に大混乱している兵たちを見て、モニカは困ったように頬をポリポリかいた。

「ええ……? ちょと火魔法打っただけなのに……。それにS級の魔法使いはもっとすごいよぉ……?」
「みんなはS級冒険者の魔法なんて日頃見る機会がないからね。それにモニカの魔法がS級だっていうのは間違いじゃないよ」
「そんなことないと思うんだけどなあ」
「んー、モニカが瞬殺しちゃったせいで、僕たちの仕事がなくなっちゃったねえ」

 サンプソンの兄は、魔物が一瞬で消し炭にされたことで震えあがっていた。

「ひぃぃぃ……! 手持ちの魔物全部使ったのに……! クソッ……どうしたら……」
「どうもする必要はないわ」
「ひっ⁉」

 背後から声が聞こえ、サンプソンの兄はカタカタ震えながら振り返った。

「……お前は……!」
「お久しぶりね、サンプソンのお兄さん。私のこと、覚えてたのね」
「……ああ。お前ほど美しい女はいなかったからな……」
「そう。今も美しいでしょう?」
「そうだな……。すごく……美しいぜ……」

 こんな時だと言うのに、サンプソンの兄の視線がマデリアの豊満な胸に注がれ、鼻の穴を膨らませた。マデリアはそんな彼を鼻で笑い、服を引っ張り谷間を見せつける。

「あら。こんなときでも元気なこと。あなたの頭の中は、いつだって女のことでいっぱいなのね」
「な、なあ……お前、寝返ろよ。もう痛い目なんてあわせねえから。毎日良い思いさせてやるからよぉ……」
「ふふ、どうしようかしら」

 マデリアは思わせぶりにそう言い、ゆっくりとサンプソンの兄に近づいた。なにを期待しているのか、彼は逃げようともせずマデリアの揺れる胸ばかり目で追っている。マデリアの顔が自分の顔にくっつきそうなほど近づくと、彼は唇を尖らせて目を瞑った。

 マデリアはゴミを見るような目で彼を一瞥し、彼の首元に杖を添える。

「ごめんなさい。私、男にも女にも困ってないの」
「へっ?」

 サンプソンの兄が目を開けると、マデリアの移植された魔物の目がギラギラと光っているのが見えた。情けない悲鳴を上げる彼に、マデリアが吐き捨てる。

「死になさい。サンプソンの人生を壊したバンスティン家の穢れた血め」
「ぎゃああああああ……!!」

 サンプソンの兄の首が宙を舞い、サンプソンの足元に落ちた。マデリアは彼の体もやぐらから突き落とし、呟いた。

「私をあんな目に遭わせておいて、私の名前すら知らない男になんて興味ないのよね」
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