パパには言わない

田中潮太

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翠の真実

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 翠の一番古い記憶は三歳の頃だった。
 病院のような場所に連れて行かれ、泣いた記憶。そして看護師さんに抱き上げてもらった。 そして翠の記憶はそれ以降、途切れている。

 次に翠の記憶が始まったのは、それから七年後の事だった。目が覚めた翠は何が起きているのかわからず、混乱した。寝て起きると自分は十歳になっている。しかし三歳から十歳までの知能はその間育まれていたようで、目が覚めた翠は十歳そのもの。もしくはそれよりも少し上の年齢。しかしその日から十歳の自分を始められる訳ではなく、まず自らの意思で体を動かせない事に気が付いた。自分以外の誰かが体を動かしている。それに気が付いた翠はまた眠りについた。

 目を覚まして一年の間、翠は自分の様子を俯瞰的に見下ろしていた。そして情報を得た。いつ起きて、いつ寝るのかはコントロールができず、起きて見える景色が学校だったり家だったりと様々な場所でその際与えられる情報も限られていた。

(わかる、けれど……)

 その状況を翠は理解した。自分ではない誰か、自分以外の人格が存在している。そしてその人格がこの七年間を過ごしてきたのだろう。

『翠!』
『翠ちゃん』
『翠』

 自分じゃない何者かが翠と呼ばれ、生活している。その人物に話しかけてみても、反応がない。気持ちのやり場がわからない。自分の人生を別の者に成り代わられている。

(ここでメソメソしていても仕方がない。どうにかわたしを取り戻さないと……!)

 そして衝撃的だったのは両親の存在。朧気にしか記憶に残っていない両親の存在。十歳の今、母親はいないようだった。そして父親は話の内容から察するに医者。それも精神科医のようだった。
 精神科医。風邪を引いた時の医者ではなく心の医者。今の自分がこの状態にあるのは、この父親が関係しているに違いない――翠はすぐに察した。

 不思議と辛くはなかった。それよりも自分をこんな目に合わせている父親と、もう一人の人格に対する怒りが止まらない。溢れ出そうになる怒りを必死に抑えた。どう足掻いても翠が内面で怒りを爆発させたところで外へ届くとは思えない。

(どうしよう、一体どうすれば)

 翠は考えた。考えに考え、とある事に気が付く。自身が目を覚ますスパンが段々と短くなっている。もしかすると、このままいけば表の人格の対話が出来るかもしれない。

 そうしてその間、翠は作戦を練った。
 対話が出来たとして、どう話を切り出すのか。そもそも相手は自分の存在を知っているのか。そしてどうすれば自分自身を取り戻す事ができるのか。翠はまず相手をよく観察した。

 それでいて分かった事、まず相手はどちらかと言えば大人しいタイプだ。あまり積極的に行動する方ではない。学校での振る舞いを見ていてもそれは明らかだった。十歳のその人は教室内でも孤立しているようだった。それは彼女が無害で、大人しいから。その様子を見ていた翠はいてもたってもいられなかった。自分が孤立だなんて、蔑まれていい存在であるわけがないと。

『翠ちゃんって大人しいよね。何考えてるかわからない』

(違う、わたしは今すごくたくさんの事を考えてる!)

 叫んだ声は届かなかった。
 そうしてその後、翠は再び長い眠りについてしまう。
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