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邂逅
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次に目を覚ますと、そこはクローゼットの中だった。あのまま自分の体を取り戻すのはやはり不可能だったのだ。
しかし人格の交代ができるようになったのは紅にとってチャンスだった。自分も外に出たい、翠のフリをして学校へ行かせてほしいと翠に頼み込む。
そして紅は時折、翠として学校へと通い始めた。
学校では特に大きな事件も起こらず退屈だったが高級マンションに住んでいる事や父親が医者である事をさりげなく会話に織り交ぜれば友人たちは羨望のまなざしを紅へと向けた。自分が優位に立つのは快感だったがその事を翠に話せば翠にやめて欲しいと言われてしまう。その事に紅は苛立ちを覚えたが今の段階で翠の話を無視する事は得策ではないと見て紅は自身の非を認めた。しかし翠が内側から外の世界を見る事ができないのは分かりきっていた為に悪気はなかった事、それでいてついやりすぎてしまい反省しているという謙虚かつ傲慢に出る作戦だった。案の定、翠はすっかり流され納得しむしろ紅に対する理解不足であったかのように謝罪までした。
単純で、扱いやすい。紅はそう思い一つの提案をした。
「そうしたらわたしたち二人の間に約束を作らない?」
きちんと決まり事を作る事で、決まり事の範囲内であれば自由に動くことのできる環境を作るのが狙いだった。それに十二歳の子どもというものは友達間の約束や秘密を特別に思うものだと紅は今まで翠を見てきた中で学んでいる。
「いいね。じゃあお互いに考えてそれを発表し合おうよ」
「わかった。わたしも考えておく。今日はもう戻るわ。じゃあまた明日」
「うん。明日」
翠がどんな約束を提示してくるかはわからなかったが恐らく紅の枷になるような約束は考える事はないと予想する。万が一こちらの不利になる事を提示してくれば断る、もしくは代替案を出せば良い。
そして肝心の紅が考えた約束はたった一つ。
『最低でも週に一度は入れ替わる』
という事。例えば週の半分だとか長い期間を最初に提示すれば勉強の事や人間関係の事などで翠が不安になり人格の入れ替わりが困難になる可能性を考えての事だった。謙虚なフリをして向き合えば翠は必ず自分に従うという自信があった。
そして翠は紅の提案した約束をのんだ。そして翠が提案した約束も難しいものではなく、紅はそれを承認した。
翠になりきるのは簡単な事。目立つ事は避けるというのも、そもそも紅は目立ちたがりではないので問題はない上に理由なく誰かしらを貶める事はしない。父親と家政婦に合わないというのも今はまだ父親に会いたいとは思えなかったのでこれも承認した。葛に会っても紅は翠の演技をする自信はあったが特に会う理由にないので黙っておいた。
こうして翠と紅の間には四つの約束が取り決められた。
翠と葛の距離が近付いた時、紅は焦った。
葛は今まで翠を避けていたという。避ける理由があるとすればそれは自分が原因だ。それ以外に翠を怖がる理由がある筈がない。大人しく無害な翠に脅威などある筈がなかった。葛が父親から何をどこまで聞いているかもわからない以上、葛の存在は途端に恐怖の対象になり得る。それに加え葛は翠に友好的に近づき始めている。葛が自分の存在を否定する存在になりつつある。翠が肯定されればされる程、紅の存在は否定されていくのだ。
とはいえ今の段階では約束で決められた通り紅が葛と接する事はない。この時ばかりは翠が取り決めた約束に感謝した。
中学校に入学しても翠と紅は変わらずの関係が続いていた。
「紅がひとりの人間として生きる道を探そうよ」
ひとりの人間として生きる道。翠が言う事には『ひとつの体をふたりで共有しつつ』が当たり前にある。
紅がひとりの人間として生きる時、それは翠という人格が消えた時だ。紅は能天気な人格に呆れるばかりか滑稽だと密かに嗤うようになる。
それから翠は本当に、言葉通り二人で生きる道を探し始めた。図書館に通い、人格について本で調べ始めた。翠が人格について、自分について本格的に疑問を持ち詮索を始めた事で紅は焦った。表向きは翠を応援していたが、余計な知識を翠が手に入れてしまうのではないかと危惧した。
もし真実に気が付いた時。翠は紅の存在を無かった事にしてしまうかもしれない。紅は未だ翠の意思を無視して人格を交代する事はできなかった。翠が約束を守り人格の交代を行ってくれない限り、紅は外へ出られない。
翠は言った。何故自分たちの顔がそっくり同じなのかと。
紅は答えを知っている。
翠は紅に成り代わるべくして生まれた人格であり、紅と瓜二つでなくてはならない。紅と同じでなくてはならない。翠が紅に、似るべくして似ているのだ。
「それならわたしが姉で翠が妹。良いじゃない、すてきね」
もし本当にそうであったなら。体を分けた姉妹であったなら。
そうであればわたし達は本当の意味で仲良くなれただろうか?
