12 / 55
少女たちの深まる仲
3
しおりを挟む
「はい! いつも遅くなってごめんね」
月曜日に交換日記を渡し、次にそのノートが翠の元へ戻ってきたのはさらに二週間後だった。玲那は交換日記を始めた当初に比べてノートを回す日がどんどん伸びている。翠は遅いと思いつつも、相手にも何か事情があるのだろうと特にノートを催促する事はなかった。しかしそれが良くなかったのか、はたまた他に問題があったのか。この頃になると玲那は翠を避けることが増えていた。
「ありがとう、書いたら渡すね」
「おっけー。あっ! 凛子! 昨日のさぁ……」
仲間外れにされるのは初めてではなかった。去年も、その前の年も翠は仲間外れにされたことがある。
原因は様々で、例えば遊びの誘いを断っただとか男子とばかり話しているからだとかどれも小さなことだ。最初こそ自分に非があるのだと気にしていた翠だったが特にいじめを受けるわけでもなくただ孤立しているだけでは徐々に気にならなくなっていた。気にしないようにしていたのだ。
そして今回も翠は徐々に孤立しつつあったが今回は今まで以上に気持ちに余裕が存在した。
それもこれも、家に帰れば紅がいるという心理的な余裕からだ。
玲那から回って来る交換日記の内容も素っ気ないものへと変化していた。前回、紅と仲良くなる方法を尋ねた翠だったが玲那の回答は『たくさん話しかければ良いんじゃない?』という一文だった。いつもの丸っこい文字ではない、走り書きのような適当な文字。真面目に相談に乗ってもらえる事を期待していた翠は少しだけ落胆したが、最近の玲那の態度を見ると仕方のないことなのかと思うようになった。そして交換日記自体を回すのはもうやめにした。これ以上続けても意味がないと、そう思った。
「クラブで作ったんだけど、どうかな?」
「可愛いと思う。これは翠? それともわたし?」
「一応紅のつもり」
「そう、ありがとう」
学校では孤独を感じていても家にいれば紅がいる。以前のように家で寂しがっていた翠ではなかった。日に日に紅の存在が自分の中で大きくなっていくのを翠はひしひしと感じていた。出会ったのはほんの少し前だと言うのにまるで昔から一緒に育ってきた姉妹みたいだ。
「パパとはどう?」
「この前みたいにどこかへ連れて行ってくれたりはないけど、いつもと変わらないよ」
「それなら良かった」
あの日を境にパパとの関係も変われば良いと思っていた。しかしそう上手くは行かず、パパは相変わらず仕事で忙しくその上無口で不愛想だった。学校で起きた事や体調は毎日のように尋ねられたが、翠は学校が楽しいと嘘をつくようになっていた。いつもの事だ。学校では楽しく過ごしていると嘘を吐く。孤立している事実をパパに知られたくなかった。もしパパが翠が孤立している事を知ったらどのような反応をするのか、翠は想像もつかなかった。仲間外れにするようなクラスメイトに腹を立てるか、それとも翠を出来の悪い娘だと軽蔑するか――前者ならばともかく、後者の場合は考えたくもなかった。
「そろそろ翠のこと、わかってきたかも」
「本当に? ぼくってそんなにわかりやすい?」
「良い意味で、ね。でも翠にそっくり物まねが出来たところで鍵がないんじゃここから出られないもの」
紅が悲しそうな顔で鉄格子に手をかける。そこは冷たくがしゃんと音を立てるだけで、南京錠が外れて鉄格子のドアが開くことは一切なかった。
「ごめんね、ぼくが鍵を見つけられないから」
「元々そんなすぐに開くと思ってなかったから。わたしもこっちから開かないか試しているから」
紅との交流時間は以前よりぐっと増えていた。家に誰もいないとき、翠は常にクローゼットのドアを開け紅と会話を楽しんでいた。そして南京錠の鍵になるものがないかと思いつく限りの方法を試していた。
聞きたいことリストはいつの間にか消失していた。そんなものがなくとも、紅と仲良くなりたい一心で交流を続けているうちにおのずと紅のことを理解できるようになっていたのだ。
月曜日に交換日記を渡し、次にそのノートが翠の元へ戻ってきたのはさらに二週間後だった。玲那は交換日記を始めた当初に比べてノートを回す日がどんどん伸びている。翠は遅いと思いつつも、相手にも何か事情があるのだろうと特にノートを催促する事はなかった。しかしそれが良くなかったのか、はたまた他に問題があったのか。この頃になると玲那は翠を避けることが増えていた。
