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最終編:反乱編:南部モリア軍
親殺し
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魔物が一掃されたことにより、モリア軍の士気は一層上がった。さらに味方が襲われることも厭わず魔物という非人道的な手段をとったサンプソンの兄に愛想を尽かした敵兵は、モリア軍に寝返った。
モリア軍の快進撃は止まることなく、大将のバンスティン大公が守っている拠点まで攻め寄せる。
モニカたちの視界がバンスティン大公を捉えた。大公は顔を真っ青にして、ガクガク震えている。
そんな情けない父親の姿に、サンプソンは誰にともなく呟いた。
「……もともと、うちの家は軍事に力を入れていなかった。魔物の力があればなんとかなるだろうとでも思っていたのだろうか。なんと……短絡的で愚かな」
サンプソンが弓を引いた。その矢は大公の兜の先についている羽に見事命中し、兜を吹き飛ばす。
それだけで大公は悲鳴を上げ、兵のうしろに逃げて行った。
「……追うよ。終わらせよう」
サンプソンたちは兵には目もくれず馬を走らせた。どこまでも逃げようとする大公を、マデリアが風魔法で引き寄せる。地面に叩き落とされた大公は、子どものように手足をばたつかせて泣き叫んだ。
「卑怯だぞ! 魔法なんて卑怯だぞ!」
「魔物の方が卑怯ですよ、父上」
「ぐ……サンプソン貴様ぁぁー! 父親に向かって矢を射るなんてどうかしておる! 親不孝者! この親不孝者がぁぁあ!」
「僕は今からそれ以上の親不孝をしますので、なんと言われようとも構いません」
「な……き、貴様……まさか親殺しをするつもりか……!?」
「……」
「サ、サンプソン……! この国で親殺しが何を意味しているか分かっているのか!? 一生ものの汚名を着ることになるぞ!? だからやめるんだ……! わしを助けてくれたらなんでもやろう、な? 子どもの頃からずっと大切にしてやっていただろう?」
サンプソンの目は冷たいままだ。彼は何も言わずにゆっくりと弓を引いた。
「……僕の大切なカトリナを、兄と共に穢そうとした罪」
「ひっ……ぎゃぁあっぁぁっ!!」
矢がバンスティン大公の腕に刺さる。
「僕の大切なマデリアを痛めつけ……慰めものにした罪……」
「うぐぁぁぁぁ!」
次は太ももに。
「僕の大切なムルの……! か弱い命を奪った罪……!!」
「あぁぁぁっ……あぁぁぁっ……!!」
大公の腹部に三本の矢が刺さる。痛みで絶叫する大公を、サンプソンは涙を流しながら睨みつけた。
「どうだ……! 矢が刺さっただけでも痛いだろう……! 痛いんだよ……! 体を傷つけられると……! 父上はそれだけじゃなく……彼女たちの心まで穢したんだ……! 恥を知れ……死をもって償え……!!」
サンプソンの最後の矢が大公の心臓に向けて放たれる。しかしそれはマデリアの風魔法によって防がれた。
「なっ……マデリア……」
マデリアは無表情で、サンプソンが次の矢を打つ前に大公の首を落とした。
「恨みは私が引き受ける。手を穢さないで、サンプソン。あなたにはやるべきことがあるでしょう」
「……っ。……すまない、マデリア……」
「いいえ。私だって殺したかったもの」
サンプソンの負の感情に飲み込まれていたモニカは呆然と大公の死体を見下ろしていた。そんな彼女の肩を、サンプソンが優しく揺らす。
「モニカ。終わったよ。戦いは終わりだ」
「え……?」
「勝ったよ。モリア軍の勝利だ」
モニカはあたりを見回した。まだ遠くで争いの怒号が飛び交っている。
「大将を倒したらそれで戦いは終わりだ。降伏する敵兵はあたたかく迎え入れてあげよう。そして今晩はみんなで、おいしいごはんを食べよう」
戦いに決着がついたことを知らされた味方の兵は喜びの声を上げた。少なからず出た死者は、ひとり残らず丁寧に布でくるみ荷台に乗せた。怪我人にはエリクサーの配布と、モニカとエルフによる回復魔法を与えた。
モニカたちは敵兵の怪我人にも同様に手当てをした。
敵兵は、魔物に味方を殺させようとしたバンスティン大公の息子や、味方を置いて逃げようとした大公にはそうそうに見切りをつけたようだ。敵味方分け隔てなく丁寧に手当てをしてもらった彼らは、ほとんどがモリア軍に加わった。
「たったの一日で攻め落とせるなんてね……。軍事を疎かしにして闇オークションにばかり金を使っていたからだ」
思っていた以上に短期間で決着がついたので、その日は用意していた一か月分の食糧を全て使い、兵たちにホカホカの食事と酒を振舞った。ご機嫌の兵たちは、火の回りで踊ったり歌を歌ったりして、ひとまずの戦いの終わりを喜んだ。
モリア軍の快進撃は止まることなく、大将のバンスティン大公が守っている拠点まで攻め寄せる。
モニカたちの視界がバンスティン大公を捉えた。大公は顔を真っ青にして、ガクガク震えている。
そんな情けない父親の姿に、サンプソンは誰にともなく呟いた。
「……もともと、うちの家は軍事に力を入れていなかった。魔物の力があればなんとかなるだろうとでも思っていたのだろうか。なんと……短絡的で愚かな」
サンプソンが弓を引いた。その矢は大公の兜の先についている羽に見事命中し、兜を吹き飛ばす。
それだけで大公は悲鳴を上げ、兵のうしろに逃げて行った。
「……追うよ。終わらせよう」
サンプソンたちは兵には目もくれず馬を走らせた。どこまでも逃げようとする大公を、マデリアが風魔法で引き寄せる。地面に叩き落とされた大公は、子どものように手足をばたつかせて泣き叫んだ。
「卑怯だぞ! 魔法なんて卑怯だぞ!」
「魔物の方が卑怯ですよ、父上」
「ぐ……サンプソン貴様ぁぁー! 父親に向かって矢を射るなんてどうかしておる! 親不孝者! この親不孝者がぁぁあ!」
「僕は今からそれ以上の親不孝をしますので、なんと言われようとも構いません」
「な……き、貴様……まさか親殺しをするつもりか……!?」
「……」
「サ、サンプソン……! この国で親殺しが何を意味しているか分かっているのか!? 一生ものの汚名を着ることになるぞ!? だからやめるんだ……! わしを助けてくれたらなんでもやろう、な? 子どもの頃からずっと大切にしてやっていただろう?」
サンプソンの目は冷たいままだ。彼は何も言わずにゆっくりと弓を引いた。
「……僕の大切なカトリナを、兄と共に穢そうとした罪」
「ひっ……ぎゃぁあっぁぁっ!!」
矢がバンスティン大公の腕に刺さる。
「僕の大切なマデリアを痛めつけ……慰めものにした罪……」
「うぐぁぁぁぁ!」
次は太ももに。
「僕の大切なムルの……! か弱い命を奪った罪……!!」
「あぁぁぁっ……あぁぁぁっ……!!」
大公の腹部に三本の矢が刺さる。痛みで絶叫する大公を、サンプソンは涙を流しながら睨みつけた。
「どうだ……! 矢が刺さっただけでも痛いだろう……! 痛いんだよ……! 体を傷つけられると……! 父上はそれだけじゃなく……彼女たちの心まで穢したんだ……! 恥を知れ……死をもって償え……!!」
サンプソンの最後の矢が大公の心臓に向けて放たれる。しかしそれはマデリアの風魔法によって防がれた。
「なっ……マデリア……」
マデリアは無表情で、サンプソンが次の矢を打つ前に大公の首を落とした。
「恨みは私が引き受ける。手を穢さないで、サンプソン。あなたにはやるべきことがあるでしょう」
「……っ。……すまない、マデリア……」
「いいえ。私だって殺したかったもの」
サンプソンの負の感情に飲み込まれていたモニカは呆然と大公の死体を見下ろしていた。そんな彼女の肩を、サンプソンが優しく揺らす。
「モニカ。終わったよ。戦いは終わりだ」
「え……?」
「勝ったよ。モリア軍の勝利だ」
モニカはあたりを見回した。まだ遠くで争いの怒号が飛び交っている。
「大将を倒したらそれで戦いは終わりだ。降伏する敵兵はあたたかく迎え入れてあげよう。そして今晩はみんなで、おいしいごはんを食べよう」
戦いに決着がついたことを知らされた味方の兵は喜びの声を上げた。少なからず出た死者は、ひとり残らず丁寧に布でくるみ荷台に乗せた。怪我人にはエリクサーの配布と、モニカとエルフによる回復魔法を与えた。
モニカたちは敵兵の怪我人にも同様に手当てをした。
敵兵は、魔物に味方を殺させようとしたバンスティン大公の息子や、味方を置いて逃げようとした大公にはそうそうに見切りをつけたようだ。敵味方分け隔てなく丁寧に手当てをしてもらった彼らは、ほとんどがモリア軍に加わった。
「たったの一日で攻め落とせるなんてね……。軍事を疎かしにして闇オークションにばかり金を使っていたからだ」
思っていた以上に短期間で決着がついたので、その日は用意していた一か月分の食糧を全て使い、兵たちにホカホカの食事と酒を振舞った。ご機嫌の兵たちは、火の回りで踊ったり歌を歌ったりして、ひとまずの戦いの終わりを喜んだ。
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