そんな事は絶対にあり得ない。紅が目的を達成する事においてそんな考えは不要なもの、邪魔でさえあるものだ。
しかし人格の交代ができるようになったのは紅にとってチャンスだった。自分も外に出たい、翠のフリをして学校へ行かせてほしいと翠に頼み込む。
そして紅は時折、翠として学校へと通い始めた。
学校では特に大きな事件も起こらず退屈だったが高級マンションに住んでいる事や父親が医者である事をさりげなく会話に織り交ぜれば友人たちは羨望のまなざしを紅へと向けた。自分が優位に立つのは快感だったがその事を翠に話せば翠にやめて欲しいと言われてしまう。その事に紅は苛立ちを覚えたが今の段階で翠の話を無視する事は得策ではないと見て紅は自身の非を認めた。しかし翠が内側から外の世界を見る事ができないのは分かりきっていた為に悪気はなかった事、それでいてついやりすぎてしまい反省しているという謙虚かつ傲慢に出る作戦だった。案の定、翠はすっかり流され納得しむしろ紅に対する理解不足であったかのように謝罪までした。
単純で、扱いやすい。紅はそう思い一つの提案をした。
「そうしたらわたしたち二人の間に約束を作らない?」
きちんと決まり事を作る事で、決まり事の範囲内であれば自由に動くことのできる環境を作るのが狙いだった。それに十二歳の子どもというものは友達間の約束や秘密を特別に思うものだと紅は今まで翠を見てきた中で学んでいる。
「いいね。じゃあお互いに考えてそれを発表し合おうよ」
「わかった。わたしも考えておく。今日はもう戻るわ。じゃあまた明日」
「うん。明日」
翠がどんな約束を提示してくるかはわからなかったが恐らく紅の枷になるような約束は考える事はないと予想する。万が一こちらの不利になる事を提示してくれば断る、もしくは代替案を出せば良い。
そして肝心の紅が考えた約束はたった一つ。
『最低でも週に一度は入れ替わる』
という事。例えば週の半分だとか長い期間を最初に提示すれば勉強の事や人間関係の事などで翠が不安になり人格の入れ替わりが困難になる可能性を考えての事だった。謙虚なフリをして向き合えば翠は必ず自分に従うという自信があった。
そして翠は紅の提案した約束をのんだ。そして翠が提案した約束も難しいものではなく、紅はそれを承認した。
翠になりきるのは簡単な事。目立つ事は避けるというのも、そもそも紅は目立ちたがりではないので問題はない上に理由なく誰かしらを貶める事はしない。父親と家政婦に合わないというのも今はまだ父親に会いたいとは思えなかったのでこれも承認した。葛に会っても紅は翠の演技をする自信はあったが特に会う理由にないので黙っておいた。
こうして翠と紅の間には四つの約束が取り決められた。
翠と葛の距離が近付いた時、紅は焦った。
葛は今まで翠を避けていたという。避ける理由があるとすればそれは自分が原因だ。それ以外に翠を怖がる理由がある筈がない。大人しく無害な翠に脅威などある筈がなかった。葛が父親から何をどこまで聞いているかもわからない以上、葛の存在は途端に恐怖の対象になり得る。それに加え葛は翠に友好的に近づき始めている。葛が自分の存在を否定する存在になりつつある。翠が肯定されればされる程、紅の存在は否定されていくのだ。
とはいえ今の段階では約束で決められた通り紅が葛と接する事はない。この時ばかりは翠が取り決めた約束に感謝した。
中学校に入学しても翠と紅は変わらずの関係が続いていた。
「紅がひとりの人間として生きる道を探そうよ」
ひとりの人間として生きる道。翠が言う事には『ひとつの体をふたりで共有しつつ』が当たり前にある。
紅がひとりの人間として生きる時、それは翠という人格が消えた時だ。紅は能天気な人格に呆れるばかりか滑稽だと密かに嗤うようになる。
それから翠は本当に、言葉通り二人で生きる道を探し始めた。図書館に通い、人格について本で調べ始めた。翠が人格について、自分について本格的に疑問を持ち詮索を始めた事で紅は焦った。表向きは翠を応援していたが、余計な知識を翠が手に入れてしまうのではないかと危惧した。
もし真実に気が付いた時。翠は紅の存在を無かった事にしてしまうかもしれない。紅は未だ翠の意思を無視して人格を交代する事はできなかった。翠が約束を守り人格の交代を行ってくれない限り、紅は外へ出られない。
翠は言った。何故自分たちの顔がそっくり同じなのかと。
紅は答えを知っている。
翠は紅に成り代わるべくして生まれた人格であり、紅と瓜二つでなくてはならない。紅と同じでなくてはならない。翠が紅に、似るべくして似ているのだ。
「それならわたしが姉で翠が妹。良いじゃない、すてきね」
もし本当にそうであったなら。体を分けた姉妹であったなら。
そうであればわたし達は本当の意味で仲良くなれただろうか?
そんな事は絶対にあり得ない。紅が目的を達成する事においてそんな考えは不要なもの、邪魔でさえあるものだ。
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