「ありがとう、書いたら渡すね」
「おっけー。あっ! 凛子! 昨日のさぁ……」
仲間外れにされるのは初めてではなかった。去年も、その前の年も翠は仲間外れにされたことがある。
原因は様々で、例えば遊びの誘いを断っただとか男子とばかり話しているからだとかどれも小さなことだ。最初こそ自分に非があるのだと気にしていた翠だったが特にいじめを受けるわけでもなくただ孤立しているだけでは徐々に気にならなくなっていた。気にしないようにしていたのだ。
そして今回も翠は徐々に孤立しつつあったが今回は今まで以上に気持ちに余裕が存在した。
それもこれも、家に帰れば紅がいるという心理的な余裕からだ。
玲那から回って来る交換日記の内容も素っ気ないものへと変化していた。前回、紅と仲良くなる方法を尋ねた翠だったが玲那の回答は『たくさん話しかければ良いんじゃない?』という一文だった。いつもの丸っこい文字ではない、走り書きのような適当な文字。真面目に相談に乗ってもらえる事を期待していた翠は少しだけ落胆したが、最近の玲那の態度を見ると仕方のないことなのかと思うようになった。そして交換日記自体を回すのはもうやめにした。これ以上続けても意味がないと、そう思った。
「クラブで作ったんだけど、どうかな?」
「可愛いと思う。これは翠? それともわたし?」
「一応紅のつもり」
「そう、ありがとう」
学校では孤独を感じていても家にいれば紅がいる。以前のように家で寂しがっていた翠ではなかった。日に日に紅の存在が自分の中で大きくなっていくのを翠はひしひしと感じていた。出会ったのはほんの少し前だと言うのにまるで昔から一緒に育ってきた姉妹みたいだ。
「パパとはどう?」
「この前みたいにどこかへ連れて行ってくれたりはないけど、いつもと変わらないよ」
「それなら良かった」
あの日を境にパパとの関係も変われば良いと思っていた。しかしそう上手くは行かず、パパは相変わらず仕事で忙しくその上無口で不愛想だった。学校で起きた事や体調は毎日のように尋ねられたが、翠は学校が楽しいと嘘をつくようになっていた。いつもの事だ。学校では楽しく過ごしていると嘘を吐く。孤立している事実をパパに知られたくなかった。もしパパが翠が孤立している事を知ったらどのような反応をするのか、翠は想像もつかなかった。仲間外れにするようなクラスメイトに腹を立てるか、それとも翠を出来の悪い娘だと軽蔑するか――前者ならばともかく、後者の場合は考えたくもなかった。
「そろそろ翠のこと、わかってきたかも」
「本当に? ぼくってそんなにわかりやすい?」
「良い意味で、ね。でも翠にそっくり物まねが出来たところで鍵がないんじゃここから出られないもの」
紅が悲しそうな顔で鉄格子に手をかける。そこは冷たくがしゃんと音を立てるだけで、南京錠が外れて鉄格子のドアが開くことは一切なかった。
「ごめんね、ぼくが鍵を見つけられないから」
「元々そんなすぐに開くと思ってなかったから。わたしもこっちから開かないか試しているから」
紅との交流時間は以前よりぐっと増えていた。家に誰もいないとき、翠は常にクローゼットのドアを開け紅と会話を楽しんでいた。そして南京錠の鍵になるものがないかと思いつく限りの方法を試していた。
聞きたいことリストはいつの間にか消失していた。そんなものがなくとも、紅と仲良くなりたい一心で交流を続けているうちにおのずと紅のことを理解できるようになっていたのだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない
もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。
……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
離婚した彼女は死ぬことにした
はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる