RPG「テクノポリスSF」

第一章「起動」

第五話「時系列」

「トシオ、…さんね。わかったわ」
「アイーダ姉さん、ここに来る新人ってのは何年振りだ？」
と、さっきの犬顔の大男がたずねた。
アイーダと呼ばれた人間族の女主人は、トシオと大男に
「これ、計算が大変なのよね、トシオさん、あなたの世界(現実世界・リアル)での時間に換算すると、確かに5年振りなのだけど、こっちの住人たちの体感時間だと、87万7千665年振りの新人、ってことになるわ」
「え？」
すると、犬男は、
「こいつァ～、めでてえ！！野郎ども！エルフもな！この87万年振りの新人に改めて乾杯しようぜ！」
ワァァ～～っと客人たちは盛り上がった。
おそらくエルフ？と思われる女性が、
「おめでとう、トシオくん」
小人が「いらっしゃい」
最後に犬男が「じゃー、いくぞー！」
「カンパ～…」
「イ」と言い終わる直前に俺はふとした疑問をはさみこんだ。
「ちょっと、待って。この世界での3年はリアルでの3分に等しい、と最初の案内人に聞いた。
でも、それじゃ、例えば2009年の発売日にこのゲームソフトを買ってプレイしたまま生き残ってる者たちは現在2021年には、現実世界の12年ここにいることになる」
犬男がわめき出した。
「それがどうしたってんだよ」
乾杯の音頭を邪魔されて、少し不機嫌なようだ。
「でも、この世界の3年は現実世界の3分なんだろ？じゃ、2009年からの参加者はこの世界に3百11万6千496年いることになって…、で、ここからが本題なんだが、その計算でいくと、リアル(現実世界)では2009年から2021年までには12分しか経っていないことになるが、2009年に始めて、12分しか経っていない、というのは現実問題ヘンだ！現実にも時間は絶え間なく流れているんだから！」
女主人アイーダは言った。
「それはね、…」
「例え、2009年から始めたプレイヤーでも、現実では12分しか経っていない正当な理屈があるのよ。
あなたは、2009年から始めたプレイヤーがいて、今、ここに12年後にプレイヤーとなった自分がいて、自分は実際に12年経った世界から来ているのに、2009年から始めたのプレイヤーたちの現実世界での時間が、2009年から12分しか経っていない、というパラドックスに混乱しているのよね。不合理と言ってもいいわ。
でも、私が、…そうね、この世界(現実(リアル))、ゲーム世界も含めて)の真理をここで言うわ。」
「真理？」
「この世界はタイムパラドックス、という現象で成り立っているの。あなたもマンガや映画で目にしたことがあるんじゃない？
その理論で言うと、このゲームと現実世界との関係にも説明が効くわ
つまり、今・現在・12年前、または5年前でもいいわ。彼らが生きている現実世界はプレイヤーごとに異なるのよ。プレイヤーごとに分断されている、といってもいいわ。つまり、パラレルワールドよ。」
「パラレルワールド？」
「平行世界よ。その人にはその人の現実がある。「現実」は一つじゃないのよ。わかった？」
「このゲームはただのゲームではないと、最初の案内人が…」
「そう、このゲームには魔力が宿ってるの。意思もね。
だから長い滞在者は、どっち・・が現実かわからなくなっちゃうの。」
「………。」
「まあ、この命題は根を詰めると、哲学の世界に入っちゃうから、このへんにしときましょう。
じゃあ、乾杯しましょう？」
犬男が仕切り直して、
「じゃ、皆のモノォ～、新たな旅人に、カンパーイ！」
《 カンパーイ！ 》
俺は一抹の不安を感じた。

続く